roku
2025-09-09 08:11:24
5973文字
Public 松エジ
 

デートしよう!【松エジ】

・デートがしたいという沢北の願いをかなえる話
・動物園ではしゃぐ沢北はいると思います

pixivから移動(2024.9.24掲載 松エジ処女作)

空港の駐車場で帰国した沢北の荷物をトランクに、沢北本人を助手席に乗せた。
「おかえり」と運転席から手を伸ばし、変わらない坊主頭を撫でれば、「ただいま」と照れたようにそっぽを向く。その様子が可愛くて、シートベルトを締める前に助手席に座る沢北に覆い被さりキスをする。軽く触れただけで離れてしまえば「もう終わりっすか?」と唇を突き出して拗ねている。
「続きは帰ってからな」
アクセルを踏み込んで車を発進させた松本に「オレ、デートしたいっす」と唐突に言った沢北は、窓枠に肘を乗せ頬杖をついて外を眺めている。
「あ?」
唇が離れたあと、もう終わりかと続きを欲しがったくせに、すぐに松本の家に行くのは嫌だと言いだした沢北に不機嫌な声が漏れた。
「だってOB会まで時間あるじゃないっすか」
「長時間のフライトで疲れてるだろ?」
だから家でゆっくりするべきだと松本は言う。それに対して沢北は「どーせゆっくりできねぇじゃん!」と松本を睨んだ。
沢北の言うことはもっともで、このまま松本の家に行けば、玄関を開けると同時にスイッチの入った松本にドロドロに溶かされてしまう。沢北はそれを嫌だと言っているわけではないが、たまにはセックス以外のことをしたいと、ただ純粋にそう思ったのだった。
……希望は、あるのか?」
自身の行動を省みてどうせゆっくりできないという沢北の言葉を否定できず、不満は残るがとりあえず沢北の希望を聞く。
「うーん動物園、とか?」
「はぁ?こんな暑い中誰が動物園行くんだよ。しかも大人の男ふたりで。せめて水族館だろ。涼しいし」
「暗いと松本さん何するかわかったもんじゃないからやだ!」
それについても前科があり、松本は強く言い返せず沢北の案を飲んだ。
「わかったよ、動物園な」
「やったー!!」
破顔して喜ぶ姿に、そんなに動物園に行きたかったのだろうかと思いつつも、その可愛さに松本の口元が緩んだ。



沢北の希望通り、空港から一番近い動物園へやって来た。平日の真っ昼間、30度を超える気温の中、動物を見に来るなんて物好きはほとんどいない。
「松本さーん!ねぇ、動物園ってこんなに影ないもんなの〜?」
「そりゃそうだろ」
「暑いって!」
「だから言ったじゃねぇか!」
入園ゲートを入るなり、白い肌を焦がすような日差しに文句を吐いた沢北。すかさず見つけた土産ショップを指差して、あそこで休憩しましょ!と松本の手を取った。呆れて言葉を失くした松本は手を引かれるままにショップへ入った。
「あー涼しい」
「お前なぁ……もう帰るか?」
「え?帰んないっすけど?」
松本がため息とともに吐いた案は一蹴された。
「何でだよ」
「だってデートしてぇもん」
へらっと崩した表情にいとも簡単に絆された松本は「なら行くぞ」とショップを出た。


「ねぇ、動物住んでます?」
「いるじゃねぇか、あそこ」
松本のいう“あそこ”は見学者から見えるひらけた場所ではなく奥にある畜舎。
「いや、いますけどね、普通はこっちでしょ?」
自分のすぐそばを指差す。
「動物も暑いんだろ。人間のために暑さ我慢したりしねぇんだよ」
「そうかもしれないけど……もうちょっとさぁ、ファンサあってもよくね?」
「ははっ!ファンサか」
動物園の動物の行動をファンサと呼ぶセンスはなかなかのものだ。
「だってそうでしょ?」
「まぁ、お前は得意だもんな」
「何それ、バカにしてんすか?」
「してねぇよ」
「オレがファンサするとヤキモチ妬くくせに」
昔はそんなこともあったなと懐かしく思う。今は沢北がどれだけファンサしたところで、こいつはオレのもんだという優越感がまさっている。
「お前はオレのもんだろ?」
フッと口端を持ち上げ、沢北の腰を引き寄せた。
「ちょ、何してんすか!外っすよ!!」
「誰も見てねぇよ。次行くぞ」
拗ねたり笑ったり照れたり怒ったり、沢北はいつも感情が忙しい。
「暑いから離してください」
「わかったよ」
腰を抱いたまま歩き出した松本に抵抗すると案外簡単に受け入れられて肩透かしを食らった気分になった。と思ったのも束の間、腰から離れた右手は沢北の左手を取った。
「だから外だって言ってるじゃないっすか!」
「だから誰も見てねぇって言ってるだろ!」
飽きもせずに同じような言い合いを繰り返しながら松本が取った手に指を絡めると沢北は急に大人しくなった。口を開けば暑いとうるさいが帰りたくはないと言う沢北を慮り、木陰を選びながら先へと進む。

