せいたろ(sitr)
2025-07-25 21:00:28
25425文字
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花のさきがけ

(前作:薬籠中のもの https://privatter.me/page/686bc8f142faf)
河川敷に集まった学園の面々は解散し、帰投する。
伊作は一仕事終えた締め括りに、自分たちを甘やかす提案をする。
伊仙伊 成人向
文→仙
※どの組み合わせも交際していません

転載•改変禁止

陽が落ちて煙は見えなかったが、風下だったようで仄かな燃焼臭が確認できた。寺に感じた甘ったるい香が、確かに蘇った。同じものをあの農家にも置いていたのだろう。住職がどんな存在であれ、勤めた痕跡が息子の家にあったことに営みを感じる。

自害の事態は、全く予想に無かった。
無性に不快で、無性にやるせない。

鴇色の私服に着替えた伊作は、化粧を落として丸まって眠っている。消えかけの焚き火に小さい流木を足しながら眺める。
「私たちは、先に戻ります。」
日の出前の東側を眺めて滝夜叉丸が言う。
「徒士で参りましたので、もう急ぐ時分です。」
眠たげな喜八郎の頭巾を、三木ヱ門が結んでやっている。
学園の光景に、ほっと和む。
「気をつけてな。」
「はい!では、お先に失礼致します。」
ほの白い夜明け前の闇へ、三人は駆け出してゆく。少し低く、その姿は林の中へ消えていった。
優しく、真剣で、屈託がない。四年生たちは中途編入組に独特の浮遊感があるが、皆心根が良く晴れ晴れとしている。年少者らしい可愛げもある。それでいて、これからの自らの成長を信じている。
示してやらなければいけないと思い直した。その役目が私だけにある訳でないとは思ったが、学園から指示された学びの機会なのであれば対応すると、以前私はこの口で言ったのだ。
思い返してみれば、閨のことを自分から先輩方に頼むことはなかった。どのように進めよう。「優しい先輩の手解き」というものを、私は知らない。伊作も、破瓜の時は手解きという状況では無かっただろう。
ふと、伊作の目が開いていることに気がついた。
「起こしたか。まだ休んでいて良いぞ。」
身じろぎをした伊作が、ぐうっと身体を伸ばす。小石は丸く、角のない砂利ばかりで、馬に積んであった薄い敷物だけでも充分に寝転べた。小石が擦れる硬度の高い音がして、伊作は仰向けに転がる。
私に目を向けて、両腕を広げた。
傍に寄って、膝をついて屈む。伊作が私の首筋に腕を絡めて、その中に引かれるまま伏して、伊作の腕に頭を預けて、隣に寝転んだ。
頬同士が触れ合う。
くるんと丸まる癖っ毛の髪が柔らかい。
いくつもの懸念を抱えていても、抱き締めてくれる伊作の腕の力加減に心が安らぐ。あたたかな首筋に額を擦り寄せて、鼻先でつつく。自然に唇をつける。喰むように唇を動かすと、伊作は小さく喉を鳴らす。
ふっ、と急に笑う。伊作のその笑い方は可笑しそうに声を詰めた感じで、なんだろう、と顔を上げる。
「昼に交わってた、って……
ああ、と喉で応えて苦く笑う。
「どのくらい見られていたんだか……気付かなかったな。」
「僕も……。夢中になっちゃう、仙蔵とだと。」
へえ?と瞳を見る。
「他の閨では夢中にならないのか?」
「忍務の閨はちゃんと嘘鳴きしてるよ。」
はっきり言われて少し面食らう。伊作は快楽を得やすい体質だろうと勝手ながら思っていた。
「私のした事におべっかで喘げるということにならないか?」
「ならないよ、毎回ちゃんと……あんな、何度も、で、出ちゃう、し……
語気がだんだん弱まって、伊作は赤面してしまう。
「仙蔵も、忍務で色を使う時は平気でしょ?」
「いや、…………
口籠もる。夢中にならないように気を回すというのももちろん大事だが、快楽の有無は技術にある程度左右されるものではないのか。
……えっ?あ、」
瞳を見開いて、伊作が私を見る。ぐっと抱き寄せられて、口付けられる。急に感情が盛り上がった様子の伊作は何度も口付けをしてきて、何をきっかけにそうなったかがわからなくて戸惑ってしまう。
「なん、だ、 伊さ、 んむ」
「ううん……
舌がぬろっと入ってきて、絡み合う。濡れて擦れ合う舌の、ほんのすこしのざらつきに気が向く。伊作の、さらっとして滑らかな唾液。上も下も綺麗に並んだ歯。やわらかな唇。確かめたくなってしまう。気がそこに向いて、集中してしまう。
「帰って、報告、したら……
「んむ、 ……ん、」
口付けのはざまで伊作が囁く。
「いいお酒を飲んで
 やらしいこと、しよう。
 起きたら、ちょっといいものを食べよう。」
どっ、 と、胸が鳴る。
……か、……構わないぞ。」
「だめ。」
そろっと私の首筋を伊作がくすぐる。ぞくぞくと腹の底に触れられているような繊細さで、優しくすり寄って、耳に囁く。
「『構わない』じゃないのがいい。仙蔵は、興味ないの?僕とやらしいことをするのは、もののついで?」
「違う、……
すぐに否定はしたが、次ぐ言葉は詰まった。ついでなんかじゃない。なんとか捻り出す。
……恥ずかしくて、誤魔化したんだ。名案だよ。私も、お前と私を甘やかしたい。良いものを飲み食いして満ち足りて、清潔な寝床で睦んだら……どんなにか心地良いと想像できる。」
「もっと、短く言って。」
私なりに答えた言葉に不満そうな声で追加注文をして、伊作はまだ唇を離さない。
「お前と、……やらしいこと、気持ちいいことを したい……
白く歩み寄っていた夜明けが、暁で金赤に照らされる。
薄青く、宵闇が引いてゆく。
やっと唇が離れて、伊作は目を細めて微笑む。嬉しそうな眼差し。緩んだ表情。昼間ここに到着した時は、焦燥感すらあった。伊作なりに、幾分気が晴れたのだとわかる。
「しよう。戻ったら、支度しよう。待ちきれないなあ。本当だよ。僕、本当に、仙蔵とこうしていて嬉しい。」
『嘘で、好きと言って』とねだった男が、今は幸福そうに『本当』と念を押す。
私たちが同じ場所にいることを、確かめるように。
二人抱き合っていることが『嬉しい』のだと、確信するように。
あの昏い瞳でもなく、焚き火に照らされた眼光でもなく、伊作の様子は落ち着いていて、憑き物が取れているような気もした。
……大丈夫、なんだな。」
伊作が私を抱き寄せる。ぴったりと身体が密着する。私の頬に横顔をつけてきて、産毛の感触がさらさら触れ合う。
「お寺で言ってくれたこと、何回も、何回も反芻してる。思い出す度に、どの言葉も、嬉しくなっていく。」
「嬉しく……?どれのことだ?」
伊作を喜ばせるようなことを言っていない。取り戻した怒りに任せた格好にはなったが、あの男に説教をしたつもりだった。仏門にあって私欲で犯した子どもを『仕込んだ』などと言い、町ぐるみで子どもを食い物にしていたことを恥じろと、誰かが指摘するべきだと思った。
「思い出す度、格好良くて、目が熱くなるんだ……
ぎゅうっと、伊作の腕に力がこもる。
「本当のことしか言っていないぞ。」
「だったら尚更だよ。仙蔵、格好良い。」
うりうり、甘えた仕草で伊作が頬を押し付けてくる。
「助けてくれて、ありがとう。」
……どう、いたしまして。」
ちゃんと嬉しそうな様子に少しホッとして、反論するのは諦めた。私は、伊作を助けたのか?まだ懸念は残っている、そのことが、私の後ろ髪を引く。
「神様仏様って、なかなか助けてくださらないって思ってるんだけど……、仙人様はおられるのかも。」
きっと私を示している『仙人様』に、気が抜ける。

