おがら
2025-09-10 01:41:32
4163文字
Public バキサム
 

Same house, same temperature.

🦾🪽 全年齢
ドラマ後映画前の同居してる二人。付き合ってない。
バキの部屋で寝るサムを書きたかっただけ。

 
 今日も今日とて空飛ぶ任務をこなし、久方ぶりに自宅に帰れたのは夕方だったが俺はただ休むだけでなく数日分の溜まった家事やらを済ませていて気付いたのはそろそろ冬物を出さなくてはいけないということだった。ここ最近、日中は過ごしやすいが日が落ちると気温も下がってきていて少し肌寒く感じてはいたのだ。次はいつ自宅に帰ってこられるかもわからないため、疲れた身体に鞭打って家の雑務を済ませることにした。
 冬物が置いてあるのは同居人であるバッキーの部屋だ。もともとは俺が書斎兼物置に使っていた場所で、季節ものもその部屋のクローゼットの押しこんでいたのを思い出して部屋に向かう。バッキーとこの家で同居することになってその部屋の荷物も全て片付けると言ったのだが、バッキー自身の荷物が多くないためそのままでいいという言葉に甘えていたのだ。今日はバッキーも一日仕事だと言っていていつ帰るかはわからないと言っていたからこの部屋にいることはないのだが……。部屋の主がいない間に入るというのは忍びないもんだ。二回ほど軽くノックをして誰もいない部屋に向かって入るぞと声をかけてから扉を開ける。
 バッキーの部屋に入るのは引っ越してきた時以来だがその時と部屋はほとんど変わっていなかった。掃除は各々でと伝えているからひどい惨状もある程度覚悟していたが綺麗に使われているし、ベッドも寝た形跡がないほど綺麗に整えられていた。本当に生活しているのかと疑ったが、ベッドサイドに置かれたメモ帳や、見覚えのある服や靴を見ると確かにバッキーが生活している温度が見受けられた。
 目的のものはクローゼットだからさっさと取り出そう。自分の部屋と変わらないその扉を開けると収納袋に仕舞われたそれを引っ張り出し他にも必要なものを取り出して扉を閉める。その場で開けて確認すると特に問題は無さそうだが一度干した方がいいかもしれない。防虫剤や除湿剤は置いていたが長期保存していたためクローゼット特有の匂いが微かにする。既に日は落ちてしまったのでそれは明日の出勤前にするとして、もう一度ぐるりと部屋を見渡すとやはり整えられたベッドが気になる。俺の実家ではソファではあったけど眠れたと言っていたし、ベッドもスティーブのように慣れないと聞いたが問題はないとは言っていた。だけどやっぱりバッキーにとって住みやすい環境なのか。と時々思うのだ。そもそもバッキーから言い出した同居ではあったが、新しい部屋を用意するのは億劫だからと俺の家でいいならという条件を出したのは俺だった。バッキーは家は何処でも構わないとは言っていたが、お互いにもっと良い家や場所があったんじゃないかと今更思ってしまう。
 失礼なのを承知してベッドに腰掛けると滑らかな布団カバーを撫でる。ベッドと周辺のものは流石に新しく買ったもので、クローゼットには洗い替えのものもある。確かにバッキーはここで寝ているはずなのに現実味がないのは何故だろうか。このベッドであいつは安眠出来ているのだろうか。

***

――ム、サム。」

 バッキーの声が聞こえる。何日ぶりだ?会えてないからっていって夢に出てくるのは違うだろ。別に夢でバッキーに会いたいわけじゃない。そもそもそこまでして会いたいと思っているわけでもないだろ。ただの同居人で、どこで何してるかは時々連絡が入るし超人で100歳越えのじいさんなんだ、心配だってしてるわけじゃない。
 夢の中のバッキーはいつもの恰好で俺を見下ろしていて、少し伸びた髪が目にかかっている。鬱陶しそうだなと思うけどこれも俺が口を出すことでもない。バッキーは徐に手を伸ばしてきて俺の顔に触れる。右手の指の背で俺の頬を撫でるその顔は久しぶりに見るというのに随分穏やかで形のいい唇はゆるく上がっている。なに笑ってんだ?そう言おうとして突然意識が切り替わる。目が覚めたのか。カーテンの先から漏れる光もなくなった暗い部屋は扉が開け放たれた先からの光で半分程照らされていて、顔だけを上げると夢と同じ格好をしたバッキーが視界に入ってくる。

「っ、バッ、キー……?」
「よう。お疲れ。飯食うか?」

 ガサリと音がした方に目を向けるとビニール袋を左手で掲げたのが見えて微かに食べ物の匂いがしてくる。そうしてようやく目が冴えてきた俺は身体を起こしてしっかりとシワの寄った布団カバーに少しばかり項垂れる。人の部屋で寝こけてしまうなんて、しかも任務帰りのシャワーも浴びてない恰好で。着けっぱなしだった腕時計を確認すると大体一時間は寝てしまったみたいだ。

「バッキー、悪い。勝手に入って。」
「?謝ることじゃないだろ。お前の家なんだ、好きにしたらいい。」

 なんてことはないという表情で肩を竦めるそのバッキーの姿に眉が寄る。俺の家?

