kr0mm333
2025-07-03 23:53:51
6118文字
Public バチ(腐)
 

雷鳴に掻き消える

以前書いた転生柴♀さんネタの続き。
原稿の息抜きにちょこちょこ書いてました。
最後の方はふせったーに上げてたのをそのまま使った感じなので、気が向いたら修正します。
そういうシーンはないですがチヒ柴♀してます。
でも精神的にはチヒ→柴♀→国の一方通行。

9/5 前作のリンクをべったー+のものに変更しました。

前話→傍観者の言い訳(https://privatter.me/page/68721d9c283f5)






 毎年のように十年に一度の猛暑と呼ばれる夏は過ぎたものの、残暑というよりは真夏がそのまま続いたような熱気が終わったのは十一月も目前となった日曜日やった。
 この日は六平が仕事の都合で遠出することになってて、チヒロ君は家に一人。
 もう心配するような年齢やないし前世ほど物騒な世の中やないけど台風の影響で夕方から荒れるって予報で言うてたし、つい心配になって様子を見にきた。
 まだ風は吹いてないけど、風はいつもより生ぬるい。六平の家は山の中やし、街中よりも天気が崩れるのは早いやろうな。
 前世の六平家にはなかった玄関横のインターホンを押すと、家の中で呼び出し音に続いてこっちに向かってくる足音が聞こえてくる。忍ばせる必要のなくなった足音は昔のものよりおっきくて、戦いなんぞとは無縁で年相応に成長してくれたことを実感させられた。もちろん嬉しいよ。
  ただ、今生きてるチヒロ君は俺の知ってるチヒロ君とは違うって改めてわからされただけで。
 引き戸が開くとまた少し背の伸びたチヒロ君が俺の姿を認めてちょっと驚きながら柴さん、と口に出した。
「今日、父さんは……
 いないですよと続く前に知っとるよって返す。
「今日はお父さんがおらんって聞いて、寂しがっとるんちゃうかと思って来たで!」
「寂しくはないですね」
 チヒロ君は眉間にシワを寄せて俺の顔を見る。
 前に会った時よりも身長が伸びて今では俺と同じくらいか。女の中では長身な方に分類されるけど、男と並んだらやっぱり負けてしまうな。薊に見下ろされた時はめっちゃムカついたからうっかりヒールでスネ蹴ってもたし。でもチヒロ君に見下ろされてムカつかんのは、この子が赤ん坊の頃から見てきたからやと思う。
「留守くらい一人で守れます」
「まあそう言わんと。久しぶりの柴さんやし、構ってや」
 そう言うたらチヒロ君は眉間にシワを寄せて、もう子供じゃないんですが……と不服そうに呟いた。
 チヒロくんももう十八歳。
 一人で留守番できるくらいわかってる。
 でも普通の子供として生きてきたチヒロくんを見てると前よりも幼く見えて、どうにも心配になってまう。そのせいで過保護になっとるんやろうけど、思春期のチヒロ君からしたら鬱陶しいやろうな。
「わかりました。折角来てくれたんですし、お茶でも飲んで行ってください」
「いいん?」
「はい。もしかすると柴さんか薊さんが来るかもと思っていたので茶菓子も用意してありました」
「相変わらず神童やな……
 俺か薊が来るって予想してたとかホンマすごいわこの子。
「お邪魔します〜」
「はい、どうぞ」
 チヒロ君に土産を渡して洗面所で手を洗う。勝手知ったるというか、前世とほぼ変わらん家の中。それに六平の奥さんが亡くなってからチヒロ君の世話の手伝いでしょっちゅう通っとったから、家の中にあるモンはそれなりにわかるつもりやし。
 住んでるわけやないけど、亡くなった奥さんよりも俺の方がこの家にいてる期間は長いんや。
 台所へ行くと、俺用のマグカップにコーヒーを淹れてるチヒロ君がいてる。ただインスタントの粉を入れてお湯を注ぐだけやのに、泥水みたいな液体を作り出す六平とは大違いな堂に入った後ろ姿やった。
「チヒロ君も十八か〜。ついこの間まで片手で抱っこできとったのになぁ」
「十年……いや、十数年も前の話でしょう?」
 また始まったと言わんばかりにチヒロ君がため息を吐く。六平も薊も、下手したら座村とか漆羽まで言うてるやろうからもう耳がタコになるレベルなんやろなあ。
 自分と俺の分のマグカップを前に置いて、間に茶菓子の入った皿を置いてくれる。茶菓子は俺の持ってきた煎餅と、薊が買ってきた饅頭。
