出勤してきた座村が執務室のドアを開けると、そこには見知らぬ三人がいた。自分達と同じくらいに大柄な男、細身の女、子ども。皆若く、この組み合わせだけ見れば親子にも見えるのだが、雰囲気が親子のソレではない。
「座村か」
「ああ。おはようございます」
中に入って千鉱の隣に移動する。机に置いた予定表を見ると、柴と薊は外での任務だと書かれていた。戻るのは早くて夜、遅いと数日後になるはずだ。
三人はチラリと座村の方を見ると、また千鉱の方を向く。退室するように言われないのであれば座村が聞いても問題ないはずなので、デスクで書類仕事を始めるフリをして聞き耳を立てた。
「繋がりのある連中は本人も知らない内に術を掛けられてやがった。奴等に関する情報を口にしようとすると、みんな水風船みたいに破裂しちまったよ」
「四年間、何の情報も漏らさずに潜めていたのはこれが原因だろうなあ」
「別の方向からまた探ってみるつもりですが、もう少し時間がかかるかと」
調査班か何かなのだろうか、三人の報告を聞いて千鉱はなるほど……と考え込む素振りを見せる。千紘の仕事は護衛である自分達に共有されるわけだが、話を聞いている限りこの情報から繋がるような任務はない。ただ四年間という言葉が出たので、自分達が護衛に就く前から追っている相手であることは想像できた。
「わかった。引き続き調査を頼む」
そう締めくくると三人は声を揃えて御意と返すのを聞いて、時代劇かよと悪態を吐きそうになる。
「なあに。他ならぬアンタの頼みだしな」
年齢の割にやたらと態度の大きな子どもに苛立つ。だがそれ以上に、この三人が千鉱に対して妙に馴れ馴れしいのが気に食わなかった。
意識が四人の会話の方に集中しているせいで書類を見るも目が滑る。自分達は本業は千鉱の護衛だが、同時に部下でもある。なのに共有されていない情報があるってぇのはどういうことだ、と胸中で吐き捨てた。
「しっかし、ちょっと見ない間に随分顔色も良くなったなあ」
「こら、執務室だぞ」
そんなやりとりが聞こえて勢いよく顔を上げると、大男が千鉱の顎を持って上を向かせている。当の千鉱は呆れながら注意しているが本気で嫌がっていない様子に、アンタは俺のだろ! と座村は大声で叫んで大男を切り付けたくなった。そんな子供じみたことをするわけにはいかないのでまた書類に集中しようとするが、手元の書類は既にシワだらけでもう一度発行してもらわなければならないほどだ。
対する千鉱はされるがままで、眉尻を下げて態とらしく視線を逸らす。
「その節は……迷惑をかけた」
呟く声にはいつもよりどこか弱々しく、何か後ろめたいことがありそうな気がしている。
「前にも言ったろ。主の世話も俺達の仕事のひとつ。健康管理だってその内だよ」
「それにしては過保護すぎだがな」
「あれでもまだ足りないくらいです」
女の言葉に男二人が同意すると、千鉱はか細い声で勘弁してくれ……と呟いた。
一人蚊帳の外に置かれた座村は苛立ちが募ってくるのを感じる。千鉱は座村のSubで、共有を許したのは柴と薊だけ。
自分の知らない話をしているというのも理由のひとつだが、時々こちらに意識を向けながら自分の様子を伺っていることが気に食わない。
その人は俺のだぞ、と吐き捨てたくなるのを抑えながら座村はぐしゃぐしゃになった書類を新しく発行してもらうために席を立った。総務課で聞かされる小言が嫌でいつもなら人当たりのいい薊に行かせるのだが、あの室内にいることを思えば今日は自分で行った方がマシだと思う。
部屋から出て少し進むと、さっきまで感じていた苛立ちは異様なほどすんなりと収まった。
それほどまでに彼らを見ていることがストレスになっていたらしい。もしかするとあの中の誰か、もしくは全員がDomであの苛立ちは本能からくるものだったのかもしれない。
「後で聞いてみないとな」
呟きは誰の耳にも入ることなく床に落ちる。もし総務課から戻った際にまだ三人がいたならどうやって追い払ってやろうかと考えながら、座村は早足でエレベーターホールに向かった。
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.