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2024-12-05 22:25:16
8848文字
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燭鶴
ぽかぽかになっていちゃいちゃしてる二人の話の二本立てです。こたつでぬくまったver.と温泉でぬくまったver.で、後者に一瞬足舐めの描写があります。
1
2
「今日すごく寒かったな
……
、」
畑仕事を終えた光忠は自室へと戻っていた。畑仕事それ自体は楽しくて好きだが、冬の時期となるとやはり寒い。身体を動かしているとはいえ、ずっと外にいると身体の端々が冷えてしまう。
今日はうっかり手袋を濡らしてしまったので(替えの手袋を持っていなかった)、ずっと濡れたままの手袋をつけていたせいか、両手がひどく冷えてしまっている。
指先が冷たい、と思いながら自室の戸を開けると、そこにいたのは冷えた光忠とは正反対の状況の鶴丸だった。
恋人であり同室の鶴丸は、半纏を羽織って、こたつに半身を埋めて、湯気の立ち上る湯呑みを自分の前に置いて、それはそれはぬくぬくとしている。
「お、光坊、内番は終わったのかい。お疲れさん」
「うん、ただいま」
「今日は特別に冷えただろう。寒かったんじゃないか?」
「さすがの僕でも寒かったよ。たぶん、鶴さんだったら凍えて使い物にならなかったんじゃないかな」
「なんかすまんな、きみが寒い中働いているのに、俺はここであたたまっていて」
鶴丸という刀はとても寒がりだ。寒いと目に見えて元気がないし、実際、冬のあいだは彼の指先は
――
いや、全身か、
――
氷のように冷えている。先日、主に申請が通って自室(つまり、光忠の部屋でもある)にこたつを個人的に所有することが許可されたときはとても喜んでいた。
と、いうわけで、鶴丸はこうして今日は部屋の中でぬくぬくと過ごしているのだった。
「何も謝ることないよ、今日鶴さんは非番じゃない。鶴さんがぬくぬくしてるのは正当な権利だよ」
この人が寒さで萎れている様子は見ていてかわいそうになるので、光忠としてもあたたまっていてくれるほうがいい。いや、外で仕事をしなければいけないことも当然あるのだが、そうでないときくらいはぬくぬくとしていてほしい。
どのくらいこたつでぬくまっていたのだろうか、鶴丸の頬はお風呂に浸かっているときのように紅潮していて、さながらりんごのような色をしている。彼は肌の色が白いので、あたたまって血行が良くなっているのが分かりやすいのだろう。あたたかさで頬を染めている鶴丸は、そうでないときに比べてなんとなく子供っぽく見えた。
「鶴さん、暑くない?こたつに入ってるのに着込んでたらそのうちのぼせちゃうよ」
暑かったら半纏を脱いだりしなね、と子供でもないのに年上の恋人に余計なお世話を焼いてしまった。いや、なんというか、この調子だと際限なくあたたまりつづけそうな気配を感じたので。蒸し鶏になってしまう。そういうところがある。
光忠はとりあえず冷たく濡れている手袋を外して、替えの手袋をつけようと箪笥の引き出しを開けていたところ、背後から呼ばれた。
「確かに暑いかもしれん。ちょうどいい、光坊、そのままこっちに来てくれ」
「ちょっと待ってね」
引き出しから手袋を取り出してはめようとしながら振り返ると、それを制止された。
「手袋はちょっとあとだ、そのまま来てくれるかい」
「
……
?」
よく分からないが、鶴丸はなんだか光忠の素手に用事があるようだ。なんだろう、と思いながら彼のもとに行くと、そばに座るように促される。
余談だが、光忠はこたつが苦手だ。なんとなくこんがりと焼かれているような感覚になるからだった。だから、いつも鶴丸がこたつに入っているそばで、こたつ布団の外にいる。まぁ、そんなことは置いておいて。
彼がこたつから半分身体を出して、こちらを向いた。
「どうしたの、鶴さん」
「ん、両手をちょっと貸してくれ」
