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留守田
2025-07-05 15:30:36
4207文字
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妙な衣装のはなし
ある貴族の夜会の余興としてちょっとした演劇の舞台に立つことになった自Tav(ヴァリス)君。
しかし、渡された衣装が……
ちらのーとに投げようとしたら膨らんでしまった奴なので描写が雑です。雰囲気で感じてください。
いつも通りTavがヴァンパイアの花嫁(花婿)設定だったり、名前ありのスポーンが居たり言及されてたり、独自色が爆発してます。
演目の都合上、仕方のない事なのかもしれないが
……
流石にこれはちょっと、布地が少な過ぎやしないだろうか。
腰回り以外、殆ど金属の鎖や金具で構成された暴君の衣装はあまりにも
……
舞台人だったヴァリスにとっても刺激が強いように思えた。
布地が暴騰でもしているのか、或いは機織りが雇い主に反旗でも翻しているのか、下衣にさえあまりにも慎ましやかな面積しか使われていない。
「すまない、ちょっといいか?」
ヴァリスは衣装を控え室まで持ってきてくれた使用人に声をかける。
「はい」
「私は今日の演目、“砂国の王の遊戯”を演じたことはないが、観たことはある。エロティックな劇だと記憶しているが、衣装もここまで露骨だったか
……
?」
記憶の中では、自分の役回り
……
遊戯と称して、あまりにも残酷で淫靡な使命を主人公である大臣に課す砂国の暴君の衣装は、露出が高くても裸同然ではなかったはずだが。
「さあ
……
? 私はこの衣装をお持ちするようにとしか主に命じられていないので、分かりかねます」
しかし使用人はヴァリスの期待を裏切り、首を傾げるばかりだった。
「
……
舞台衣装なんだよな?」
「はい、多分
……
」
とは言え衣装の異常さには思う所があるようで、躊躇いがちに下を向いた。
「舞台衣装か
……
なら、仕方ない」
ヴァリスは一度だけ盛大に肩を下げて項垂れ、溜め息を吐くと、次に息を吸った途端にピシリと背を伸ばす。
大袈裟な程の感情の発露を経て、自分の精神を一度リセットする。そして役者としてのスイッチを彼が入れれば、そこにはハイエルフの貴族ではなく、一人の役者が現れた。
「演った事のない演目だからな、台本は?」
「え、あ、はい。こちらに」
使用人が差し出した台本を広げ、ヴァリスはその一行一行に目を通していく。
短い劇ではあるが時間はない。酒の入った夜会の、少し淫靡な余興に過ぎないとは言え、役者として手を抜くなど言語道断だ。
「よし。着替えるのを手伝ってくれ」
「かしこまりました」
一昔前なら自分一人で着替えたものだが、台本を読みながら着替えさせて貰えるとは。我ながら、いい身分になったものだ。
ヴァリスは最初に入団した小さな劇団の、狭い芝居小屋の控え室を思い出しては密かに笑った。
「
……
ほう。して、余の渡したカードをどう“破って”みせる?」
舞台の上の玉座で暴君は足を組み替え、衣装の鎖が金属と触れ合って僅かに音が鳴る。
足の指先の動きでさえも艶かしく、しかし恥じらいは一切ない。この暴君の前では性欲も殺意も同じなのか、或いは両方欠けているのか。
照明の元で興味深そうに煌めく青い瞳は、熱も冷たさも併せ持っている。どちらがより強いのかは
……
誰にも分からない。ただ、恐ろしい程に冷酷であることだけは誰の目にも明らかだった。
「
……
はっ。ご覧に入れましょう」
跪く大臣に、暴君を演じるヴァリスは冷めた視線を向ける。
この夜会の主催でもある大臣役の貴族は演技こそこなせているが、暴君が登場してからというもののどこが残念そうに思っているような邪念が透けていた。
衣装で美しい者が恥じらう姿が見たい
……
裏で眠っている欲望は、そんな所だろうか。
大臣の妻が奥から現れる。美しく、機知に溢れた己の妻でさえも使わなければ
……
大臣は目の前の暴君から死を賜り、首を刎ねられる。
これはそういう遊戯だ。最後に待つ褒美のために、或いは生き延びて反旗を翻すために、渡されるカードに刻まれた課題を次の期日までに果たす。
課題を果たしたその証としてカードを破るためなら、王座の前に誰を引き立て、何をしようとも赦される。
「くだらぬ」
ヴァリスは本来ない箇所に台詞を入れ、再び足を組み替える。
本来なら大臣とその妻の踊り──淫行の暗喩だ──を、冷たく見据えるだけの場面だが。大臣役の貴族の意図が透けてからというもの、暴君役だけでなくヴァリス自身にとってもこの劇自体がくだらない物のように思えた。
それでも、全ての芸は家のため、即ちアスタリオンとその
子供
スポーン
達のためであり、彼の芸は依然としてコアロンと、そして再会の野営地で縁を持った、詩歌の王たるミリルにも捧げられる。
役として退屈を演じるのはいいが、本当に退屈だと思ってはいけない
……
ヴァリスは己の感情を胸中で戒め、暴君を演じ続けた。
「ふう
……
」
劇は終わり、再び控え室へ戻ったヴァリスは衣装を脱いで来た時と同じ礼服に着替えると、部屋の片隅に用意された鳥籠を覗き込んだ。
『久々に演る芝居は面白かったか、ダーリン』
鳥籠の中で普通より高い位置で固定された止まり木から優雅にぶら下がる、アルビノの蝙蝠からヴァリスは
念話
テレパシー
を受け取る。
受け取った言葉からは皮肉っぽい微笑みと、微かだが
