音無 馨(おとなし かおり)
2025-08-28 12:43:52
8450文字
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『我が友に告ぐ』(※未実装親友クリシュナ×アルジュナ意識)(時系列1.5部くらい)

幕間2が実装され、かつクリアした直後…なのでもう数年くらい前の話になりますが「黒の名前が親友クリシュナの名を冠していることをアルジュナ が認めている=黒の存在自体をクリシュナも知ってたかも…=それってはちゃめちゃにクリジュナやないか?」という錯乱を鎮めるために生み出された当時の私の拙い『親友実装前プロローグ妄想』、文体の微調整を行なっていますが内容そのものは大きく変えていません。今後、本当にクリシュナが来た時のために前置きしておこうな産物。我が家のマスター藤丸立香(女)とアルジュナの関係性の決め打ちも含む。



【奏遇(SOWGUW)】


「あの……、アルジュナさん!」

変わり映えのない白無地の、静かなカルデアの通路の真ん中で、自分を呼び掛ける控えめな声がする。振り返るとそこにはマシュ・キリエライトが立っていた。

「何でしょうか?」
「先輩……マスターを見かけませんでしたか?午後から一緒に書庫へ行きたいと仰っていたのですが、待ち合わせ場所のラウンジにいなくて……

そう思案げに言葉を紡ぐ彼女はいくらかの書類を抱え持っていた。

「私、もう少し事務作業に時間がかかりそうでそれを伝えようと思ったんですが、部屋にいらっしゃるんでしょうか……?」

静寂を引き裂くように「マシューーー!!」と遠くから現行のカルデアを統括するダ・ヴィンチの明朗な呼び声が聞こえてくる。その声に慌てるようにこちらとあちらと顔を動かす彼女へ私は提案を投げかけた。

「頼まれましょうか?」
「え、でも……アルジュナさんも何か用事があったのでは……?」
「別に構いませんよ。向かう方向は同じですから」

マスターやカルデアからの指示が無い時の手持ち無沙汰なサーヴァント達は思い思いの一日を過ごしているが、武芸に特化したサーヴァントはカルデア内に設けられたシミュレーターで鍛錬を重ねることが多い。人理修復に至ったとはいえ細かな特異点が現れる度にサーヴァント達は出動せねばならない。そのためには欠かす事のできない日課──そして、マスターの部屋はその道すがらにあった。そこでマシュに呼び止められたのだ。向かう先が同じなのだからここは動ける自分がまとめて片付けてしまえばいい。

「ほんとう、ですか……すみません!お願いしてもいいですか……?」
「勿論。さあ、向こうでお待ちかねですよ」

私が促すと彼女はぺこりと頭を下げ「マスターには!すぐに終わらせてくるのでって伝えてください!」と言いながらダ・ヴィンチの元へ走り去っていった。軽く見送り、踵を返し改めてマスターの部屋に向かう。朝食を終えて昼になりきらない時間帯。食堂で顔は合わせたので、おそらくは一旦部屋に戻っていると見て間違いないだろう。

マスターの部屋の前に立ち、軽くドアをノックする。

「マスター、いらっしゃいますか?」

……返事はないが、ここにマスターがいるのは間違いない。気配を感じ取れるからだ。おおよそ食後で微睡んでいるところかもしれない。気後れするが、伝えるべきことは伝えておかねばなるまい。私はそのまま扉のキーロックに手をかざした。

開いた扉を静かに潜ると、簡素な部屋のベッドの上で扉を背にして横になっているマスターの姿を捉えた。

……失礼致します」

寝息を立てるマスターの肩口にそっと触れ、ゆり起こす。

「マスター、申し訳ありません。起きて頂けますか?」
「ん……〜〜〜」

返事とも吐息とも取れない声を漏らし、緩やかにマスターは覚醒した。人の身であるために休息が必要であるとはいえ、ここカルデアの主要な人材として任務をこなす彼女には深い眠りの約束が果たされることは少ない。染み付いた習慣ゆえか、いっそ可哀想なくらいに彼女の寝覚めは良い方だった。

……が、今日マスターが見せた姿は、あの日私が巻き込んでしまった“悪夢”の後ですら見せなかったものであった。自身を起こす人影に気付くや否やマスターは飛び跳ねるように起き、後ろへと引き下がった。勢いよく下がったおかげでマスターはあわやバランスを崩しベッドから転落しそうになる──、

「──あ、わわ!」
「マスター!」

私はとっさにマスターの腕を掴み体勢を戻す。逆方向に勢いがついたマスターはそのままベッドにしがみついて動きを止めた。……そうやって、先程の慌ただしさが嘘のように静まり返る。先に声をあげたのはマスターだった。

「あ、アルジュナ……?」
「はい、アルジュナです。大丈夫ですか?マスター?」

そこで自身の置かれている状況に気付いたのかサッと身を起こし、目を白黒させながら謝罪の言葉を述べ始めた。

「あ、っ!私は大丈夫!!っていうかアルジュナこそごめん!!私を掴もうとしたばっかりになんか、手とか変なことなってない!?」
「何ともありませんよ。まず私はサーヴァントですから。こんな事でどうこうすることはありませんし、仮にあったとしてもすぐに戻ります」
「ま、まあ……それは理屈でわかっちゃいるんだけど、気分的にさ……

