Tシャツとキャミソールに手を掛けると、白く透き通るような肌が見えた。手足と違って日に焼けていない、綾部本来の肌の色だ。腹に薄らと筋肉の筋が見えていて、余計な脂肪がついていないのがわかる。初めて目にすることになるその先を想像して、ごくりと生唾を飲み込む。綾部が不安そうにこちらを見つめているのに気づいて、笑顔を作った。緊張しているのは俺だって同じだけど、男としても先輩としても女の子をリードしてあげなきゃというプライドがある。
シャツを引き上げると、遂に下着が顕になる。それを見て、俺はぴたりと静止した。白地にブルーのラインが入って、胸元には大きめのリボンがあしらわれている。シンプルだが可愛らしい。綾部の初々しい姿とも実にマッチしている。予想外の展開に、俺は神に感謝した。ありがとうありがとう。俺は前世で地球滅亡の危機でも救ったのかもしれない!
お洒落より楽さや動きやすさを優先させることの多い綾部のことだから、てっきり色気の欠片もない無地の下着でも着けているものだと思った。いや、正確には可愛い下着を着けてハジメテに挑むいじらしい綾部の妄想くらいしたことはあるが、期待して本番でがっかりした姿を見せるなんて失礼極まりないので自らその期待を捨てた。そりゃあほんのちょっとくらい期待する気持ちはあったが、実物の威力は想像を超えていた。
興奮で頭がくらくらする。手が震える。到底このまま続けることもできず、落ち着くためにそっと深呼吸をした。
「お気に召しませんか?」
黙ったまま動かなくなった俺を見て、綾部が顔を俯けた。脱がせたばかりのTシャツを引き寄せて胸元を隠そうとしている。
「い、いや、そんなことないよ! 可愛いし似合ってる。ちょっとびっくりしちゃって」
「ほんとですか?」
「ほんとほんと!」
俺のために選んでくれただろうに、不安にさせてはいけない。本気で喜んでいるのだと示すために首をぶんぶん縦に振ると、綾部が小さくはにかんだ。
「ならいいですけど。久々知先輩は絶対こういうのが好きだって立花先輩が熱弁するから用意したんですけど、いざ着てみると結構恥ずかしくて」
途端に立花先輩のドヤ顔が俺の脳裏に浮かんで、全身に巡っていた血流が急に勢いを失くした。
次に会った時、絶対におちょくられる。綾部の下着を見た瞬間、確かに神に感謝したい気持ちにまでなったのに、何故だか直接の功労者である立花先輩にはちっとも感謝する気になれない。
「ちょっと! 今誰のこと考えてるんですか!」
「えっいや別に」
どうやら立花先輩のことを考えていたのを見透かされたらしく不服そうな声が飛んできて、慌てて今度は首を横に振る。
「まさか立花先輩のいやらしい姿でも想像してるんじゃないでしょうね!? いくら久々知先輩でもそんなの許しませんからねっ!?」
「それは絶対ない!」
立花先輩は確かに美人だが、恐怖の対象である。勃つとか勃たないとかの次元にない。そんなことを考えること自体が烏滸がましい。というかそこは立花先輩に対して不届なことを考えている(かもしれない)方ではなく、この状況で他の女のことを考えていることに対する嫉妬であってほしかった。それだって綾部本人の所為ではあるが。
「ほんとですか?」
「ほんとにほんとだって!」
さっきとほとんど同じ会話を繰り返す。拗ねた綾部がそっぽを向いてしまい、すっかりそんな空気ではなくなってしまう。けれどそのお陰で程よく落ち着くこともできた。
「せっかくなんだから、もっとよく見せて」
気を取り直して優しくお願いすると、目線だけがちらりとこちらを向いた。頭を撫でるとおずおずとこちらを向く。胸に手を添えると恥ずかしそうに顔を背けられる姿が可愛くてたまらない。
今着けている下着は悔しいことに大変に俺好みではあるのだが、できれば今度は俺に選ばせてって言ったら引かれるだろうか。そんなことを考えながら、優しくキスを落とした。
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