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akinoshiroihana
2025-07-27 09:50:54
5385文字
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シガ―&キス
原作の隼人は煙草吸わないよねネタ
https://privatter.me/page/6844070b691b7
の続きです、ガワは東映ですが。
達人さんがウロチョロするのはこれで終了かな
あの部屋が尋問室であれば、 こちらは 法廷それとも公開処刑の場であろうか。
処刑場にいまだ怒れる役人が立つのは詮議が十分でなかったかもしれないが、罪のあかしを通報したものは事件の展開に、判決か処刑まで彼本来の今日の仕事に戻るのを遅れさせていたし、偶々居合わせた市民は引き出された「彼」を知るものでもあったのか、愕然と手にした荷物を取り落としかけた。
鞭打ちか、それとも追放かと目されているその罪人は
―――
「すみません、どういうことなんでしょうか!?」
職員室からの帰りが遅い級友の鞄を携え職員室を訪れた竜馬は、テニス部顧問の、日々グラウンドを利用する部の女教師を上手く近く見付け、身内の目をして尋ねる。
「煙草を隠していたのが出ちゃったみたいよ、」
竜馬と同学年の子を持つ教師が、彼女も身内の目をして囁き返した。
ときは昭和四十年代。成人男性とあればこんにちより大いに酒を飲み雲を吐くのが美徳扱いに近く、子供の背伸び、不良小僧の悪さも同じくであった。なれば学校内での取り締まりの目も厳しいものであり。
「先生方とっても怒っていらして」
その言葉が終る前にばん、と教員のスチール製の机の上に竹刀が叩き付けられる激しすぎる音がし、人々はびくりと反応してしまうまいと身を固め、そして押し黙った。これはもう、誰もここから逃げ出せない。
部屋の隅、給湯室に抜ける薄暗い一隅には、おろおろとした風の丸っこい人影がある。
*
この当時の公立校における体罰を伴う指導は、実質的にはなんら規制されるでもなく、体育会的或いは些か軍隊的になることさえあった。彼らは詰まるところ「地方公務員」職と自尊心を守れる場を選んだ人間だったのだ。
それは、より上等な教育環境を提供するはずの私立学校に於いてもさしたる差はなく、何となれば国公立の教員採用試験に受かるまでの腰掛け的な教員も存在したのである。
時は少し遡る。
突然の呼び出しがあった土曜終業後の進路指導室、兼生活指導室にて、個人面談のような態で。
問いただしも単刀直入だった
「吸っているのか」
「いいえ」
「でも買っただろう、そして私物に隠した!刃物と一緒に!」
「はい。言えば許可してもらえませんから」
そう応えた学生の顔が、無言で平手で打たれた。部屋の面談用の椅子に座らされていた分、体格差を苦にすることなく。
「馬鹿もん!その態度ぁなん
―――
!」
言葉が終わる前に二発目三発目の教員の平手が学生の顔に飛んでいた、教師は叫びつつみるみる赤黒い顔色になるほどの怒りを爆発させろれつもあやしくなり、それ以上の問答をもはや望んでいない。
間に挟まれた机ががたがたと揺れ押され、机のこちら側にスーツ姿の大の大人がらしくないほどの素早い動きで回ってきたと思ったら、学生の私服である鮮やかな色のシャツの胸が掴まれ、椅子から引き起こされ、後ろにある赤本の本棚に突き飛ばされる、巻き込まれた椅子が嫌な大きな音を立て、埃の塊と髪の毛を付けた汚い脚の裏を見せ引っくり返った。
立たされ、強く突かれた学生はしかし、背後の本棚に叩き付けられ、彼の服と同色の赤表紙の本をばら撒きはしなかった。強い体幹を持っていたのか、押される勢いが死ぬところまで下がっただけですいと止まる。そして、細身だが教師より高いところにある目線で相手を見る、というだけの抗議を示したから、
狭い部屋が怒りの叫びで膨れ上がった
―――
*
生徒指導室兼進路指導室から出てきた人影は、その時点で制服姿でない上に教師以上の長身であったからおのずと人目を引いていた。
そしてよくよく見るでもなくそれは前学年途中から編入してきた「超高校級転校生」であり(年が変わろうとまだその呼ばれ方であり)、噂通り長い髪は肩に触れそうなほど。そして生っ白いと笑い者にするには透けるか抜けるように色白であるのは、おそらく指導室での教師がやりすぎてしまったのだろう、シャツの前ボタンを飛ばして裸の胸を露わにしていることで実によくわかった。