真っ赤だった朝焼けが空色に馴染んでゆく。休ませていた馬が立ち上がり、川で水を飲む。
焚き火はいつの間にか消えてしまっていた。
……行くか。」
「うん。帰ろう。」
腕をお互いに緩めて、私が先に立ち上がる。
伊作も立ち上がって、敷物を畳む。荷物を、着衣を整えて、風呂敷包みを背負う。
私は焚き火の燃え残りがないかを点検して、置いていた風呂敷包みを背負い直す。置き忘れた荷物がないかをそれとなく見回しながら、馬の元へ歩いてゆく。
「帰りは僕が手綱を取るよ。」
「そうか?では頼む。」
私が前で横乗りに、伊作が後ろに跨って帰路へ騎乗する。馬は元気で機嫌も良く、伊作は緩やかな速度で道を進んでいった。夜通し起きていた私を気遣って、楽にして、と伊作は微笑む。伊作の肩に頭を預けて、馬の揺れに任せた。


学園近くで先に出た四年生たち三人に追いつき、伊作は喜八郎の怪我を気にして馬を降りた。
「僕たちと君たちはそこで会って応急処置をした、いいね。急いで医務室に行こう。」
私にどう連携するかを話さずに、伊作は喜八郎に話しかけ、振り向いた喜八郎はさして驚かず「はぁい」と返事をする。門が見えるところまで来ると、清八さんの姿が見えた。
「私は馬を返してくる。伊作、喜八郎を頼む。お前たちもありがとう、先に戻れ。」
伊作は頷いて見せて、急ぎ足で門へ向かった。
「はい!お疲れ様です。」
「お先に失礼します。」
滝夜叉丸と三木ヱ門の返事を聞いて、私は馬を急かす。ととっと軽く駆けて、清八さんが私に気付く。
「元気に戻られましたね。」
「お陰様で。待たせている間も大人しく、助かりました。」
お礼を伝えると清八さんは嬉しそうに笑った。なるべく優しく馬を降りて、手綱を返す。
「お代は後日請求になってますから、これで大丈夫です。」
「お世話になりました。またお願いします。」
頭を下げて、門へ振り向く。
皆学園内に入ったあとで、私を小松田さんが見守っていた。小走りで門へ向かう。
「入門表にサインを!」
「はい、只今戻りました。」
台帳を受け取って、記名する。連なる伊作と四年生の、筆跡が可愛い。
「おかえりなさい。お疲れ様。」
顔を上げると、小松田さんはほっと安心した様子で口元を緩めていた。
ひとつ、肩の荷が降りた気がした。

・ ・ ・

戻った足で、そのまま医務室に向かった。
「ええっ……一週間ですか?!」
喜八郎の声がかなり大きく聞こえて、何となく察する。
「失礼します、立花仙蔵です。」
声をかけると歩く音が数歩して、引き戸がスラッと開く。すぐそこに立っているのは伊作で、その先には喜八郎と新野先生が座っている。
「そうは言ってもねぇ、骨だから。そもそも痛むでしょう。」
「けど、右手は使ってはならないなんて……
喜八郎はかっくりと項垂れて、つられるように伊作が表情を曇らせている。
「読書の課題を出しますから、よく読んで、感想を言いに来てください。それまで、今出ている課題提出は保留。職員室で共有しますから、実技の授業も本を持っていって、読書に充てるように。」
さらさらと半紙に書き始める新野先生の手元を見て、喜八郎はもう一段暗くなる。遠目に見ても、なかなか難しい表題ばかりだ。軍記や兵法の本もある。感想を述べる、とは、なかなか重い課題となってしまった。
「では、私はこれで。伊作くん、塗り薬はそれ、もし発熱したら飲み薬は上の段右から二番目。食事指導をよろしく。」
「はい。ありがとうございました。」
「よく寝てよく食べて、運動は散歩と体操、ゆっくりなら長距離走もいいですが、よく注意して、拳を強く握らないように。」
新野先生は伊作と喜八郎に交互に言って、医務室を出て行った。
「喜八郎、食事の指導があるから食堂に行こう。仙蔵すまない、まだ用事があるんだ。」
「そうか。様子を見に来ただけだから……、喜八郎を頼む。」
すっかりしょげた顔色の喜八郎に苦笑して、医務室は後にした。

やや急ぎ足で六年長屋へ向かう。軒先で、留三郎が手裏剣打ちのための的を作っている。
私の気配に直ぐ気付き、声をかける前に顔を上げる。手元に集中していた時の表情から、うって変わって不安に曇る。私の横に伊作が居ないことが、心を揺らしてしまったらしい。
「仙蔵!伊作は……
立ち上がりかけた留三郎に苦笑してしまう。話しやすい距離まで歩み寄り、そわそわした表情のために軽く微笑んでやる。
「怪我ないよ。帰りに野外演習の四年生と合流してな。喜八郎に怪我があったから、付き添いで医務室だ。」
あからさまに安心した表情を見て、こちらも安堵が込み上げてくる。無傷で良かった。どちらかが、あるいは二人が刃傷沙汰などとなれば、怒るどころの話では無かっただろう。
「無事で良かった。この後、留守番組で支度するから食事の心配はいらないぞ。忍務の報告書もあるだろうし、何より疲れているだろう。」
「四人でそういうのは珍しいな?しかし助かるよ。」
ふと、他の面々を気にして辺りを見回す。
「長次は委員会、小平太と文次郎は『肉を食いたい』と言って、弓背負って裏裏山に出かけて行ったよ。」
私の視線だけで、何を気にしたかに気がつくのか。どちらが先に言い出したかはわからないが、気合いを入れる時に肉を食う二人が、そう動くのか。
「私と伊作に何かあった場合、というのを相談したか?」
「伊作が、何日も前から今日の忍務を怖がっていたろう。聞いたとて守秘義務もあるし、と構わないでいたが……
少し言い淀んだ留三郎は、やや陰りのある調子で一呼吸置いて話を再開した。
「小平太も、長次も、聞いてみれば『伊作の調子は変だ』というし、モンジの奴も……仙蔵が伊作と話していないと言うし。だから、今日の昼餉を食べたら、もう出ようとしていたんだ。」
「今日の深夜が目処と言っていたじゃないか。」
甘く見られたのではない、そういう予感はあったが、つい反論した。
「そうなんだが……虫の知らせというか。だから、良かった。」
しおらしさを含む留三郎の様子に、それ以上の文句を付ける気は起きなかった。あやふやながらも口元には喜びが滲んで、ふつふつと噛み締めるような表情だった。
この男に、伊作はきっと言わない。
深い好意と、無垢さ、真面目さ。
痛いほど伊作を想っているのは見て取れるが、伊作が抱えているものを本質的に理解する日は、この男には来ない。けれど、きっとそれでいい。別の生き物だからできる支え方があり、違う思考があるから思い付く手段がある。
同級生六人にそれぞれ個性があり、お互いが全てをわかり合うことはできない。皆同じ出来栄えであることが良いことではない。
皮膚という壁があり、私たちの本質的な部分は、どんなに絡み合っても交わらない。
そのことを、この男は知っていても理解していない。
「報告書を書いてくる。もし私を探す者がいたら、部屋にいると教えてくれ。」
「わかった。もう一息だな、頑張れよ。」
六い部屋に入り、引き戸をぴたりと閉じて、息を吐く。
文机に向かい、筆を取った。
記憶の限り、書かなければ。
寺の誂え、建造様式、仏像の佇まいを、
寺務所で読めた記名帳に連なる名前、取引先、地域名を、
町を束ねた住職が、もういないことを。


