すだ
2025-08-24 12:36:06
6866文字
Public 婿スバカグ
 

龍柩城にて

舞手カグヤ、婿スバル。いろはとクラリス、ひなも少し出てきます。
絆レベル6くらい。
主にメインストーリーのネタバレがあります。
交際前。龍柩城の最終戦、クラリスはともかくスバルが参戦するとは思わず絶叫した投稿者がこねくり回した妄想。
戦いに合流してから終わるまでのスバルの思いと、全てが終わった後、恋心を自覚するカグヤの話。
いろはで始まりいろはで終わるのは投稿者の完全な趣味で、カグヤの一番の友人だと思っているからです。
差分が大変な中、本当にありがとうございました公式様。
#スバカグ



「スバル!」
 全てを成し終えたカグヤがスバルに駆け寄ってきた。寝そべったまま動かない幼馴染の隣で膝をつくと、彼の顔を覗き込む。
「やったね、カグヤ」
 笑いながら上げたスバルの拳に彼女の小さな拳を合わせた後、カグヤが涙を溜めて彼を睨みつけた。
「あれっ?」
「あれ? じゃありません! モコロンもスバルもあんな無茶をして! 何かあったらどうするつもりだったんですか!」
「ごめんなスバルぅ。コイツ、オイラがちょっと死んだふりしちゃったから、怒りがおさまらねえんだ」
 ばつが悪そうにモコロンが弁解する脇で、カグヤはこらえきれなかったらしく、大きくしゃくり上げた。
「怖かった……。良かった、良かったぁ……
「本当にごめん。キミの助けになりたくて必死だったから、自分のことに気が回らなかった。まあほら、こんな死闘は早々起きないだろうから、大目に見てくれたり……?」
 半身を起こし彼女の涙を拭ってやると、カグヤが瞳を瞬かせた。真珠のような涙がころころとこぼれ落ちる。
「しません。許しません」
「ええー……
……いろは茶屋でお団子奢ってくれたら考えます。あと、一緒にお団子食べてください」
「はい、奢ります。一緒に団子も食べます」
「お団子は食べ放題にしてください」
「いくらでもどうぞ」
「それなら許します」
 ようやく微かに笑ってくれた幼馴染に、スバルはほっと胸を撫で下ろした。
「立てますか?」
「うーん、もうちょっと休んでるよ。カグヤとモコロンは先にみんなの所に行ってて」
 苦笑しながらそう答えると、カグヤは頷いた。
「分かりました。後で迎えに来ますから、ゆっくり休んでいてください」
「また後でなー!」
 集った仲間と無事を喜び合うカグヤが笑っているのが見える。緩んだ彼女の表情に、スバルは眉尻を下げた。
「笑顔、守れたかな」
……そうだな。あなたはアースマイトに力を与えたのだろう」
「わ、クラリスさん。いたんですか」
「ああ。……あなたたちは、私と大違いだ。私は、奪うことしかできなかった」
 悔いた様子で俯く皇女に、スバルは声をかける。
「少し前までは、オレもあなたのようなことをしていました」
……そうなのか?」
「はい。カグヤに命を救われた後、自分の罪を目の当たりにしながら償いをして生きています」
「そうか……
「色々ありましたけど。今はここにいて、カグヤを、彼女の帰る場所を守る助けができて良かったと思います」
「そうか。……不思議な人だな、彼女は。……彼女だけではない、神々と、里の者たちも」
「はい、本当に」


