おがら
2025-07-29 02:36:00
1577文字
Public バキサム
 

吟味

🦾🪽 全年齢
マーケットで買い出しする話。
駄目出しされるバキとしっかりしてるサム。


 世界を救うヒーローとてその暮らしは常人と何も変わらない。今日だって同居人と連れ立ってマーケットに買い出しに来ているのだ。
 ここ数週間はまともに家に帰れなかったから冷蔵庫は保存の効くもの以外は寂しい状態なのを思い出して、鈍い色のカートをカラカラと押す音を背中に受けながら入り口からすぐの青果コーナーへ。
 頭の中にリストアップした野菜や果物を思い返しながら必要なものをひとつひとつ手に取ってその鮮度や大きさを確かめる。同じ値段ならより良いものを購入したいというのは当たり前の行為だと俺は思う。ヒーローとて、どこぞのCEOだったか会長だったかみたいにみんながみんな大金持ちなわけじゃあない。それに、食べられるなら何でもいいというわけでもない。どうせならお得でうまいものを。ウィルソン家の家訓みたいなもんだ。

「サム、これは?」

 少し前まで食べられるなら気にしない、値段も払える範囲ならあまり気にしないような生活をしていた同居人は俺が口うるさいからか、買い物についてきては自分の目利きで選んだ野菜や果物を俺に見せてくる。まぁ、いつの間にかカゴに入っていた野菜を戻してこいと言ったのは片手じゃ足りないのだ。学んでもらわなきゃ困る。

「これは鮮度が悪い。こっちのトマトは柔らかすぎるし、ヘタが黒くなりかけてるだろ。」
「ん。」

 文句も言わずいそいそと戻してくるその姿に俺だって複雑な気持ちはある。いちいち指摘するのだって遠慮のない仲だろうと多少なりとも気を使うのだ。家で待ってていいと言うのについてくるのはバッキーなのだから俺だけが変な罪悪感のようなものに苛まれるのはおかしなことだと思う。こうして素直に戻してくるようになったのはかなりの成長なのだ。マーケットで言い合いになりかけたのも片手じゃ足りない。

「サム、アボカドあった。」

 手渡されたそれは色味は悪くないものの少しだけ手の中で押してみるとしっかりとした感触が返ってきたのでそのままバッキーへアボカドを返す。

「これは固いな。今日はすぐに使いたいから柔らかいのが欲しいんだ。俺が選ぶぞ。」
……。」

 ずらりと並んだアボカドの中から今日の目的にあったものを見つけてカゴへ入れる。黙ったままのバッキーへ目を向ければ返したアボカドを持ったままあからさまに肩を落とす姿に込み上げそうな笑いを押しとどめる。ここで笑うのは失礼なことくらい俺だってわかる。バッキーのプライドを傷つけたいわけでもない。きっとさっきのトマトを柔らかすぎると言ったから固めのを選んできたんだろう。それを察せないほどこいつを知らないわけでもない。

……バッキー、今日はサーモンとアボカドでタルタルを作りたいんだ。お前アレ好きだろ? バケットに乗せるやつ。」

 なるべく柔らかい口調を意識してバッキーの好物を伝えればパッと顔を上げて頷いた同居人は持ったままだったアボカドを戻そうとするから名前を呼んで静止をかける。

「お前が選んでくれたやつは、週末のランチに使わないか? エビと一緒にサンドイッチにするかなんかで。」
「楽しみだ。」

 さっきまでの落ち込みはすでにどこへやら。表情を緩めたバッキーは俺の選んだアボカドの隣に緑色が強いそれを並べてまたカートの持ち手を掴んで歩き出す。決して機嫌取りに好物を並べたわけじゃない。買い物に来た時から決めていたメニューなのだ。誰に言い訳しているのか、心の中でそう呟いた俺は果物の厳選チャレンジをしているバッキーの隣に並んだ。

「おい、そのオレンジは傷んでそうだぞ。」

 あ。長い髪の間から少し鋭い目と目が合う。今度は言い返すモードに入りそうなバッキーに夕飯のメインメニューを伝えて口を閉じさせなくちゃな。これもこいつの好物ってことには気づいてくれるな。