・ ・ ・


「仙蔵!部屋にいる?」
報告書を書き終え、縁側を歩く気配に顔を上げた先に、伊作の声が響く。
「いるよ。入ってくれ。」
引き戸を開け、そろっと入ってきた伊作は早々に戸を閉じた。
「見るか?報告書。」
「いいのかい?」
驚きに瞬く伊作の瞳。我の強そうな、綺麗な眉。豊かな表情を強調する唇。私の、可愛い、大切な、同級生。
「いいよ。共にこなした忍務なのだから、お前も内容を知る権利がある。」
「出がけはなんにも教えなかったじゃないか。秘密の話があるんだと思ってたよ。」
「それは、悪かったよ。」
文机の右側に寄り、私の左隣へ空いた空間に伊作が膝をつき、正座する。報告書をじっと見て、手繰り寄せて、めくる。こういう時伊作には速読のケがあり、画面記憶とまでは行かないが、目玉が上から下へ往復するのが妙に早い。二枚目を、三枚目を、伊作の視線がなぞる。四枚目、最後の報告書を読み終わる。
神妙な表情で、何かを探している。私に顔を向ける。
……七年前のことは……
……今回の報告には必要ない。」
伊作のぐっと起きていた背が丸まる。脱力する。そっと文机に報告書を押しやって、震える息を吐く。
ぐん、と、肩を抱いた。
……ありがとう……
「必要ないだけだ。だから、気を利かせたということでもない。」
不意に、つっと伊作が顔を上げ、寄せてくる。ふにっと押し付けるように唇が重ねられる。
「狩りから、帰ってくる前にしよう。」
「んむ、 ……な、何をだ。」
「目合いだよ。」
息が詰まる。咽せるところだった。
「性急すぎる。明日、茶屋に行くぞ。お預けだ。」
……真面目だ、仙蔵。」
「そういう茶屋に誘ってるんだが、わからないか?」
ぶわっと前髪が浮きそうに、伊作は驚いた顔をする。
「それって、つまり……
「目合う二人のための、間借りをしに出掛けるぞ。」
わかりやすい言葉で言い直すと途端に、伊作はしおしおと座り直して、耳を赤くして照れてしまった。今そのまま此処でする事になるのでは、という気配すらあったのに、俯いて、両手で自ら耳に触れる。
「お前だって用があれば行くんじゃないのか?」
「仙蔵から、……僕とする為に言われるの、こそばゆくて……
毎度不思議に思うが、いつもの調子だ。私に性欲を向けておいて、何度と寝ておいて、私を清廉に扱う。
戻ったら支度しようなどと言っていたのはそこそこ本気だったとわかったが、自分で何かを言わせるのは良くても、『立花仙蔵が自発的にいやらしいことを言ってくる』のは別物らしい。

……あっ!おかえり!すごいな、鴨か?』
軒先から、大きく張る留三郎の声がする。
『何だぁニヤニヤと……、仙蔵と伊作は?怪我ないか?』
『さっき戻った!大事なさそうだ。』
文次郎たちが帰ってきたらしい。伊作がモゾモゾと離れて、私も抱いていた伊作の肩を離す。
『私、焼きやすいように切ってくる!』
『俺もやろう。トメ、火を支度してくれ。』
『ん。』
会話を、つい黙って聞いてしまった。伊作に目をやると、私を見て笑った。そっと立ち上がる伊作を目で追う。引き戸を開けて、い部屋を出てゆく。
「ただいま!文次郎、小平太……、わっ、鴨、何羽獲れたの?」
「三羽!」
得意げな小平太の声が、朗らかに響く。私は報告書を、ぴっちりと折り目をつけて畳む。懐に入れながら立ち上がる。
部屋を出て、その先の楽しげな同級生たちを見る。軒先を長次が歩いてくる。
……おかえり。」
「ああ、ただいま。私たちは怪我ないよ。留守番組はどうだった?」
長次は薄く笑って、
「今の、逆だ。」
夕食の支度を分担する三人を、笑顔の伊作を、並んで眺めた。
「元の通りになって良かった。」
「いや……
否定されて、ふと長次の横顔を見上げる。
……新しくなった。」
「え?」
長次は縁側を降りて、歩いてゆく。
「ちょーじ!委員会終わったの?」
嬉しそうな小平太に、長次は小声で返事をしている。
「仙蔵!」
文次郎に呼ばれて、視線を向ける。
「お疲れ!」
「ありがとう!報告書を出してくる!」
おう!とか、行ってらっしゃい!とか、各々私を見送る言葉を投げかけられた。あんなに不快で、あんなに苛々した忍務だったのに、こうして慣れた面々に囲まれてしまえば心は凪いで、穏やかに丸まってゆく。
軽く手を振って、提出に向かった。


・・・・・


その日の午後は、留守番組四人で鴨三羽を余す所なく調理してくれた。
長次が読んできた料理本を元に、クズ肉や刻んだ筋は、首や骨で取った出汁で鴨団子とネギの汁になった。文次郎は皮・心臓・砂ずり・肝臓を塩とすだちでよく下ごしらえをして、食べやすく切り分け、串を打ってくれた。小平太は腿や手羽、ささみ、胸など肉質を見ながらバラしてくれた。串とバラした肉は、留三郎が即席で組んだかまどで丁寧に炙られた。
伊作が食堂でおむすびをもらってきてくれて、かなり豪勢になった。鴨肉は一人あたり半身ほど分けられ、全部の部位を食べ比べられた。串焼きになった心臓は、塩加減もよく美味しかった。汁もいい味で、おむすびと交互に食べた。食事を終えるのが惜しい気持ちだった。

「昨日の鴨、今思い返しても美味しかったな。」
「お前が肉のことを言ってくるとは珍しい。」
算盤を弾く手を止め、文次郎が振り向く。
「今日も、外出か?」
私服で、髪に櫛を通しているところを不思議そうに指摘する。
「買い物に行ってくるよ。林の先の町。」
「そうかあ……
少し気の抜けた声に笑ってしまう。文次郎へ振り向いて、表情を見てやる。
「何だ、寂しいか?」
「まあな。昨日は早々に寝てしまったし。伊作が一夜でああも変わるのだから、今日には話してもらえると思っていた。夜には聞けるか?」
よく見ている、と思う。
私のことも、伊作のことも、とても気にしてくれていた。留守番組との会話の端々に、昨日一日で何度も感じた。そして今の文次郎も、さりげなく聞いてくれているが、きっとこの男なりに言葉を選んでいる。
文次郎の瞳が、寂しいと訴えている。
微笑んで見せる。立ち上がって、そばに歩いて行く。隣に膝をつく。指の背で頬を撫で、そのままごく軽く耳までくすぐる。
それでも文次郎は、私の目を見て、山なりに瞼を開いて、じっとしている。しっかりした鼻柱、ぴっと閉じた薄い色の唇、骨格の綺麗な顎。男前で優しい、私の同室。
「守秘義務のある話だから全部は言えないな。」
屈んで、額に唇をつけた。
「部分的には、聞けるのか?」
「とんちを利かすな。伊作に探りを入れたりもするなよ。」
真面目に言うと、少し唇に不満が見えたが、頷いてくれた。
もう少し屈んで、口付ける。ほんの少し触れるだけで、文次郎は文机に向き直った。
「買い物、良さげな甘味があったら買ってきてくれ。」
「わかった。良い子で留守番を頼むぞ。」
そっと立ち上がると、文次郎は私の出しな、顔を向けて、口許を緩めて、手をひらっと上げた。
「じゃあ、行ってくる。」
い部屋を出て、引き戸を閉めた。
妙に胸が苦しい。妙、としか、言えない。は部屋へ歩いてゆく。私の足音を聞いてか、さっと引き戸が開く。すっかり支度を終えた伊作が顔を出して、はにかむ。
「留三郎!行ってくるね。夜には戻ると思う!」
「夕餉は食べてくるのか?」
「そうだな。外で食べなくとも何か買ってくるよ。」
横から答えてやって、そこそこ時間がかかりそうなことを気取らせる。
「そうか……。まあ、わかった。気をつけてな。」
「僕らが居なくても、文次郎と喧嘩なんかしちゃダメだからね?」
ぺぺっと払うような仕草で、留三郎が苦い顔になる。
「あいつがちょっかい出してくるんだよ。ほら、早く行ってこい。」
「うん!行こう、仙蔵。」
楽しげな伊作と並んで、正門に向かう。いつも通りに戻ったのではないと、長次は言っていた。伊作の横顔を見る。目が合う。
「どうかしたかい?」
「いいや、何でもないよ。」
正門に着いて、小松田さんの差し出す出門表に記名する。立花仙蔵。善法寺伊作。
「今日はお買い物ぉ?」
「はい。外泊にはならない予定です。」
「そっか。気をつけてねぇ。」
行ってきます、と門を出て、軽く会釈する。小松田さんが手を振ってくれて、林向こうの町を目指す。市場があって、神社があって、その裏にそういう茶屋がある。
歩調が、いつもより早い。伊作が駆け出してしまうんじゃないかという速度で、私を少し置いて行っては振り向く。
仔犬の散歩みたいだ、と思いついて小さく笑う。
「? なあに、仙蔵。」
「ご機嫌だな、と思って。」
ちょっと行って、振り向く。はにかんで、まるで急かすようだ。風呂敷包が歪に出っ張っていて、ちゃぷんと鳴った。
「おや、酒は持ってきたのか。」
「うん!開けてないのを一つ持ってきたよ。」
「また貢ぎ物か。可愛がられているな。」
「雑渡さんは僕に貢いでる訳じゃないったら。僕が手持ちのお金で買うよりずっと良いものに決まってるから持ってきたんだよ。」
「それはそうだ。」

