kr0mm333
2024-10-30 22:20:57
4656文字
Public バチ(腐)
 

傍観者の言い訳

転生sb♀さんの地獄と傍観者のazmさん。
先日呟いた国←sb♀の地獄みたいな話を書いてみたんですが、文章にすると途端に地獄でなくなってしまう不思議。あとazmさんが終始他人事っぽくなってしまったので申し訳ないです。
年齢はsurさん>国パパ=azmさん>sbさん>urhさんのイメージ。
このあとは、薊柴♀でもチヒ柴♀でも他の人とでもなれるようなイメージ。

https://x.com/kr0mm333/status/1850852649882825021?s=46&t=Wa4Mk96mPRmhQE7aFx94cg

 前世でも今世でも学生時代からの友人、六平から男の子が生まれたという報せを受けたのはやはり前と同じ八月の夏の盛りだった。
 今はそれから三ヶ月が経過した十一月。
 二人が育児に慣れるまで、そして一番は奥さんの体を気遣ってお祝いするのに少し間を空けて家に柴と二人でお邪魔させてもらった。
 慣れ親しんだ家の玄関から足音と声を顰めて居間に通されると、寝返りを打ってもいいようにと横向けた大人用の布団の上に小さな体が横たわっている。そのままそろそろと近づいていくと、引っ掻き防止の手袋をつけたチヒロくんが眠っていた。
「名前は千に鉱石の鉱でチヒロだ」
 いつもの十分の一くらいに抑えた声でそう言って、命名の紙を見せつけてくる。
 筆で書かれた字は六平らしい豪快な字。いい名前だね、と返せば六平はありがとな! と笑った。
 僕や柴とは違い、六平と奥さんに記憶はない。なのに、生まれた子につける名前が同じなんだから輪廻っていうものは本当にあるんだろうね。記憶を持った僕らがいる時点で証明されている気もするけど。 
「ほんまかわええなあ。見てみこの頬っぺた」
「手も足もすごく小さい。かわいいね」
 記憶にあるのは大人になったチヒロくんの手。豆ができて硬くなった手のひら、傷だらけの腕、それはあの子が戦い抜いた証でもある。
 でも、今世でできる豆と傷は人殺しじゃなくて、彼の夢を叶える上でできるものであってほしかった。
 両親の許可なく触れるのはよくないから、ほどほどに距離をとってチヒロくんの寝顔を眺める。
 また会えた。仲良くしてもらえるかな。今世のキミはどんな大人になるんだろう。伯理くんとも会えるといいね。座村さんや漆羽も会いたがってたよ。
 色々な言葉が頭に浮かび、後から後から思いつく言葉によって押し流されていく。
 またチヒロくんに会えたこと、今世は家族三人で幸せに暮らせるであろうということを思うと目の前が自然と歪んでいた。涙脆いなんてことはなかったはずなのにな……年かもしれない。二十代に入ってから涙腺がバカみたいに緩くなったし。
 六平や柴に泣いしまったことを揶揄われたりもしたけど、二人だって目を潤ませていたんだからお相子だと思う。
 あまり長い時間いるのも気疲れさせるだけだから、一時間ほど話してからお祝いを渡して早々に家を出た。
 山奥に続くハイキングコースのような道を下る。前世は隠居するための場所として、今世では刀鍛冶をするにあたって騒音を撒き散らさない場所として選ばれたの山の中の住まいは住所も地図も確認せずとも来れる場所だ。
「記憶はなくても六平は六平やったな」
「そうだね。でも、またチヒロくんに会えて嬉しかったな」
……そうやな」
 僕らが前世の記憶を持って存在してる時点でチヒロくん達も生まれてくるだろうとは思っていたけど、やっぱり少しの不安はあるものだ。
 同じ名前、同じ家族、似たような人生を歩んで再会し、記憶がないはずの六平とまた友人になった。柴が女性として生まれていたことには驚いたけど、似たような人生を歩んでいるだけで前世とまったく同じじゃないんだからそういうことも当然あるんだろう。