(流竜馬はこの辺りで持っていた学生鞄を取り落としかけた)
学生の方は首にかけていた十字架がどうやらただの装飾品ではなかったようで、それを守るように己の心臓の辺りに拳を握り締め、剣呑な表情を崩さない。
どうやら彼らは、密室での一対一の詰問がはかばかしくなくなり、教師主導で多くの同僚が立ち会う場所へと出てきたようだった。持て余し気味の年配教師に、男性体育教師が大丈夫ですかと声をかけ、服装指導やマラソン指導の際に愛用する竹刀を机の脇から取り出した。机を一つ大きな音を立て叩く
「あー神、
―――
凄い名字だな、神隼人!転校の際に、お家から離れるから変な気を起こしたのか、それとも以前からか」
相手が代わったことで質問は振り出し側に戻りつつ、容疑はより深刻なものになった。でてきた学生の顔に既に殴られた気配があり、口の端に血が滲んでいることで「クロ判定」が降りたことを示していると思われたからである。
しかし言われた相手は握り締めていた拳をほどくとポケットに手をやり、取り出した清潔そうなハンカチでそこを拭った。ハンカチに目をやり「自分が出血していることを理解した」様子を周囲に知らしめた後すっと静まりかえり
「さっきも申し上げました、俺は吸いません、ですがあれは装備として全部必要なものです」
「事前に購入の許可を求めて届け出を出しても『やはり許可しない』と言われる事が多くて困るので黙っていました、使う状況も限られるので荷物の奥に未開封で保管していた筈です」
そう訥々と語った、教員の体罰を既にくらい、もう数発貰いかねない状況に対して子供らしく泣きを入れるでもいじけるでもなく。
「それについては同室の生徒が間違って開けて大騒ぎしたようだ」
ナイフとかロープとか尖って重たいものだらけで押し込み強盗か忍者の七つ道具が出てきたと
「は、なんですかそれは一体」
(えっ、武蔵かな武蔵だな?そんなこと言い出すのは、と竜馬は息を飲みそして視界の端にずっとちらちらしていた丸い人影にようやく気付きもし、おまえそこかあぁぁとの心の叫びをどこにどうすればいいのかと心中悶絶する彼はそして)
「ここは浅間山も目の前だ、むしろ昔の過激派学生達の真似事をするための持ち物ではないかと、県警に相談することも考えてる先生もいるんだぞ」
(そして竜馬は真っ青になった。)
「
―――
どうぞ、それなら専門家に見て貰って下さい、それが一番早いですから。あれは単独登山のための一式です。」
いいつつ隼人は職員室中央の、学生協の配達などが来た時使う簡易ソファに勝手に座った。あくまで下らない誤解を受けただけの被害生徒としての立場をアピールする様子で、ため息など付いてむしろ堂々と。一度シャツを寄せられた胸はまたはだけ、浸み一つなく白い。そして鋼のように青いしんとした目線があった。
しばしの沈黙。そして
あの、いいですかという声が上がる。教育実習の学生教師だった。
「これほんとうにまともな登山装備ですよ、高校生にしては上等すぎて羨ましいだけで。しっかりした登山ナイフですね、煙草はまあ、お守りですね入山時の」
はーっと隼人が安堵とやれやれ、といったふうの息を付く。場所不相応に組んでいた長い脚を下ろしてきゅっと抱え、テーブルの前縮める。
先生方ご存じないですか?登山者の実に三割はおかしなものを見聞きすると言われてます。狐か何かに誑かされたようだったり、同じ登山者の幻とか遭難者の幽霊といった明らかにこの世のものではないものまで。登山に限ったことではないですが、ただの野歩きにおいても煙草はそういう際の魔除けとして長く信じられているんです、変なものを見たらそこで一服して落ち着く、火の気が手元にあることを確認する、なんかで。林業関係者の方々に聞いてみられるといいですよ、今でもそれで欠かさない持ち物にされてます。
「ああでも
―――
いえ失礼しました。僕にはとてもおかしくって。こんな名峰の麓に産まれておいて、先生方いちどもその頂にご挨拶にいったことがないだなんて、
こんな近くにあるのに。」
人は何故山に登るのか?いくつも答えはありますが、ほんとに「そこに山があるから」ってなにも備えず飛び込むのはただの馬鹿と不敬ってものですよ、学生教師はそう結んだ。
*