他愛もない雑談をしながら、林を抜け、すぐ町が見えてくる。小さいけれど活気があり、ちょっとした買い物は学園の者も皆ここに来る。
往来にはゴザを敷いただけの露店もあり、ついつい眺めてしまう。
「何か買うのかい?」
「買い物と言って出たからな。紅と、手土産を……
町に入っていきながら、行きつけの店の方へ歩いてゆく。往来に人が多く、老人を避けようとしたらしい伊作がふらついて、私の腕に掴まる。その感触に顔を向けると、伊作は笑顔を見せて、歩き続けた。
店に入ってようやく手が離れる。なんとなく面白くなかった。今のは自分よりも大きい者にする仕草だ。けれど伊作が低学年の時から今まで、ぺたぺたと甘えるような先輩は居ない。
「色数多いね!僕、ここは初めて入った。」
棚を見て楽しげに物色する伊作は、なんだかのびのびしていて甘やかだ。伊作の健康的な肌、ひなたに透かしたような栗毛。そこに当て嵌めるなら、どんな色かと想像する。棚を見る。
「お前なら、こういう……暖かい色がいいんじゃないか。」
鬼灯色、紅緋色。小さな二枚貝の内に詰められた紅を指す。
ふと伊作の手元を見ると、撫子の花を思わせる、淡い紅を手に取っていた。
「薄い色が欲しいのか?」
「仙蔵に合いそうって、見てたんだ。これ、持ってる?」
予想しなかった言葉に一瞬詰まって、いや、と小さく答える。伊作はぱっとはにかんで自分の手元の紅を見つめ直した。
「僕はこれ、仙蔵に贈るよ。」
……お前は、どちらかを持っているか?」
自然と選び合っていた。その事がこそばゆくて、気取ることもできずに問う。
「こっちの赤みが強いのは、持ってるものに似てるかも。」
「では私はこれを、お前に贈る。」
鬼灯色の紅を取り、店主に声をかける。それぞれ会計をした。店を出て、伊作が私に包みを差し出す。それと交換するように、私の包みを渡す。同じ値段、同じ店の、似た器の、色違いの紅を贈り合った。
……紅を贈り合うなんて、はじめてしたな。」
「僕も、そうかも。」
何でもない事だ。今までに無かっただけ。それでもこの『はじめて』を指摘してしまった。懐に包みをしまう。
「あっ、あとは、甘いもの?何がいいかな。お団子とか、お煎餅の甘いのとか?」
「煎餅、いいな。帰りが夜になると、団子では固くなるかもしれん。」
どうしてかくすぐったくて、ぎくしゃくと話した。煎餅屋のある通りに向かう。ぼうろにも似た、卵が焼ける香ばしい匂いが漂い、その先では瓦煎餅が売られている。
不意に、伊作が私の手を握って誘導する。駆け回る小さい子供がいるのに気が向かず、私の脚に絡まるところだったようだ。
びっくりした顔の子供に屈んで、大丈夫?と問うている。
「平気みたい。行こう。」
私を見上げて、笑いかける。握った手を引いて、煎餅屋の軒先へ歩いてゆく。紙袋に詰まった瓦煎餅をしげしげと眺めて、表情を緩ませる。
「いい匂い……。仙蔵、買わないの?」
「ええと……、その袋をひとつ。」
買い物が終わる。
こんなにこそばゆいのは、どうしてだ。
そろっと、繋がれていた手が離れる。考え事をしている間に、伊作も煎餅を注文したらしい。店主に銭を渡して、紙の包みを受け取っている。
「留三郎、喜ぶかなぁ。」
……あっ、長次と小平太には……
「今日は二人で忍務だよ、昨日ご飯の時に言ってた!」
ぱちっと目が合う。
……ならいいか。行こう。」
口元がむずむずする。良いものを食べた。良い酒を持ってきた。私たちはこれから睦む。今までは、事前に理由があったか、目合うかどうかの確認が直前だったか、なし崩しだった。
途中、水売りを見つけて二つ買う。竹の水筒に沸かした湧き水が詰められているという。課題の閨で伊作に用意してもらった湯冷ましが妙に美味しかったと思って買ったが、そこから伊作はもごもごと俯いてしまった。
神社への道を歩いてゆく。鳥居はくぐらず、脇道を歩いてゆく。軽食を出している茶屋や、古着売りの露店など、普通の店が続く。だんだんまばらになったが、少し先に小綺麗な水茶屋が見える。
店の軒先には立っているものは居らず、浅葱色の暖簾をくぐって、すぐの階段を登る。しんと静かで、客は他におそらく居ない。廊下からは、部屋が三つ並んで見える。松、竹、梅。
松の部屋を開ける。引き戸は滑らかに開いて、すぐの足元に盆があり、八十文、と書かれている。部屋を見回すと、板の間だが布団は厚く、そういう空間の割に綺麗だ。香としてひのきを炙ったようで、鼻梁に届くしんとした香りが沁みている。簾のかかった窓枠から、外気が流れてくる。
草履の紐を解き、部屋に入る。草履は裏を合わせて紐を一括りにまとめ、引き戸のそばに置いた。
伊作も同じようにして、部屋に入る。草履を置く。盆の前に膝をついて、懐に手を入れる。小さな布袋から銭を取って数えている。
「半分、あるか?」
「うん、四十、 っ」
私も金を払わなければと懐から紐通しの銭を出すと、ちょうど四十文があった。この為に用意したようで気恥ずかしいが、ガチャガチャといじるのが嫌でそのまま盆に置いた。
伊作も数えた銭をそこに置いて、八十文が乗った盆を、廊下に出して引き戸を閉める。
「来た事、あるの?」
伊作に顔を向けると、目が合う。耳が赤くて、何か言いたげで、恥ずかしそうだ。
「ああ、竹の部屋に……
「誰と?」
「忍務だ。」
耳を伏した仔犬のように、私を見上げる。何を思っているんだ。どういう感情だ。叱っていない。意地悪も言っていない。
……伊作。」
屈んで触れようとした。
その瞬間、飛びつくように抱き付いてきた。

きつく抱き返した。

心臓が苦しい。

私のこの気持ちがどんなものなのか、わからない。

ただ、
ただ胸がいっぱいで、声を上げたい気持ちだった。
ここが秘めやかな茶屋だから、飲み込んだ。
お互いに、三年も前から欲情していて、貪り合う生き物にならなかった。しなかった。綺麗で優しい存在のフリをし合った。
汚いオスだと思われたくなかった。
友達のまま、交わえた。
お互いが綺麗な甘い被食者の顔で噛み合った。
臭くて苦い汁で相手を汚すだけではなかった。

証明だ。

私が私を厭うことも
私が私を許すことも
同じように交わったお前が証明してくれる。
男を、雄を、我が身を穢らわしいと、思わなくて良い。
私に不用意に触れる望まない手を、嫌がって良い。
私を好いて、触れてくれる手を、拒まなくて良い。
私が欲しいものに手を伸ばして良い。
御膳立てされなくても、選んで良い。

