すだ
2025-08-24 12:36:06
6866文字
Public 婿スバカグ
 

龍柩城にて

舞手カグヤ、婿スバル。いろはとクラリス、ひなも少し出てきます。
絆レベル6くらい。
主にメインストーリーのネタバレがあります。
交際前。龍柩城の最終戦、クラリスはともかくスバルが参戦するとは思わず絶叫した投稿者がこねくり回した妄想。
戦いに合流してから終わるまでのスバルの思いと、全てが終わった後、恋心を自覚するカグヤの話。
いろはで始まりいろはで終わるのは投稿者の完全な趣味で、カグヤの一番の友人だと思っているからです。
差分が大変な中、本当にありがとうございました公式様。
#スバカグ

 カグヤがターゲスアンブルフの計画を止めるべく、龍柩城へと向かった。
 彼女を助けるためムラサメ達と共に里を発とうとしていたスバルは、後ろから呼び止められ振り向く。
「いろはさん?」
 声の主であるいろはは、俯いていた顔を上げ真っ直ぐスバルを見た。
「スバルくん、カグヤさんをお願いします」
 いつもは朗らかな彼女の瞳が不安げに揺れている。
「カグヤさん、いつも戦いに行くとき笑って『行ってきます』って言うの。でもそれはカグヤさんなりの優しさで、本当は……きっと怖いって思ってるから」
 瞳を潤ませながらいろはが訥々と語る。
 知っている。カグヤは心配させまいと強がる癖があった。
「それに、ああ見えておっちょこちょいなところがあるし……。誰かがついていないと心配なんだ」
 その通りだった。変なところでうっかり失敗をしてしまうことがある。日頃は優等生で完璧なのに。
 いろはは、スバルが共にいられなかったときにカグヤをずっと見守ってくれていた人だった。
 カグヤのことをよく分かった上で、自分では役不足だとスバルに彼女を託してくれたのだ。
「はい。必ず、みんなで帰ってきます」
 だから心配しないで、と力強く頷くと、いろはは涙ぐみながらくしゃりと笑った。


「心臓が天守閣に落ちたよ!」
 ひなが天守閣を指差しながら叫ぶ。
 天鬼開闢法てんきかいびゃくほうが成功したのだと、緊迫していた一行の空気が少し和らいだ。
「とはいえ、油断はできませんね。あとはミホシハバキの肉体と心臓を遠ざけなければ」
 イカルガの言葉に、ひなが同意する。
「カナタさんは心臓を破壊するか、天に還す必要があるって言ってた」
 おそらくカグヤはそのためにモコロンと天守閣へと向かっているはずだ。
 ただし、彼女がいつも操っている六神の神器は手元に無く、使えるものは武器と神薙だけ。
 自分が行ったところでどこまで助けになるか分からない。足手まといになるかもしれない。だが、ここで彼女の帰りを待つことは出来そうもなかった。
「オレ、行ってきます!」
「えっ? スバルくん!? 危ないよ!」
「分かってます!」
 分かってるのにどうして行くのー? もうー! と怒っているひなの声が聞こえてくるが、心の中で謝罪をしつつひたすらに駆けた。
 スバル以外の人たちは彼女を信じているからこそ、彼女の帰りを待っていられるのだろう。
 スバルだって幼馴染のことを信じて待つことはできるはずだ。けれど、彼の心がそれを拒絶する。
 いつだってひとりで戦って、どんなに辛いことがあっても飲み込んで立っているカグヤを、もう二度と独りぼっちにしたくなかった。


