ほうじゅ
2025-09-24 12:00:00
10746文字
Public ファルルのおはなし
 

【SQうちよそ】夏のぬくもりと麦わら帽子

氷雨さん(@OachWbBvPZmFRTG)と交互に書いた、うちよそリレー小説。
ファルルがお友達のスズネとルシアンと一緒に、日陰でおしゃべりしたおはなし。
一定のタイミング毎に、書き手が交代しています。
どの文章をどっちが書いたか、考えてみながら読むのも楽しいぞ!



こちらは、『交代』部分の答え合わせページです。
「どの部分をどっちが書いたのかな?」と気になっていた方は、どうぞお楽しみください!

約200文字ごとに、書き手がほうじゅ⇔氷雨で交代していました。
普通がほうじゅパート、
太字が氷雨さんパートです。

ひらがな喋りのファルルを文字数制限下で動かしながら、
相手にパスを繋げつつ、お互いの自宅を書き合う、という状況でした!

改めて、楽しい試みに応じてくれた氷雨ちゃんと、
答え合わせまで見に来てくれた読者さんに、感謝を!
ありがとうございました!

『夏のぬくもりと麦わら帽子』

 カンカンさんさんと陽射しの照る、暑くて眩しくてたまらない、元気いっぱいの夏がやってきました。
 いつもの帽子を麦わらに変えて、水筒などもカバンに詰めて、ファルルは今日も元気いっぱいに、いつもの散歩に出かけます。
「ふぁるる、さんぽいくゆった!」
 道行くヒトたちは暑さに負けて、ぐったりしていたりげんなりしていたり、元気のない顔をしていますが、ファルルはおひさまにも負けないくらい、今日もとびっきりの笑顔です。
 その笑顔が向いた先に、ぐうぜんにも、よく知るヒトたちをみつけていました。
「あ! すずね!」
「まぁ……ファルル様。ごきげんよう」
 今日もやさしく笑顔を返してくれるスズネでした。
 ですが、今日の彼女はどこかしょんぼりとして見えます。どのぐらいしょんぼりしているかと言いますと、いっしょにいるルシアンが余計なことを言っても怒らないのです。
「すずね、おこらない……。るしあんちょーしのる、やべーよかん」
「おいおい」

「るしあん、ちょーしのる、わるいする、……ふぁるる、めっする、おしおきゆった。いーい?」
「乗らない乗らない。ちょっとスズネに似てきたんじゃないか、『ファルル様』?」
 スズネに代わって、ファルルはわざと怖い顔をして見せますが、ルシアンは飄々と受け流してしまいます。でも今は、そんなルシアンよりもスズネの方が気がかりです。
 だって、せっかくファルルがスズネに似てきたと聞いても、怒りも笑いもしないのですから。
「すずね」
「ああ、ごめんなさい」
 少し暑いですわね、と思い出したように笑って見せるのでした。
 どうやらスズネは夏が苦手なようです。ファルルは水筒のことを思い出しました。きょろきょろとあたりを見回すと、ちょうどいい木陰を見つけました。あの木陰で水分補給をして、ゆっくり休めば、きっとスズネも元気になるに違いありません。ファルルはスズネの手を引いて歩き出しました。
「ファルル様?」
「あんせいだいじ、ん、しょっ」

 木陰の下は、陽射しが届かないおかげでほんのりと涼しく、生ぬるい風が吹いています。
 手を引っぱるままに、ファルルがスズネを座らせようとすると、ルシアンがさっと動いて、地面にハンカチを広げました。その上にスズネが座るのを見て、ファルルは思わず目を丸くします。
 スズネの服を汚さないための、紳士みたいな振る舞いです。ルシアンは、余計なことばかりの男ではなかったのです。
「るしあん、えらい」
「お? そうだろそうだろ」
 得意げに胸を張っています。そんなルシアンを見上げて、スズネがため息をつきました。
「ファルル様の前で、張り切っているのね」
「そういうお前も、ファルル様には優しいだろ?」
 ファルル様、ファルル様と二人に呼ばれて、へんな気分でした。水筒のふたを開けながら、ファルルは首をかしげます。
「すずね、すいぶん」
「ありがとう存じます、ファルル様」
「るしあん」
「え?」
「るしあん、えらい、すずね、ほめるする」
「だとさ」