授業や、課題じゃなくても。

忍務でなくとも。

腕の中の伊作が身じろぎして、そろっと腕を緩めて、目が合う。はむっと伊作から唇を重ねられて、そのまま口付けを深めて、舌を絡め合う。
きつく縋り合った。
私の、証明。
何度も何度も口付け合って、身体の前側がもっと触れ合うように縋り合って、すっかり身体が熱くなって、絡み合う脚で、腿で、お互いが興奮していることをわかり合った。
みし、と、階段を登る気配がして、伊作が固まる。口付けが止まってしまって、ふっと笑う。
私たちと引き戸一枚隔てたところまでその気配は歩いてきて、戸に紙切れを挟んで、盆から銭を拾って、戻って行った。
「お勘定だ。」
…………そっ、か。」
はふ、と伊作の気が抜ける。
……布団に行こう。」
伊作は頷いて、腕を緩める。
私たちは立ち上がって、荷物を下ろした。どちらからともなく、互いに袴紐を解き合った。脚半を解き、袴から脚を抜く。上衣の紐を解く。伊作の手が、私の肋骨に触れる。壊れ物のように、そろっと、確かめるように。
屈んで、胸骨に唇をつけられる。せっかく立ち上がったのに、伊作は私に構いたがって、またそこに膝をついて、甘えるようにぺろぺろ舐める。私の胸。私の腹。私の臍。平たい赤い舌が、あまり水分を絡めずに私の身体を確かめる。
柔らかくて、少し大きめの舌。口腔に奥行きも幅もある。並ぶ歯は一粒一粒が白くて大きい、狼のくち。
伊作が、瞳で笑う。嬉しそうに私の腹に頬擦りをする。稚い表情に気が緩んで、両手で頭を撫でてやる。可愛い、優しい、甘えん坊の私の仔犬。
そうして幼い顔をしながら、褌と腰の間に伊作の指が這う。私の腰の結び目へ両手を伸ばし、その指に解かれてしまう。ぷつっと緩んだ感触。私の魔羅に、褌越しに伊作が頬擦りをする。布の端を噛んで引っ張って、取り払う。
まだ半勃ちの竿に頬をつける。鼻先でくすぐる。縮毛を嗅ぐ。
……そんなところ、嗅ぐな。」
「だって……汗の匂い……
幸福そうに言って、べろっと袋を舐める。伊作の左手が私の竿をゆるく握って、扱く。
「舐めたら、弱まっちゃうから……
ぬろっと亀頭を咥え込まれる。そこが満ちて、膨れてゆく。反って、張ってゆく。
私の裏筋を、左右にくすぐるように舌が蠢く。つっと寄ったところを確かめている。
会陰の裏が、じんじんする。
ん、ぅ、と小さく声が漏れる。
きゅうっと引き締まって、あんなに感慨深かったのに、私は当たり前に勃起しきって、伊作はそういう顔をしている。瞳を蕩かせて、うっとりと私の魔羅を咥えている。
……いさ、……っ ん、 ……布団……
「あ、……うん、行こっか。」
申し訳なさそうに笑って立ち上がった伊作が、先に部屋奥へ行って掛け布団を剥がす。
そろっと敷布団に上がって寝転んだ伊作は、私が行くのを待って、こちらを見ている。歩いて行って、四つ這いで布団に上がる。伊作の太腿を撫でて、さっきされたように、褌と肌の間に指を滑らせる。
伊作の褌も山になっていて、屈んでそこに口付ける。
布越しに、もう汁を溢れさせているのがわかる。
柔らかな平織りの木綿地。学園で支給される、名前を書いた六尺褌。膨らんで、時折ひくんと動く。
「お前も、苦しそうじゃないか。」
きゅっと唇を結んだ伊作が私を見守る。視線を感じながら、伊作の腰の結び目を解いて、褌を寛げる。ゆさっと、勃起した魔羅が現れる。指を這わせて、くぱっと鈴口を開かせる。
ふっ、と息を吹きかけると、伊作はびくりと太腿を震わせた。
見守られながら、とろっと口に含む。舌と上顎でぴったりと挟み、雁首を唇で扱く。
「っ んぅ」
私が舐るのが見えるように、私の舌が覗くように、横目に伊作を観察しながら深く口腔内へ迎える。
モゾモゾ動かれて抵抗されるのかと思ったが、伊作は上体を私の方ににじり寄せ、私の太腿に触れ、上衣の裾を払った。
「なめ、たい。仙ぞぉ、 ……舐めっこ。」
そんなことは初めて言われたと思う。
舐めろ。
しゃぶれ。
咥えろ。
その全てと違う。
私に口淫されながら、以前はちょっと舐められただけでふにゃふにゃになっていた伊作が、這いつくばって私と上下入れ替えの体位を目指す。膝を絡め取られて、私もさして抵抗せず脚を開く。
横向きに寝転んで、陰陽太極図のように向き合って、私たちはお互いの局部へ顔を埋めた。お互いが夢中になった。うすしょっぱい味も、舌に絡む粘度も、浮き立つ血管も、皮の下で増してゆく硬さも、そのどれもが嬉しくて可愛くて、たまらなかった。そうしながら、私を口淫する伊作の舌が熱くて、思考力が落ちる。裏筋がひくひくして、睾丸がきっと膨れている。
「せ、 んぅ、きもち ぃ」
「いさ、 ……あんまり、吸うと っ、でる」
「のみたい」
伊作が頭を前後させて、具合良く吸って、これをされ続けるとすぐ達してしまうと思った反面、伊作もこれをされたいのかもと閃いて真似をする。口に空気が入らないように口腔内を密着させて、唾液と我慢汁を混ぜて、なるべく濡らして、なるべく吸って
「せ、 だ、だめだめ でちゃ」
離さない。私も伊作もほとんど一緒に達した。んぐ、と呻きながら、お互いが同じように零すまいと喉奥に受けて、飲み下す。
はあ、はあ、と荒く息が響く。
何とか起き上がった伊作が、私の手に触れる。私に屈む。私に口付ける。
「今日、は、……油、持ってきたんだ、僕……
ぼそぼそ言われて、くっ、と笑い出してしまう。わからない顔をして、伊作が私を見る。
……悪かったよ、揶揄って。そんなに根に持つな。」
ぷい、と顔を背けて、伊作は起きて油を取りに行く。私も上体を起こして、上衣を脱いで、あまり皺にならないようにと振り捌いて放る。手甲を外して、棒手裏剣とまとめて枕元に置く。
伊作はさっき買った水も持ってきてくれて、枕元に竹の水筒が二つ並ぶ。油壺と、酒と、お猪口二つも、そこに並んだ。
「ありがとう。しかし、……お前とは、夢中になるな。」
伊作に任せて、私は枕に頭を預けた。もう髪紐以外は何も身につけていない。なんとなく下半身にだけ、掛け布団を引き上げる。
「相性みたいなものがあるのかなあ。」
戻ってきた伊作も上衣を脱いで、手甲を解いて、布団の外に置いた。髪紐も解く。結び癖で後頭部に浮く栗毛を、ぷるぷる横に振って降ろす。
「大きさとかか?」
「仙蔵って意外と……情緒ないこと言うね……
珍しく冷ややかな顔を私に向けながらも、伊作はするっと私の背を抱く。並んだ枕の空いた方に頭を預けて、鼻先が触れ合う距離に横たわる。寝転がって、触れたところも、近付いたところも、体温が伝わる。
……忍務で、夢中になっちゃったことも、あるんだっけ?」
「失敗した訳じゃあないぞ。怪我もしなかった。予定よりも、時間はかけてしまったが。」
興味深々の様子で、伊作が続ける。
「どんな事、されたの?どうなったの?」
こんな事は、文次郎でも問うてこない。共に行う忍務であればこそ、こんな事に興味を持って、しかも聞いてくるのはこの男くらいのものだろう。
……守秘義務。」
む、と頬を膨らませて、拗ねた顔をする。そんな顔をしたって教えないものは教えない。沈黙していると、本当に不満そうな声で呟く。
……僕より、よかった……?」
「お前の方がずっといいよ。」
即答してしまって、私の方がびっくりした。
伊作は満足気に笑って、私をきゅうっと抱き直す。伊作の腰に腕を回す。
触れ合う肌が、あたたかくて、無防備で、気持ちいい。布団の、さらっとした布地と、沈み込む感触。口付け合って、脚を絡め合う。半勃ちの魔羅がお互いにそこにある。
伊作に背中を弄られる。こしょこしょ脇を触られて、ふるっと反応してしまう。細く呼吸を震わせる。
抱き合うこと、口付け合うこと、まさぐり合うこと、全てが心地良い。忍務の閨なんかと比べようがない。一つの汚れもなく、一つの澱みもなく、一つの義務感もない。
「はじめて、みたくしよう。今度、はじめてを教えるんだし。」
「これが武器の一つと言えるのに、今更じゃないか?」
唇を触れ合わせる。
「舐め合って飲み合うのだってはじめてだったし、きっと、あるよ。まだしてないこと。」
「破瓜なんて、お前も滅茶苦茶だっただろう。教えてと言われて、よく引き受けようと思ったな。」
くちゅ、と音を鳴らして、伊作が舌を絡めてくる。わざとだろうと思うくらいに、水音がする。
「そうだけど……。仙蔵とのはじめては、僕にとっては……全部良かったよ。綺麗な包みを開けていくみたいだった。中身は、本当の僕には手の届かない宝物だった。」
