※こちらと同軸
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「
――おじいちゃん。おれにいっつも同じ話、きいてくる」
「?? オヤジが?」
「うん
……」
魔界から戻ってきたばかりの3世が、艶やかな正装のままぽつんとこぼす。昔のじぶんによく似たまるい目には、不満というよりも困惑がにじんでいた。
「おじいちゃんは、元気そうだった?」
「うん」
夕食の準備をしていた手をとめ、エプロン姿のまま、魔界帰りの息子にテーブル越しに向き合う。先に着がえてきなさいと言うべきところだが、そもそも、いつもならばそうした手間をかけさせない子だ。
「うわぁ
……今回も、なかなかすごいねぇ、お土産」
「うん。まえにおれが話した花茶のこと覚えてたみたいで、おじいちゃん、色んな種類のもの用意したみたい」
あわい花柄をあしらったものや、ラベルのないシンプルなもの。目のまえの飴色のテーブルの上が、色とりどりの缶でいっぱいになる。その中身ぜんぶ、紅茶らしい。
あまりモノをねだることがない孫の、久方ぶりの来訪だ。
古今東西、孫のためにいそいそと厳選された花びらがひらくお茶を、かき集めてきたのだろう。
コーヒーに目がない父親は、孫である3世が興味を示したとき、それはそれはうれしそうだった。
気難しいシワが刻まれた、あの厳めしい目許を分かりやすくゆるめて。口にはしていなかったが顔に出まくっていた。あの魔大公が。
「おじいちゃんたち、お前の話を聞くのが好きだからなぁ」
魔界にいる父親だけじゃない。
義父である茂にも言えることで、初孫の3世は、双方から惜しみなく可愛がられている。それは二代目『悪魔くん』の一郎と二人で、千年王国研究所を立ち上げてからもまったく変わらず。
もちろん、メフィスト老のもとへは2世もいっしょに顔を出したことがあるのだが、険しい仏頂面のまま『最近どうだ?』から始まり、
『
……それから、どうした?』
『
……そのあと、どうなった?』
次から次へよどみなく、じぶんの顎をさすっては可愛い孫に長話をせがむのだ。仕事のことや悪魔絡みの事件
……自分にとって些末なことであっても、3世の口から聞きたがる。それだけじゃない
――
一郎にラーメンを奢らせた話。
いっしょにすごしたクリスマスの話。
家族旅行から帰ってすぐに誘われた、カニみその話。
『
――おまえまで、【アレ】に振り回されるのか』
などと当初はしかめっ面を隠そうともしなかったクセに。
やたらと孫と一郎の、とりとめない話を聞きたがるのだ、この魔大公は。
「
……おれ、お休みの日とか仕事のあと、悪魔くんと一緒に出かけたりしてたでしょ?」
「ああ
――、一郎くんがこっちのこと知らないからって案内してたねぇ」
人間だけど魔界育ちの一郎を、
悪魔だけど人間界育ちの3世があちこちと連れ回していた。
『あくまくん、遊園地より博物館のほうがすきみたい』
『動物園も、最後はまんざらでもなさそうだったなぁ』
『スカイツリーは、あんまりでさ。「きみと河原でおにぎりを食べてた方がマシだ」とかいうんだよ?』
――そう。最初のころ、カメラロールの中で無防備に二人分のソフトクリームを持つ3世や、どうみても一郎が撮ったであろうふたりの写真を見せられて、複雑な気持ちになったのを覚えている。
「
……ねぇ3世。パパにも話、きかせてよ」
「パパにも?」
くんっと顔をあげた子が、まるっこい瞳をゆらす。
なんで? と言いたげだが、素直な息子はおずおずと口をひらいてくれるのだ。
「おにぎり。今度もっていくのに、いっしょに作ろ? って約束して
……」
一郎が文句も言わずに起きて準備していたこと。
一郎の手が大きいから、思ったよりずっと大きなおにぎりになってしまったこと。それでも帰ってすぐにホットケーキをねだってきたこと。乗り気じゃなさそうな場所でも、毎回、律儀に感想をつたえてくること。
「
……あくまくんにね、どこが楽しかった? って聞いても、答えられないって言うんだ」
本を読もうと思っていた休日も。
パンダをみるまえに雨にふられた動物園も。
カワウソの赤ちゃん、見られなかったって。きみがすごく落ち込んでしまった水族館も。
「どこもね。また行ってもいい、って」
――あくまくんが、
――あくまくんがね。
3世のくちの端が、誇らしげにきゅっとあがる。
まろい頬に色をのせて。
一郎のことを話すとき、見ることができる顔だ。
(
――だから、なんだよなぁ)
この顔が見たいのだ、あのひとは。
だから何度もなんども話をせがむ。
しあわせなじぶんの孫の顔をみるために。
「
……パパ? 聞いてる?」
「ああ、」
あどけない瞳がわずかに尖る。
変わらない。
かわいい息子の反応に、思わず目許がゆるんだ。
「聞いてるよ。でも、まだまだ足りないなぁ」
きみの、
きみたちのしあわせを
もっと、もっと!
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(このまま、夜が明けたっていいんだ)
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※しばまたさんのかわいい二人のセリフ&シュチュなどなどお借りしました!
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