kasimiyakedama2
2025-08-13 23:12:41
6792文字
Public
 

不老不死に関する二部作(マリアト+?)

完璧超人様=不老不死という設定が厄介すぎるので、ふたりの寿命差に関して我が家なりのアンサーを用意しておきたいと思いまして。
うちではこうなってますよという二部作。
死別設定注意というか死別という末路が確定しているので…

個人的にはあほのこ専門店を目指しているので湿っぽいのはほどほどにしておバカに戻りたいと思います。

never say never


とある仲間の生まれ故郷では、太陽は死と再生の象徴であるという。

夕陽が世界のすべてをオレンジ色に塗りつぶすそのさなか、海に面した大通りを歩くひとりの男が居た。
観光客で賑わうフードトラックから買い求めた看板メニューをふたつ両手に抱えている。
彼は全身を覆う緑の鱗に大きな赤い瞳の異形の風体であったが、道を行き交う人々はことさらに視線を向けることもなかった。
海に近い街だからと言えばそれまでの話。

防波堤に座り、長い足をふらふらと彷徨わせながらぼんやりと穏やかな海面を眺めている青い肌の男にアトランティスは声を掛けた。
大きな鰭を頂く背が振り向いた。アトランティスと同じく、海に生きる者の顔貌をしている。
「ほらよ」
アトランティスが片方の手からローデッド・フライズを手渡すと、マーリンマンは訝しげな顔をした。
細くスライスされて黄金色に揚げられたポテトの上に、これでもかという勢いで色鮮やかなソースが添えられたものだ。
「揚げた芋か……糖質と脂肪分の塊。タンパク質が足りんな。」
身体に悪そうな食い物だとマーリンマンが呟き、これしかなかったんだ、我慢しろ、とアトランティスが返す。
「だいたい屋台メシに栄養バランスを求めるんじゃねえよ」

日没の時刻になるまで、ふたり海辺で体力が尽きるまでスパーリングに興じていた。
互いの空腹ゲージは最大、マーリンマンは口でこそ文句を言いながら、グレイビーソースとサワークリームに塗れた芋をつまみ上げては口の中に放り込んでいった。
ひと昔前であれば忌避の対象でしかなかったはずのそれを飲み込んで、悪くない、とマーリンマンは言いながら指に付着したサワークリームを舐め取った。
手にした袋から芋が消えていく速度は、アトランティスよりもマーリンマンが速い。
口から出てくるジャンクフードに対する文句の数々とは裏腹の食いっぷり。アトランティスは思わず苦笑していた。

初めて出会った頃からすればずいぶんと目の前の男は変わったように思う。
それはおそらく自分もなのだろう。
アトランティスとしては絶対に認めたくはない言葉を使うのであれば、”仲良くなった"。

「呼び出したら何処にでも来やがって。暇だなおまえは」
「暇であり、暇でない」
「禅問答みてーなのやめろ」
「時間が無限にあればただ極めることができるからな。」
水平線を己の色に染めながら、夕陽がゆっくりと海に飲み込まれて消えてゆく。

仲間の生まれ故郷では、太陽は死と再生の象徴であるという。
西へ沈み、東より出ずる。ただのひとつも例外はなく、永遠にそれは繰り返される。
その、生と死という生物が逃れることのできぬ宿業の輪から降りた者がいる。たとえば目の前の男。

「なあ、完璧超人様は不老だって本当なのか?」
「無論だ。称号と共に加護を授かる。
これから先、永遠に研鑽に励みただひたすら最強を追い求めるという宣誓と共にだ。」
アトランティスは、へえ、と気のない返事をした。

言葉こそ理解できるが内容はいまいち理解ができない。
終わりのない生と研鑽と戦いの日々に己は身を置くことができるのかとアトランティスは思う。
男には男の覚悟と、目指すべき道がある。
己と違う道だが、それもひとつの生き方なのだと思う。

アトランティスが山を下りろとは言うことはなく、マーリンマンもまた、アトランティスを山に誘うこともなかった。
己と違う道の上で輝くその生き様に魅力を感じているから。
一度互いに殺し合い手を取り合って地獄へと行った仲ではあるのだが、それでも互いの寿命というものが異なることは理解していた。
マーリンマンがいま齢いくつなのかを尋ねたことはない。
言動などはどこか子供じみているように思う時もあるが――
ふと、思う。いずれ自分が先に逝く。

「じゃあ、俺が先に死ぬな。」
……そのようだ。」
何の感慨もないような声音で、マーリンマンはただ一言。口を開く前にわずかばかりの沈黙があっただけだ。
美しい夕暮れの中で口にすることではなかったと思いながら、アトランティスもまた黙り込んだ。
なんとなく空気が湿っぽくなったことを悔やみ、なにより悪魔らしからぬ言動を恥じた。
動揺して欲しかった、あわよくば、嫌だ俺を置いて行くなと――そんなことを言うのではないかと少しだけ思っていたなどと。
そういう反応を引き出そうとする意図があったわけでもないが、心がざわついたのは己の方。

沈黙を破ったのは不老の男の方であった。
男の手の中で、空になった包み紙がくしゃりと音を立てた。
「そのときは、貴様の骸を抱いて首でも刎ねようか。誰にも邪魔されぬように海の底でな」
……ちょっとコンビニ行くみてえなノリで物騒なコト言うんじゃねえよ。」
凪いだ海面のように、その表情と声音に漣ひとつ立てることもなく、まるでそれが当然であるかのように男は言った。
少なくともこんな日没の美しい景色の中にふさわしい言葉とは到底思えなかった。
いや、だからこそ男が己に向けるどこか鬱屈した感情がよりくっきりと輪郭を成すのがわかる。
水底に深く澱んだ激情を、凪いだ水面に隠している。

軽く、どこか冗談めかしたその口調は、隠れ蓑だ。
それを望むのであれば、この男は宣言通りにやってのけるだろう。
面倒な男に惚れられたものだ。
アトランティスは天を仰ぎ、眉間に深々と皺を刻むとマーリンマンを睨んだ。

称号と共に立てた誓いをあっさりと反故にするとは何事かと、問い詰めるのは簡単だった。
だが男の返答はもう分かっていた。だからこそ無駄な問答はやめにした。
オレの愛する貴様がそれだけの価値のある男だからなのだと、彼は言うだろう。

絶対ぜってー死ねねえ……死ぬ前にてめえを殺さなきゃならねえ。」
「ピョピョ、貴様はそれでいい、アトランティス。楽しみにしているぞ。」
日が沈む。夜の帳が忍び寄る。
一時の快楽の権化のような味の、揚げた芋を食いながらはるか先に至る未来の話をするのはひどく滑稽だ。
沈みゆく太陽が答えをくれることもないというのに。