弓を扱うんだしお手手は大切じゃん……?とボソボソ呟きながらマスターはベッドの上に座りなおす。

……差し出がましいようですが、今のは傍目から見ても尋常ではない驚き方でしたよ」

何かあったのか?と暗に告げるとマスターはややバツが悪そうに答えた。

「あ、あーーーっと……なんか……?変な夢を見てて……?ちょっと驚いちゃっただけ……?」
「夢……?」

“夢”、一般的な人々が見る夢であればさておき、数多のサーヴァントと契約を果たすマスター、藤丸立香が見る夢となると別だ。魔力のパスという形で繋がり続けるマスターとサーヴァントは時に夢を共有する。話として聞くだけだった私ですら最近、身をもって体感する出来事が起きた。それはつつがなく終わった今だからこそ何のてらいもなく思い出せるものだが、内容だけ見れば限りなく最悪な形で罪なきマスターを巻き込んでしまった。あの時を思い出し、自然と顔が強張っていく。

「それは……どんな夢だったんですか?」
「うぅ……余計な心配をかけないように説明したいのはやまやまなんだけど~何だかこう起きてみると変な夢っていう感想は出てくるんだけど具体的な部分が思い出せなくて……
「そうですか……

見る限りこちらへ気遣ってフリをしているわけではなく、本気で覚えていないらしかった。しかしわからないというのもそれはそれで不穏である。私が怪訝な顔を隠しもしなかったため、戸惑って視線を彷徨わせていたマスターだったが、何かを思いついたようにハッとした顔でこちらを見た。

「あ、っていうかアルジュナがどうしてここに?何かご用?」

今度は私がハッとさせられる番だった。そうだ。私がここに来た理由をすっかり忘れていた。

「ああ……申し訳ありません。それが主目的だったのに……実はマシュに頼まれまして。貴女を探して欲しいと」
「私を……あ、えっ?今何時!?うわあ~!もうこんな時間!?寝過ごしてるぅぅぅ……ちょっと仮眠のつもりだったのに……

時間を見るために手に取った端末を掴んだままガックリと項垂れるマスターへ貰い受けた伝言を続ける。

「ご安心を。彼女はまだ事務作業を終えるまで少し時間がかかると仰っていましたから。ただ当初の約束の時間に待ち合わせ場所に貴女がいなかったので、それを伝えられなくて困っていたみたいですよ」
「そうなの……?それでもアルジュナまで駆り出しちゃってるし……とりあえずごめんね……!マシュにも謝んないとなあ……
「私が進んでやると言ったことですから、お気になさらず」

慌ただしく身支度を整えるマスターから離れて、見守るように後ろへ下がる。結局、マスターの見た夢に関して判然としないままで、何となく離れ難い気持ちがあった。

……あ、」
……どうしました?」

何気なく声を漏らしたマスターは、こちらを困惑した顔で見つめていた。

「私に何か?」
……えっ、と……ひとつ思い出したことがあるの、さっきまで見てた夢の内容」

意外な言葉に私はやや食い気味に次の言葉を急かした。

「何ですか?」
……『アルジュナによろしく』って、言ってた」

突然私の名前が出てきて、今度は私が困惑する番だった。

……私に、誰が……?」

あまりにもあり来たり過ぎる返答をしてしまったためか、マスターは慌てたように「そうだよね、ごめん、気のせいかも……」と否定を始めたが、立香の様子を見るに気のせいなどでは無いのだろうと思う。

「いいえ……恐らく確かなことなんでしょう。ただそれならば貴女は私を知っている誰かの夢を見たのだということになりますね。場合によっては私自身も既知の者の」

様々なサーヴァントが集まっているカルデアにおいては『既知』となる者はかなりの人数いるわけだが、この立香の様子を見るにカルデア内には該当者はいなさそうであった。

「うーんそう言われてすぐ出てくるのはカルナなんだけど、そうじゃないのだけは断言できるんだよねえ……
……そうですか」

そのまま黙りこくってしまった立香を見て、この調子では出るものも出てこないだろうと判断した私は、気長に流れに任せてみることに決めた。

「夢の件ですが、何か気がつく点がありましたら……少しでも良い、教えてください。私でも、もちろん今から会うマシュにでも」
「うん、わかった。ありがとう!あと……なんかごめんね、変に心配かけちゃって。シミュレーターに行く予定なんでしょ?いってらっしゃい!」

常の笑顔を見せた立香は、扉を開き廊下に向かって飛び出していく。自分も本来の目的の場所へ移動せねばならないと、少し後から開け放たれた扉に近付く。瞬間──蓮香の匂いがした。

「え……?」

その匂いに気を取られてろくにマスターを見送ることもできなかったが、マスターは気にする様子もなくその背を小さくして行く。私は呆然とそれを見届けていた。彼女は特段、香を焚く様な趣味は持ち合わせていなかったはずだ。そしてこれは自分にとってこそ、とても馴染み深い香りだった。

『アルジュナによろしく』

いまだ周囲に香る蓮香と共に、マスターが夢の中で聞いたと言った言葉がリフレインする。



………クリシュナ?」

我が身の内に在るクリシュナではない、生前の私の側に常に在り、公私を問わず私の戦いを支えてくれていた御者であり、莫逆の友の真名を──思わず呼びかけていた。まるでそこに居るかの様に。


その声に応えるように笑む瞳が見えた気がしたのは、果たして気のせいだったのだろうか。