「僕の手がどうかした?」
光忠は首を傾げながら両手を鶴丸に差し出した。差し出した光忠の両手首を、彼の両手がそれぞれ掴む。そして、鶴丸はそのまま光忠の手のひらを自分の頬へと引っ張った。その光忠の両の手のひらで鶴丸は自身の頬を挟むようにぴったりと触れさせる。赤くなっている見た目に違わず、鶴丸の頬は冷えた手のひらにとてもあたたかい。
「キンキンに冷えてるじゃないか、寒かったよなぁ」
「手袋を濡らしちゃって、余計に冷えちゃったんだよ。冷たかった」
「そうか、そいつは都合が良
……
、いや、さぞかし冷たかったろう」
確かに手は冷えた。替えの手袋を取りに行こうか迷うくらいには。ただ、手が冷たくて辛いから作業を中断するというのも、それはそれでなんとなく格好悪い気がして(冷えくらいなんだという謎の意地である)、畑仕事を続けていたのだ。
「しかし、きみの手が冷えていたのは火照っていた俺にはちょうどいい」
すでに手のひらはぴったりと鶴丸の頬にくっついているが、彼はさらに手のひらを自分の頬に押しつけさせた。むに、と光忠の手のひらの下で鶴丸のぬくい頬が潰れる。
「冷たいのは基本的に勘弁だが、ぽかぽかにぬくまっているときだけは歓迎だな」
「整う、ってやつだね」
「
……
?整う?」
鶴丸は光忠の両手に自分の頬を挟ませたまま首を傾げた。かわいいな、この人は。
「いや、なんか主が言ってたんだよね。サウナで熱々になったあとに水風呂に浸かるとその温度差ですごく生きてる心地がするって。それを整うと言うらしいよ」
光忠としては、審神者が言うように全身を熱々にしたあとに一気に冷やすのは、さすがにちょっと健康に悪いんじゃないかという気がするのだが、鶴丸のようにほかほかになった頬を冷やすくらいは問題ないだろう。
「何が整うのかよく分からんが、こうしてると確かに気持ちいいぜ。光坊の冷えた手もあたたまって一石二鳥だ」
あたたかいだろう?と鶴丸が得意げに言うので、光忠は微笑んだ。実際、冷えていた両手は彼のぽかぽかの体温でぬくもりを取り戻してきているし、何より、何やら満足そうにしている恋人を見ていると心があたたまる。
鶴丸はしばらく頬に光忠の手のひらを押しつけたまま、楽しげに喋っていた。機嫌がいい。こたつを手に入れて自室でぬくぬくと過ごせるようになったからだろう。次郎太刀から日本酒のお裾分けをもらったので、熱燗で晩酌しよう、と誘われる。
「じゃあ、何かおつまみになるものを作ろうね。希望はある?」
「そうだな、何か冷たいものもあると嬉しい。ぬくまった身体で食べる冷たいものも乙なもんだろう」
冷えた光忠の手を欲したときと同じ調子で鶴丸は頷いている。「整い」の亜種だな、と光忠は思った。
「しかし、だんだんときみの手もぬるくなってきたな。俺は『整った』が、光坊も少しは冷えがましになったか?」
「うん、おかげさまで」
冷えでじんじんとしていた指先の感覚がましになっている。それになんというか、鶴丸の柔らかな頬に触れていたことの癒し効果もあった。
「そいつはよかった」
鶴丸は微笑んで光忠の両手を解放した。手のひらに触れていた体温がなくなってしまって、少し寂しい。そう思って、光忠は曖昧にねだってみた。
「手はあったかくなったけど、まだ冷えてるところがあって」
「そうか、そりゃ冷えてるのは手だけじゃないよな。なら、そこもぬくぬくの鶴さんがあたためてやろう」
足とかか?と尋ねられたので、どこだと思う?わざと問いで返してみる。
いや、問いで返してしまったのは、なんとなく自分がこの人にねだろうとしたことへの照れをごまかすみたいな感覚があって。
鶴丸は質問を返されて一瞬、はて、と考え込んだ。そして、口角を上げた。年長者のような笑みだ。いや、実際に年長者なのだが。
「ははぁ、分かったぞ、光坊。そういうことだな。ほら、おいで、ぎゅっとしてやるから」
彼はこちらに向かって両手を広げた。光忠は、これを曖昧にねだったのは自分であるにも関わらず、なんとなく困ったような気持ちになって
――
