おがら
2025-09-07 00:45:09
4588文字
Public
 

Let's breakfast.

謎AUでステ+ナタ+サムの日常。
同じマンションのそれぞれ別の部屋に住んでる三人の話。サムの家でご飯を食べるのが日常。
これもこれからもCPなし。
月いち36の日で公開

 
 ナターシャはここ数日、朝は朝食を食べる時間を削りギリギリまで寝て過ごしていた。それは毎日の大半はサムの家で朝食をとっているため、サムが不在だとその分早く起きる必要がないのだ。一人であれば朝食などコーヒーひとつでも構わない。それでも習慣として新聞を取りにポストを覗くと一枚のポストカードが入っていることに気付き、真っ先に宛名を見る。
 そこには数日前バーモンド州へ出張に行ったサムからだった。カードを裏返すと鮮やかな赤い紅葉の風景写真が紙いっぱいに印刷されており、ナターシャはそれを見ると寝起きのぼんやりとした頭が覚醒していくのを感じる。
 この時期のバーモンド州は既に紅葉が始まっているらしく、写真は今年のものではないにしても場所と季節を伝えるためには有用な手段だろう。もう一度カードを宛名の方に戻すと短いメッセージが書き込まれていた。

「ナターシャ、おはよう。」

 文字に向けようとしていた目を声の方に向けると珍しく欠伸をしたスティーブが挨拶をしながらナターシャと同じようにポストから郵便物を取り出している。いつもサムの部屋で朝食をとっている時はそのまま出られるように出勤時の服装なのに今日は部屋着で挨拶してきたスティーブも大方ナターシャと同じようにギリギリまで寝ていたのだろうか。

「おはよう、スティーブ。」
「うん……ん? これ……。」

 新聞を脇に挟んだスティーブはナターシャと同じようなポストカードを手にしていた。

「お、綺麗な紅葉。」

 呟いたスティーブは写真の面から見たらしくそれから裏返すと宛名を目で追ってその表情が緩まるのをナターシャははっきりと見てしまう。そしてその瞬間自分も同じ顔をしていたのではないか? と思い、スティーブがあとから来て良かったと心底思うのだ。

「ナターシャ! これ、」
「私も来たわ。」
「なんだ、君も?」

 赤い紅葉をスティーブに向けると立派な眉が少しばかり中心に寄せられ、唇を突き出すその姿にナターシャはポストカードを折らないように腕を組んでスティーブを見上げる。

「なぁに。私に来てちゃ不満?」
「そんなんじゃないけど。――あ、君のは赤いんだね。僕のは黄色。」

 同じように写真面を見せてくれたスティーブのポストカードには言った通り黄色がメインの紅葉が広がっていて、単純に美しいと思う。バーモンド州には行ったことはないけれどその場の空気が澄んでいて穏やかな雰囲気が十二分に伝わってくる良い写真だと思う。
 ――私が赤で、スティーブが黄色。案外サムって単純なのね。
 胸の中で呟いたナターシャは先程見逃したメッセージに目を通すと自然に口元を緩まるのを自覚し、それを携えたまま腕を伸ばしてスティーブの肩を叩く。

「明日は一緒に朝食を食べましょう。」

 突然のナターシャの提案に首を傾げるスティーブに彼が持っているポストカードへ目線を配らせると同じようにメッセージを読んだようで穏やかな笑みを浮かべると力強く頷き、それを見たナターシャも一つ頷いてから自室へと歩き出す。
 