「あ!あいつ可愛い!飼いたい!!ねぇ松本さんっ!」
暑さで元気のない動物たちがほとんどの中、畜舎と畜舎を繋ぐ頭上の通路を行き来する茶色のそれを見てテンションを上げた沢北。
「いや、あれレッサーパンダだぞ?」
「知ってますよ!バカにしてます?」
「ワシントン条約に引っかかるだろ」
「え?何?ワシントン?まぁよくわかんねーけどそれって飼えないってこと?」
「そうだな」
じゃあどうすれば触れ合えるのかと聞かれ、松本の頭に浮かんだのは沢北は有名人であるということ。本業はバスケットボール選手だが、その見た目の良さもあいまって、帰国すればメディアに雑誌にと引っ張りだこだ。どこかでポロッと漏らせば1日飼育員ぐらい簡単にできるだろう。
「聞いてます?」
「聞いてるが、それは無理だろ。諦めろ」
浮かんだ考えを言葉にしなかったのは、アーモンド型の瞳をキラキラさせながら近づくレッサーパンダを愛でている沢北があまりにも可愛すぎたので、自分の中だけに留めておきたいという松本の独占欲だった。
「じゃあいいや。それよりあれ食べたい!」と松本の手を引っ張る。切り替えの早さはコートの上と普段の生活で変わらないのが沢北だ。
園のほぼ中間地点にある飲食店。休憩するにはちょうどいいだろう。
「どれだよ?」
「あのコアラのアイス。松本さんは?」
「一口もらう」
その答えにへにゃっと表情を崩し、買ってきますね!と走り出した。
「買ったはいーんすけど「コアラなんかいたか?」
「ですよね!?」
沢北があまりにも暑いのなんだのとうるさいから見逃したのかもしれないと、園内マップを広げる。
「あ、この先じゃん!行きましょうよ!」
文字通り、一口だけを松本に与えた沢北は残りを全部食べ、足早に歩き出す。
「お前本当に一口しかくれなかったな」
「一口でいいって言ったの松本さんなんで!」
「そうかよ」
生意気な口をきく沢北の手を思い切り引っ張り、不意打ちの勢いによろけた身体を抱きとめて、パクッと食べた唇。
「なっ!何するんすか!?」
「ん?アイスもう一口貰おうと思っただけだぞ?」
「信じらんない!!」
手を離してズンズンと進んでいく沢北だが、本気で怒っているわけではなかった。

――

………全然動かねぇじゃん」
「コアラだからな」
「はぁ?」
「コアラはユーカリの毒を解毒するためにほとんどの時間を寝ることに使ってるんだとよ」
「そうなの〜?てことはここで見てても動かねーの?」
「まぁお前のいうファンサはねぇだろうな」
「なんだよ~。じゃあもういいです」
ため息混じりで吐き捨てた沢北は次へ向かう。自由すぎる沢北に呆れつつも、普段あまり自由のない生活をしているだろうと、やりたいようにやらしている。松本は何だかんだと可愛い恋人には甘いのだ。


