kanaco
2025-07-24 23:05:59
4474文字
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【龍信】台風

《龍信》龍信ワンドロライに参加させていただきお題「台風」をお借りしたものです。十二少の秘策とは。4少がちょっと幼過ぎたかも。


「ふむ、なるほど。つまり

粉々に散らばった陶器の破片を眺めながら龍捲風は“納得”をした。神妙な顔をしてみれば、目の前に立つ4人の青年が仲良く「ゔっ」というバツの悪い顔をする。

九龍城砦の賑やかで穏やかな日々において、信一と十二が龍捲風から小言を食らうことはそれなりにある。しかし洛軍、特に四仔まで一緒となると珍しい。彼らも年齢を平均すれば一応24、5才くらいは到達している“いい大人”であろうにと思いつつも、自分たちがした“やらかし”に怯える子らは年齢よりは幼く見えて、龍捲風は呆れつつも少し面白い気分になった。

話をまとめれば。

「十二が信一をからかい」
十二がぐぐっと苦味つぶししたように顔を顰める。
「信一がそれに言い返しているうちに騒ぎになり」
信一があーと気まずそうに目を逸らす。
「四仔がその五月蠅さに怒って手が出て」
四仔がむぅと困ったように狼狽する。
「洛軍がそれを止めようとして、うっかり足を滑らせて壺を割ったと」
最後に洛軍がしゅんと悲しそうに眉を下げた。

しかも何十万もするという、このとてもお高い壺を。

若者たちがこれまた仲良く「ひぃッ」と息を詰める。
「それで今はどういう状態なんだ?」

龍捲風が言った“状態”とは4人が随分とひっついている様子を指した。正確には信一を中心として右に十二、左に洛軍、そして少しだけ後ろに四仔と、なんとなく円になってくっついていた。

少しだけ沈黙が流れる。「ン?」と話しを促した。そうすれば真っ先に沈黙に耐えられなくなった実直な青年・洛軍がおずおずと話す。

「十二が信一は龍兄貴の台風の目だから、傍にいればいっとう安全圏だって」
「あっ、お前それ言うなよ~!」
十二が慌てたようにガルッと洛軍の言葉に噛みつく。

龍捲風は彼にしてはめずらしく目をパチクリとさせた。

台風の目、いつぞやにも聞いたな。相当に昔だった気がするが。誰も彼もが恐れる龍捲風が如何なる理由でどれだけ暴れていようが、その近くにあって、まるで晴れの日のような穏やかと静けさに身を置いている唯一の安全圏。

信一が目をクリッとさせて伺うように龍捲風を見た。
もう立派な青年へと成長はしているが、そのあどけなさに龍捲風は噴き出した。

「なるほど」

そういえばと龍兄貴は思い出した。十二は小さい頃からイタズラなり失敗なり具合が悪いことをすると、必ず信一を伴って謝りに来た。ほとんどの場合、十二だけでなく信一も一緒に問題を起こしているのでセットでしょんぼり首を並べる。だから長いこと気がつかなかった。しかも自分でも信一に甘い自覚がある龍捲風は、まんまと十二のその秘策にはまってきたらしい。台風の目というのはこんなところにも効力を発揮していたのか。

龍捲風が笑い始めたので、逆に心配になった4少がソワソワとし始める。龍捲風は別段怒ってはいない穏やかな顔で、しかしとりあえず4人へ平等に一発ずつゲンコツをお見舞いした。反省をして甘んじて拳を受け入れる大人4人の姿がまた可笑しくて、龍捲風は心中で笑う。

「まぁ台風の目にいても、物が飛んでくることくらいはたまにある」

「「「「ごめんなさ()い……」」」」
声をそろえた信一、十二、四仔、洛軍が良い返事。龍捲風は起きてしまったことは仕方がないと目を伏せて笑んだ。

「値段は目がとびでる程高いが、それ以上には大切なものではない。お前たちに怪我がなくて何よりだ。洛軍、四仔、壺を片付けておいてくれ。十二、そっちのテーブルの上の物を全て片付けなさい。信一、おいで。手伝ってくれ。片付けが終わったらみんなでお茶にしよう」

肩の荷を下ろした若者たちが息をついて、そしてやっと元気にそれぞれ行動をし始める。呼ばれた龍捲風の愛しい子が、パタパタと嬉しそうに駆けてきて隣に並んだ。

信一ももう、あの頃のような小さな子供ではない。
背はとっくに龍捲風を追い抜いていた。自分の身は自分で守り、仕事もきっちりとこなし、住人たちに頼られ、部下も持ち、そうして気の置けない仲間もできた。いつかは義兄弟にもなることもあるかもしれないほど、自分を預けられる仲間たちだ。九龍城砦が無くなるという情報にも、動揺することなく次のプランを見据えていた。ずっと信一の手を引いてきたつもりだが、今では信一に手を引っ張られることも多い。若者というのは頼もしく、気持ちの良い存在だった。彼らは未来に開けているのだ。

だが
龍捲風が目を向ければ信一が華やいだ表情で嬉しそうに笑う。その瞳を覗き込めば、子供の頃からなんら変わることがない、信頼と感謝と愛情を龍捲風に向けてくる。自分たち親子の間でそれが揺らいだことは一度も無かった。少しだけその愛に目が眩むような気持ちにもなった。成長しても親にとって子供はいつまでも子供。この可愛い子がずっと安心して笑っていられるように。それは今でも龍捲風にとって最も重要なことであり、気がかりでもあり、願いでもある。

信一の頭上には晴れ渡る空が。どこまでも澄んでいる美しい青が広がっていて欲しいのだ。

そのためであればどんなことでもしてやれる。その気持ちも変わりはない。愛に報いるのは自然なことであり、誇りでもあった。

ふと、龍捲風は胸が痛んだ。
それは肺であるのか、心であるのか。

何も知らぬ信一が鼻歌を歌いながらご機嫌にお湯を沸かす。その姿が男を癒した。龍捲風はゆっくりと息を吸うと、その痛みを静かに誤魔化して茶葉に手をのばした。