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既刊『育てて!!ツクモフ ゲームになったモフロドのほん』、過去作「ちいさなとびら」
https://privatter.me/page/670ba416be019 と同一設定のお話ですが、単独でお読みいただけます。
ぬいぐるみとして事務所にやってきてから、ロナくんを筆頭ににっぴきから可愛いカワイイと愛を注がれ、一ヶ月足らずででツクモ吸血鬼として目覚めたモフロナくんとモフロドちゃんはとっても仲良し。全力の飛びつきで綿にしてしまったり、くっつき虫を付けて怒らせたりと喧嘩もしますが、毎日同じ寝床で寝起きしています。
ふたモフとも人間に近い食事をするし、おトイレも行くタイプのふしぎ生命体で、お昼の時間もそこそこ大丈夫。
こんなモフモフの居る事務所の日常風景をお届けします。
なお、このシリーズの本ロドは(まだ)付き合っておりません。
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黒と赤、青と紫、マジロ色。
私の好きな色。この子も同じなんだろうか。
「ちゃんと買えたぜ、例の」
ロナルドくんがそう言ってエコバッグから最後に取り出したのは、小ぶりなプラコップだった。耐熱で、軽くて丈夫で割れなくて、電子レンジ対応という優れもの。人間のお子さん用の食器である。パトロールに出ていた彼に、帰りに買ってくるよう連絡しておいたものの一つだった。
「モフ?」
「ピスー?」
ロナルドくんの帰宅を聞きつけ、ソファの向こうから白と紫のふわふわがほてほてと駆け寄ってくる。モフロナくんとモフドラちゃんである。
駆け寄ってきたモフロナくんはその勢いのまま、ダイニングの椅子に腰を下ろしたロナルドくんの膝に飛び乗った。彼はロナルドくんが外から持ち帰るものに興味津々なのである。そしてその楽しみを決して独り占めしないのがこの子の大変偉いところで、高所から両手をうんと伸ばすと、床で待つモフドラちゃんを引っ張り上げようとする。勿論、そんなファイト一発じみたことをしてもモフドラちゃんが綿になるか、モフロナくんが顔面から落っこちるかの二択であるので、すぐさまロナルドくんが手を貸す。少し前までなら考えもしなかった一連の光景も、慣れてしまえばただの日常である。
「ほら、お前らにプレゼント」
ロナルドくんが買ったばかりのコップを、ふたモフに見せてやっている。これは彼らのための食器なのであった。
ふたモフは共に、血の他に、人に近い食事も求めるタイプのツクモ吸血鬼であった。そう判明
――なんと目覚めた当日のことである
――して以来、昼間はジョンが、そして夜は私が主に彼らの飲食を手伝っている。一口サイズにこしらえたハンバーグや唐揚げ、血入りのゼリーやブラッドジャムがけのパンプディングといったものを、彼らのペースに合わせて口元に運ぶ仕事だ。毎食を一生懸命に食べてくれる彼らを見ていると、ジョンが赤ちゃんだった頃を思い出して懐かしく、また楽しい。ジョンもこの時ばかりは『お兄ちゃん』を堪能しているようで、例えばモフドラちゃんの、一見どこにあるのかわからないほどちいさなお口に一口ずつゼリーを含ませては、ふにゃふにゃの溶けマジロになっている。そんなジョンを見られるのもまた素晴らしい。
ただ、幸せなことばかりでもない。そんな光景を食事の度に目にする、終身名誉五歳児であるところのロナルドくんが、自分もやると言い出さないわけがないためだ。私は何度も奴からの暴力か、暴力と然程変わらない懇願によって、時にはスプーンを持つ手ごと奪われた。
しかし人には向き不向きがあり、ロナルドくんは生まれたばかりのツクモのお世話センスが皆無であった。奴と来たら、ちいさな彼らと触れあいたいと願うくせに、小さすぎて怖いだとかオドオドと怯えてはスプーンの上のものを零しまくる。そして、モフドラちゃんがちむちむと音を立ててパンに染み込んだミルクを吸う音に打ちのめされ、食べることに必死になりすぎて木のスプーンを噛んだまま唸るモフロナくんに感動の涙を流し、頻繁に手が止まる。もう、てんで役に立たないのだ。ふたモフからもテンポが悪いと不評である。
ロナルドくんがこんな調子では、いずれジョンや私が出かけなければならない日が来たとき困ってしまうな、と真剣に悩んでいたのだが、幸いなことにふたモフ共好奇心旺盛で、近頃は自らカトラリーを触りたがるようになった。どうも、美味しそうに食事をするジョンやロナルドくんを真似たいようだ。この一点に限れば、若造は良い仕事をしたと褒めてやっても良い。
そうなると、彼らに合う食器が必要である。箸は持てないのでスプーンが最適、フォークは追々だ。ジョンの時もそうして慣れていったものだ。しかしこの家で一番数と種類が豊富な人間の大人用カトラリーは、殆どが彼らには大きすぎる。また、扱えるサイズであっても金属製のものは見た目や、食器と触れあう時の音が苦手のようである。サイズが適していそうなジョン用のカトラリーは殆どが金属製なので、同じものを取り寄せるというわけにもいかなかった。
器も要検討であった。モフドラちゃんには陶器やガラスの器の重量や安定感が丁度良さそうであったが、モフロナくんはそれらを軽々持ち上げる。あの子は落ち着きがないため、ひっくり返してしまうとか、落として割ってしまうのは時間の問題だろう。そんなこんなで私の知識知見とジョンのアドバイス、そしてふたモフからのフィードバックを元に検討を重ねて作ったおつかいメモを、ロナルドくんに託したのだった。
