万丈
2025-07-22 20:46:39
1822文字
Public 小説
 

友と交わす最後の杯

【AI生成】【二次創作】【天空戦記シュラト】
インドラ様とミトラ様の最後の夜。

関連の話→雷帝の贖罪
前の話→二千年の傷跡、再生の兆し
次の話→聖域の守り人

ミトラが永い眠りにつく前夜。
天空殿にある彼の私室は、静寂に満ちていた。窓の外には、雲海を銀色に照らす満月が静かに浮かんでいる。明日、彼は聖域の森で一万年という途方もない眠りにつく。
これが、友として語り合える、最後の夜だった。

二人は窓辺に置かれた長椅子に並んで腰掛け、言葉少なに杯を重ねていた。
銀の杯に注がれた葡萄酒が、月光を吸い込んで静かにきらめく。カーンダヴァへの旅を経て、インドラの纏う空気は以前よりも和らいでいた。瞳の奥に宿る深い闇は消えずとも、その縁にはヴィシュヌという女神が灯した、確かな光が宿っている。

……妙な気分だ」

先に沈黙を破ったのは、ミトラだった。

「明日には、私はこの世界から消えるというのに。お前とこうしていると、まるで明日も、またこの続きができるような気さえしてくる」

その声には、酔いのせいか、普段の彼からは考えられないほどの感傷が滲んでいた。
ミトラはひとつ息を吐き、杯の中の液体を見つめた。

「本当は、眠りたくなどない。お前を一人、この長すぎる時間の中に残していくのは……やはり、不安で仕方ない」

智将と呼ばれる男の、素直な本音だった。友が一人で背負い続けるであろう罪の重さ、孤独の深さを思うと、胸が締め付けられる。
その言葉に、インドラは静かに杯を煽ると、ふっと自嘲するような息を漏らした。

……お前の不安はもっともかもしれん。私自身、自分を信じているわけではないからな」

隣に座るミトラが、怪訝な顔でインドラを見る。インドラは、口元に僅かな笑みを作りながら続けた。

「なにせ、一万年だ。シヴァ様が復活された時、この身体が、この魂が、再びあの方の支配下に戻らぬと、誰が言い切れよう。反魂の術は、今でも私を縛っている……

彼は、まるで他愛のない世間話でもするかのように、言葉を紡ぐ。だが、その瞳から、一筋、静かに涙がこぼれ落ちた。

「だから、これはただの戯言として聞いてくれ。もし私が再び道を違えたなら……その時は、ミトラ、お前の手で私を殺してくれ。友として、最後の頼みだ」

ミトラは、息を呑んだ。軽口の裏に隠された、友の魂の悲鳴が聞こえたようだった。
ミトラは衝動を抑えきれず、隣に座るインドラの身体を引き寄せ、強く抱きしめた。

……冗談でも、言うな」

ミトラは、インドラの肩口に顔を埋め、苦しげに声を絞り出した。

「お前がそんなことを望むはずがない。ヴィシュヌ様という光を得て、ようやく前を向こうとしているお前が、そのような事を軽々しく口にしないでくれ!」

それは、友の絶望を目の当たりにし、我慢できずに溢れ出た言葉だった。
インドラは、その温もりに驚き、身を固くする。
ミトラは、抱きしめる腕に力を込めたまま、静かに、しかし力強く告げた。

「だが、もし、万が一、本当にそんな時が来たのなら……その時は、お前を殺しはしない。必ず、お前を連れ戻す。どんな手を使っても、お前の魂を、この私が取り戻してみせる。だから、二度とそんな悲しいことを言うな」

ミトラの真剣な言葉と温かい抱擁に、インドラの強張っていた心が、僅かに解けていく。

……お前は、いつもそうだ。私よりも、私のことを信じているのだな」

「当たり前だ」

ミトラの声が、和らいだ。

「お前は私の、ただ一人の友なのだから」

やがて、ミトラは名残惜しそうに身体を離した。二人はもう一度、互いの杯を満たし、夜が明けるまで静かに語り合った。