kanaco
2025-07-24 23:05:59
4474文字
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【龍信】台風

《龍信》龍信ワンドロライに参加させていただきお題「台風」をお借りしたものです。十二少の秘策とは。4少がちょっと幼過ぎたかも。

「信一が怪しい連中に絡まれている」

ただならぬ様子で住民たちが理髪店へ駆け込んで来た。慌てて現場に向かった龍捲風の目に映ったのは、囲む大人たちに腕を掴まれ嫌がり身を捩る信一と、それよりも数メートル離れた場所で転がっている十二の姿だった。

まだ10代半ばにすら差し掛からぬ子供たちに10人以上の大人が群れている。それは今や、龍捲風の逆鱗に触れる最たる行為であった。目的・理由・行為全ての面において、あるいはその事情を一切省みずとも万死に値する行為でしかない。連中がカタギではないことは一目で見て取れた。

龍捲風が勢いよく渦中に飛び込めば、険しい顔をしていた信一の目がパッと輝く。

反対に人攫いたちは一変して窮地に陥ったことに狼狽した。しかし次には怯まず龍捲風に歯向かう。

怒号、激突、乱闘。

それを意にせず冷酷な表情を浮かべ、瞳のみに激昂を宿らせる。“竜巻”を名に冠するその男は突風のように素早く軽やかに、そして剛健、さらに荒々しく連中をいなしていった。

そのうちに十二がムックリと起き上がった。パチっと目を開けた小柄な少年は、次の瞬間。自分からある程度離れていた場所とはいえ、思いの外近くへと拳に吹っ飛ばされた男が倒れ込んできたことにビックリし、肩を大きく跳ねさせた。

「わぁっ!」と叫ぶと自分の頭を守るように両手で抱える。そしてパタパタと足音を立てながら信一の元へ一直線に走り出した。自分の胸へと飛び込んできた小さな体を、両手をのばして守るように抱きとめた信一が龍捲風の方を見る。

龍捲風も信一をチラリとみた。目と目が合う。

信一の瞳に怯えは一切なかった。そのキラキラとした真っすぐな瞳は訴える。

絶対に龍捲風が自分を守ってくれるとう信頼。
助けてに来てくれてありがとうという感謝。
カッコイイ兄貴を見れることが嬉しいという喜び。

こんな状況にも関わらず、明るい表情からはポジティブな感情が惜しみなく流れ込んでくる。

龍捲風はフッと表情を緩ませた。それを受けて信一がますますフンワリと笑う。

いっとう愛らしい大切な存在が、その全身からたっぷりの愛を向けてくる。そういう時、龍捲風は奇跡を感じることがあった。これまでの人生・自分の行いを振り返った時、この幸福を享受することはあまりに身に余るのではないか、と。しかしもう手放せる気はしていない。

あっという間に場は制圧される。後は部下たちに処理をさせればよいだろう。息も乱さずに場を収束させた龍捲風は信一たちの方へ歩く。安心しきっている子供はだいぶ前からリラックスをして義父の雄姿を眺めていた。

「大丈夫か?ケガはないか?」
「無いよ!兄貴がすぐ来てくれたから。ありがとう」
信一がハキハキという。(先ほど転がっていた十二は)と返事をしないもう一人の子供に龍兄貴は目を向ける。見た様子では肘を少し擦りむいている。それ以外には目立つ外傷はなさそうだった。向かいあって抱き合っていた体勢から、信一に後ろからギュっと抱きしめてもらう体勢に変わっていた十二は、ポカンとした表情をしながら何故か空を見上げていた。

「十二?大丈夫?」
さっきね、俺を庇って投げ飛ばされちゃったの、と信一が十二のお腹に回している両腕に力を込め、心配そうに首を傾げる。

十二はまだ幼さ残るパッチリとした猫目をキョロっとさせた。そして唐突に呟く。

「信一は台風の目みたいだなぁ」

んん?と龍捲風と信一が全く同じように首を傾げた。
「兄貴は台風じゃなくて竜巻だよ」
「兄貴じゃなくて信一の話だし」
そんなの知ってるよ、とでも言いたげに十二が唇を尖らせる。
「それに竜巻だって台風だって同じように怖いじゃん。風がすごく暴れてさ。でもさ」
十二の瞳が龍捲風を見た。その視線は好意的かつ尊敬の意を含んでいた。

「周りはビュンビュンすごい音がしてたし色々飛んできて危険なのに、信一の傍にいると何にも飛んでこない」
龍捲風と信一が顔を見合わせた。

「信一の真上だけ、青空で明るくて静かだったんだ」
十二がもう一度空を見上げた。
龍捲風と信一も倣って空を見上げた。

晴れ渡る空。どこまでも澄んでいる昼間の美しい青が広がる。柔らかい日差しとささやかな風だけが吹き、先ほど乱闘が起きていたとは思えないほどの穏やかさであった。

「......信一のそばだけだけど」
他は危ないったらないよ!
さっき俺がいた場所なんて怖すぎたもん。

だから台風の目!

十二が「ピッタリでしょ」というようにニシシ、と笑う。

「あー」と腑に落ちて龍捲風が感心していると、信一が嬉しそうに口元をムズムズとさせて養い親を見た。龍捲風は優しい視線を返してやると、信一の柔らかい頬を人差し指で軽くポンポンと押す。肌触りの良い子供らしい頬が弾む。
「もちろん。お前を危ない目には合わせやしないさ」
無邪気にその言葉を受け入れて「うんっ」とクスクス笑う信一の眼は曇りが一つもない。

この可愛い子がずっと安心して笑っていられるように。それは龍捲風にとってもっとも重要なことであり、願いでもあった。

信一の肩に手を置き、それから十二の頭をクシャクシャと撫でる。「勇敢だったな。傷の手当てをしよう」そう言って「帰るぞ」と声をかければ、子供たちは元気よく返事をした。