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きなこ
2025-06-28 13:41:12
5378文字
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ワグボク
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【ワグボク】ワグナス殿が塩対応な件について〜ケース1〜
ワグボク。
恋愛経験値が子供なワグ→とことん鈍いボクな感じの話。
きなこは考えた。
ワグナス殿、なんかボクオーンちゃんに冷たくない?と。
だって七英雄の記憶でボクオーンがワグナスに話しかけても、答えるのはノエルだったり、最初はワグナスが答えても途中で引き継いだり。
記憶13なんて「ワグナス殿」と名指しで問いかけてるのに、答えるのはスービエだからねっ(ここの従兄弟の視線を交わすの好きだけれどもっ)
なんでそんなにボクオーンと話したくないんだよと言いがかりをつけたい、きなこの妄想。
ボクオーンは思った。
ワグナスは、自分のことが嫌いなのではないかと。
その根拠はたくさんある。
例えばボクオーンがワグナスに話しかけても彼は無反応で、周りの二人
――
ノエルとスービエ
――
が答えること。
例えば目が合うと、さり気なく逸らされること。
例えば部屋に二人きりになると、その後作戦会議をする予定があるにもかかわらず、席を外されること。
数えてみればきりがないほどだ。
出会った頃はそんな事はなかった。
ワグナスはボクオーンに次の作戦の意見を求めるために、わざわざ会いに来てくれていた。指摘をすれば真摯にそれを受け止めて、意見を交わした。
彼が立てた戦術が優れていると褒めた時には、普段は厳しい顔をしている彼が、頬を染めてはにかむことだってあった。
何か気に障ることをしてしまったのだろうか。
自分がターム討伐軍の軍師に名乗りを上げた理由が、名声目当てだと気付かれて、高潔な彼に嫌悪されてしまったのだろうか。
ワグナスに避けられていることに気付けば、その理由が気になって仕方がない。
ワグナスはこの軍のリーダーだ。そしてボクオーンは軍師という立場である。自分が立案した策を信じてもらえなければ、作戦の成功率だって変わってしまう。実行メンバーの命にも関わる問題だ。
さらに、彼の不信を買えば軍から追い出されることだってありうる。
それは非常に困る。
ようやく将来有望な神官とお近づきになれた。そのうえ、このタームの討伐ができれば、名声を得ることができる。現在は負け続きではあるが、あのワグナスならば必ず偉業を成し遂げることが出来るだろう。彼からは、そう思わせる強い光が感じられる。
ここまで来てそんなおいしい話を、捨てるなんて出来ない。
ならばその原因を探ろうと、ボクオーンは行動を起こした。
訪れたのはワグナスの従兄弟であり、腹心でもあるスービエのもとだ。
訓練場で兵士達に稽古をつけていた彼に話があると告げたら、お茶と茶菓子を強請られた。
そして昼に中庭で待ち合わせをすることになった。
その中庭は兵舎の裏にある。
兵舎は元々は貴族の邸宅で、その名残で季節の花々が色とりどりに咲く立派な庭園が存在していた。平民出身で武骨者が多い兵士たちは花を踏み荒らすことを恐れて、近づかない場所だ。
ガセボには六人が座れるテーブルと椅子が設置されている。ボクオーン達幹部は、季節の花を楽しみながらお茶会を開く場所として、そこを利用することが多い。
指定の時間までは一時間。凝った準備をする余裕もないので、クッキーとスコーンは市販の物を購入するように手配をした。そしてボクオーンは厨房を借りて、あり合わせの具で軽食を作る。
スービエの機嫌を取るため、彼の好物である魚介のサンドイッチを用意した。選んだのは、スモークサーモンとクリームチーズのサンドイッチだ。メインの具材の上に薄切りにした玉ねぎとディルを乗せ、仕上げにレモン汁を垂らしてパンで挟んで完成である。
ついでにアボカドとえびをバゲットに乗せた物も作っておいた。
より良い情報を得るために、まずは胃袋をつかむ作戦だ。
約束の時間になると、中庭にスービエが現れた。
多めに用意した軽食で腹を満たせば、彼は機嫌よくニコニコと笑顔になる。
食後の紅茶を飲むころになり、スービエはようやく話を聞く姿勢になった。
「で、俺に相談ってなんだ?」
「単刀直入に伺います。私はワグナス殿に、嫌われるようなことをしてしまったのでしょうか?」
スービエは目を丸くし、信じられないものを見るように、まじまじとボクオーンを見つめた。