口付けの、はざま。はじめての、課題のために寝た夜を思い返す。
「それは……お前とのはじめては、私にも良かった。優しくて甘い匂いの……こどもの狼が、私に懐くようだった。」
半勃ちの竿を束ねるように、ゆるく握り込む。伊作は相変わらずたっぷりと汁を垂らしていて、"向いている体質"というのがあれば、この男はそうだと思ってしまう。伊作の垂らす我慢汁でまとめた竿を扱く。口淫で今し方果てたばかりなのに、欲に抗えず何度も往復してしまう。
……っ、ん、 う……
伊作は私の舌を吸いながら、腰をひくひく震わせる。私も伊作も、またぴっちりと勃起して硬く腫らせてゆく。
ふるふる震えて、感じ入って、私に縋る。絡み合う舌が覚束ない。ぽうっと見てしまう。きゅっと瞼を閉じた伊作が懸命に舌を出してくる。優しく吸って、口に含む。
「はじめての閨、お前はいい匂いの足湯をしてくれた。たくさん触って、舐めて、お前は私が勃起するのを見て、嬉しそうにしていたんだ……
……課題のこともあったけど、……僕のすることで、仙蔵が……気持ち良いのが、嬉しくて……
ふと、手が止まる。最初から、そうだ。何度も寝たのに、きっとずっとそうだ。
「そうか……
また手淫を再開する。あう、と伊作が喘いで口付けが離れる。
「お前は、私を女扱いしないんだな。」
困ったような顔をして、快感に潤んだ瞳で、伊作が私を見つめる。
「仙ぞぉ…………?どうして?」
男のまま抱かれて、男のまま抱いた。私とこの男は、どこまで行っても対等だった。陰間か女郎と言った時は、伊作は私を陰間と言った。孕めとか、ぼぼとか、私を女の代替にするようなことは、一度も言ってこなかった。
破瓜などと言ってしまった。
私はきっと、女の代替のようにされるのも、嫌だったのだ。
「仙蔵は、……何となく色への捉え方が似てるかもっていう気がしてて……。だから、僕個人を関係なく……触れ合えると思ってて……
うん、と聞きながら、兜合わせを愛でる手が弛む。
「僕が、すること……全部を、喜んでくれて……うれし、くて、抱いてくれる時も、本当に欲しくて……
声が震える。
「僕……、お寺で、早く終わって欲しくて、『ちょうだい』って、『ください』って言ったんだ。仙蔵には、本当に欲しくて言ったけど、だから、違くて……
口付ける。
……僕と、したい?」
唇を合わせたまま、震える声で伊作が言う。
「ああ。私は、伊作としたい。」
「もう、課題じゃないのに……?」
「課題じゃなくたってしたい。」
伊作を組み敷く。油壺に手を伸ばすと、伊作は脚を開いて、右脚を抱えた。簾越しに陽を遮った部屋でも、お互いの身体は全部が見えていた。真っ裸で、逢引きのための部屋で、私たちは触れ合っている。右手に油を垂らすと、以前に使ったものとは違うもののようだった。
「これ、何か入っているか?」
……花を……漬けた……だけ……
確かに花の匂いがする。ふわりと甘く、芳しい。
「何か効果がある花か?」
「ない……。いいにおいだから、せ、仙蔵とする時に、……いいかなって……
あんなに医療に夢中の男が。あんなに植物の薬効に夢中の男が。私との閨に、香りだけの花を油に漬けて持ってきた。
課題じゃなくっても枕を交わしたいと、交わせるようになったと、より良い寝所にしたいと、そう思って、この男も私もここに来た。
はじめてみたいに、優しくしよう。
伊作の局部に広く油を塗って、馴染ませる。会陰も、睾丸も、尻の谷間も、三つ指で丁寧に塗り込む。やや粘度の高い油で、伊作は上体を少し起こして、私が触るのを見つめている。
「痛かったら言うんだぞ?」
穏やかな調子で問うが、伊作は耳を赤らめて、じっと真剣に言葉を選ぶ。
「痛かったことなんか、ないよ……
きゅっとした皺に油を塗り込める。指先を潜らせる。私の右手中指が伊作の中に沈む。伊作は静かに呼吸している。
……いい匂いだ。」
「うん……
浅く往復する。伊作の中の腹側へ、中指で丁寧に油を広げてゆく。はふ、はふ、と伊作は呼吸が乱れるのを耐えている。
……好きなところがあれば、教えてくれ。」
「そこ、……仙ぞぉ、知ってるとこっ……
きゅうっと枕の端を掴んで、伊作ははふはふ息を乱し始める。腹側を往復して内臓との繋がりを探る。私が知っている、伊作の好きな場所を往復する。伊作の魔羅が、またつぷつぷと雫を垂らし始める。
鈴口から澄んだ露を溢れさせて、伊作は腰が引けて、もぞもぞと脚が動く。素直に、胎が開いてゆく。
……ん♡きもちぃ……♡おなかがわ、膀胱の、う」
伊作の胸元に屈む。私の左肩からさらっと髪が流れ落ちて、伊作の胸をくすぐる。胸の間に唇をつける。伊作の左胸を舐める。乳輪を舌でなぞる。乳首にちゅっと吸い付く。
「っ!」
びく!と身体を跳ねる伊作の反応が嬉しい。くにくに、唇で潰したり、舌先でくすぐったり、胸をいじってやると伊作はその度に身体を震わせて、私の口元をじっと見つめた。
ん、ん、と喉で鳴いて、その様に私も熱が増してゆく。伊作の声で、仕草で、指にまとわりつく感触で、私の雄が沸く。胤が、伊作の胎を舐るために集まってくる。
「すぐ……でちゃぅ……仙ぞ、も、だめ……
きゅう……と、誘うように収縮する。伊作の胎が、もっと奧へ引き込むようにうねる。柔らかくしなやかに、私を求めて、弛んで、締まる。
「しようか。」
口元をふやふやと何か言いたげにしながらも、伊作は頷いて嬉しそうな瞳をしている。あまり時間をかけなかったが、伊作の中は柔らかくて、問題なさそうだった。
指を抜いて、改めて伊作を組み敷く。脚を開いた伊作のそこに亀頭をあてがう。伊作が私の竿へ、挿入しやすいように手を添える。
「かたい……
「したいんだ。……本当だよ。」
ぐっと押し付けて、亀頭が沈む。滑らかで熱くて、ねっちりと密着する。裏筋がくっと引き攣れて、もう気持ち良くて、私の魔羅が伊作の中に露を零す。浅く往復して、油と露がねちねち混ざって音を立てる。
「ん♡……んっ♡せ、 せん」
「苦しく、ないか……?」
伊作がゆるく左右に首を振って、両手をこちらに伸ばしてくる。少し言い淀んで、はむはむ唇を動かして、小さな声でそっと言った。
……だっこ……
少し屈んで、すると伊作は私の首筋に腕を絡めて引き寄せる。強引な力加減ではなかったが、されるまま屈む。身体が伊作の中へ沈む。背に、腰に両腕を回す。
身体の前側がぴったりくっついて、伊作の体幹がぶるっと震えた。
「ゔ、 んっ……♡」
私と伊作の腹の間で、伊作は魔羅を跳ねさせて達した。そっと覗くとびゅく、びゅっ、と、さっき飲み合ったばかりなのにそこそこの量で、私の下腹部にかかって、ねとっと垂れて、二人の間に糸を引いている。
はっ、はっと息を乱しながら、伊作がぎゅっと抱き締めてくる。脚を私の腰に絡めて、もっとと誘うように身体を引きつける。腰を入れて、揺らす。ゆっくり往復する。
「強く して」
抽送する速度を上げる。んっ、ん、と耐え忍ぶように喘ぐ。その耳元に囁く。
「声を出せ。」
「ゃ、みみいや ぁあっ♡」
触れ合う肌が熱くて、汗ばんでくる。私の腰に絡まっていた伊作の脚は左だけ降りて、布団について下からもへこへこ腰を振ってきた。
「だめ あっ♡ すだ、簾っ」
一度声を上げてしまえば止まらないようで、あ音で伊作が喘ぐ。調子がずれないように一定の速度で突く。
「そとぉ きこえ ちゃ あっ♡」
ちゅぷ、ちゅっと伊作の耳に口付ける。ぞぞっと身体を震わせて、ひ、と小さく悲鳴を上げる。
「おなか♡あっ♡ んぁ♡また、出 るぅっ!♡」
背を反らせて、伊作がまた達する。ぴゅっと放たれた子種が、私の胸元から顎下にかかる。
私に縋って、私に甘えて、私を搾る、私の可愛い仔犬。同じようについた傷を舐め合って、同じ場所で泣いていた幼な子。私に身体を開いて、『本当』と泣きそうに言う同級生。堪らなく甘くて、耐え難いほどに苦しい。
お前が欲しいものに手を伸ばして良い。
御膳立てされなくても、お前が欲しいものを選んで良い。
臍の下がじんじんする。睾丸が、会陰が痺れて、射精感が波立つ。ぞ、ぞ、と迫り上がる。
「あ っ♡せん、出る?」
「! ……ん、出る……
抽送を早める。鼠蹊部がぱち、ぱちゅ、と、汗で柔らかく鳴る。果てそうなことを、どうして具体的に気付いたんだ。
「中ぁ、 おく……おくだょ、いちばん」
……うん、…………いさ、奥 っ 」
ぱちゅ!と深く穿った。
「びゅっ♡……あ♡ びゅー……♡」