取り敢えず警察沙汰はなくなった。しかし大山鳴動させたあとである。この学生が隠し持っていた煙草をほんの少しも嗜まないなどという清川のごとき身であるのは、筋違いであろうと気が収まらないではないか、との葛藤が職員室にはあった。せめて謹慎とはいかずとも反省文と、いささか自由が過ぎる服装を改めさせるべきであると、長すぎる髪を髪を耳にかからない長さまで切らせようとの教師たちで話し合いが聞こえてくるのに隼人は心外そうにし、竜馬はふたたび愕然とした。
嘘だろう?髪は女の命であって武士の魂いやあれはちょんまげか。どうしようここに及んでは隼人は呆れて自主退学でも申し出たりするんじゃないだろうか、それぐらいの行動力はきっと持っているやつだ、いや前の学校で何かトラブル起こしてここに放り込まれたっていううわさもあるけど、あいつには籠の鳥みたいな楚々としたきれいな孤独感もあるけどいやその話は後日にしよううん。でもダメだいやだそんなことは駄目だ誰か何とかしろいや俺がなんとかしろ俺達ここしばらくひとつ屋根の下過ごしてきましたが、そんな素振りは欠片も見せませんでしたという模範生徒の証言はああだめだ弱い!それと武蔵、遠景で『えへへよかったあ』って顔するんじゃな
「すみません私からもよろしいでしょうか」
いま一人の、手が上がった。
*
「早乙女賢の息子にしては突出したことのない長男とはさんざん囁かれてきましたがこれだけは。鼻が犬並みかっていうくらいに効くんです俺、いやわたし。『この新しい機械買う前に調香室でも造ってやりたかった』とは父が惜しんで度々言ってくれてます」
ニコチンペーパーの喫煙テストよりは敏感ですよ
学内正式採用職員で、地方名士の長男が、妹を麓のバレエスクールまで車で送って帰って来た。
「神くん、俺の顔に向けて息を吹き掛けてみて、ニコチンが体内に沁みついてたら、うがい歯磨きしてようが俺にはわかる」
屈み込み、両手の中に相手の首を閉じ込めた格好で達人が言うのに、隼人は形の良い眉をひそめた。
まだ呼気式テスターは無い時代、試験紙を舐めさせて判断するのがせいぜいだった頃のこれは、はっきり言ってナンセンスだった。だがそのナンセンスが地方権力者の服を着ていた。
喫煙者が息を相手の顔に吹きかけるのは夜のお誘い
―――
そんなよけいな事をふと考えもしたかも知れない彼ははあ、と小さく息をつき、髪に指を差し入れられ頭部ををおしいだかれたままの、身体の力を抜いて目を閉じ。
一度固く結んでいた唇を開いて、ふううっと達人の鼻先をかすめる吐息を漏らした
……
*
調香室か。
「あれは、とんでもなく高くついちまうからね」
「知っているのかい!?」
「母が嫁入り道具として建ててもらったのが今でも残ってます」
まるでその主は既に存在しないかのような響きがあった。だが、「そんなことより」
先生のおかげ
―――
いや
その達人より既に背は高いが成長を急ぎ過ぎて、急所じみた部位がいくつも見て取れるやや薄い身体が渡り廊下を行く歩みを止め、急に立ち止まられた教師は彼に続いて歩いていたからたたらを踏む
先生の御父上の社会貢献と、それで築いた信用のおかげかな、俺が助かったのは
ねえ先生、貴方は自分のおやじさんが好きですか
「
―――
ああ、好きだよ
存在がとても苦しいと思う事はあるけれど、それは俺の中に勝手に生じるものだ、嫌いになることは無い」
「そう
―――
」
すみませんでした失礼な事を聞いて、助けて戴いたのに。ありがとうございました、たつひと先生
しばらく近くあった二つの人影が、やがて離れて行ったあと、トベラの白い花に群れる虻と蜜蜂がうるさい甘い生垣の陰から竜馬が歩いてきた。ふしぎと悄然としている。聞かれれば
何でもありません、急に自発的に悲しくなっただけです
よくわかりませんが俺
―――
僕の中に勝手にかなしみが発して勝手に痛んでいるような
いつもは能動的に晴れ渡った、自分からやさしく触れるものを探しているような美しい目が、彼の妹にもよく似た強い目が心細げに戸惑っているのを達人は読み解けないまま微笑み、結局それきりになった。
世は流行歌手が、青い林檎を抱きしめてもどうのと熱唱する時期
流竜馬はその果実にまだ触れてさえいなかった
こんな近くにあるのに。
*
なぜ人は山に登るのかといえばいくつも答えがある、おそらく登るものはその答えをみな用意している。だから本当に何も考えず挑もうとするならそれは自分と対象を馬鹿だと思っているし不敬とも言えよう。モンブランに入山する年齢制限はないが、心を尽くして挑んでさえなお帰れなかった者達のピッケルが入山口に無数に刺さっている
(了)
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