音無 馨(おとなし かおり)
2025-08-28 12:43:52
8450文字
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『我が友に告ぐ』(※未実装親友クリシュナ×アルジュナ意識)(時系列1.5部くらい)

幕間2が実装され、かつクリアした直後…なのでもう数年くらい前の話になりますが「黒の名前が親友クリシュナの名を冠していることをアルジュナ が認めている=黒の存在自体をクリシュナも知ってたかも…=それってはちゃめちゃにクリジュナやないか?」という錯乱を鎮めるために生み出された当時の私の拙い『親友実装前プロローグ妄想』、文体の微調整を行なっていますが内容そのものは大きく変えていません。今後、本当にクリシュナが来た時のために前置きしておこうな産物。我が家のマスター藤丸立香(女)とアルジュナの関係性の決め打ちも含む。

【夢題(MUDAI)】

“目が覚めるとそこは平原だった──。”

などと、最近流行りの異世界転生モノもかくやの導入が突然起きる。それが藤丸立香の日常なのだった。早々に(ああ、また誰かの夢に)と結論付ける。鼻腔を擽ぐる青臭い土の匂いと頬に触れる草花に覚醒を促され、藤丸立香は上半身を起こした。

「わ、凄い……お空綺麗……

自分で言いながら(これなんか精神的によろしくない状況みたいな言い方だな)とちょっと後悔するも、晴れ晴れと澄み渡る空の美しさは本物で、感嘆の声を漏らさずにはいられなかった。都心のビルに四方をギザギザと切り取られたものでもなく、豪雪地帯のカルデアから頻繁に見る鉛空や、雲間が晴れたまに見える涼しげな空でもない。単純明快で遮られるもののない、青く広い空。座り込んだ姿勢のまましばらく惚けていたがハッと自らの置かれている状況に思い至りかぶりを振った。

「いけないいけない……さて、今日は誰の夢だろう……

立香は契約するサーヴァントたちと夢を共有することがある、そしてその内容はそれこそ千差万別の様相を示したが、基本的に自身に危害を加えるようなものはなかった……と言いたいところだったが、残念ながら酷く拗れた展開に巻き込まれることもしばしばあり……そして立香は最近また、それを身に沁みて実感する機会を得ていた。アルジュナと共に見た夢の中で。

サーヴァントたちの夢へのお宅訪問が半ばライフワークと化していた立香とは逆に『マスターと夢を共有するという経験自体が初めて』だと語った彼と共に、立香はこれ以上ないピンチに見舞われることになった。他ならぬ、アルジュナを発端として。

意図せずアルジュナの深層心理を模した空間の中に導かれ、ラーマやカルナと出会い──と言ってもこの二人は本人ではなくアルジュナの人格や思想、思考を元にしたイメージだが──その先でアルジュナ自身が抱えていた心の影とも言える部分と対峙することになった。アルジュナは《他者を妬み羨むような英雄らしからぬ感情を悪とし、そのような感情が存在してはならない、人に知られてもいけない》と半ば強迫観念じみた衝動から、それを知った、または知る可能性がある者を消さねばならないという過激な考えを抱いては、あまつさえ行動に移そうとしていたのだ。悲しいかな、めでたくもその最有力候補として選ばれてしまった立香は真っ先に命を狙われてしまうことになる。あわや、というところでアルジュナがこちらの説得に自らを律し、自身の影を認め受け入れたため事無きを得たのだが。

はてさて多大な命の危機を辛々脱したこの一件、それでもこれをきっかけに、マスターを含め、人と密接に関わることを避けていたアルジュナ自身に“良い意味での変化”をもたらしたことが、立香としては何よりも喜ばしいことだった。

ちなみに余談ではあるが、夢から無事帰還した直後、放っておくと平謝りを連発しかねないアルジュナを宥めすかしつつ、マイルームから一緒に出てきたところをうっかり清姫に見つかり、

「朝イチで同じ部屋から?男女が?しかも何だかとても嗚呼!親密な空気!?ますたぁどういうことなんです!?」

と明らかに誤解の上塗りで地獄の業火にミディアムレアにされそうなところを、通り掛かりの大変空気が読めるマシュと居合わせたエリちゃん2人がかりで庇い立てられ、何とか話をまとめ上げたりしたのだった。そんなこともあったな……



『原因を作った私が忠告めいたことを言うこと自体が滑稽な話ですが……どうか、マスター、気をつけて下さい。今回のようにまた、貴女自身に危害が及ぶような夢に招かれることもあるかもしれません。……私は、このカルデアに在籍するサーヴァント達に一定の信頼を置いていますが』

アルジュナにそう言われたことを思い出しながら、立香は改めて気を引き締めた。一見穏やかそうに見えるこの平原ですら何が起きるかわからないというわけだ。しかも今ここにいるのは立香一人だけなのだから……すごい、圧倒的孤独、一人楽しくない。自分の身は自分で守ろうキャンペーン絶賛実施中。そんなしょうもないことを脳内で反芻していると、そよぐ風に乗せて誰かの話し声が聞こえてきてギョッとする。

「(男の人が二人?)」

立香が突っ伏していたのは平原の中でも木々がやや密集している場所で、木陰になる部分だった。声のする方を振り向きつつ木陰のより暗い部分へ、木を盾にしながら屈み込む。予想通り二人の男性が開けた場所を散策しながら会話している。それにしても聞いたことのある声が混じっている様な気がした。引き寄せられるように身を乗り出し、二人に目を凝らすとその疑問はすぐに解決へ導かれた。