ボクオーンはその不躾な視線に、眉をひそめた。
しかし今は教えを請うているのはボクオーンの方だからと、紅茶を口に含んで心を鎮める。
「なになに、ふむふむ、そうかぁ」
何やらしたり顔で呟いていたスービエは、顎に手を当てて、ニヤリと口元を緩めた。
ろくでもないことを考えている顔だ。しかし今は情報が欲しい。我慢のしどころだ。
「ワグナスはお前のことを嫌ってはいないさ」
「しかし、視線をそらされたり、直接の対話を避けられたりしています。ともに戦う仲間への態度とは思えません」
「人には相性ってもんがあるし、仲良しこよしだけが仲間じゃねぇだろ」
それは正論だ。口をつぐみ、そっと視線を落とした。
スービエは涼しい顔をして紅茶を飲んでいる。クッキーを数枚ついばみ、そして紅茶のおかわりを催促してくる。
ボクオーンはティーカップを受けとった。
スービエは背もたれに寄りかかり、腕を組んで庭園を眺めていた。
白い百合が風に揺れる。清廉で凛とした佇まいはワグナスを思い出させた。甘く上品な香りが風に乗り、ボクオーンの手元で紅茶と混ざりあった。
「プライベートはそれでも構いません。ただ、私を信じられないことで作戦に支障をきたすことは避けたい。だから、可能であれば関係の修復を望みます」
「ワグナスが公私混同をすると?」
彼の太い眉が神経質に吊り上がる。
面倒だなと心の中だけでため息をつく。ワグナスについてネガティブな意見を言うとすぐにこれだ。
「そうは言ってません。しかし一般論として、嫌悪感を持つ相手の策に命を預けられますか?」
「とはいえ、好き嫌いなんて感情論だ。お前は正直、胡散臭い。でも能力は認めている。それはワグナスだって同じだよ。それじゃだめか?」
「
……
生理的に嫌いだというのであれば、どうしようもないでしょう。でも、出会った当初はそんな対応ではなかったから、何が原因かと気になるのです」
スービエは大きく息を吐いた。視線を少し遠くの花壇へと向ける。
何かあるなとボクオーンは察した。彼はおそらく理由を知っているのだろう。しかしボクオーンに明かす気はなさそうだ。どうせここで話したことはワグナスに筒抜けになるのだ。ならば、少し揺さぶりをかけてみるか。
優雅な所作で紅茶を飲み、儚げにそっと息を吐く。伏し目がちな瞳に長いまつ毛の影が落ちる。
「リーダーをはじめ、実行役のあなた達にも信頼されていないのなら、それはこの軍のためにならない。私は潔く身を引くことも考えています」
ガチャンと、スービエのティーカップが甲高い音を立てる。乱雑に振る舞うが、実はスービエは食事の時の所作が美しい男だ。貴族生まれゆえ、そうした動きは体に染み付いているのだろう。そんな様子から、動揺が手に取るように伝わってくる。
しかしボクオーンは表情には出さずに肩を落とした。
「いや、さっきも言ったろ。お前のことは認めているって」
声が微かに震えている。
そこに狼狽を感じ取った。これは思った以上に効果があったのかもしれない。
ボクオーンは眉尻を下げて目を細め、唇だけで薄く笑みを作った。
「
……
こちらのスコーンはいかがですか? 街で人気の店で購入してきました」
この話は終わりだとばかりに、クロテッドクリームとジャムをスービエに近づけた。
スービエの眉が神経質に動いた。だが彼はそれを誤魔化すように笑みを作り、「うまそうだな」と言いながらスコーンに手を伸ばした。
他愛無い雑談を交わし、午後の稽古の時間だとスービエは去っていった。
テーブルに一人残されたボクオーンはのんびりとお茶を飲んでいた。ちょっとした賭けだが、これで自分が去った方がいいと判断されるのであれば、そこまでだろう。
だがおそらく、そんな事態にはならない自信はある。
そしてターゲットは、思いのほか早く餌に食いついてきた。
百合の花を眺めながら、そろそろ仕事に戻ろうかと考えていたところに、ワグナスが駆け込んできたのだ。
長身の彼がボクオーンの前に立つ。
まっすぐで熱のこもった瞳を向けられて、吸い寄せられるようにその銀灰色の瞳を見つめた。
ワグナスとまともに目を合わせるのも、ずいぶん久しぶりだった。
乱れる呼吸を整えている彼の長い黒髪が風に揺れる。その背後でそよいでいる百合の花の白色とのコントラストがとても美しい。
彼は何かを言おうと口を開いたが、その形のいい唇から言葉が紡がれることはなかった。
しかしワグナスはおそらく、スービエに話を聞いて来たのだろう。
「そんなに慌ててどうされました?」
「いや、その
……
スービエが、君がこの軍を去ることを考えていると言っていたから。それは困る。我々には君の力が必要なのだと、ちゃんと伝えようと思ったのだ」