……
怒りの感情を感じられた。
『求められている暴君は演じれたとは思うが、あまり面白く演じれたとは思わないな、アスタリオン』
そう、この風変わりな蝙蝠は恐るべきヴァンパイア・アセンダントにして、数多のスポーン達を統べるヴァンパイア・ロードでもあるヴァリスの伴侶、アスタリオンが〈
動物変身
ビーストシェイプ
〉で変身した姿だった。
ある日、もう少し貴族のペットらしい特徴を出せないかと言われて、今の白い身体にふわりとした鶏冠のような毛を頭から生やし、赤いつぶらな瞳がキュートな、人目を惹く愛くるしい姿を取るようになったという微笑ましいエピソードも付いている。
『そうか。お前の演技の良さは疑うまでもないが、俺は不愉快だ』
『不愉快?』
鳥籠が揺れて蝙蝠が飛び立ち、そして一度霧へと消えた。
次の瞬間、きょとんと間抜けな表情を浮かべるヴァリスの前に、アスタリオン卿その人が現れる。
「そうだ。なんだあの破廉恥な衣装は!」
「破廉恥
……
まあ、かなり露出はあったが、舞台衣装だぞ?」
声を荒げ、人のことを指先で何度も指してくる辺り、結構な剣幕だ。
鼻先にまで彼の美しい指先が迫ってきて、私の脳内では思わず咥えてみたくなる誘惑と戦う羽目になっていたが、そんな事はお構いなしにアスタリオンは言葉を続ける。
「お前には俺が居るのに
……
俺の夫にあんな衣装を用意した下衆が一番悪いが、衣装を着るお前も大概だ! 妙な魔法のかかった
魔法の品物
マジックアイテム
だったらどうするんだ!?」
「お前がたまに二人きりの舞台で用意する淫靡な衣装よりはマシだと思うんだが。それに、ああいう私の肉体美を強調した衣装も好きだろう?」
二人きりの舞台、つまりベッドの上でたまに着せられる衣装は、卑猥に飾り立てるのが目的だからか、いっそのこと裸であった方がマシだと思う物さえ着せられているが。
二人でより甘いひと時を愉しむためにと、私は幾らでもその手の衣装を着てきた。アスタリオンの喜ぶ顔も見たかったし
……
私も、満更でもなかった。
そんな衣装を着せてきた張本人は視線をたっぷりと彷徨わせ、そしてバツが悪そうに口を開く。
「
…………
まあ、確かに嫌いじゃないがな?」
まるで叱られても弁解しようとする子どものような上目遣いだったが、すぐに貴族の顔に戻ってこうも言った。
「しかし、あまり俺や家族の前以外で過剰に肌を見せるな。お前の裸体に近い姿が衆目に晒されていたと知って、嫉妬に駆られるのは今や俺だけじゃないんだぞ、ダーリン」
「ふむ。ベスティラがゾンビを連れてくるか?」
アスタリオンの
子供
スポーン
達の一人、ベスティラ。
今や一角の死霊術師である彼女が、アンデッド達を引き連れて屋敷をちょっとした地獄の様相にするのは目に浮かぶ。
彼女は何より私の事が好きだ。きっと許しさえ出れば、他の招待客の命など露ほども気にしないだろう。むしろ、素体となる死体が増える分、彼女は喜ぶに違いない
……
「アルルスリンがここに招かれた全員分の毒の調合をするのを、止めれる立場にあるアドヴェルは止めないだろうな。シグナスは
……
兄弟姉妹のためなら、喜んで逃げた連中の追跡を手伝う」
熟練の生贄狩りだったドラウの毒に、ゲート市街で私立探偵として調査対象という名の獲物を追っていたレンジャーの追跡、そしてそれを止めないスポーン達の長男であり、私の従者であり宮殿の執事でもある男。
きっと、止めないばかりか喜んで手伝うに違いない。
生得魔術師
ソーサラー
の血筋が彼に与えた秘術の中には〈
上級不可視化
グレーター・インヴィジビリティ
〉さえ含まれているのだから。
「相変わらず愛が重いな。誰に似たのやら」
「当然、俺だ。幾ら子供と呼び扱って愛そうが、あの子達は俺のスポーンだ。俺の意思の延長に過ぎない」
「そうか? その割には、お前も子供達がしでかしそうな事に心当たりがあるようだな。しかも
……
随分と自主的で、個性的なようだ」
愛する者を辱める輩には死で報いる、という過激な思想を
……
強いて言うならスポーン達は二人から引き継いでいるのだが、この場に指摘出来る者はいない。
「帰るぞ、我が配偶者よ。
子供
スポーン
達が、お前が裸同然で舞台の上で演じたと知った時
……
あの子達を止めれるのはお前だけだからな」
アスタリオンはそう言い残すと自分の姿を霧に溶かし、再び鳥籠の中で白い蝙蝠の姿に戻った。
「旦那様、迎えの馬車が来ていますよ」
控えめなノックと共に、宮殿から連れて来ていた青紫色の肌のティーフリングの従者が現れる。
黒曜石のような一対の角を持つ彼の瞳は、デヴィルのもののように白目が黒く、虹彩は血のように赤い。
「ああ、ありがとうアドヴェル」
「では帰りましょう。鳥籠をお持ち致しましょうか?」
「いや、いい。私が持つ」
ヴァリスは掛けてあった鳥籠を持って、アドヴェルは代わりにヴァリスからバイオリンが納められたケースを受け取った。
翌日のバルダーの声には、件の大臣役だった貴族が謎の血抜き遺体となって発見されたという旨の記事が小さく載っていた。
「当然の報いですね」
「全くだ」
同じ記事に目を通した長男と伴侶が白々しく言うものだから、ヴァリスも肩をすくめて黙っていることにした。
……
血抜き遺体が一人見つかるぐらい、由来不明のアンデッドの群れが貴族の屋敷へ攻め入るよりはまだマシだ。
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