万丈
2025-07-01 07:43:59
1617文字
Public 小説
 

壮大なすれ違い

【AI生成】【二次創作】【天空戦記シュラト】
マイペースな夜叉王と、気苦労が絶えなさそうなインドラ様の話。

前の話→調子に乗る獣とお仕置き
次の話→女官たちの井戸端会議

ガイは、天空殿の長い回廊を、感情の読めない表情で歩いていた。
彼が目指すのは、主であるインドラの私室。定期報告のためだ。

近頃、この天空殿の空気は、奇妙な弛緩と緊張が入り混じった、不可解なものに変わってきている。その原因が、先日インドラが復活させたあの忌々しい獣――アカラナータにあるであろうことを、ガイは当たりをつけていた。

あの獣とは、一度顔を合わせている。復活直後、アカラナータは即座に喧嘩を売ってきた。一触即発の空気を遮ったのは、インドラの「やめろ」という静かな一言だった。それ以来、二人の間には互いへの嫌悪感だけが渦巻いている。

インドラの私室に近づくにつれ、廊下の隅でひそひそと囁き合う、若い女官たちの姿が目に入った。ガイが通りかかると、彼女たちは慌てて口をつぐみ、恭しく一礼する。だが、その瞳には隠しきれない好奇の色が浮かんでいた。

ガイ様、おはようございます」

「インドラ様は、もうお目覚めでしょうか?」

その問いかけに含まれた、妙な含みに、ガイは内心で眉をひそめた。
女官たちが去った後、ガイはわざと歩みを緩め、壁の陰に身を潜めた。やがて、安心した女官たちが、再び小さな声で噂話を始めるのが聞こえてくる。

「近頃、インドラ様のご様子が

「ええ、毎日のように、お部屋の寝具がひどく乱れているの。まるで嵐が過ぎ去った後のように……

「それに、お食事も、以前よりお一人分多く用意するよう、命じられることがあるわ」

「お相手は、一体どなたなのかしら……

「きっと、ガイ様よ。インドラ様が心を許されているのは、ガイ様くらいですもの……

その言葉に、ガイの表情から温度が消えた。馬鹿な。あの氷のような男が、誰かに心を許すなどあり得ない。ましてや、この私にだと?不快感を通り越し、ガイは彼女たちの短絡的な憶測に、冷たい嘲笑すら覚えた。

報告のため、インドラの私室へと入ったガイは、確信をさらに深めることになった。玉座に座すインドラの佇まいは、いつもと寸分違わぬはずだった。
しかし、ガイの目は、その完璧な主君の、僅かな「乱れ」を見逃さなかった。普段より、心なしか深く合わせられた襟元。そして、部屋の空気に混じる、インドラ本来の清廉な香りとは違う、微かで、しかし確かな、あの男の猛々しい匂い。

ガイは報告を滞りなく終えると、最後に、まるで何気ない世間話のように口を開いた。

「インドラ様」

……何だ」

「いえ、近頃、殿内の風紀が少々乱れているようでして。根も葉もない噂が、貴方様のお耳を汚さねば良いのですが」

それは、部下としての忠告を装った、鋭い釘差しだった。インドラの瞳が、すっと細められる。その灰色の瞳の奥に、一瞬だけ、動揺とも苛立ちともつかぬ光が宿ったのを、ガイは見逃さなかった。

……お前の仕事は、噂話の収集か、ガイ」

「滅相もございません。ただ、貴方様のご威光に傷がつくことを案じているまでです。特に、素性の知れぬ獣などを傍に置かれては、いらぬ憶測を呼ぶ元にもなりましょう」

インドラはそれ以上何も言わず、ただ「下がれ」とだけ命じた。ガイは恭しく一礼し、静かに部屋を退出する。

扉が閉まる直前、ガイは見た。インドラが、無意識のうちに、自らの首筋にそっと触れるのを。そこには、何かを隠すような、あるいは、確かめるような仕草があった。



一人残された部屋で、インドラは深い、深いため息をついた。

(完全に気づかれていた……

一方、廊下を歩くガイは、先程の会話のことなどすっかり忘れ、思考を巡らせていた。

(次のシュラトとの戦いでは、いかに奴の油断を誘うかそうだ、アカラナータを囮に使うのも手か……

主君の知られざる悩みと、部下の全く噛み合わない忠誠心。天空殿の不穏な空気は、そんな二人のすれ違いを乗せて、今日も静かに流れていくのだった。