保科
2025-07-31 19:10:49
3553文字
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もしもの話:紗月さんに香穂ちゃんの秘密がバレたら

SS集の香穂ちゃん可愛すぎて気が狂いそう文字列
もうずっと小柳香穂のことしか考えられない!!来週からアニメで琴紗月が暴れるのに!!!!

「つまり」
紗月さんは息を吐くと、向かいに立つわたしと、香穂ちゃんをじろりと睥睨する。
正しくは。真正面、漏れ出る圧に尻込みしつつも紗月さんを伺うわたしと、その背後、わたしの制服の裾をつかみながらぷるぷる震える、眼鏡の香穂ちゃんを――だ。
「香穂は、多重人格ということなの?」
「えーっと、そういうことではないっていいますか……ね、ねっ、香穂ちゃん!?」
「う、ううう……
しどろもどろに返すわたしの背後で、びくっ、と香穂ちゃんの肩が跳ねた。そう……今は大ピンチ。
すなわち、香穂ちゃんの隠していたよわよわモードの姿が、紗月さんにバレちゃったのだ!
……わたしはあんまりムリじゃないけど、香穂ちゃんにはかなりムリムリ、な話!

放課後、日も暮れだした校舎の人影はまばらで、わたしたちのクラスに限れば、残っているのは3人だけだった。すなわち、図書室に本を返しに行っていた紗月さんと、落としたコンタクトを非常用の眼鏡をかけて探していた香穂ちゃんと、それを手伝っていたわたしの三人。そこそこ遅い時間にも関わらず偶然遭遇してしまったのは、もう、不幸としかいいようがなかった。
心当たりを全部巡って、見つからなかったコンタクトにめそめそする香穂ちゃんを励ましながら教室に戻った時。丁度、自分の席で鞄に教科書を詰める紗月さんと目が合って――今に至る。
香穂ちゃんはコンタクトじゃないとよわよわになる、というざっくりな説明は、紗月さんにはピンと来ていないようで。いや分かるけど。わたしだって実物見なかったら信じられないからね!
「それにしては。同じ人物と思うには随分と印象がかけ離れているわね。ねえ香穂」
「にゃ、にゃう……あの……うう……
わたしの肩越しに、真面目なようで少し意地の悪い紗月さんに覗き込まれた香穂ちゃんが、わたしの周りを回って遠ざかろうとする。それを紗月さんが最小限の動きで追い詰めて。香穂ちゃんが反対側に逃げて、紗月さんが追い詰めて……の繰り返しで、
「わたしは鬼ごっこの障害物か!」
「そうね。非常に邪魔よ」
「居るだけなのに辛辣!」
「あ、あわわ……、れなちん……助けてよう!」
「え、わたしが!?」
「助けてって……。失礼ね、特に何もしてないのに」
「いや絶対面白がってましたよね紗月さん……
玉座に座ったまま人間を指一本であしらって、『ふん、我はまだ立ち上がってすらいないぞ……』と笑うラスボス大魔王みたいなこと言い出した。
とはいえ、頼られてしまった以上、なんとかこの大魔王を止めなくてはならない。
香穂ちゃんを庇って一歩下がりつつ、わたしは勇者の剣、もとい分かりやすい説明で対抗する。
「いや、ですから……別人格?というよりはもっと……あの……ほら!
わたしも紗月さんとお話する時と、真唯と話すときは態度違う、みたいなのあるから!そういうのの切り替え?みたいなやつかと……えっと……ですから……
コスプレ、という表現では真面目一辺倒の紗月さんにはピンとこないと思って、なんとかかんとかわたしなりの説明を繰り広げてみたものの。
あれ、でも、もしかしてそういうのも多重人格っていうんだっけ!?でもなんか、香穂ちゃんは別人格とかじゃないし……!と、結論も出せず、私が手にした武器はひのきのぼう以下だった事が判明した。スライムも厳しいよ!
てっきり紗月さんは『そんな意味の分からない説明で煙に巻こうとはいい度胸ね甘織』と一蹴するかと思えば、
……ああ、そういうこと。ペルソナの一種という話?
香穂なりの処世術なのね」
と、なんか納得してもらえたのでびっくりした。良くわかんないけどゲームの話してる?
「違うわよ」
「なんで思考を読むんですか……!?」
「うるさいわね、貴女が分かりやすぎるのよ。
……ひとまず理解したわ。後、これは内密のほうがいいのかしら」
「ええと……
ちらり、追いかけ回され息を切らせる香穂ちゃんをうかがえば、こくこくこくこく、と何度も頷かれた。
「みたいです」
「そう。ま、何でもいいけれど……もとより言いふらすつもりもないし、さほど興味もないわ」