『二人でも朝飯は食べるようにしろよ。――食うタイプなんだから。』
 
 ***
 
 予定していた出張ではあったものの五日間という長い間自宅へ帰れないというのはなかなかハードだなとサムは改めて思う。出張先での食事は全てホテルか接待や視察の外食ばかりで自分で料理を作る時間も設備もなかった。普段から食事はほぼ自炊しているサムにとってそれはある意味楽な日々ではあったが、うっすらとストレスと余剰な栄養素が溜まっていく日々でもあった。
 ようやく自宅に帰ってきたサムが一番にすることは換気だ。部屋の窓を全て開け、溜まったホコリを掃い吸い上げ、簡単に水場を掃除して洗濯機を回す。キャリーケースの荷物を片付けてそしてやっとソファに腰を下ろしたサムは全身の力を抜いて身体を預け、何をするわけでもなくぼうっと思考を漂わせる。早朝の便に乗ったため空港ではレストランも開いておらずコンビニで簡単にパンと飲み物だけを買って食べただけのサムの腹はくう、と小さく空腹を訴えていた。しかし出張前に冷蔵庫は整理したため碌な食材も入っていないし、インスタントやデリバリーの気分でもない。今から食材を買いに行くのも億劫だ。早起きと疲労もありこのまま一度眠ってしまおうかと横になりかけたサムを止めたのはインターフォンの音だった。
 時刻は午前八時を回ったところでこんな時間に荷物でも届いたのだろうか。重い腰を上げてモニターを確認しようと思ったが直接ドア前のチャイムを鳴らされたらしい。サムはのぞき穴を確認することなくドアを開けると現れたのはサムの下の階に住むスティーブとナターシャだった。

「やぁサム。」
「おはよ、サム。キッチン借りるわよ。」

 勝手知ったるサムの家、それでもサムが身体をずらして入室を許可してから二人は室内に入り、ナターシャの言葉通り二人はキッチンへ直行すると持っていた袋から食材を取り出し、清潔にしてから早速調理を始めている。

「どうしたんだ、スティーブはもう仕事に行く時間だろ。」

 サムの言葉通りスティーブは出勤用の服装で、鞄も入室時に玄関の隅に置いていた。ナターシャはフリーランスのため仕事に取り掛かる時間はその日によって違うとは聞いているが、朝からサムの家で調理することなど初めてだ。

「今日は少し遅れて出勤するんだ。あぁ、サボりじゃないよ?」

 悪戯っぽく笑うスティーブにサムは肩を竦めると並んで作業する二人を後ろから見守ることにする。取り出されたハードパンをトースターに突っ込むスティーブの横でナターシャはフライパンを取り出し温めるとバターを入れ、次にタッパーから白い液体に浸かった厚いパンをトングで取り出すとバターの溶けたフライパンへ投入する。途端に部屋はバターの香りと甘い匂いに包まれてしまう。
 スティーブはというとこちらもフライパンを取り出して持ってきた卵を割ろうとしていて大きな身体を屈めて大きな手で小さな卵を握るその姿はあまりにアンバランスで、けれどもその横顔があまりに真剣なので何も口に出さず二人が作る朝食の完成を楽しみにしていた。
 数分かけて出来上がったのはアボカドトーストの目玉焼き乗せとフレンチトースト。完成間近を見越してサムは三人分のコーヒーを淹れてテーブルに置くとそれぞれがいつもの位置に座り、サムも座りかけてあ、と声を出す。

「これ、向こうで買ってきたメープルシロップ。次の朝飯に出そうと思って買ったんだ。ナターシャ、これフレンチトーストにかけてもいいか?」
「もちろん。綺麗な色。」
「名物なんだとよ。」

 ボトル自体がメープル、カエデの葉を模した瓶は透明で琥珀色は比較的薄めのものだ。もう一種類より色も味も濃厚なものも料理用に購入したが折角のフレンチトーストを邪魔したくはないと思ったサムはまろやかなメープルシロップの封を開けてテーブルの真ん中へ置く。先に食べ始めない二人は無言でサムを見つめているので居心地の悪さ――照れ臭さ――を感じながら口を開く。