「連絡はしたんだが返事がないから一応トレスに聞いた。お前たち位置情報確認出来るんだな。『動かないし寝てるんじゃない?』って言ってたぞ。」

 バッキーは俺に背を向けると部屋を出ていきながら喋っていて、そのままその先のダイニングに持っていた袋を置いたようだった。俺はというとさっきのバッキーの言葉を反芻しながらゆっくりと立ち上がるとシワの寄ったカバーを直すこともせず同じように部屋を出て後ろ手に扉を閉めるとバタン!と思いのほか大きな音を立てて閉まったことにバッキーは驚いたのか振り返ると戸惑ったような顔で足音を消して歩み寄ってくる。

「サム?どうした?まだ疲れてるなら寝てていいぞ。」

 不機嫌になっているわけじゃないが、自分の中でうまく消化できない気持ちをわざわざ表に出すなんてガキのすることだ。大人げない自分の行動に内心舌を打ちながらもこのモヤモヤは吐き出さないと収まらないのもわかっている。ひとつ息を吐いてからバッキーの目を見つめてゆっくりと口を開く。

「大きな音を出して悪かった。 ――ここはお前の家でもあるんだから俺に文句のひとつだって言ってもいいし、部屋だってもっと好きに使ってもいいんだぞ。」

 ちがう。口に出してからこれは表向きの取り繕った言葉だとわかっているのに止まらず、俺はそのブルーグレーの瞳から目を逸らすとホコリの落ちていないフローリングを見つめる。馬鹿みたいだ。バッキーを前にするとどうにも突っぱねたような言い方ばかりしてしまう。

「サム。」

 目の前までやってきたバッキーは息を吐き出して何やら動いているのが視界の端に見えて目線を上げると首の後ろに手を当てたりその場で少しばかりうろうろと足を動かしていて、何かを伝えるのを迷っているかのようなその行動を見ると少し自分の気持ちが落ち着いてきて、首を傾げてバッキーの名を呼ぶ。

「バック?」
「あーそうだな……。なぁサム。お前が俺の部屋で寝てたのがうれしいって言ったら、変か?」
……は?」

 動きを止めたバッキーは真っ直ぐに俺の目を見てそう言うと俺は頭の上にクエスチョンマークが浮かびその疑問に対応するため腕を組んで考える。俺が、バッキーの部屋で寝てたことが嬉しい?なんでだ。どう考えても失礼な行為だろう。いくら同居してるからって勝手に部屋に入って、人のベッドで寝てるなんて。

「お前、俺と住み始めて色々気遣ってるだろ。必要なもんあるのに部屋に入らねぇとか、音立てないようにするとか。」
「それは当たり前のことだろ。」
「俺はお前の生活の一部に入りたいんだよ。気なんて遣うな。」
「じゃああの部屋は何なんだよ。あんな小綺麗にして、住んでるって言えんのか。」
「大事なお前の家なんだ、俺だって綺麗に使う。」
「俺だけの家じゃないだろ。」

 真剣な表情と声色で伝えてくるバッキーの真意がわからず組んでいた腕をより自分に引き寄せ悔しいことに数ミリか数センチ上のバッキーの顔をじっと見つめ返すとバッキーはほんの少しだけ表情を緩め、目尻に皺を寄せる。ここ最近見るようになった穏やかな顔だ。馬鹿にしてるような顔じゃない。

「サムも俺も、好きにして欲しいって思ってるのは同じだと思うんだが、違うか?」

 断定しているような物言いに先ほど自分が言った言葉、思っていること、バッキーの言ったこと全てを合わせるとそれはイコールで繋がった。俺はバッキーがここを俺の家だと言ったのがいやだった。元は俺の家でも同居しているならバッキーの家と同義だし、ほとんど生活感のない部屋はいつでも出ていけると言われているようで複雑な気持ちになった。バッキーから同居を持ちかけたというのに。そしてバッキーは俺が俺の家だというのに気を遣っているのが嫌で、寄り付かなかったあの部屋に入って寝てたのが嬉しかったと、そういうことなのか。

「はぁー……。」

 自分のモヤモヤとしていた気持ちが晴れ、俺は閉めた扉に背を預けて天井を見上げると長い息を吐く。俺たちはお互いにいらない気を遣っていたというのか。この数か月、ずっと。

「サム。」

 呼ぶ声に体勢はそのままでバッキーに目を向けると穏やかな顔のままで一歩近付いてきて右手が上がる。デジャヴを感じるその行為を止める間もなく緩く握られた指の背が俺の頬を撫ですぐに離れる。同じ温度。

「ふ、跡ついてんぞ。」
「っ、あーもう、飯食うぞ、飯。」

 少しばかり馬鹿にした声にそれに一瞬体温が上がるも触られた頬を擦ってそれを抑え、背中を浮かせるとバッキーを追い越してダイニングのテーブルへ足を向ける。折角買ってきてくれたって言うのに冷めちまう。あっためて食うか。お、チャーハン。

「なぁサム。」
「今度はなんだよ。」

 袋からチャイニーズ飯店のテイクアウト容器を取り出しながら振り返るとバッキーはこっちを向いたまま扉の前にいてひとつ間を空けて空気を震わせる。

「ただいま、サム。」
「あぁ、お帰り。バッキー。」

 チャーハンに肉と野菜の炒め物、タレの絡まった揚げた肉、よくわからん麺もある。どう考えてもカロリーが高いというのに、俺たち二人はペロリと平らげてしまうんだろう。そして冬物もバッキーと分け合って、足りなきゃ買いに行くことにしよう。次の休みを合わせて。