おがら
2025-07-29 20:42:09
1537文字
Public ステサム
 

a bite of the cherry.

🛡️🪶 全年齢
付き合ってない。ステ(→?)←サムな感じ。
25年のHBDで書きました。
月いち36の日で公開

 
「なぁ、君はさくらんぼのヘタを口の中で結べる人はキスが上手なのって知ってるかい?」

 おかわりを。と淹れてきたコーヒーカップを置いてソファに座り直したところで隣から投げられた問いに俺は思わず耳を疑った。さっきまで食べていたケーキの上に乗っていたさくらんぼのヘタを指先でくるくると回しているスティーブを伺うと何とも純粋な顔をしていて返事の前にブラックコーヒーに口をつける。そうして咳ばらいを一つして男に向き合う。

「アンタそんなことどこで仕入れてくるんだ?」
「すまーとふぉん。」
「くだらない広告とかだろ。本気にしてんのか?」
「広告じゃないよ。それはもっとえっちなこと出てくるから。」
「ぶっ!」

 天下のスティーブ・ロジャースから繰り出される言葉の破壊力は凄まじい。あまりの衝撃にもう一度口に含みかけていたコーヒーを少しばかり吐き出した俺は今度こそ本気の咳を数回繰り返す。するとなんとも優しく背中を摩ってくれるスティーブは俺の顔を覗き込んでやはり純粋な顔で大丈夫? と聞いてくれるのだ。

「悪い、アンタが変なこと言うから。」
「ヘンってえっ」
「もうやめろ!」

 繰り返そうとするスティーブを制して、自分の皿にあったさくらんぼのヘタを掴むとポイと口の中に含んでもごもごと舌を動かしてみる。
 スティーブの言ったようにヘタを口の中で結べるとキスが上手い。というのは俺が子どもの頃からある俗説だ。スティーブが知らないのはその時代になかったのか、彼が興味がなかったかの二択だろう。だから純真無垢と表現してもおかしくはないスティーブからこんな、ティーンのような話が出るとは思わなかったのだ。
 スティーブを伺うと俺の真似をしてか同じように口を動かしていて、どうにもやりづらそうに舌だけでなく何故か身体ももぞもぞと動いていてその動きに吹き出しそうになる。やっぱり今日のスティーブは少し変だ。

「すてぃーぶ。」

 真正面を向いていたスティーブの肩を叩いて名を呼ぶと、俺は口を真横に開いて恐らく結ばれたヘタの端っこを前歯で噛んだ状態で見せる。正直こんなもの口に含んだまま見せるなんて行儀もへったくれもあったもんじゃない。出会ったばかりの俺なら絶対にしないだろう。

「うわすごい!! サム、君はやっぱり器用だね。今日のディナーもすごく美味しかったよ。」
「ん。そりゃどうも。」

 引き出したティッシュにヘタを捨てて、ダストボックスに入れてると流れるように続くスティーブの言葉にむず痒くなる。食べている最中だって、何度も言ってくれたのにな。そりゃあ天下のスティーブ・ロジャースに『君の作ったディナーが食べたい。』と言われて断る人間がいるのだろうか。だがこうして何度も言ってくれると前日から仕込んだ甲斐があったというものだ。

「それで? バースデーボーイは俺にこんなことさせて何がお望みだ?」

 何度か誕生日を一緒に迎えているけれど手料理を初めて要求されたこと、普段しない俗っぽい話をしたこと、今日の中で何度か向けられる意味深な視線。これで察せないほど俺は馬鹿でも、本当の意味でスティーブを純真無垢な存在だと思っているわけでもない。

――ぼくはうまく結べないみたいだから、教えてほしいんだけれど。」

 べ、と効果音が付きそうなほど出されたスティーブの舌の上には結ばれることなく、くたくたになったヘタ。その無残な姿に思わず手を出してそれを救出してやると俺の指に驚いたスティーブはぐぐぐ、と身体を固くする。こんなことで驚くのか、アンタは。

「一度だけだから、目は瞑るなよ。」

 イエスの言葉は待たずに唇を重ねる。青い瞳には、誰が映っているのだろうか。