 饅頭の包みを一つ取って破る。出張した時に買ってきたって饅頭は、俺には見慣れた大阪土産のミルク餡のヤツ。抹茶味も美味いんよなコレ。チヒロ君は俺の買ってきた煎餅を手に取ってた。
「年食うたら十年も十五年もこの間やって。まだ五年くらいしか経ってないと思ったら十年経ってましたとかザラやからな? え、チヒロ君十八なん……? 時間経つの早すぎちゃう……?」
「先々月に誕生日を祝ってくれたばかりなのにもう忘れたんですか?」
「ヤメテ! そんな目で見んといて!」
 疑わしげっていうか、ジトッとした目で見られる。
 こういう顔は六平に似てへんと思う。子供って言うんは親の遺伝子を半分ずつ受け継いでるけど、生育環境で色々変わるのはホンマやな。
 それを誤魔化すように大仰な身振り手振りで否定する。
「いや、わかってる……! わかってるんよ.! けどまだ噛み砕けてないって言うか、飲み込めてないだけやねん……!」
「飲み込んでください。俺は十八歳で柴さんは……すみません、女性に年齢の話は御法度でしたね」
「急に真顔で謝らんといて……
 チヒロ君は本気で申し訳なさそうにしてたけど、そのおかげでダメージはよりデカなった。チヒロ君が十八ってことは俺は三十九やもんな……事実やけどキッツ。ついこの間までよちよちしてたチヒロ君が二足歩行どころか車の運転もできるんやもんな……
 マグカップを持って突っ伏してると、チヒロ君が気まずそうに煎餅を渡してくれた。ええ子に育ってくれて嬉しいで。ダメージはデカいけど。口に入れると米と味噌の香ばしい匂いと塩味。空港限定って書いてたけど美味いなコレ。
「私らが十八の頃なんて馬鹿なことしてた記憶しかないわ……チヒロ君大人すぎへん? あ、私はがガキすぎただけ?」
 六平がズボン引っ張り上げて股間を強調して刀とか言うてたな。前世も今世も薊がコーラ吹いとったわ。あとで頭叩かれたし揃って正座させられたけど。
「チヒロ君カッコええからモテるやろ?」
 アホなことしかせんかった学生時代やけど、六平はもうモテたしその息子のチヒロ君もモテやんわけないやん?
 こんなカッコいい子、同年代やったら放っとかんやろ。俺の質問にチヒロ君はピタッと動きを止めてからそうでもないですって言うたけど、アレは絶対モテてる。バレンタインは一個も持って帰ってこやんけど、ラブレターとか机に入ってるタイプやで絶対。
「隠さんでもエエやん。それに、六平もめっちゃモテたんやで」
「そうなんですか?」
 父親の話になったからか、チヒロ君の目にパッと光が宿る。
 親の若い頃ってやっぱ気になるんやな。前世では英雄やって言い続けてきたけど、今世はそんなんナシにどうでもいい話ができるってええな。
「女の子に騒がれてもあの性格やから気づかんし、私もようやっかまれたわ」
「柴さんもモテたでしょう?」
「まあな。男も女も千切っては投げ千切っては投げしとったわ」
「それはモテてるとは言わないと思います」
 冗談を交えながら学生時代を話す。人それぞれとは言うけど、俺の中で青春って呼べたんはチヒロ君くらいの年齢の時やったな。
 前は命のやり取りしとったから輝かしいとは言えんかったけど、でも、あの頃は戦って殺して笑ってまた戦って……楽しかった。
「焼肉屋でカップル限定割引やってたから、薊も巻き込んで三人でカップルのフリして焼肉屋行ったりしたな」
「三人でカップルって無理があるのでは?」
「焼肉のために頑張ったんよ」
「そこまでして焼肉を食べたかったんですか……
「金欠やってん」
 カップルやって証明するのにキスしてくださいって言われて、寸止めとはいえ六平とキスできると思ったら柄にもなくドキドキしてたな。薊とやるときは心を無にしてたけど。アイツもいつも以上に目が死んでたからお相子か。
 反対に六平はやけに真剣な顔してるからもしかして意識してくれてるんかと思ったけど、昼に食べたうどんのネギが歯に詰まってて取るのに必死やったとか言うてて締まらん奴やでホンマ。
 まあ、そんなとこも好きやったけど。
 戦争があってもなくても真っ直ぐで、一本芯が通ってて、馬鹿やってる癖に急にカッコようなって。
 そんなん、惚れんなって言う方が無理やん?
