私は今までも、大好きな漫画作品のファンブックは割と買って読んできた。
その中で、『百暗現世道標』(以下、本書)は今まで読んだファンブックの中で「内容に対する満足感」がかなり上位だった。
よくあるファンブックの主な内容として、「登場人物やエピソードの紹介及びおさらい」があると思う。
それは作品を読んでいる身としては「もう既に知っている情報が載っている」ということであり、そのことについて目新しさははない。しかし作品によっては、物語内や単行本では明かされていなかった登場人物のプロフィールがファンブックで初めて公表されることもあるし、ファンとしてはそれらの情報が一冊にまとまっていると把握しやすい。なので、やはりファンブックには必要な項目だと考えている。
しかしこのことに対して、手放しで喜べない場合がある。それが、連載中の漫画作品のファンブックを読む時である。
連載中の漫画作品のファンブックだと、勿論それが発売された段階までの情報しか収録されない。そのため、連載が更に進んでからファンブックが二弾三弾と発売されてしまうと、内容が被ってしまうし、発売年が古い版に収録されている情報ほど不完全なものになる。なので、「登場人物やエピソードの紹介及びおさらい」の部分だけ切り取ってファンブックの価値を捉えると、同じ作品でファンブックが何冊か発売されたら、古い方の版は不要になってしまう。「この版にしか載っていないマニアックなキャラ情報」がある場合もあるが、そのためだけに一冊購入する価値があるかどうか、という是非も生まれる。
そのため、連載途中の作品のファンブックを購入する際の評価基準として、(「登場人物やエピソードの紹介及びおさらい」等の)今後発売される版と被りそうな内容以外の部分がいかに充実しているか、は重要となってくる。
その点で、本書は非常に満足感のある一冊だった。
ファンブックとしてオーソドックスな内容でありつつも、他作品のファンブックではあまり見たことがない独自性のある企画を取り入れ、且つファンにとって痒い所に手が届くような有意義な内容なのである。たとえ今後連載が進む中で新しいファンブックが発売されようと、今回の版は今回の版として、ずっと手元に残しておく価値があると心から思えた。
以下、核心となるネタバレはなるべく避けて本書の概要とともに感想を記載する。
なお、総合的に判断して前述の通りの評価をしているが、下記で述べている⑤が個人的に本書の中で一番重要な内容だと思うので、当該部分を読む為だけに本書を購入する価値は十分にあると考える。
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本書の
公式紹介文の、収録内容に関わる部分は「登場キャラクターの詳細ガイドに10巻までの全話完全ストーリーガイド、さらに作中に登場する文学・ゲーム・映画作品の解説に著者インタビューも盛り込んだ読ませる一冊!」となっている。
これを本書の目次に沿う形で、もう少し詳しく表すと以下の通りとなる。
①連載時の扉絵、公式SNS投稿絵、単行本表紙などのカラーイラストギャラリー
②本作品のあらすじ紹介
③主要キャラ及び各回ゲストキャラの人物紹介
④全89話(単行本10巻までの収録話数)の各話あらすじ
⑤本作品の制作秘話が明かされる作者インタビュー
⑥本作品に登場する印象的な動物の生態紹介
⑦登場人物たちのモチーフとなっている神話・伝説・伝承の紹介及び解説、聖地巡礼スポット紹介
⑧本作品で取り上げられる会話やエピソードの元ネタとなる文学作品、映画、その他エンタメ作品の紹介
⑨アニメ版のキャラ紹介及び担当声優コメント
⑩原作者のオススメYouTubeチャンネル紹介
⑪精神科医による主要登場人物の性格分析
⑫第90話(コミックス11巻所収)全ページの、ネームと原稿比較
①について:
連載時の扉絵やカラーページは単行本収録時にはモノクロになるので見る機会がなかなか無いし、比較的アクセスしやすいSNS投稿絵や単行本表紙もまとめて見ることができるのは嬉しい。こういうカラーイラストは連載終了後に画集が発売されてからでしかまとめて見ることができない場合も多いので、この早いタイミングでそれを供給してもらえるのは貴重である。
②③④について:
上述した「登場人物やエピソードの紹介及びおさらい」にあたる部分。しかし④において、各話数の紹介を、該当話の扉絵と印象的な1コマと共にしているのは、非常に良い。作画コストが高く芸術性のあるイラストである場合が多い扉絵を、このように一括することでアートギャラリー的役目も果たしていて、かなりポイントが高い。
⑤について:
本書の中で一番価値がある部分。本作品のテーマや制作背景に関わる重要な内容が語られている。本作品や登場人物に対する解釈を深めることができて良いという以前に、ただ作品が好きという気持ちだけでなく、この作品が取り扱うテーマへの謙虚さ、尊重、配慮の気持ちや問題意識を持つためにも、ファンはできるだけ読んだ方が良いと思った。
⑥⑦⑧について:
作品で扱われるモチーフの元ネタを詳しく紹介解説してもらえるのは、非常に有難い。分かりやすいネタだけでなく、自分では気づくことのできなかった細かい部分まで教えてくれるので、この部分を読んでからまた作品を読み返すとより楽しい。聖地巡礼スポット紹介は、最近の推し活ブームを意識しているのは明らかだが、ファンとしてはやはり素直に嬉しい情報である。
なお、⑥は生物図鑑風にもなっていてコンセプトが面白い。
⑨について:
キャラ紹介は③の超簡略版なので重複情報だし正直不要だが、アニメの立ち絵は資料の一つとして楽しむことができる。また、担当声優からのコメントは、声優好きのファンにとっては無価値ではないと思う。
⑩について:
独自性と価値のある企画。作者は普段どのようなコンテンツに触れて生活しながら作品を生み出しているのか、という情報はファンにとっては貴重。それをYouTubeという誰でもアクセスできるプラットフォームに絞って紹介してくれているので、どういうコンテンツなのか手軽に確認できるし、自分も見てみたいという気にさせてくれる。
⑪について:
独自性と価値のある企画その2。キャラの解釈を深めたいオタクにとって、非常に興味深く読める内容。需要と共有がマッチしている企画である。そしてその分析をしているのが「名越康文」という、テレビ番組のコメンテーターや映画評論、漫画分析やゲーム実況などさまざまなメディアで活動していて、ここ数年で(特にサブカル方面で)有名になっている精神科医なので、話題性がある。
⑫について:
ネーム公開や原稿との比較もファンブックでは比較的よくある内容である。漫画として完成状態になる前の過程に興味があるファンにとっては、これまた貴重な情報なので非常に嬉しい。更には、まるまる1話分それを見ることができるので、とても満足感がある。
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