 スズネは大層嫌そうな顔をしましたが、ファルルがじっと見つめていると、にっこりと笑ってくれました。その笑顔のまま「偉いわね」とルシアンを褒めていますが、声は冬みたいに冷ややかです。
「もっと褒めてくれていいんだぞ」
「ファルル様、大変美味しゅうございましたわ。普通の水ではないのですね」
 一転して、春みたいに優しい声のスズネです。ファルルはすぐに胸を張りました。
「ん! みず、れもんいれる、ふぁるるとくせい!」
「まぁ……ファルル様のお手製でございましたか。レモンのひと手間が大変にきめ細やかで」
「すーずーねー」
 ルシアンが悲しそうに、スズネの肩をつんつんしています。スズネは春の優しさを保ったまま、ファルルを見つめているのでした。
 ルシアンはちょっと可哀想ですが、スズネが元気になったのです。あらためてスズネの手を取ると、ファルルはにっこり。
「すずねげんきなる、れもん、きめこまやかゆった!」
「はい。おかげさまで」

「なつ、あついなる。みずのむ、ひかげはいる、だいじゆう。すずね、ねっちぅそう、あぶないなる。きをつける! いーい?」
……はい。心得ました」
 またまたちょっぴり怖い顔をして注意すると、スズネは素直に頷きました。ルシアンと違って、しっかり者の対応です。
 ファルルは安心すると、スズネの隣に座りました。今回は、ルシアンはハンカチを広げません。でも、ファルルも気にしません。スズネだけが特別なのです。
 スズネといっしょに、頭上の緑を見上げます。葉擦れの音色がさわさわと心地よく響いてきます。あっち、こっちと歩き回る散歩が大好きなファルル、でも、たまにはこんな日があってもいいのです。
 ルシアンは木の幹にもたれて、黙っています。
「るしあん、しずかなる」
「さっきのことを根に持っているのかしら」
「さっきゆう、すずね」
「ええ、……ファルル様、聞いてくださる?」
 スズネが真剣な顔で言うので、ファルルも真剣な顔になっていました。

 ファルルの沈黙を受けて、スズネが耳に顔を近づけてきます。そして、こそりと囁きました。
「帽子を買おうか、と言ってきたのです」
「ぼうし?」
「ええ。ファルル様がお召しになられているような、麦わらの。けれど、くだらないことに資金を使わないでと断ったら、拗ねてしまって」
 ファルルはスズネの頭を見ます。
 とてもキレイな黒い髪で、スズネに似合うすてきな髪です。けれど、夏のおひさまの下では、少し危ない色でもあります。
「気を遣ってくださるのは嬉しいの。けれど」
 スズネはため息をつきました。
「あの人は王族ですから。一人の人間にばかり気を取られていては、よい王になれません」
「るしあん、おうなる?」
「左様でございます」
 スズネはルシアンのことをちゃんと気遣っているのです。ですが彼女は、それをうまく伝えられていないようです。
 それに、ルシアンがスズネのことを大事に想うのは、そんなにいけないことでしょうか。ファルルは考えます。

 ルシアンが、一枚だけのハンカチをスズネの為に使ったことを、ファルルは悪いとは思いません。スズネが暑さに倒れないよう、帽子を買おうと言ったことだって、褒めてあげたいくらいです。
 ルシアンにとってスズネは特別で、でもそれはスズネにとって、怒ったり断ったりしないといけない、そんなことだと言うのです。
 でもそれは、なんだか、それは……
「おうさま、さみしいなる」
「え?」
「ひとりだいじする、だめ、さみしいなる」
「それは……
 スズネは困ったように視線をさまよわせました。それからはっとした様子で、自分が敷いているハンカチを気にするのでした。
「あんまり困らせないでやってくれよ」
 ルシアンが苦笑がちに言いました。
 どうやら、ファルル達の話を聞いていたようです。盗み聞きだなんて、それはちっとも褒められないことでしたが、今はそんなことよりもずっと大事なことがありました。
「るしあん、すずねだいじゆった」
「そりゃ、大事だな」

「すずね、だいじする、だめってゆう」
「らしいな。俺は良いと思うんだけどな」
「っ、あなたはまた、そんな……!」
 ルシアンの言葉に、反射のようにスズネが声を荒げます。でも、ファルルは気にせず続けました。
「だいじする、よいおう、なれない。だいじしない、よいおう、なる……。すずね、だいじしない、るしあん、よいおう。……よいおうなる、さみしいゆった」
 王様がどんなものか、ファルルはよく知りません。
 スズネがこだわるぐらいなのですから、きっといい王様というのは、素晴らしい人なのでしょう。
 ですが、その人の心は?
 ファルルは、ルシアンにさみしい人にはなってほしくないのです。
「るしあん、しあわせなる」
「まぁ、俺も人並みの幸せは欲しいけどな」
 ルシアンは笑って言います。口元にはちょっぴり、苦いものが漂っていました。
「俺は王様ってのは、仕事の一つだと思ってる」
「しごと?」
「でもって仕事の俺と、普段の俺は別」