自分の子供っぽさに苦笑するような気持ちだ
――
、とはいえ広げられた鶴丸の腕の中に飛び込んだ。
抱きついた彼の身体は、頬のあたたかさよりもさらに芯のあるぬくもりを持っていて、大きな湯たんぽのようだった。光忠を抱きとめた鶴丸の手のひらが、背中を軽くあやすように叩く。
「寒くて人恋しくなったか?」
「分かんない、ただ鶴さんがあったかそうだったからくっつきたくなって」
「はは、大きな子供だな」
「鶴さんのほうこそ、こんなにぽかぽかな体温で子供みたい」
「さて、どうだかな」
光忠を抱きしめたまま、鶴丸は肩をすくめた。いや、本当に、この人はあたたかい。縮んでいた神経と筋肉が解けていくような。自分は鶴丸よりも寒さに強いほうだと思うけれど、それでも今日はとても冷えていて、そのことで身体がこわばっていたらしいことに光忠は気がついた。
しばらく互いに無言でくっついていた。言葉ではなくて、体温でコミュニケーションを取っていたのかもしれない。背中を鶴丸の手のひらが撫でる。
そうしているうちに、光忠の身体は普段のぬくもりを取り戻してきた。もともとは、光忠のほうが鶴丸よりも普段の体温が高い、と思う。
「ありがとう、鶴さん、あったかくなったよ」
光忠はそう言って、抱きしめている腕の力を緩めた。身体を離そうとすると、鶴丸に引き止められた。
「待て待て、まだ冷えているところがあるだろう」
「
……
?」
鶴丸の言葉に首を傾げた直後、光忠の後頭部に手のひらが回って、ぐっと引き寄せられた。されるがままに二人の距離がさらに近づいて、光忠はそのまま口づけられていた。
唇の神経はとても表面に近いところにあって、その部分で感じる鶴丸の体温はどの場所で感じるよりもあたたかく感じる。
彼は光忠の唇を食むように何度か角度を変えて口づけたあと、唇を離した。そして、至近距離で光忠と見つめると、笑う。
「やっぱりな、まだここが冷たかった」
「
……
、えっと、鶴さんって、魔性?」
「何を言ってるんだ、そもそもきみが口づけをねだったんだろう」
「えっ、僕?そんなことはないけど
……
」
「なんだ、さっきの『まだ冷えているところ』というのは唇のことで、そういう遠回しなおねだりだと思ったんだが
……
。まさかただ抱きしめられたかっただけなのか?」
本当にお子様だな、と鶴丸は愛に満ちた様子で茶化して笑った。この人が自分に向けて言う「子供」は愛の言葉だと知っているけれども、はっきり子供扱いされると反論したくなる節もあって。
「別に、大人だって抱きしめられたいときはあるよ
……
!」
「まぁ、そういうことにしておいてやるか」
「そもそも、キスは鶴さんがしたかったんじゃない?」
「おっと、」
光忠の指摘に鶴丸は言葉を切って苦笑した。苦笑してはいるものの、楽しんでいる様子だ。
「ばれたか。そう、光坊の言うとおり俺はきみを口実にキスしたかっただけさ」
「口実なんかなくてもキスしてくれたらいいのに」
先ほど自分が遠回しに抱きしめてほしいとねだったことは棚に上げて、光忠は言った。
「大人ってのはな、素直じゃないものだ」
その点、きみは素直でかわいい、と鶴丸は一人で頷いている。つまり、光忠は素直なので大人じゃない=子供と相変わらず言われているようだったが、光忠は反論を諦めて笑った。
「僕は大人な鶴さんからの素直な言葉聞いてみたいけどね」
「そうか
……
。なら、その期待に応えよう」
鶴丸の腕が動いて、右の人差し指が彼自身の唇をなぞる。
「もう一度口づけをくれるかい、光坊。次は、大人のやつを」
彼の声音が、仕草が、途端に色気を帯びたので光忠はどきりとした。一瞬遅れて、頷く。
「うん、じゃあ、とびきり大人のを、あげるね」
光忠は唇を寄せて、二人は再び触れ合った。相変わらず、鶴丸の唇はあたたかい。きっと、彼の中はもっと熱を帯びているだろう。その熱をもらうために、光忠の舌は恋人の唇を割った。
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