Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
河童の皿箱
2025-08-03 08:19:01
2546文字
Public
遊戯王:短め(2025年度)
Clear cache
Export ePub
熊羆の士/鴻鵠の士
ある若い男二人が、称号を得るだけ。
1
2
カンカンと鳴り響く村の鐘。山賊の襲来を知らせるその音に、相棒は開いたままの高価な戦術書も構わず、急いで家を出た。女子供たちが悲鳴を上げ、村人たちが鍬やれ鍋やれで急いで武装する中、卑しい顔をした山賊たちが、馬を引き連れているのが見える。
「指示は出す。僕を信じてくれ」。足の速い相棒の言葉に、作戦に、己が身が奮い立つ。避難はすでに他の村人たちがやっている。手短に課された義務は、賊たちの進行妨害であった。小高い丘の下で相棒と分かれ、駆け登り、いつの間にか仕掛けられている落石の罠を力いっぱいに作動させれば、村に通じる道にガラガラ災いをもたらし、馬たちは驚いて騎手どもを振り落した。そのまま落石地点よりも先へと素早く下れば、転倒から這い出してきた山賊たちの武器を奪い、村の方向へと投げる。
鳴り止まぬ鐘。けれど悲鳴を上げて逃げていく賊どもを、深追いするわけでもなく。何せ帰り道には、輪状に結んだ草葉が待っている。間抜けにも足を引っかける賊を、けれど自らも罠にかからぬようにと遥か遠くでは、耳慣れた声があちこちへと力強い言葉で指示を飛ばし、ほどなくして十分に武装を整えた村人たちが加勢すれば、逃した者以外を縄で縛り上げた。
動くものなしと認めれば、鐘の音がようやく収まり、村の中では女子供たちが避難所から顔を出し、被害の確認がなされる。
「
……
よし、おーい! 全員無事だー!」
平穏を取り戻した村。子供たちの笑う声が田畑の沢から響き渡っては、男たちは力仕事に勤しむ。開墾作業に臨んでは、岩を持ち上げて退かす屈強な男のすぐそばで、線の細い男が鍬を持ち、畑を耕す。すると、村人たちが相棒へと知識を求めてやってきた。育苗の具合を見てほしい、と。
それについて行ってみれば、相棒は今度は農業書を取り出し、ひとつひとつ例えを出しながら、丁寧に教えていく。それが終わってふうと息をつけば、今度は女が染について。それが終われば、今度は子が生き物について。次々に繰り出される質問に、けれど嫌な顔一つもせず、自らの持つその力を、皆に分け与えていった。
「お前、いつそんな勉強してんだ?」。ふと尋ねたくなった問いを投げかけてみれば、「お前と居ない時も」、と鍬を振る。「それじゃあ、ずっとじゃんか」。一緒に鍬を振り下ろして土を耕せば、「そうだよ」、と、なんでもないかのように。「あの罠はいつ仕掛けたんだよ」、土から砂利を取り除けば、「一昨日。こんなにすぐに使うとは思ってなかったけど、役に立ったみたいでよかった」、と。
村人たちが、新しく捕まえた馬を厩に収めていく。捕らえた山賊たちを、台車に乗せて街へ突き出しに出かけていく。あれならば、報酬金も弾んでくれるだろう。
それからというもの、相棒はその英知を鴻鵠の士と讃えられるようになった。けれど彼はいまだに書に、地に、知識を求めては、知恵を回し、いくつかの罠を仕掛けては、賊を退けた。
夜半、ふと目を覚ませば、陶器の灯火器に火が灯っている。音をたてぬようにと中を覗けば、相も変わらず書に熱中しては、また自らも書をしたためる。それを盗み読もうとして、何度心折れたことか。
彼は、この村に収まる器ではない。その英知は、きっと。
1
2
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内