「(あ、アルジュナ……?)」

会話する二人の男性のうち、一人はアルジュナだったのだ。姿そのものや背格好は自分が知るものとそう変わらない……ただ、立香自身の記憶にあるアルジュナに比べると、少し幼い印象を受けた。その印象を後押ししたのは──、

「(笑ってる……!)」

アルジュナの表情だった。別段今のアルジュナが笑わないというわけではない。ただそうはいっても控えめで、口元に微笑みをたたえるとかそういうものであったし、基本難しい顔とか真顔とか先日の夢の一件の時なんかはもう下手すりゃ辛気臭……いや言い過ぎた、……というような次元だったため、こうもお手本のように快活に笑う顔など初めて見たのだ。

「それじゃあここはアルジュナの……夢、というか、想い出……?」

初見がディープだったのとうってかわって何とも静かで満ち足りた空間である。件のことで彼の気掛かりが治ったゆえに、このような風景が見られるようになったのだろうか。

さて、道行く二人のうち一人がアルジュナだとわかった今、立香の関心は自然とアルジュナが話している相手が何者であるのかに移った。男はアルジュナのそれよりも豪奢で民族的な衣装を着ていて、アルジュナよりも背が高く、年嵩は同じくらい。髪は緩やかに長い、いわゆる烏の濡れ羽色と呼ばれる美しいもので、顔は完全にこちらを向いていないのではっきりと視認できない。できないが……たまに見える横顔や雰囲気だけでも何となくイケメンなんだろうなと感じ取れることができた、それも凄まじく。どうしてこうも神話を生きた方々は顔面偏差値が高学歴のそれなのか……とカルデア在籍サーヴァントを指折り数えて辟易した。他所に飛びかけた思考を引き戻して観察を再開する。当のアルジュナとは、かなり親しげに見える。現に彼と話しているアルジュナは本当に楽しそうで、共に過ごした時間がそれなりの立香でも覚えの無い表情をこの短い時間でもよく見せていた。ならばそれは身内とか、友人とか、そういった類の人なんだろう。……友人?

考えを巡らせながら自分で反芻したワードに引っかかる。友人、親友……


『我が友の名を冠する私よ──』


「もしかしてあれって、」

かつての夢の中で会ったアルジュナの影、それはアルジュナの親友の名を名乗り、演じることでアルジュナを導こうとしていた。確か名前は……

「クリシュナ、さん?」

そう、クリシュナという名前だった。夢の中で出会ったクリシュナの印象のせいでやれ本人はどんな人なのやらと気を揉んでいたが、パッと見の印象だけならその姿は穏やかで気さくそうで、けして陰気を纏うような者ではなく、アルジュナの影の名の引用元だとは……どうにも結び付かない姿だった。そうこうしている内に二人はなだらかな坂道の方へと降って行く。木陰から覗き見るような姿勢で観察していた立香からは見えにくい位置にすっかり移動してしまった。

…………そっかあ」

ストンと草むらに腰を落とし、首を傾げる。色々と新鮮な光景だった。今よりも自然によく笑うアルジュナや、恐らくクリシュナと呼ばれている彼の姿、なんて事のない日常の、過去にあった出来事のその一端を見せられた。

「アルジュナも今、同じ夢を見てたりするのかな……

英霊の中には生前と今を割り切って考える者もいるが、アルジュナは英霊となった今でも生前の記憶を地続きにものを考えているきらいがあったサーヴァントの一人だった。北米の特異点での行動はその最たるものだったと思う。あの夢の中で自分自身と向き合ったことで彼の中で一つの区切りが出来たようであったが、そんな区切りが出来たからこそ、今こうやって生前の穏やかな日常の記憶を見ることが叶ったのかもしれない。他のサーヴァント達と同様に、辛いことや悲しいこと、割り切れない想いが沢山あっただろう彼も……過ぎ去った時に意味の無い日々など無かったのだと、大切なものが沢山あったことを改めて思い出してくれていれば良いなと願った。

「(でもあの人がクリシュナさんかあ……いや、確定したわけじゃないけど……)」

あのアルジュナが友と認める相手。自分の影の部分、嫌だと思っていた部分にその名前を与えたこと自体は、ともすれば責任転嫁と受け止められ、褒められたことではないのかもしれないが……それをそう単純に解釈することはできなかった。こちらとしては肝が冷えたしやり方こそ危うかったが、クリシュナは必死にアルジュナを守ろうとしているように見えたからだ。

《何があっても、彼が守ってくれる、味方でいてくれる》

その状況が健全であるかはさておき、それだけ一緒にいた友人を信頼していたからこその、裏返しだったのかも。立香自身はそう考えていた。

逆にそれほどの信頼を得ていたクリシュナという人はどういう人物なのだろうか。そういえば夢の一件以降、何となく話題を振り難くなりアルジュナ本人からクリシュナについて聞けていなかった、今しがた見た目の印象だけで導き出したものだけで判断することはまだとてもできない。ヴィシュヌの化身である英雄……ラーマと同様の出自を持つという彼も恐らく、どこかでサーヴァントとして存在するのだろう。

「うーん、ちょっと会ってみたいかも。ふふ……私が知ってるアルジュナとは全然違うアルジュナについて聞けちゃうかもしれないし?」

すっかりここをアルジュナの夢だと確信して安心した立香は呑気にそんな事を考え出していた。だからそう──後ろから何者かが静かに近寄って来ているなんて、思いも寄らなかった。




「へえ、女の子が覗き見とはなかなか大胆だね?」

唐突に、不意に、抜けるような青空から、声が降ってきた。