ロナルドくんがキッチンカウンターの上に並べた、駅ビルの、お子さん向け商品の取扱も多い雑貨店出身の食器たち。陶製で安定感のあるスープマグはモフドラちゃん用、丈夫なプラスチック製で仕切りのついたプレート皿はモフロナくん用。木製のスプーンとフォークが二揃い、そして持ち手のついた単色無地のプラコップが一つずつ。モフロナくんには赤を、モフドラちゃんには紫を。ロナルドくんは最初、もっと派手なのが良いんじゃないかと渋っていたが、結局はメモ通りに買ってきたようだ。
これを使って明日から、ふたモフ自身で食事をする練習を、と思っていたのだが。
「え、モフドラが赤でいいの? 紫じゃなくて?」
ロナルドくんの驚いた声に、モフドラちゃんは嬉しげに頷くと赤のプラコップに飛びついて、ぎゅうっと抱きしめている。その隣ではモフロナくんが、紫のコップとモフドラちゃんの顔を、なにやらきらきらとした眼差しで交互に見つめている。目が合ったモフドラちゃんが大きく一つ頷くと、モフーッと鳴いてコップを抱き、尻尾をバタバタと振り始めた。
「ええー? お前らの色を買ってきたつもりだったんだけどな
……逆じゃないか?」
ロナルドくんの言うとおりだった。元はぬいぐるみである彼らの、身分証明証とでも言うべき紙タグの色からも、モフロナくんが赤、モフドラちゃんが紫をイメージカラーとしているのは瞭然だ。故に自分の色を選ぶだろうと、私も思い込んでいた。逆、と言われた側だけが、キョトンとロナルドくんを見つめ返している。
黒と赤、青と紫、マジロ色。
私の好きな色。
「まあ、イメージカラーが好きな色とは限らんか。私も赤が好き
……だし
……」
思いついたことを口にすると、途端に気恥ずかしさがこみ上げてくる。なにしろ、このモフたちは我々二人をモデルに産み出されたぬいぐるみなのだ。私たちと揃いの服を着て、オオカミとコウモリらしき姿で、イメージカラーは赤と紫。どういうわけかとても仲が良いことだけが、私たちに似ても似つかない。
「
……あー、爪とか赤いもんなお前」
何を言い出すかと彼の、ロナルドくんの方を向けば、相手もこちらを見ていた。ダイニングの彼と、キッチンに立っていた私。カウンターを挟んでもの言いたげな、否、探るような視線とぶつかる。
「
……ウム、血の色だからな、赤は。吸血鬼は皆好きだと思うぞ」
日頃のどんちゃん騒ぎでつい忘れてしまいそうになるが、この男ときたら、息をのむほど美しい、青い目をしているのだった。それで一体何を見透かそうと言うのか。
ロナルドくんはふたモフが目覚めてからというもの、時折こういう妙な顔をするようになった。どうにも、参ってしまう。
赤が好き。
いつだったか考え無しにそんなことを言って、大変な目に遭った日もあったような、なかったような。
でも、吸血鬼は皆赤が好きだ。私たちはそういう風に生まれついていて、モフドラちゃんもきっと同じ。だからおかしな事は何も言っていない、はずだ。
私たちが無言で見つめ合って、もとい、睨みあっているその間も、モフたちはテーブルの上でぴったりと身を寄せ合って、互いのイメージカラーともいえる色をしたコップを見せ合い大喜びである。なんだこれ、むず痒いぞ。ジョンの視線も大変生ぬるい。
「
……ハァ。コイツらホント仲良いな」
空気に堪えかねたように漏れた、苦笑交じりのロナルドくんのその言葉を助け船とばかりに私は引き継いで。
「まったくだ! そこの暴力ゴリラも少しは見習って日頃の感謝と畏怖、あとついでに畏怖と畏怖
……アーッ! 言ってる側から暴力反対!」
「オメーこそ人にお願いするならモフドラを見習って可愛げの一つでも見せてみたらァ!?」
「ハァ!? 私は存在そのものが可愛く完璧だが!?」
「カワイイ子は畏怖たかりなんざしねえんだよ!!」
簡単に火がついたロナルドくんが拳を握ってがなり立て、さあ来るぞ、と私が身構えたその時。
「モッフ!!」
すんでの所で彼を止めたのは、モフロナくんだった。駄目だぜ、と言わんばかりにロナルドくんの身体を両手でぎゅっと押し返している。
「ピースピス
……」
モフドラちゃんは、やーれやれとでも言ったところか。ちなみに赤いコップを抱きしめたまま、私の方を見ているのである。
「ヌンヌヌ、ヌヌヌヌニ」
ジョンにまで、喧嘩はほどほどに、と言われてしまっては立つ瀬が無い。猛烈に顔が熱い。ロナルドくんも真っ赤だった。
「
…………ゴホン、あー、ではモフたち、コップを持ってカウンターに並びたまえ。騒がせたお詫びにとびきりのココアを入れてあげよう!」
「ヌァッ!? ヌンヌー!」
「え!? おっ俺も!!」
「はいはい、飲みたい子は各自自分のコップを持って並びなさい。しょうがないからゴリラにも特別に飲ませてやろう」
「その牛乳買ってきたの俺だかんな!?」
座りの悪い妙な空気もこれで一掃、いつもどおりだ。紫の子が赤色を、赤い子も紫色を気に入っているなんて違和感にもすぐ慣れるだろう。
血入りのココアを間違ったコップに注いでしまわないようにだけ、気を付けなければ。
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