 だからこそ、また六平のところにチヒロくんが生まれてきてくれたのが嬉しかった。
 今日は僕らだけだったけど、次は漆羽や座村さんもお祝いに来てくれることになっているって聞いた時は特にそう思った。前世では機密事項で誰にも言えなかったり六平を隠居と言う形で封じておかなければならない辛さがあったけれど、今回はみんなでチヒロくんの誕生を祝うことができる。こんなに嬉しいことはない。
 山道を降りながら思い出話に花を咲かす。今世のこと、前世のこと、きっと今世でもチヒロくんがやりそうな無茶や学生時代にやった馬鹿な話も。
 その最中。柴が急に黙り込んだかと思ったら、さっきとは一転して硬い声であんな、と切り出した。女の身で生まれ育っている柴は普段私と言うけど、僕や前世の記憶のある人の前でだけは俺という一人称になる。
「俺な、六平のこと好きやってん」
 唐突な告白。
 どうしてこのタイミングでと思わなくもないけど、内容自体に驚くことなんてない。
 言うなれば答え合わせ。
 知ってる。知ってるよ、柴。
 お前が前世、男だった頃から六平のことを好いていたことくらい。
 ずっとお前達を見てきた僕が気づかないわけないだろ。
「知ってたよ」
 僕の返答に対して柴も大して驚いた様子はなく、さよか……とだけ呟いて立ち止まった。真っ直ぐに立っているのに今にも倒れそうに見えるのは、きっとその顔が泣き出しそうに歪められていたからだ。
 柴に続いて僕も止まる。
 なんの会話もないまま耳を澄ませると、木々の間を風が吹き抜けて葉の擦れる音が耳を掠めていった。
「高校の頃の話なんやけど、六平とええ雰囲気になったことあったんよ」
 その音に紛れてぽつりぽつりと柴は語り始める。
「お前がちょうどおらん時やったかな……たまたま六平と二人きりでな。下校時間も近いから誰も教室に来たりせんし、たまたま会話が途切れた瞬間にそういう雰囲気になった」
 それは知らなかった。
 誰か一人が欠けることはままあったけれど、僕のいない間そんなことになっていたとは。
 でも、柴のことだからキスくらいはしたんじゃないかなんて邪推をしてしまう。
「夕方の教室で二人っきりやし、今言うたらいけるかもしれん。あの頃からの想いを遂げられる! ……そう思たのに、その次に出てきたんは"でも、俺はあの子を産まれへん"やった」
 あの子が誰を指すかなんて愚問だろう。
 というか、話の流れから告白が未遂で終わったのは想像に難くはないのにそこに至るまでの思考に結婚と出産が含まれているのはあまりに飛躍しすぎじゃないか? もしかすると、前世からずっと拗らせ続けた恋心ともなるとそうなってしまうのもやむなしなのかもしれないけれど。
「仮に俺がアイツと付き合えて、それで結婚までいったとする。でも、俺とアイツの間に生まれる子供はチヒロくんやない。俺と六平の間にできた別の子や」
 柴は両手で顔を覆う。その手の隙間から漏れて出るのはあまりに痛々しい独白だ。
「今のアイツは前世のチヒロくんの存在を知らんから、俺との間に生まれた子でも可愛がって育てるんやろうな。でも俺は? 俺とアイツの間に生まれた子を愛せるか? チヒロくんを殺して生まれる子供を、俺は育てることなんてできへん。チヒロくんを殺したんはその子供やなくて、我欲を突き通した俺やのに」
 殺すだなんて物騒な言葉が出たことに驚いたけど、仮に柴が六平と添い遂げたところでチヒロくんが死ぬなんて暴論もいいところだ。でもチヒロくんがこの世に生まれてこないということは、あの子を殺したと同義であると柴は考えたんだろう。普段はおちゃらけているというか、飄々としているくせに変なところで真面目なんだから始末に負えない。
「柴、殺したなんてのは言い過ぎだ。それに、もしかしたら」
 お前と六平の間に生まれる子がチヒロくんかもしれないじゃないか。
 思ってもいないことが口から出そうになった。
 こんなのは慰めじゃない。その場しのぎの気休めで、柴の心が晴れるわけなんてないのに。
