akinoshiroihana
2025-06-07 18:31:55
2508文字
Public
 

スモークオンザウォーター(事情説明ノウタ)

●サーガ隼人は煙草吸いませんよね問題と、達人と隼人パッパは吸ったかもしれない、からの
傘というのは https://x.com/retoro_mode/status/981871605319168000
今の煙草の危険性をデカデカ訴えるパッケージでは流行らないかな

昨日病院行き返りの車内でポチポチ打ってて、しまった、6月なんてもう時間軸的には達人さん死んでるしゲッターチームできてる時期だ、と正気に戻りましたが時空の歪みですすみません。2か月の時差(ノ∀`)アチャー

「梅雨模様ですね」
「うん?」
彼のクラスのプリントでももらいに来たのか、職員室によく響く若く瑞々しい流竜馬の声がある。
先年までのクラス担任であり今もサッカー部コーチとしての繋がりのある達人は彼にも近しい。
六月だった。この雨が終わったらしばらく晴れて、それから本格的な梅雨になるという。

教員一人一人のスチールのデスクの上には湯呑みだの一輪挿しだの写真立てだのが好き好きにかざられているものだった。そこに就任して年浅く、地方名士の子息として知られるからにはだろうか、面白味なく片付いており、たまに職員間で配られたミカンのひとつも置かれているのがせいぜいだった早乙女達人のデスクであったが、それが新年度以来、煙草のパッケージで作るミニチュアの和傘が並ぶようになって久しい。
「いや、タバコの箱で作ってみていたら、ただでさえうちは人の出入りが多いとこだから、そこらじゅうに空き箱があってな」
止まらなくなった、と達人は笑う。女の先生が小さなキューピー人形に服を編んでは並べ続ける謎がなんとなくわかってきた、と。止め時を奪われてるんだ、かなり、と。
そういうとき、「もうやめる」と何故言えないのだろうと竜馬は思った。だが口に出すのは控えた。活動的で明朗なことで知られる少年の中に、それでもある賢明さだった。言葉を飲み込んだ彼の鼻腔に、タールが染みた笑い声が寄せてくる。「達人さん」はいつのまにか煙草を嗜むようになっていた、それに臭いを誤魔化すつもりであろうか、そのあとの飴玉も。やはり大人の人なのだなと違う世界を感じるとともに、そういえば宇宙飛行士達は煙草を吸っただろうかと彼は少しだけ考える。が、そういう角度から過去の英雄達について知ろうとしたこと自体がなかった。

―――銘柄ごとに違う傘ができるんですね。この白と空色の傘は?」
「ああ、ハイライト、こっちの白と青ならホープ。それにわかば、マルボロ、キャメル、俺はラーク」
煙たいばかりなのにいい名前だらけなんだなあと苦笑し、「ラーク、雲雀ですか?」と竜馬が尋ねたあと、ハイライト、と小さく呟く。
「そう、小鳥のヒバリ。」
この味がおれには甘くていいんだ、と元担任は言った。臭うのはただのヤニの臭いだった。

「そういえばあの転校生、元気かい?」
ちゃんと部屋でおとなしくしてるか?そう達人が尋ねる。
「え、あ、はいまあ―――
同室暮らしの竜馬がぎょっとした風に応じる
「絡まれた側とはいえ過剰防衛だったし、向こうがだったが刃物まで出てたからあれは」
神隼人が町の不良に絡まれて帰ってきたのは先週の話だ。

今でも若手教員より年嵩の生徒が入ってくるのがさして珍しくない昭和40年代の公立高校の素行のよくないのが、週末、国鉄で町まで出て遊ぶ金もない時期だったのか、仕事用の単車で山の上の私立校の女生徒達にちょっかいをかけに登ってきていたのだという。それで何かしらが起き、神隼人が現れてそれを止めたは良いが、その後の始末がよくなかった。不良連中のバイクは山道の途中、崖っぷちで煙を上げて引っ掛かっており、小破だった方のそれを押しつつうなだれ歩いて町を目指す年嵩の不良達の身元を警察が改めれば、エンピツを削る肥後守程度では済まない剣呑な刃物まで出てきたということで、更には道の上、点々と血の痕があった。
赤い、猛禽を思わせるほどシャープな線が見てとれるそれは靴跡であることがわかり、脇道から走り去った大型バイクのタイヤ痕まで続き、浅間の寄宿舎の駐輪場にまた微かに現れた。

宿直教員と用務員を伴う険しい顔の大人が自室をノックしているのを気持ち良い汗にまみれて帰宅した竜馬が見とがめ、青ざめ、未だもぬけの殻である三人部屋のベッドの二段目脇から洗面具一式が消えていると報告すれば―――午後から使えるシャワー室で、男にしてはずいぶんに長い髪まで濡らして身体を洗っている素裸でずぶ濡れの隼人にようやく行き着いた。
曰く、「僕の血ではないです」曰く「嫌な臭いを吹き掛けられたのを落としたくて」と、濡れ髪を白い指で弾きながら。

『頭が切れれば血なんてそれくらい出らあ』
何人と何を使ってやり合ったのだと問い質された不良生徒達が不本意そうに答えた通り、拳を振るう事はほぼせず花鳥園の鳥の喧嘩みたいにサファリの卵を守る母ダチョウみたいに、バイクに跨ったままの相手が浮くほどブーツで蹴り上げ、自分も優しいほど丁寧に磨くであろう機械のボディを修理工直行の傷まみれにし。同じライダーとは思えないあまりの血も涙も無いぶりに呆然とする彼らの眼の高さまでぶわり跳び上がり、蹴り飛ばして、うち数名の頭皮を破いたのだと。数に対して凶器で応えたのではなかったが、よくやったと言えるものかといえば少し違っただろう。
しかも漏れ聞こえたのが、女性と達を助けるのに多少小突かれることは厭わなかったはずか、導火線に火が着いたらしいこと、煙草の煙が至近距離から顔面に吹き掛けられたのに反応したらしいこと。

なんなら田舎の不良どもは知るや知らずや、それはただの侮辱ではなく同性愛的な「お誘い」でもあり、その銘柄は彼の大嫌いな父親のそれとも同じだったという不幸さえあった、などと。
多くを人々は知らないし、核心部分に至っては後々察することになる竜馬とてまだまったく知りようがない。ただまた口の中、「ハイライト」と繰り返しているだけで。

「神―――神隼人!」
シャワー室の引き戸を押し開け大声上げる教員を押し止める警官と用務員の向こう、白々とした電灯の光と立ち上る湯気の中、ゆるりと振り向いた真っ白い身体と濡れて輝く髪の奥の静かな瞳があのときのハイライトだったと無責任にも竜馬は思う。雨音の、水の音の響く職員室で。白々とした蛍光灯の光の下。
「梅雨になるまえに学校こられるかな、あの子」
言って達人が煙草に火を点けかけて、しかし竜馬が目の前にいるのにはっとした様子でやめた。新しく、彼の身にしみていく「くせ」。

ラークキャメルマルボロ、ハイライト

あのときおまえと、眼が合ったような気がするんだ。