「二人ともありがとな。いただきます。」
「スティーブ、目玉焼き割らなかったのね。」
「僕だってそれくらいできるさ。」
「練習は、」
「してない。」

 軽い言葉のやり取りを行う二人を見るのも数日ぶりでサムはその様子に小さく笑いながら食事に手を付ける。スティーブが作ってくれたアボカドトーストには程よく火入れされた綺麗な目玉焼きが乗っており、パンとアボカド、玉子の色味も食欲を誘う。サムはガブリと食いつくとペーストされたアボカドのねっとりとした濃い味わいと玉子が絡み、そしてパンの甘みと香ばしさが鼻を抜けていく。

「美味い。」
「そうか、うん、良かった。」

 サムの反応を見てほっと胸を撫でおろしたスティーブも同じように食らいつき、ナターシャも自分の作ったアボカドペーストが想像より良かったのか咀嚼したものを飲み込むとサムに作り方を伝える。それはサムが何度か二人に出しているものとほとんど同じレシピでやはり照れくささを感じたサムはナターシャにも美味いと伝えてから、今度は焼き立てのフレンチトースト向き合う。粉砂糖が降りかけられたパンの周りにはバナナとイチゴが鮮やかに皿を彩り、二枚あるパンの一枚にはチョコレートソースがかかっている。その絵面にサムはひとつ思い出すことがあった。
 バーモンド州についたその当日は簡単な挨拶を済ませると自由時間があったため近所の土産店などを一通り回ったのだ。その中で昨年の紅葉風景を印刷したというポストカードを見つけ、黄色と赤色の鮮やかな色味を見ると自然とスティーブとナターシャを思い出していた。現地では紅葉は始まったばかりでもうあと一週間遅ければ見頃だったのよ。と言うのは土産店の店員だった。微かに山を染める景色をスマートフォンで撮って二人に送る手もあったが、折角ならとサムはそれぞれに一枚ずつメッセージつきでポストカードを送り出した。
 そして、思い出にと自分用には黄色と赤がバランスよく写された中に光の加減か微かにブラウン色をした一羽の大型の鳥――タカかハヤブサだろうという話だった――が紅葉の近くを飛んでいる姿が映っているものを選んで購入していた。それはまだテーブルに置かれたままだがいずれきちんと飾るつもりだ。二人に見られるのは気恥ずかしいから寝室に置くかとサムは頭の片隅で思う。
 しかしまずは目の前の食事と思い直しナイフを入れて一口頬張ればたっぷりとパンに染み込んだ卵液が口の中を満たし、バターの匂いが鼻をくすぐる。そして甘さ控えめの生地に絡むチョコレートソースとバナナの甘さとイチゴの酸味が合わさると何とも言えないうま味が広がる。

「あ~美味いなコレ。焼き加減もちょうどいい。」
「そう? ――ん、サム、このメープルシロップすごく美味しい。」

 まずはそのまま食べたサムとは違いナターシャは早速シロップをたっぷりとかけていて、今日のフレンチトーストにちょうど良い甘味が足されていた。サムももう一枚にシロップをかけて食べるとその味わいに何度か頷き、そのままぺろりと平らげてしまう。コーヒーを飲んでから残していたアボカドトーストもすべて食べてしまうと二人よりはるかに早く皿を空にしてしまった自分の空腹加減に少しだけ呆れてしまった。
 けれどペロリと平らげてしまったのは単純に空腹だけだったからではないこともサム自身すでに自覚していた。いつもの家でいつものメンバーと馴染みのあるメニューを食べる。しかも調理したのは自分ではなく友人二人。それがどれだけサムのストレスを無くし、心を満たしていくのか二人は自覚しているのだろうか。

「美味かった。ありがとな、二人とも。」

 それでも直接伝えるのは未だ気恥ずかしさが上回るため、サムは二人を交互に見て心から感謝を伝えると手を止めた二人は顔を見合わせてから穏やかな顔で同時に言葉を返す。

「おかえり、サム。」
「おう。」

 今日からまたいつもの日常が始まる。まずは今晩三人で食べるためのディナーの買い出しに行くとしよう。