紗月さんの言葉にホッとする。元々人間なんかどうでもいいというスタンスかつ口が硬い人ではあるから、あまり心配してはいなかったけど――それでもだ。安心したのは、香穂ちゃんも同じだったのか。
「あの……さ、サーちゃんっ」
「何かしら」
ひょこ、と顔をのぞかせた香穂ちゃんが。えっと、あの、とまごつきながらも、小さくはにかむ。
「ご、ごめんね、驚かせて……。その、……ありがとっ」
―――
何か、衝撃を受けたように固まった紗月さんが、ひとつ瞬いた。そのまま、じっと香穂ちゃんを見つめるだけの、謎の間があく。
……あの、紗月さん、どうかしました……?」
――香穂。こっちに来なさい」
「え?えと…………うん……?」
わたしの問いかけを無視して、命令のように呼びつけられた香穂ちゃん。まだ緊張してはいるものの、紗月さんは大丈夫、と認識したのか、眼鏡を直しつつそちらに近づいていく。なんだか罠に掛かりにいく小鹿を見ている気分……だ、大丈夫なのか!?大丈夫なのかこれ!?ねえ!
「サーちゃん、どうしたの?」
急に豹変した紗月さんが香穂ちゃんを投げ飛ばしやしないか……とハラハラ見つめるわたしの前で。
いつもよりもずっと覇気のない、小さな声でおずおずと尋ねる香穂ちゃんを、じっと見つめ返した紗月さんは――徐にその頭を撫でた。
え!?
あの、琴紗月が、人の頭を!?!?!!?
……ふぇ?」
「さ、紗月さんどういうこと!?そんな甘やかしをするなんてわたし知らないんですけど!?
じゃあ普段わたしへの辛辣な態度は愛情の裏返しではないってことですか!?」
「甘織、黙りなさい」
思わず口を出した瞬間、ぴしゃりと叱られすごすご下がるわたしをさておき。わしゃわしゃ、されるがままの香穂ちゃんの顔がふにゃふにゃとやわらかくゆるんでいく。
「、う、わ、わぁっ、……さ、サーちゃん、ねえ、どうしたの……?」
………………………
「むぇゅ」
ほっぺをぎゅう、と両手で挟まれた香穂ちゃんが呻いた。少し慌てた様子で手を振るものの、うまく振り払えないのかそのままもちもちと捏ねられる。傍から思わず見入ってしまう。か、かわいい……小柳香穂……恐ろしい女だぜ……
その様を暫く眺めた後、成程、と呟いた紗月さんが徐にこちらを向く。なんだろう、と首を傾げるわたしに、紗月さんは至極真面目に口を開くと、
――ねえ。私、こっちの香穂がいいのだけど。静かだし」
「!?」
「いえわたしに言われましても!」
衝撃を受ける香穂ちゃんには申し訳ないけれど――あの紗月さんですら陥落するなんて、やっぱりこっちの香穂ちゃんは劇薬だった!
「明日からこっちで学校くれば?歓迎するわよ」
最早言いたい放題だった。ひょわわ、と震える香穂ちゃんは、あの冷血女琴紗月がそこそこデレまくってる現状を認識できているんだろうか。すごいことだぞ香穂ちゃん……
……めっちゃ気に入ってますよねこの香穂ちゃんのこと……
「さあ、どうかしら」
すっとぼける紗月さんの、ほっぺをこねる手は全く止まってない。いや気持ちは非常にわかりますけど。けどね!
「え、えと、えと……っ」
向かい、顔を赤くして動揺しきりのもちもち香穂ちゃんは、――けれど、は、と我に返って、意を決したように紗月さんの手を払った。
「その!さ、サーちゃんが、そう言ってくれるのは嬉しいケド……
でも、あたしは……いつもの、『陽キャモード』のあたしが一番なりたいものだから!こっちでは、こない……です!」
わたしも、どちらの香穂ちゃんも魅力的だと思うし、いつも惑わされてしまうけれど(不可抗力だ!)。
いつだって、自分がどうありたいかを選べるのは、香穂ちゃん自身の特権だ。――わたしが、そうであったように。
決死のの覚悟で頭を振る香穂ちゃんに、紗月さんはため息をつく。
……別に、そこまで拒否しなくても、私の好みを貴女に強要する気はないわよ。友人だからってそこまで烏滸がましくないわ」
……あ、あの、ごめんなさい……
「別に……謝ることなんか一つもないでしょう」
呆れたように肩を竦めた紗月さんが。俯く香穂ちゃんと――わたしを視界に入れて。ぽつり、呟いた。
「本当に難儀な生き方ね、貴女は」
……?」
……何でわたしを含めたんですかねぇ、と、不思議そうにする香穂ちゃんの前で問い詰めるわけにもいかず。口をつぐんでジト目を向けるわたしに、紗月さんはからかうように小さく笑った。こ、この人はぁ……