 ルシアンが立ち上がりました。白金の長い髪が、日向にきらりと輝きます。それは、手が届かない遠くの光のようにも、傍でそっと灯る明かりのようにも、ファルルには感じられました。
「冒険者も、探索が終わったら宿に帰るだろ? だから、王様やってる俺も、仕事が終わったら普段の俺に帰る。仕事中に大事にすると、スズネが怒るから、帰ってから大事にする。で、めちゃくちゃ好きだって伝える。──それが多分、俺の幸せの形なんだ」
「ちょっと待って頂戴」
 スズネが慌てた様子で言いました。今日の彼女は、ずっと狼狽えているようです。
「どうしてあなたのプライベートにわたしが出てくるの。それ以前に、どさくさに紛れて何を言い出すのよ……仕事でないのなら、放っておいて」
「放っておけるかよ、なぁ?」
「なぁ、ゆった!」
 こちらに向けて、にっこりと笑いかけてくるルシアン。もちろんファルルもにっこり笑って、頷いていました。
 スズネは頭を抱えています。

 でも、どんなにスズネを困らせて、怒らせて、慌てさせても、こればっかりは譲れません。
 だってファルルは、ルシアンにさみしくなって欲しくないように、スズネにだって、さみしくなって欲しくないのです。
 麦わら帽子を受け取れなくて、ハンカチを喜べなくて。それでもおんなじ木陰の下で、並んで座っておしゃべりをする今、スズネがさみしくないと言うなら、王様じゃないルシアンには、めいっぱいスズネを大事にして欲しいのです。
……どうしようもない人」
 やがて、スズネがぽつりと言いました。その目が、ついと動いてファルルへと向けられます。
「ファルル様は」
「う?」
「ファルル様は……そのお帽子、とってもお似合いね」
「だから、お前もかぶれって」
「そうね」
「あ?」
 ルシアンが眉をひそめます。
「急に素直になって、どうした?」
「帽子は自分で買いますわ。その代わりに……
 あなたもお揃いにするのよ、と。スズネはにこりともせずに言うのでした。

 ルシアンがぎょっと目を剥きます。ファルルもわっと目を見開きます。そのまま、返事をしかけるルシアンの前に、ファルルはぴょこんと立ち上がりました。
「すずね、ぼうし、かぶるゆう? るしあん、ぼうし、おそろいなるっ? ふぁるる、すずね、るしあん、ぼうしかぶる、いっしょゆったっ!」
 三人でお喋りするだけでも楽しいですが、更にお揃いの帽子を被るなんて!
 そんなの、さみしさなんて欠片だって残さず吹っ飛ぶに決まってます。
「いや、それは」
「左様でございますわ、ファルル様」
 困り顔のルシアンを無視して、スズネは声を明るくしました。
「先程にもファルル様から暑さ対策の重要性を説いて頂いたことですし、ちょうどよいかと」
「よいゆった! すずね、ぼうしかぶる、るしあん、にっこりなる」
「そりゃ、俺だって悪い気はしないけどよ……
「しないも何も、これは決定事項ですわ」
 スズネは笑顔の中に、強いものを込めているようでした。
「わたしだって」

 言葉を切ったスズネは、きょとんと見つめるファルルと目が合うと、ふいに気が抜けたように微笑みました。
……店に参りましょうか、ファルル様」
「ん。まいるゆった!」
 途切れた言葉の続きが少し気になりましたが、ファルルは素直に頷くと、スズネの手を取って木陰を出ました。その間際、スズネが地面のハンカチを素早く拾い上げ、着物の帯に仕舞うのを見ました。
 その光景に、ファルルはなぜだか安心して、へにゃりと笑いました。
「なかよしなる、よいゆった」
「ファルル様の教えですものね」
「む!」
 すっかり得意な気持ちになって、ファルルは胸を張ります。そうして、もう片方の手をルシアンに向かって差し出していました。
「るしあん、て!」
「俺もかよ」
 ぶつぶつ言いながらも、ルシアンがやってきました。背が高い彼は、ちょっと迷ってから、身を屈めるようにしてファルルと手を繋ぎます。
「歩きづらいんだが」
「我慢なさい」
 ぴしゃりと響く、スズネの声。

 それすらも楽しくて、ファルルはにっこりと笑うと、思いきりぴょこんと跳ねました。
 スズネが優しく微笑みます。ルシアンも楽しそうに笑います。
 相変わらず、陽射しはかんかんサンサンと降り注ぎ、繋いだ手は次第に汗ばみますが、ファルルはもちろん、スズネも、文句を言っていたルシアンさえも、手を離そうとは決してしません。
 それは、さみしさとはほど遠い、誰かを大事にするヒトだけが知っている、ぬくもりそのものなのでした。

(おわり)