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おがら
2025-07-29 02:57:15
2712文字
Public
バキサム
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crush on...
🦾🪽 全年齢
付き合ってない。寝落ちもしもしをする二人。
月いち36の日で公開
深夜3時。誰もが寝静まっている頃、下院議員を目指すバッキー・バーンズは未だ自宅のデスクで書類や資料と睨めっこをしながら手元のペンをくるりと手の中で回してからそれを机の上に放る。数日後には大衆へ向けた大事なスピーチがあるというのに先ほどからどうにもペンが進まないのは自分の言葉が見つからないからだ。
ブルックリン出身の英雄で知名度も申し分なく、議員を目指す自分を支えてくれる有権者やスタッフはバッキーが確実に当選出来ると言ってはくれているがバッキー自身は自分の過去も含めそう簡単にはいかないのではと思っているのだ。だからこそ不得意なスピーチだって自分なりに誠意をみせたいのだが、頭に浮かぶのは議員らしくない言葉と今は同じ国でも車で数時間はかかる場所にいる友人のことだ。
バッキーはデスクの引き出しから古い二つ折りの携帯電話を取り出すとほんの数件しか入っていない連絡先の一つを画面に呼び出し、時計を確認してひとつ息を吐いてから発信ボタンを押す。コール音が数回鳴って一度途切れた後相手の息遣いが耳に届く。
『
――
どうした?』
出なければ良かったのに。とバッキーは理不尽な思いを抱きながらサムの声をしっかりと受け止める。こんな時間に迷惑だ。と文句をいう訳でもなく第一声でこちらを気遣う言葉が出るのは流石キャプテン・アメリカだ。いや、彼の気遣いは今に始まったことではなく、彼がサム・ウィルソンだからだ。
「どうにも。」
『なんだ? 議員は諦めたのか?』
揶揄うようなサムの声色にすぐに切られなかったことに何故だか安堵したバッキーは固い椅子の背もたれに背中を押し付け天井を見上げる。しかし目に映るのはただの白い天井だけ。あの日見た、白く輝くスーツとはまるで違う。
「いや? すぐにでも当選出来そうだって周りの奴らに言われたよ。」
『だから言っただろう、お前なら選挙なんてするまでもないって。』
何を隠そうバッキーが議員活動をすることに背中を押してくれたのは誰でもない、サムなのだ。お前なら出来るといつもの軽口の中にしっかりとそんな言葉を混ぜ込んで、サムは活動拠点を移すバッキーを送り出してくれた。
今も何の不安もない軽い口調でそう告げたサムは少し間を置いてから何かをかみ殺す空気の音を電波に乗せそれを聴きとったバッキーは表情を緩める。欠伸だ。
「なぁサム、自宅なんだろう? そのままベッドに入っていていいから暫く原稿作りに付き合ってくれないか? 携帯も置いていていい。」
『なんで俺が付き合ってやらなきゃなんないんだ。切ればいいだろ。』
「俺がこのままじゃ寝そうなんだ。出来れば今日中に仕上げたいからな、頼まれてくれ。」
スピーチの原稿は進まなかったというのに嘘と本当を混ぜて相手を説得する言葉はスラスラと出てくる自分に少しばかり驚きながら口を挟まれないうちに伝えるだけ伝えると少しの沈黙の後、ガサガサと暫く衣擦れの音が続く。
『バッキー、今日は朝が早かったから俺は本当に寝ちまうかもしれないぞ。』
「いいぜ、いびきが聞こえたら切ってやるよ。」
『俺はそんな風に寝たりしない。じいさんと違ってな。』
電話はサイドテーブルにでも置いたのか声は先ほどよりは少し遠くなったがそれでも周りに何の音もしない深夜ならサムの声は耳によく届く。それに超人であるバッキーは聴力だって常人より多少優れている。
サムが言った通り普段溌溂としている声は間延びが多くなり、バッキー相手に喋る矢継ぎ早な言葉たちとは違って柔らかくなり始めている。
バッキーは左手に電話を持ち替え、放り出したペンを利き手で握り目の前の真っ白な紙に文字を走らせる。
会いたい。
そう書いて手を止め無意識に横線を引いて消そうとする自分に気付いてまた手を止める。
なあ、サム。会いたいよ。
『ばっく、すすんでるのか?』
ガサリとまた音がしてからサムの声が左耳へ吹き込まれる。先ほどまでより距離が近くなったのはわざわざスマホを置いたサイドテーブルの方へ顔を向けてくれたのだろうか。
「ああ、二行書けた。」
『は、その割にペンが動いたかんじはしなかったぞ。』
今にも寝そうな雰囲気と声だというのにしっかりとバッキーの様子も伺っているらしいサムに先ほど書いた言葉が何故だかバレたような気がしたバッキーは息を詰まらせる。
素直に伝えたらサムはどんな反応をするのだろうか。相棒と言っても差し支えはない関係だと自負しているが、ずっとくすぶっている好意を伝えたわけでもなくサムにとってはちょっと複雑な友人というだけだろう。
サムの傍を離れることだってサム自身が背中を押したのだ。それについて責める気は毛頭ないが共に戦った日々を思い出すと、俺たち案外相性がいいんじゃないか。と思っていたのはバッキーだけだったのだろうか。
けれど結局議員活動を目指すと決めたのはバッキー自身の選択でしかない。誰に強制されたわけでもなく、サムのスピーチを聞いたあの夜からずっと自分に出来ることを探し続けている。サムが目指す〝より良い世界〟のために。
バッキーはペンを握り直すと、会いたい。と書いたその横に文字を続ける。
会いたい人にいつでも会える、そんな世界が良いと思いませんか。
スピーチの掴みはこれでいこう。とペンを止めたバッキーは通話口がほとんど無音になり、少しすると安定した寝息が聞こえてきたことに口角を上げ、ペンを置いてもう一度右手で携帯を掴む。
「お休み、サム。」
寝入っただろうサムを起こさぬようほんの少しの声量で就寝の言葉を乗せたバッキーは数秒待ってから寝息のリズムが変わらないことを確認して通話終了ボタンを押す。
通話時間を見るとほんの10分程度だった時間だが、それでも心は十二分に満たされたと折りたたみ携帯を元の場所に戻したバッキーは袖をまくり上げてペンを持ち上げる。
先ほどまでが嘘のようにスラスラとペンが走るのはやはりサムのおかげか。自分でも単純な男だと内心で笑いながら、サムを説得したように嘘と本当を織り交ぜて原稿を作り上げていく。日が昇る前に完成したそれを読み返すことなくバッキーはベッドへ身体を預ける。会食終わりのまま机に向かったものだからスーツもワイシャツも着たままだが心が満たされているのだから良いだろう。
あとのことは起きた自分に任せることにしてバッキーは会いたい人を浮かべながら目を瞑る。
スピーチが成功したら会いに行こう。そしてくだらないプライドなんて捨て置いて、サムに好きだと伝えよう。
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