 見つけた。天守閣に辿り着いたスバルは、カグヤの姿を目にし安堵した。しかし、ミホシハバキから分離した心臓の破片が彼女に向け光を放つのを見る。幼馴染は気づいていない。
 こういうところが抜けていると言うのだ。
 咄嗟に担いでいた弓を構え矢を放つ。軌道さえ反らせれば問題ない。カグヤのすぐそばを強い光が射抜く。驚いたように彼女がそちらへ目を向けた。
「カグヤ!」
 彼女の背中に向かって名を呼ぶと、華奢な肩が大きく震えた。
「スバル!?」
 カグヤの隣には、同じく驚いたように目を瞠る金髪の女性。ふたりの間にどんなやり取りがあったのかは知らないが、どうやら今回の陰謀の首魁――クラリスも彼女に加勢するつもりのようだ。
 何でもいい、カグヤを助けてくれるのならば。
「オレも一緒に戦う!」
「スバル……!」
「クラリスさん、援護します!」
 スバルが矢をつがえながらクラリスに声をかけると、皇女は頷いてそれに答えた。
「ああ、頼んだ。行け! アースマイト!」
「はい!」
 すでにカグヤの表情に迷いなく、アズマトノミホシハバキへと間合を詰めるのをスバルは見届けた。
 これからも、幾度となく自分は彼女の背中を見守ることになるのかもしれないとスバルは思った。それでも構わない。
 そばにいれば、大切なあの子が倒れそうになっても背中を支えるくらいはできるかもしれないのだから。
 遠くで守れればいいと思っていた。けれど、カグヤと再会し、どれだけ彼女が独りで傷つきながら戦ってきたのか知ってしまった。
 戦いに赴くとき、無事に帰ってきますね、と彼女は笑う。
 確かにカグヤは昔に比べ更に強くなった。
 幼い頃からスバルより武器の扱いに長け、彼が稽古で負けることも多かった程の実力者だ。
 大地の舞手となってからは六神の加護を受けた神器を操り、神を撃つ奥義である神薙までも習得している。すでに只人では敵わない域だろう。
 だが、それがどうしたとスバルは思う。使命を果たすため旅立つ前は、そこらの人と同じ少し武芸に秀でただけの人間だったのだ。
 自分もかつては黒竜の乗り手だったから、人から外れた力を得た者として少しは彼女の境遇を分かっているつもりだ。
 そして、己の立場から言えることは、力を得たとてカグヤはカグヤだと言うこと。どんなに力を持っていたとしても、傷つくことは変わらない。心も、身体も。
 だから独りで戦わせてしまったことをひどく後悔した。それと同時に、できる限り彼女の支えになれるよう共に戦うことを決めたのだ。
 いろはの言葉が脳裏に浮かぶ。カグヤは心配させまいと笑うけれど、本当は恐怖のなか戦っているのだと。
 キミがどんなに怖くても、オレが共にいる。だから独りだと思わないで欲しい。


 案の定、彼女は一度倒れたくらいでは諦めない。大地の舞手として、ここアズマを護る役目を負った守り人。倒されても何度だって立ち上がる。
 スバルの体は既に限界を迎えていた。神相手にこれだけ戦えれば充分なのかもしれないが、カグヤの助けになれないことがとてつもなく悔しい。
「カグヤ!」
 せめて彼女が膝を折るたび、声をかける。ひとりではない、ここに自分がいることを伝えたかった。
「カグヤ様! スバル様!」
 春の神の普段より凛とした声が響き渡り、ようやく持ち堪えられたのだと分かったとき、スバルはとうとう仰向けに転がった。
「怪我はどうだ?」
「まだ動けるんですね。やっぱりクラリスさんは強いなあ……
 駆け寄って様子を見てくれるクラリスに思わずスバルが賞賛の言葉を送ると、彼女は何かを耐えるように口を噤んだ。
……これを飲むといい。少し具合がましになるだろう」
「ありがとう、ございます」
 クラリスから差し出された回復薬を口にする。感じる苦味に今の自分の心のようだと自嘲した。
 スバルが落ち込んでいる間にもカグヤの周りには六神が集い、彼女に全ての神威を集約し始めていた。
 凄まじい量のルーンを感じ、思わず身震いする。
 常人で受け止めきれる力ではない。彼女はすでに彼の想像を超えた高みにいるのだと痛感した。
 それでも、側にいるのを諦めたくない。ぐ、と奥歯を噛み締めた。
 やがて、神々から力を託されたカグヤが顔を上げる。その姿にスバルは息を呑んだ。
 どんなときでも輝きを失わない凛とした紅藤色の瞳。口元には淡い笑みさえ浮かべ、いろはから贈られたという扇がゆっくりと広げられた。
「さきわえ」
 そして軽やかにミホシハバキの力を受け流し取り込んでいく。彼女が舞うたび、つややかな銀糸が背中でさらさらと踊る。手足の運びは流麗で、さながら清流のせせらぎのよう。
 初めてカグヤの剣舞に見惚れたときのように、美しく神聖な舞姿だった。
 ああ、キミはいつだってオレの心を攫っていってしまう。
 カグヤの舞に心奪われるのは、これで何度目だろう。そしてこの舞は、アズマトノミホシハバキ、国産神を天に還すためのもの。
 体がうずうずする。共に舞いたいなんて思うのはいつぶりだろうか。
「神様に捧げる舞をこんなに近くで見られるなんて、贅沢だなあ」
「何を言っているのだ、あなたは……
「あはは」
 呆れたように呟くクラリスの言葉に、つい気の抜けた笑いが出てしまった。


 カグヤが奉納したのは『すめらぎの舞』。天地と人をつなぐ絆の舞。
 いろはの扇にこめられた思い――獣も人も 山も海も 草木も風も 共に健やかであるように――を乗せた祈りの舞は、ミホシハバキの心臓を天へと還す。
 天に向かいかかった美しい虹の柱が心臓を空へと運ぶ。それと共に、ミホシハバキの身体も彼方へと消えていった。
 帰還する国産神の光が完全に失われたとき、全て終わったのだとスバルは実感した。