 今も昔も、それより前から一番近くでアイツを見てきた。
 馬鹿なことやって、戦いや喧嘩で大怪我して心配されて、アイツと掴み合いの喧嘩をするのも他の誰かと喧嘩してるのを止めて心配した前世。
 女やからって気ぃ遣われるのも、無茶すんなって怒られて心配されて、家族以外で一番近くの存在として笑ってる今世。
 今も前も、いつだって六平の一番近くにいてたのは俺やった。
 結局、彼女になったのも結婚したのも死んだあの子やけど。
……柴さん?」
 呼びかけられて顔を上げたら心配そうにこっちを見てるチヒロ君と目が合う。思い出に浸ってたらぼーっとしてたみたいやな。
「ごめんごめん。あの時のこと思い出して宇宙まで飛んでたわ」
「いくら焼肉のためとはいえ、あまり体を張らない方がいいですよ」
 呆れたような咎めるようなチヒロ君から目を逸らして笑う。焼肉も食べたかったけど、やっぱ好きな奴とキスできるチャンスなんやから逃す手はなかったんよ。
 その時、ガタガタって戸が揺れる音が聞こえた。
「風、強くなってきましたね」
「天気崩れる言うとったからなぁ」
 外を見ると来た時は白かった雲が濃い灰色に変わってる。雷が鳴るのも時間の問題やろな。
「雨戸閉めた方がよさそうですね」
「そうやな」
 チヒロ君は自室や客間のある二階を、俺は縁側などのある一階の雨戸を分担して閉めていく。雨雲と雨戸のおかげで家の中が薄暗くなったからせめて足元だけでも照らそうと携帯を探したけど、台所に置いてきたことを失念してた。女物の服はポケットが小さいから携帯とか入らん場合もあるんよな。
 摺り足で床を移動して廊下の正面にあった応接間の電気をつけようと中に入る。電灯の紐を掴めるように目の前に手を差し出してフラフラしてると、俺を呼ぶ声とライトの明かりが向けられた。
「うおっ!?」
 男の時みたいな叫び声を上げるけど体は女やから声は甲高い。それにびっくりしたチヒロ君がビクッと震えたけど、そんなん気にするよりも先にバランスを崩した。一瞬手に電灯の紐が手に当たった気もするけど、それどころやない。
「ぅおっとぉ!?」
「大丈夫ですか?」
 チヒロ君に抱き止められる。
 片手で抱けた小さな体は成長して身長も随分と伸びて、視線の高さはさして変わらんようになった。それでもまだ俺の方が背も高いけどごめんなってチヒロ君の顔の方を見たら、赤色と目が合った。
 あかん。
 体が凍りつく。
 父親と、六平と同じ色。
 炎に焼かれた鋼の色。
 成長するにつれて六平そっくりになってきたチヒロ君。
 ずっとずっと欲しかった六平の、
 離れやなあかんのに六平の姿が重なって動かれへん。瞳に写る間抜けな自分の顔をぼんやり見てたら、チヒロ君は何の躊躇いもなく唇を重ねてきた。
 焼肉屋でカップルって証明するためのキス。あの時、六平の唇は荒れてカサついとったけどチヒロ君のはちゃんとケアしてるようでしっとりしてた。
「ちょ、まっ」
 チヒロ君から離れようとして身を捩る。元々抱き止められてた感じやけど、いつの間にか腕の位置は変わってて逃げられんようになっとった。
「チヒロ君、アカンて……!」
 俺はもういくつ寝たら三十九で、チヒロ君は十八歳。法的に見たらチヒロ君は成人やから問題ないかもしれんけど、今の時代であっても十代に手ェ出すのも出されるのもアウトやろ。