 クラリスが六神に呼ばれスバルの元を離れると、カグヤが入れ替わりに戻って来た。
 これ以上心配させる訳にはいかないな、とスバルもようやく立ち上がる。
「オレたちも行こうか」
「はい」
 しばらく無言で歩いた後、カグヤが静かに口を開いた。
「スバル、さっきは怒りましたけど、あなたが来てくれて嬉しかった。ありがとうございました」
「偉そうに言ってたのに、ほとんど役に立たなくて情けないよ」
「そんなことありません! 私は使命とはいえ、国産神に立ち向かうことがすごく怖かった。でも、うららかさんたちが支えてくれたから。里の皆さんが無事を祈ってくれたから。そして何より、スバルとクラリスさんが一緒に戦ってくれたから。立ち向かうことができたのだと思います」
 彼女が「怖い」と素直な感情を口にしてスバルは驚いた。滅多なことでは弱音を吐かなかったのに、どういう心境の変化があったのか。
 両手を胸に当て瞳を閉じたカグヤは、スバルに向き合うと笑顔を見せた。
 曇り空が晴れ渡るような、清々しい表情だった。
「やっぱり、私の幼馴染は最高にかっこいいです!」
 可愛く笑いながら何ともいじらしいことを言う。そんなことを言われたら、堪らなくなってしまうじゃないか。
 思わずカグヤを抱き寄せると、彼女が戸惑ったように声をかけてきた。
「スバル……?」
「ごめん、少しよろけた。まだ少し足にきてるかな」
 咄嗟の嘘を信じた様子の無垢なカグヤが眉根を寄せた。
「大丈夫ですか?」
「うん、もう平気」
「ふらついたら私の肩に捕まってくださいね?」
「ありがとう」
 心配そうな様子でスバルを見上げる彼女へ礼を言いながら、心の中で謝罪する。
 ごめんね、カグヤ。
 幼馴染の優しい兄貴分でいたいが難しいかもしれない。もう長年抱いてきた恋情を隠し続けるのは限界に近づいていた。
 何かきっかけがあれば明るみに出てしまいそうで、そうなったらどうなるのだろうと不安になる。
 でも心のどこかで何とかなると楽観的に考える自分もいて、夏の里の呑気さに毒されてきたかな、とスバルは苦笑した。


 顔では平静を装いながら、カグヤの頭は大いに混乱していた。
 今のは明らかに抱擁だった。スバルは足元がふらついたと言っていたが、あの表情は何かを誤魔化すときの顔だ。
 大体よろけただけでは寄りかかるのが精々で、あんな風に抱き締める動作にはならないだろう。
 カグヤは悶々とする。どうして彼はあんな行動をとったのだろう。
 だが、そのことより抱き締められたときのカグヤの気持ちの方が問題だった。
 驚いたのは確かだが、嬉しかったのだ、とても。
 今までスバルのことは幼馴染だと思っていた。それ以上でもそれ以下でもないと。だが、もしかすると自分はとんでもない思い違いをしていたのかもしれない。
 アズマトノミホシハバキとの戦いに駆けつけてくれて、涙が出そうだった。だからつい、いつも胸の内にしまい込んでしまう弱音を吐いてしまった。
 今日だけではない。いつだって助けて欲しいときに手を貸してくれた。
 故郷にいた頃とは違い距離をとって接してくるのに、突然近い距離になることがあってドキドキした。
 もしかして自分は、スバルに恋をしているのだろうか。
 ついにその結論に至り、カグヤの頬はじわじわと熱を持った。
 スバルの気持ちは分からない。自覚したばかりの気持ちにも自信が持てない。
 隣で歩幅を合わせて歩いてくれる幼馴染を見上げると、穏やかな琥珀色の瞳と目が合った。それだけで心が満たされ、鼓動が早くなる。
 アズマのルーンの減少は止められた。これからは復興へ向け、更なる尽力がどの里にも必要だ。
 自分のことは追々考えていけばいい。スバルが誰かといい仲になる前に。
 それだけは断固阻止したい。もちろん、スバルの幸せが一番だけれど。
 もしそんな時がきたら、自分は彼を諦められるのだろうか。
 いや、そんな日が来ないよう自分に出来ることを精一杯するのだ。
 以前ひなが、好きな人ができたらちゃんとアピールするんだよ、カグヤさんは遠慮がちだから心配だなあと言っていたことを思い出す。
「あぴーるってどうやってすればいいのでしょう……
「へ? あぴ……? 新種の野菜?」


「よーし! 宴だ宴! やるぞ春の字!」
「いいですわね〜、今日はお祝いですから沢山飲みますわ〜」
「春はいつもじゃんじゃん呑んでるだろー! でもさんせー!」
 宴の計画に盛り上がる神様たちを微笑ましく思いながら、カグヤはスバルを振り返った。
「宴ですって、いいですね。急ぎましょうスバル。きっと支度が大変です。お手伝いしないと」
「ああ」
 差し出されたカグヤの手をスバルが躊躇いなく握り返す。
 もう二度と、離れることのないように。