幸福そうに言う伊作は、また私の腰に両脚を絡めて、みっちりと深く抱え込んで、私が精を吐き切るのをうっとりと噛み締めていた。
「仙ぞ……、きもち、よかった?」
「うん……
汗が湧く。達した直後の、衝動が、引く波のように弛緩してゆく感じ。ふーっと息が抜けて、それでも身体は熱くて、逃げ場なく汗になって滲む。体の外側に温かい霧を纏ったようだった。しとっと濡れて、熱くて、ひくつく。吸い込む空気が多くて、肩が動く。深く吐く、深く吸う、少しずつ落ち着いてきて、腰を引く。ぬろっと魔羅を抜く。
……交代、しよ、仙蔵。」
きゅん、と、括約筋が動く。骨盤の内側がくすぐったい。伊作の手が、さりげなく油壺を取る。
……こ、うたい?」
伊作の顔を見ると、口付けを求めて少し上体を上げてきたところだった。蜜に誘われたような気持ちで、そこに屈む。唇を舐める。伸ばされた伊作の舌はとろとろで、さっき達したばかりの私の性感を遠慮なくくすぐってくる。
耳の後ろがこそばゆくてじんじんする。伊作に抱かれた記憶がいくつも引き出される。
「じゅんばん……交換こ……
幼い言葉でねだる伊作は、融けた瞳で、私の顎に垂れた自分の精液を見つめて、んっと舌を伸ばして舐め上げた。
「あんなに何度も、……達したじゃないか、伊作。」
「達した後じゃ、だめ?」
不満げに返されて、よくわからなくなる。
「お前が勃つかだろう、あんなに何度も射精して、まだ種が残っているか?」
「ちょっと遅いかもしれないけど……
そろっと見ると、伊作の魔羅はまだむちっと芯を持って起きていた。腎張にも程がある。
……どうなってる?」
「そう言われても……、仙蔵だって何回かは出るじゃないか。ほら、乗って。」
「そんな気軽に言うことか?こら、 」
ぐんと引き寄せられて、伊作が脚を閉じて、私は伊作の鼠蹊部に跨る格好になった。ふらっと私の魔羅は半勃ちで、遅れて滲んだ汁を一筋垂らしている。
「僕も……課題じゃないけど、仙蔵としたい。」
「も、もうしただろう。」
「抱く方も。」
ぐっと上体を起こした伊作が、私の頬に横顔を合わせる。犬科の獣が戯れるように、鼻先で私の頬を、耳をくすぐる。つんつん突いて、くすぐったそうに笑う。
「仙蔵。」
私を見つめて名前を呼ぶ。
「想像、してないの?」
対面座位で、伊作は私の腰を緩く抱いている。二人の下腹部に挟まった竿は、どちらにも芯がある。
「僕と寝たことを思い出すことって、無い?」
……あ、る……
気恥ずかしくて、伊作の首筋に顔を隠す。
「その時、どっち?抱く方?」
んちゅ、と、耳に唇が付けられる。びくりと震えてしまう。
「抱か……れる……方」
言わされて、ときとき心臓が速くなる。言い訳の余地なく疼いている。きゅっと脚の間が収縮して、私の魔羅が動く。伊作がわざと、ぴこぴこ動かしてくる。
えへへ、と笑って、私の耳に頬擦りをする。
「嬉しい。僕が抱いた、はじめてのひと。」
……はじめてだなんて、思わなかった。もっと良い機会があっただろうに。」
「ううん。こんなふうに分かり合える友達が、……はじめての相手だってこと、僕には良かった。」
いつもの声色で、伊作が続ける。
「誰かを抱く日が来るって、思ってなかった。」
ぐっと胸が締め付けられる。求められる役割。適性。得手不得手。色を、性を、男の役割のためには見られなかった伊作の肉体。
「お前の閨は、本当に良いよ。それは間違いない。お世辞じゃない。私はそう思う。」
「どんな風に、いいの?」
腕を緩めて、伊作の表情を見る。興味と、ほんの少しの不安が滲んでいる。気儘に見えるところがあるから、この顔つきは珍しい、と思わず観察する。
「そうだな……。力加減、大きさ、かたち、……お前が濡れやすいこと、匂い、声……
思い当たることを挙げてゆく。
「安全に知識と体験をもってしてくれる信頼感は、一つ飛び抜けているな。あとは……手順、触り方、甘えてくること、……ときどき、……強引なところ……
何か言いたげに、伊作の唇が動く。
「ぜ、……全部、いいところ?」
「そうだ。……あんまり確認するな。」
余計なことを言ったかも、と思ったが、伊作の照れたような嬉しそうな顔を見て訂正は諦めた。
「僕も、言いたい、かも……
「私の閨の話か?」
伊作の腕が私の腰をぐっと引き上げるように抱く。そうして欲しいと言われたわけではないが、膝をついて、少し腰が浮く。私の尻の間に指が這い、花の匂いがもう一度漂う。私の背後で、手に油を垂らしていたらしい。
ぬる、と、塗り込められる。そこに意識が向く。私の後孔を、伊作の指が往復する。私を気遣ってくれる、まるく爪を切ってやすった指。
……ちょっといじわるなところ……、でも、優しくて、……すごい的確で、僕のことを……いっぱい……見てくれるところ……すき。」
……ん、……うん……
伊作の指が、私の中に潜る。優しく私の中を確かめる伊作の指。遠慮のない、弄られ方を理解していて、不安のない角度で入ってくる指。
「色気、すっごいところ……、普段あんなに綺麗で清潔なのに、閨では声が、格好良くて、淫らで、華やかなところ……
浅いところを伊作にほぐされる。つぼんだ皺を伸ばすように、第一関節と第二関節くらいの幅で、ぬち、ぬち、と、ゆっくり捏ねられる。
「色気……ちゃんと、あるか?」
「あるよぉ……。仙蔵が、『いいこと』とか、『良い子』って言ってくれるの、すき。息を抜いた感じの……話し方、すき。」
はふ、と、息が必要以上に乱れないように吐く。伊作の肩に手を置く。私は観念して、伊作がしてくれる事への抵抗をやめる。
腰を少し落とす。意識して、ふちを開く。つぼんで、ひらく。ひく、ひく、と開閉させる。伊作に促されて、もう少し腰を落とす。伊作の亀頭が私の会陰に着く。
短く前後に腰を動かす。伊作の亀頭が私の会陰を縦に擦る。伊作の我慢汁で、擦れたところはぬるぬるとなめらかだ。
伊作も、ひくんと身体を震わせる。
「伊作。」
伊作の手が止まる。私の言いかけの続きを待っている。
「もう、抱いてくれるか。」
「ん、 ……うん。」
指が抜けて、伊作の両手に尻たぶを開かされる。伊作の魔羅に左手を添えて、私はじわっと腰を落とす。二度三度、伊作の亀頭で私の窄まりを擦る。伊作の魔羅がひくひく震えて、鷲掴んだ私の尻を左右に開く。
入る角度で腰を落とす。
ぬっと押し拡げられる感触。伊作の、よく膨れたカリ高の魔羅が、私のふちを潜る。つぼんだそこで、伊作を扱く。悩ましげな表情の伊作が可愛い。
「仙、ぞぉの……なか、すき。僕は……ここしか、知らないけど……きっと、すごく良いって、わか る……
はふ、はひ、と、甘い息を繰り返して、伊作は私の骨盤を抱えるように腕を回す。ゆっくり、伊作を奥へ迎える。腰を落としていって、根本まで深々と咥え込む。ぴく、ぴく、と動く感触。伊作が我慢汁を溢れさせて、私の胎を濡らす。
首筋に腕を絡めて、抱き締めた。伊作の亀頭が、雁首が、私の胎の奥を押し上げる。私の自重で深々と突き立って、不用意に達してしまいそうだった。むっちりと肉感的な伊作の魔羅が、私に収まって形を主張する。
耐えかねて腰を逃がそうと膝に意識を向けるも、伊作も私をしっかりと抱いてきて動けなかった。
「いさ、 ふか…… くる、きちゃう きもち いの」
身を捩る。離してくれない。きゅっ、きゅうっと、骨盤の中身がひくつく。会陰の裏がくすぐったい。気持ちいい。快楽。
蠕動している。
私の胎が、伊作を欲しがって吸い上げるように蠢く。
こんな風に胎を動かそうと、私は考えていない。
緩めたい。少し浅くしたい。
「く る、いさ、 いや 奧だめ ゆうめたい」
「来て。仙蔵の、気持ちいの……がまん だめ……
ぐっと深く抱き込まれて、逃げられない。
波立って、寄せて、寄せて、快感が湧き続けて、
ぞわ と、痺れて、びくんと大きく体幹が痙攣した。
けれど、子種が出た感触はない。骨盤の内側が、括約筋が、きゅうきゅう蠢いて止まらない。まだ波が引かない。気持ちいいまま、
からだの ひょうめんが あつい
「仙蔵、今……
伊作の唇が、耳元にある。声が甘い。耳の奧が、脳が、くすぐったい。鼓膜の後ろ。こめかみの奧。喉の中身。
「っ♡……や、しゃべ、る なあっ♡」
「気持ちいの、続いてる?」
「 ひ ♡いや ……ちが」
伊作の表情は真剣で、私をじっと見て、観察する。
見透かされてしまう。
達した感触がうぞうぞ続いている。痺れて、挙動の一つ一つが、もうどうしようもないくらいに響く。
こわい。
止めたい。