 このままチヒロ君を振り切って帰るって考えが頭に浮かぶ。チヒロ君の様子を見るっていう当初の目的は果たしたし、流されたら取り返しの付かんことになるからここは帰るのが正解や。今ほど前世の妖術が使えやんことを後悔したことはない。
 あの妖術があればチヒロ君の腕から逃げるのだって簡単やし、この家から直接自宅に跳んで何もなかったことにするのだってできたのに。
 外では雨と風は酷いモンやけど今すぐにここを離れな。今やったら転びかけたとこをチヒロ君に受け止められて事故っただけって言い訳が立つ。ここで拒絶できたら、次回からも柴さんとして振る舞えるはずや。
 頭の中ではチヒロ君を拒絶しようとする理性と、六平の面影を求める俺がいてるせいで突き放すことも抱きしめることもできんくて、腕は中途半端に浮いたままやった。
 チヒロ君が更に体重をかけてくると、俺の体は簡単にバランスを崩して後ろに倒れ込んだ。腕を上げたまま動かれへんかったのに咄嗟にチヒロ君の服を掴んでしがみつく。
 耳元でクスッと笑う声が聞こえる。
 誰のせいでこうなったと思とんねんて口の悪さが出かけたけど、声になる前に床に背中がついてまた唇を重ねられた。ゆっくり、探るみたいにチヒロ君の舌が口の中に入ってくる。
「っん、ふぅ、くっ……
 普段は口の中に収まっているものに逃げ場はなくて舌先で表面を舐められる。くすぐったくて体を動かすと、それを拒絶やと思ったチヒロ君は唇を離した。辛うじて届いてた玄関の明かりが俺らの唇を繋ぐ糸を照らしてる。
「柴さん、おーー」
 チヒロ君が何か言うけど、風のせいで揺れる雨戸の音が重なって上手く聞こえんかった。
 そして、雷の音が聞こえ始める。
 ゴロゴロ、ゴロゴロ、雷は神サンが怒ってる音やって言うけど、なら今怒られとるのは俺なんやろう。
 チヒロ君に抱かれた。
 床に倒れてそっから無理矢理みたいな感じやったけど、拒絶し切られへんかったんやから半分は合意みたいなモンやろ。 
 謝りながら、父さんの代わりでいいんですって繰り返してたあの子の頬を伝っていたのは汗だけやなかった。
 あの子は俺が同情で体を開いたと思っとるんやろうな。赤ん坊の頃から知ってて、自分の子供のように可愛がってきたチヒロ君が相手やから俺が拒絶しきれんかったんやと。
 違う。違うんよ、チヒロくん。
 俺は君の言葉の通り、君を六平の代わりにしたんや。俺に向けたその言葉は、俺がアイツに言われへんかったモンやったから。
 死んだあの子の代わりでいいから抱いてほしい。
 あの子……チヒロ君の母親が死んでから何回も言いそうになった。でも、その度に寸でのところで飲み込んだ。アイツにとってあの子の代わりなんておらんし、俺を誰かの代わりにすることも嫌がるやろうから。
 でもホンマ言うたらな、これを口に出して六平に軽蔑されるのが嫌やった。
「柴さんが好きなんです」
 ゴロゴロごうごう、ついでにガタガタいうてて俺にはなぁんも聞こえてない。
 雷の音がうるさい。
 雨の音もうるさい。
「ごめんなぁ、チヒロ君」
 俺が聞こえてないように、チヒロ君も俺の言葉が聞こえてないんか唇を重ねられた。
 離れた後で口の中に残った香りについ自分の唇を舐めると、ほんの少しの塩の味と鉄の臭いがした。