炎天下の中歩き続けた暑さで汗だくになっているふたりの目の前に現れた園内折り返し地点にある休憩所。閉まっているドアが意味するのは、そこはとても涼しい場所であるということ。
「あそこで休憩」
「するに決まってる」
松本はやや被せ気味に言う。
「松本さん、毎日エアコン効いたオフィスにいるから体弱くなったんじゃないっすか?」
「あ?お前が暑い暑いってうるさいからだろ?」
やいのやいのと言いながらもお互いの足取りは早く外がどれだけ暑いのかを物語っていた。
「うわぁっ!めっちゃ涼しい!!」
「さすがにしばらく涼んでくか」
休憩所は自販機とテーブルと椅子、という簡易的なものであったが、今のふたりにとっては十分だった。園の入口から遠く離れているからか他に休憩している人はおらず、松本と沢北のふたりだけ。
突然の閉ざされた空間に、ふたりきりであるという事実が沢北の鼓動を加速させていく。誤魔化すように自販機で水を買い、ごくごくと半分ほどを流し込んだ。
「オレにも」
椅子に座り手を伸ばした松本。
「自分で買えばいいでしょ!」と口では言いながらペットボトルはちゃっかり松本へ差し出している。
「ありがとな」
残り半分を飲み干した松本は空になったペットボトルをゴミ箱目がけて投げる。綺麗な弧を描いたそれはガコンとゴミ箱を揺らした。
「やるじゃん」
「これぐらい当たり前だろ」
フッと笑った松本を見て、先ほど水分補給で落ち着けたはずの心臓がまた騒ぎ出した。そんな沢北の様子を気にもとめず「行くか」と立ち上がった松本に、どうしてか置いていかれるような気がしてポロシャツの裾をクイクイと引いた。
……ねぇ松本さん」
「あ?」
振り返れば潤んだ瞳が松本を見つめている。
……ごめんなさい」
「何がだ?」
突然の謝罪に目を丸くする松本。
「だってオレ今日文句しか言ってない
言われてみれば確かにそうかもしれないが、それはいつも通りの沢北であったし、そんなこと露ほども気にしていなかった松本は、ははっと笑いを漏らした。
「何急にしおらしくなってんだ?」
「だって松本さんに愛想尽かされたらって
「はぁ?」
今にも泣き出しそうな沢北を前に、もう一度椅子に腰を下ろすと膝の上に座らせた。
「まっ、松本さんっ!?」
「オレは、沢北がオレに愛想尽かさねぇ限りは一緒にいるけどなぁ」
片眉を上げた松本の顔は“それはありえない”という自信が見て取れた。
「そんなのあるわけないって知ってるくせに
「だよなぁ。なら不安になんかなるなよ」
右手で沢北の手を握り、左手を後頭部へと伸ばす。軽く力を加えれば磁石のように引き寄せられたふたりの唇が合わさった。チュッチュとわざとらしく音を立て角度を変えて、舌を絡めれば漏れる吐息と揺れるアーモンドアイ。
あぁ、やべぇな。
松本は頭の隅でそう思うも、一度入ったスイッチを簡単に切ることはできず、熱量と質量が上がる。まずいと感じた沢北は松本の肩を押して抵抗を示した。
「ね、ちょ……まつ、もっさ……
「なんだよ?」
……何反応してんすか」
先ほどまでキスに溺れ揺れていた瞳は水分を失い、こんなところで。と言わんばかりにぶすっと唇を突き出した。
「そりゃ栄治とキスしてんだから当たり前だろ」
「もぉこういう時だけ名前呼ぶのずるい
沢北は松本の首に腕を回してぎゅっとしがみつく。
「帰ったら、続きな?」
甘い声で囁けば、松本の膝の上から勢いよく立ち上がり「は?いや、無理だって!OB会もあるじゃん!」とさっきのしおらしい沢北はどこへやら。
「車内で続きせがんでたの誰だよ?」
「そ、そんなことしてないし……
小さくなっていく語尾を隠すように「行きますよ!!」と手首を掴むと「こっちだろ」と手のひらが上を向く。沢北に拒否権はなくて、手のひらを合わせれば指が絡まり恋人繋ぎになる。
休憩所を出ると入れ替わりでやってきた家族連れ。すれ違った少女の視線は繋いだその手に注がれていた。
「見られてたじゃん
「大丈夫だろ」
「全然大丈夫じゃない。ガン見してた
「困るのか?」
「いや、別に困んねーけどさぁ
「じゃあ見せつけてやればいいんじゃねぇか?」
子どもに対して大人げない松本を見やると触れた唇。
「なっ!ちょっと!もぉ!何考えてんすか!!」
沢北が大きな声を出さなければ誰も気づくことはないのに。
振り返れば目を丸くさせた少女と目が合った。松本は人差し指を立てると自身の口もとに寄せ「しー」と少女に微笑んだ。