yn
2025-09-01 11:37:51
3158文字
Public 諸々(CP混在)
 

モブと兄さんの話×2

以前ツイッターで垂れ流して再録本に入れていたやつ。
再録本完売後1年経過し、かつお気に入りなのでこっちにもおきます。
モブ視点だ~~いすき(二度目)あと気づくとケンの話ばっかり書いていて、どうにもなりません。



山寺の住職の場合

 ボロ切れが風でたどり着いたか。はたまた手負いの獣が行き倒れているのか。初めに思ったのはその二つであった。
 しかし月明かりを借りてよくよく目を凝らすとそれは『ボロ切れを纏った手負いの獣』であったので、私の見立ては当たっていたことになる。私は肉は食わない。これは困ったと杖で頭をかいた。
「もし」
 急に走り出してこちらに体当たりでもされたら敵わぬと、少し距離をとって杖の先で布の塊を突く。銀色の湖のようなものが塊の下に広がっていた。血だった。随分と追い回されたらしい。この辺りの猟師にしては杜撰な仕事だ。
「もし、生きておるかね」
 もう一度、今度は少し強めに体らしきところを突く。すると塊がピクンと震え、何やら唸り声を上げた。
 境内を覆う木々が騒めく。それは違うぞと私に教えてくれている。けれども私はそこから動かなかった。ヴゥ、とまさに獣の声が地面を揺らす。塊がぐぐぅッと伸び上がった。何やら聞いたことのない言葉を喚きながら私に向かって血みどろの腕を伸ばし、牙を剥いて襲い掛かろうとしている。
 ので、黙って持っていた杖を振りかぶり脳天に叩きつけた。ぱかん、と板を割るような音が響く。
「ぎッ……
 私を喰らおうとした獣は真っ赤な瞳をぐるりと瞼の裏側に引っ繰り返して崩れ落ちた。ぴく、ぴくと指先が痙攣している。
 はてさてこんな大きな手負いの獣、如何にしようか。ここに住むのは老耄一人。こんな大物ちょいとばかり手が余る。杖で地面を叩きつつ考えていると、どこからか赤子の声がした。
驚いてつぶれた獣をひっくり返す。胸元にしっかり固定されぽこんと膨らんだ布が蠢いている。ちょいと失礼。中を覗くと、ふんわりと綿毛のように柔らかな黒い髪。月光を追うように伸びた瑞々しい手指の先の丸い爪。
「おやまあ」
 思わず顔が綻んだ。布に染み出た獣の血を乳のように吸いながら笑う、赤ん坊がいた。
 赤ん坊がいるならば邪険にもできまい。生まれた命に罪は無し。とはいえこの細腕で巨躯を抱えるのはまさしく骨が折れる。先に赤子をと布を解こうとしたが、意識がないはずの腕がガッチリと赤子を掴んで離さない。仕方なく、ウンウン唸る男の襟首を掴み引きずった。なんとか一番近くの部屋に転がして、境内に落ちた血に砂をかけて隠す。石段には水を撒いておいた。
 一頻り始末をつけて部屋に戻ると、布から転がり落ちたらしい赤ん坊が畳に紅葉をばちばち咲かせて遊んでいた。散々渋っていたが、畳を張り替える理由ができたと考えておくことにした。


 もう手遅れの畳の上で赤ん坊を遊ばせて、親らしき男の手当をする。血みどろの着物はもう使えまいと切って剥ぎ取り、湯を張った手拭いで血を拭う。随分消耗していたらしい男は多少手荒に扱っても起きなかった。男を布団に転がして一息つくと、目を離した隙に赤子が着物の切れ端をしゃぶっていた。
 小さな唇を少しめくり上げてみる。ギラリと牙が光った。成る程。ということはこちらもそうか。追い回されている理由もなんとなく察した。赤ん坊を抱き上げ男の横に転がすと、きゃいきゃい言いながら男の腹の上によじ登った。そこが良いならそれで良い。
 暫く様子を見ていると、赤ん坊が寝息を立て始めた。釣られるように男の呼吸も深くなる。落ち着いたようで何よりである。幸いにも頭は剃髪されているから、一見ここの雛僧に見えなくもない。
 脳天の瘤は見なかったことにして静かに襖を閉める。月夜の散歩がえらい拾い物に代わったものだと少し笑った。