 すると、僕の無神経な言葉が出るより先に柴は声を荒げた。
「もしかしたらなんてないに決まってるやろ! あの時わかってしもたんや……! 俺と六平の間にチヒロくんが生まれることはない。絶対に。六平とあの子やから、チヒロくんは生まれてくるんやって。現にそうやったやろ。俺の記憶にあるあの子と同じ姿で、同じ名前で……! だから、あの時の俺は間違ってなかったって理解させられた。俺はチヒロくんの親にはなれやん。あの子の側におって復讐の手助けはできても、親にはなられへんのや!!」
 歪んだ声でそう叫ぶと、その場にしゃがみ込んだ。
「俺には、チヒロくんを殺すことなんてできへん」
 六平の家から離れた場所でよかった。こんなこと、六平にも奥さんに聞かせるなんてことはできないし、聞かれたらなんて誤魔化せばいいかなんてわからないから。
 何を言っても言葉を重ねても、僕はいつだって傍観者。当事者の話を聞くことはできても、僕の言葉が届くことはない。
 それでも言わずにはいられなかった。
「柴、泣くなよ」
 顔を両手で覆ったままだから、本当に泣いているかなんてわからない。
「泣いてないわアホ」
 そう言い返してくる割に声はまだ歪んでいる。まずはどん底まで下落した柴のメンタルをどうにかしないと。コイツは隠したままどこまでも落ち込んでいってしまうから。
 二十歳を過ぎた大人にするものじゃないけど、正面にしゃがみ込んで頭を撫でてみる。中身はオッサンだけど今世の柴は女として生きてるんだし、多少は効果があるんじゃないかな。その甲斐あってか、ただ驚いただけなのか。動きどころか呼吸すら一旦止めた柴が、次の瞬間にはセット乱れるやろ! と怒り始めた。ただ泣き止ませることには成功したかもしれないけど失敗だったかもしれない。慰めようとしただけなのに酷いヤツだ。
 それでも泣き止んだのなら話くらいは聞けるようになってるだろう。
「僕はお前との付き合いの長さがあるからある程度予想できるだけで、お前がどれほど苦しい思いをして六平への気持ちを諦めてきたかは予想することしかできないよ。
 でも、今お前が我欲と呼んだものが恋で、チヒロくんのために自分の気持ちをなかったことにしたことは愛ってヤツなんじゃないかと思うんだ」
 また下手な慰め……いや正当化だ。柴が六平への気持ちを諦めなければならなかったことを、それは仕方のないことだったんだと言いくるめるための酷い言い訳。こんなものは所詮言い訳でしかないのに、僕や口はしゃあしゃあと言葉を吐き出していく。
「お前のその選択は間違ってないし、今日はまたチヒロくんに会えたことを喜ぶ日だろ? なら、こんなところで泣いてないでこれから飲んで、カラオケでも行こう。飲んで全部吐き出せよ。聞いてやるから」
……薊の奢りならええで」
「仕方ないから奢ってやる」
 ならええよ、と言って立ち上がると服についた落ち葉を払ってまた歩き出す。気まずいのか口を噤んだまま少し早足で前を行く柴の後頭部をぼんやりと眺めながら、こんな時に気の利いた言葉ひとつ出てこない自分のぼんくらさに笑うことすらできなかった。
「薊! 早よ来いや!」
 呼ばれてハッとする。いつの間にか距離ができていたみたいだ。
「ごめん! すぐ行くよ!」
 早足で追いつき、今度は隣に並ぶ。
 僕に柴の失恋の傷を癒してやることなんてできない。
 きっと柴を癒せるのは時間か、はたまた柴を想ってくれる誰かだけだろう。
 いつかその誰かが現れてくれることに期待するしかできない僕にできることといえば、自己嫌悪する柴が落ち込んだ時に気を逸らして立ち直るまで時間を稼ぐことだけ。
「どこしょうかなー」
「どうせハシゴするんだから高いところはやめてくれよ」
「しゃーないなー」
 また、いつものように笑い始めた柴の横顔を盗み見る。その下でどれだけ傷ついているかなんてわからないけど、さっきまでと違う笑顔に僕は一山超えたような気持ちになって安堵するのだった。