すだ
2025-08-22 22:18:26
4361文字
Public 婿スバカグ
 

呪符の練習には気をつけて

舞手カグヤと婿スバル。
絆レベル4くらい。
呪符の練習をしていたはずなのに、いつの間にか取っ組み合いになっていた
付き合ってない舞手カグヤと婿スバルの話。
イカルガとヒスイが出てきます。
#スバカグ



 自分は今、何をされているのだろう。カグヤは大層混乱していた。いや、呪符の練習中なのだが、
「呪符を扱うときも刀なんかと同じで姿勢が重要らしいよ。あと、手の振り方とか。こう……、それから、こう……
 カグヤの背中にくっつきそうなくらい近いスバルの距離に、練習どころではなくなってしまった。
 彼女の姿勢を直すためだろうか。触れるか触れないかの距離で、腕はもっと上げるんだ、とか足はもう少し開いて、とか教えてくれるのだが全く頭に入ってこない。
 教えることに集中しているから、カグヤに密着していることに気づいていないのかもしれない。
 スバルの腕がカグヤの服をかすめるたびに心臓が飛び跳ねる。
 近い、近すぎる!
 確かに幼い頃はくっついて遊ぶのは日常茶飯事だったし、全然気にならなかった。
 だが、今はお互い成人している。さらに、夏の里に住み始めたスバルは明らかにカグヤと距離を置いていた。
 少し寂しいな、と思っていたカグヤだったが、流石にこれは刺激が強すぎる。
「カグヤ? 聞いてる?」
 そしてあろうことか耳元で囁いてくるものだから、彼女の忍耐は限界に達した。


 耐えきれず幼馴染に関節技を極めるカグヤにスバルが悲鳴を上げた。
「ま、待ってカグヤ! 痛い痛い痛い! 腕! 関節極めてるから!」
「だ、だって! だって!」
「何をやっているのですかあなたたちは……
 昼食を終え戻ってきたイカルガが怪訝そうな表情で尋ねる。
「イ、イカルガさん! 助けてください!」
 助けを求めるスバルの声に、イカルガは嘆息すると近づいた。
 そして、涙目でスバルに技をかけているカグヤの手首に、印を結んだ手を置くと呆気なくふたりの体が離れた。
「助かったー……。ありがとうございます、イカルガさん」
「あまり妙なことに私の力を使わせないように」
「すみません……
 カグヤも悄然として謝罪する。
「お礼は居酒屋の食事1回で手を打ちましょう。もちろんスバルとカグヤ、ふたりがそれぞれ奢ってくれるのですよね?」
「「はい……」」
 いい笑顔でイカルガに要求され、ふたりは大人しく頷いた。


 その後、何故か取っ組み合いになっていたふたりを見かねてかイカルガが練習を見てくれることになった。
 先ほどとは打って変わって順調にことが進む。流石一流の陰陽師、教え方も卒がない。
「やった! どうですかイカルガさん!」
 スバルが嬉しそうに陰陽師へと振り返る。
 イカルガのおかげで、燃えた藁人形を水の呪符で消す課題もふたり揃って達成することができた。
「まあいいでしょう。先程より良くなっていますよ。では少し休憩を」
 ヒスイが中々帰って来ませんから様子を見てきます、とカグヤとスバルに声をかけ、イカルガはその場から離れた。
 ふたりきりになり、沈黙が訪れる。
 腕を撫でさするスバルに、眉尻を下げたカグヤが謝った。
「ごめんなさいスバル……。痛かったですよね」
「さっきはびっくりしたよ。急にどうしたの?」
……スバルとの距離が近くて恥ずかしかったんです」
「うん…………うん?」
「子供のころだったらともかく、大きくなってからあんなに近いことがなかったじゃないですか。何だかドキドキしてしまって……スバル?」
 砂浜にしゃがみ込んでしまった幼馴染にカグヤは声をかける。具合が悪くなってしまったのだろうか?
「スバル、もしかして暑くて具合が悪くなりましたか?」
「いや……。想像以上に破壊力のある言葉を聞いて堪らなくなって」
「はい? すみません、よく聞こえませんでした」
 しゃがんでいるスバルの表情は窺えないが、耳が赤くなっていることにカグヤは気づいた。
「もしかして、スバルも恥ずかしかったですか?」
……まあ、自分では全く気づかなかったから、今恥ずかしくなっているところ」
「大丈夫です! これから慣れていけばいいんですよ!」
「えっ」
 カグヤは自信満々でスバルに提案する。
「さっきは私も慣れない距離に緊張しましたけど、慣れれば平気だと思うんです」
「いやいやいやいや!」
 立ち上がってスバルが大きく頭を横に振る。
「えっ……。いやですか?」
 眉をハの字にして落ち込むカグヤに慌ててスバルが弁解する。
「いや! いやじゃないけど……ってちがう! 恋人でもないのに距離が近いのは問題あるだろ! オレたちはもう子供じゃないんだし!」
 スバルに諭され、カグヤはハッとした。
「そ、そうですよね。何言ってるんだろう私……。変なことを言ってごめんなさい、スバル」
「う、うん」
 何とも言えない沈黙がふたりの間に流れる。
「えっと……。次からは気をつけるから、また一緒に練習してくれる?」
「は、はい。……え? 『また』って……
「ヒスイさんから言われたことを放り出すわけにいかないからね。それに、カグヤに教えたことでオレも勉強になったし」
 あまり近づかないようにするから、とスバルはばつが悪そうに頬をかいた。
「はい。ではあの……今後ともよろしくお願いします」
「うん、よろしく」
 ようやく笑顔を見せてくれた幼馴染にカグヤは安堵した。
「あ、くれぐれもイカルガさんに教えてもらうときにはあんなに密着しないようにね」
 スバルに指摘され、カグヤは何を当たり前のことを言っているんだ、と思いながら答えた。
 距離感がおかしくなるのは、今も昔もスバルとだけだ。
「しませんよ? イカルガさんが呪符について教えてくれるときは私とは少し距離を置いて接してくれます」
「あー……。それじゃ、オレが距離感の分かっていない男ってことか……。気をつけてるつもりだったんだけどな……
 再び落ち込んだ様子のスバルに慌ててカグヤが声をかけた。
「私たち、故郷を出る前はずっとあんな感じだったんです。環境が変わってそれがおかしいということが分かったんですから、これから直していけばいいのではないですか?」
……オレたちにとって、丁度いい距離を探すってこと?」
「はい。探していきましょうよ、一緒に」
「一緒に……
 何故かスバルの頬が赤くなる。自分はおかしなことを言っただろうか? とカグヤは不思議に思ったが、深くは追求しないことにした。
 その後にスバルが嬉しそうに笑ったから、どうでも良くなってしまったのだ。
「そうだね、また始めようか。一緒に」
「はい」
 スバルの笑顔は太陽のよう。夏の里のお日様にも負けない眩しさでカグヤを照らしてくれる。カグヤは彼の笑顔がとても好きだ。
「おや、今日はもう終わりかい? はあ? 途中から取っ組み合いになった? 呪符は遠距離攻撃だろう? 全く訳が分からないね」
 イカルガと一緒に戻ってきたヒスイに首を傾げられ、ふたりは苦笑するしかなかった。