したい。

「大丈夫だよ。」
伊作が私の膝を、足首を掴んで誘導する。私は繋がったまま、伊作の上にしゃがみ込んだ格好になった。その、私の身体を抱えて、伊作は正座に居住まいを直す。
「だっこ……ぎゅってしてて。」
伊作が前傾して、無意識にしがみつく。
交合は深いままで、抜かせてもらえない。
敷布団に足裏をついて腰を浮かせようとするが、伊作はそのまま、下から突き上げ始めた。
「 ひ ぁっ♡ いさ それ だ めとんとん 」
「とんとん……♡気持ちい?仙ぞぉ……
繰り返される。
突かれる都度、星が飛ぶ。視覚では見えない、おでこの内側がチカチカする。突かれる都度、声が出る。窓枠には簾しかかかっていない。
「っ♡ あ あっ♡ い っ♡ 」
腰が動く。
もっと。
もっと繰り返したい。
みっともなく腰を振っている。伊作にしがみついて、声が我慢できない。茶屋の従業員が聞いている。町外れの、まぐわうための茶屋で、そのためにやってきて、腰を振っている。
「せ、 んぞぉ……気持ちい へこへこ かわいい……
ぶるっ、と震えて、また達した。
閉まらない口で辿々しく息をした。
つま先で敷布団を捉えて、まだ腰を振る。
「いさ 
 して、 まぐ わって
 突いて ぇ……

「いいよ。」

言うなり、伊作は私を押し倒してくれた。膝裏に腕を通して、すぐに腰を振り始めた。心臓の鼓動の速度で、とんとん早く、突いて、突いて、掻き回してくれた。
悲鳴みたいに声を上げた。
伊作の我慢汁で、突かれるたびにぐちゅ、ぶちゅと濡れ音が鳴った。汗ばんだ肌が、私の尻たぶと伊作の鼠蹊部の当たる音がぱちゅぱちゅ鳴った。
肌が粟立つような性感の波がまた打ち寄せて、私がぷしゅっと噴き出した汁は妙に水っぽくて、やっと射精したと思ったのにおかしくなりそうな快感で、からだが痙攣して、ふわふわした。
「いさ いさく い、きもち 」
「いっぱい、気持ちいね……♡仙、 仙ぞぉ、中、うねって、いっぱい、締めてるっ……♡」
「きもち い♡また またく るっ……♡!」
びびっと震える。
ふわふわ、くすぐったい、きもち いい、ちかちか
止まらない。
気持ちいい。
「ぼ く、も……もぉ 出そぉ……
「いさ のっ 中、中ほし……
伊作の腕に触れる。頬に触れる。首に触れる。
して。
して。
中に出して。
「っ……!」
ひと突き深く、伊作が射精する。びゅっ、びゅっ、と魔羅が膨れて跳ねて、注がれる感触を追う。脚を下ろしてもらってほっとするが、身体の痙攣がおさまらない。
吐精しきった伊作が表情を緩めながら口付けをくれたが、それにもまた、身体が跳ねた。
心臓が、早い。
汗がまた、湧く。
指が、唇が震えている。
伊作が魔羅を抜いて、弱い痙攣を続ける私を抱き上げて、枕の位置に寝かし直す。意識が遠のきそうだ。
「は、んこく したら、起きたい……
「へ……
気の抜けた伊作の、返事かどうか微妙な声を聞いたところで、私は落ちた。





ガバッと起きると、真っ裸ではあったが、身体は綺麗に拭かれていた。簾から漏れる陽の色を見るに、夕刻のようだ。
「あっ、起きれたね。気分は悪くない?」
来るときに買ってきた水を差し出される。
受け取って、ごくっ、ごくっと喉を鳴らして飲んだ。やたら沁みる感じで、喉が渇いていた、と後から気付く。
「ありがとう……。私は眠っていたか?」
「うん。寝息だったと思うよ、穏やかだし呼吸も普通だったから無理に起こさないでおいたんだ。」
ふう、と一息つく。水筒を枕元に置いて、ぱふんと横たわる。
「伊作。」
ん?と喉で応えて、伊作が私を見る。
「皆、心配していたな。」
……うん。」
少し考えて、微笑んだ伊作がもう一度口を開く。
「詳しく知ってるのは、今は仙蔵だけでいいかな。もうちょっと気が済んだら話すかもしれないけど。」
「わかった。私もそうする。話す時に私もいた方が良ければ、呼んでくれ。」
うん、と頷いて、伊作も隣に横たわる。

「仙蔵、あのね……
私たちは向き合って、一つの布団に寝転んでいる。行為の後の気怠い空気。なんとなく漂う、満足感。
「あんまり、優劣ってつけないでいるつもりだけど……
話が途切れて、伊作の瞳を見る。
「きょ、う……の、まぐわい、忘れられなそう。」
「あほたれ。」
ふはっと笑い合った。
「忘れるなど許さないぞ。思い出して月に一度は抜いておけ。」
「なんか生々しいなあ……仙蔵の助平。」
「私にだって性欲はある。」
日頃の冗談のように笑い合って、見つめ合う。

「あの……あのさ……
伊作が何を言いたいかわかってしまう。たまには私からけしかけよう、と、なるべく言葉をまとめる。
「また、出先でしようか。次は湯を借りられるところがいい。」
ぼぼっと、伊作は途端に真っ赤になった。
「その前に、喜八郎に指導だな。」
……う、……うん。」
ぱっと起き上がって、伊作は服を集め始める。
「身支度をして帰ろうか。」
「そうだね。もう一度町に寄って、……うどん屋さんとか、開いてるかな?」
んっと伸びをする。
「お酒、飲まなかったなぁ……
「別の日に改めて、他の者も呼ばないか?つまみを集めて、翌日が空いてる日。」

会話が楽しい。
日常が帰ってきた。ひとしきりの、伊作を心配していた気持ちが丸まった。

新しくなった、という、長次の言葉が腑に落ちる。
私たちは、きっとあの時一度死んだようなものだった。はじめてを散らされて良いように弄ばれたことを、受け入れていた。心の中に死んだままの箇所があった。
その死んでいた部分を見つけて、血が出てしまった。生傷になって、血が滲んだ。
私と伊作が伝えあって見つけた証明で、その生傷が、凹みが、ひたひたと埋まってかさぶたになってゆく。舐め合って、剥がれ落ちて、歪ながらも欠けた場所が満ちてゆく。

死んで、生まれ直した、私たちの心。


何度でも
何度でも、生まれ直そう。

お互いを、証明するために。