彼らに必要とされていたことに心底安堵をした。今はそれだけで十分なのかもしれない。
ボクオーンの顔が綻ぶ。
次の瞬間、ワグナスの目が見開かれた。肩が大きく揺れ、頬が染まる。
「
……
っ!」
ワグナスは大きく顔を背けてしまう。
この角度は最近よく見るものだ。
軽くため息を吐いて、ボクオーンは意を決して尋ねてみた。
「スービエから話は聞いているでしょうから単刀直入に聞きますが、ワグナス殿は、私のことが嫌いなのでしょうか?」
ワグナスが息を呑む。その顔は引き攣り、そして青ざめているように見えた。
その表情は隠していた感情を暴かれそうな時の反応に思えた。
――
図星だったか、とボクオーンは俯いた。
「
……
ああ、失礼しました。本人を目の前にしては言いにくいでしょう。答えは不要です。ですが、あなた方は私の能力を必要としてくれていることが分かったので、ここを去ることはやめます」
元々去る気なんてなかったが、と、心の中で訂正を加えながら、にこりと笑みを浮かべた。
「ち、違うんだっ」
ワグナスは、彼らしくなく慌てた様子で、訂正をする。
首を傾げながらワグナスを仰ぐと視線がぶつかった。
彼は眉間に皺を寄せながらも眉根を下げて、まるで迷子の子供のような顔をしている。いつも毅然と背筋を伸ばしている彼の、その初めて見せる頼りない表情に、庇護欲が湧いてきた。
「君に問題はないのだ。むしろ私の方の問題で
……
。君のことが、す、
……
とても好ましく思っているのだ」
ボクオーンはぱちりと大きく瞬きをした。
その言葉が胸にじんわりと浸透をしていく。心にやわらかで温かい春の日差しのような光がさした。
――
そうか、嫌われていたのではなかったのか。
「嬉しいです。最近、あなたに嫌われているのではないかと、ずっと思っていましたから」
頬を緩めてふわりと微笑むと、ワグナスの視線が泳いだ。口元に手を当てて、そわそわした様子後ろを向いてしまう。
おかしなワグナス殿だと思いながら、ボクオーンは席を勧めた。
「少し冷めてしまいましたがお茶でも淹れましょうか? スービエの食べ残しですが、サンドイッチもまだありますよ。お店のものではなく、私の手作りですので
……
恐縮ですが」
「
……
いや、君の手料理はとても美味しいと思う。いただこう」
席に座ったワグナスは、眉間に深い皺を刻んだ険しい顔で。それは普段通りのとても見慣れた表情であった。
そんな中にも、少しだけ浮ついた空気が感じられた。
だがボクオーンはさほど気に留めずに、機嫌よくティーポットを手に取り、お茶の準備に取り掛かるのだった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「あれはなんなんだ、子供なのか?」
呆れたようなノエルの言葉に、スービエは苦笑を浮かべる他なかった。
「頭が良い、ちょっときつめの美人って、ワグナスの好みど真ん中なんだよ。初恋っぽいし、大目にみてやってくれ」
窓から吹き込む穏やかな風が、汗ばむ肌を冷やしてくれる。
中庭を臨むことができる部屋で、ノエルとスービエはワグナス達の様子を盗み見していた。
「ワグナスもワグナスだが、ボクオーンもなんであれで気付かねぇんだ? ワグナスがあんなに挙動不審なのは、ボクオーンを意識しているからだって、分かりやすいだろう」
スービエの言葉に同意を示すようにノエルは頷き、腕組みをしながら難しい顔をした。
「意外と自分への好意に鈍いところがあるようだが
……
彼はワグナスのことをどう思っているのだろうか」
「ワグナスに嫌われてる原因を探って、どうにかしたいと思うくらいなんだから、結構好きなんじゃねえの。しらねぇけど」
無責任に告げて、スービエは窓枠に頬杖をついて口の端を持ち上げた。
「いつかはまとまるんじゃね?」
「
……
そうだろうか。変な方向に拗れるような気もするのだが」
「それは、面白そうな展開じゃん」
けらけらと笑い声を上げながら、スービエは視線を下へとやった。
眼下にはワグナスとボクオーンが会話をしながらお茶を飲んでいる姿があった。
ワグナスはボクオーンとは目を合わせないくせに、ボクオーンが作業をしている時には彼を盗み見していたりする。なぜ気付かないんだボクオーンよ、と問いたい気持ちでいっぱいだった。
甘酸っぱく芽生え始めたばかりの恋の行方を見守るのは、きっと楽しいが
――
同時にもどかしくもありそうだった。
焦れったさに、いつかどこかでぶん殴るかもしれないなぁなんて思いながら、スービエは目を細めた。
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