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蜂宮
2025-06-26 04:08:45
3220文字
Public
ルキ教
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手紙
ルキ教の短いやつ。
夜明けに手紙読んでる🦎にちょっかいかけてやり返される🧪の話。
ノレキノさんの家族関係捏造してます。
微睡みから目を覚まし、視線を彷徨わせる。
薄暗い部屋の一角にぼんやりとした灯りが点っていて、魔トカゲの大きな体が丸まっているのが視界に映った。
ゆらゆらと揺れる尾を暫し眺めていると再び眠りに落ちてしまいそうで、軽く頭を振って覚醒を促し起き上がる。
「
…
まだ夜明け前だ。」
起き上がった気配を察知したらしい彼が振り返る事もなく声をかけてくる。その言葉を無視して靴を履いて立ち上がると呆れ返ったようなため息をつかれた。
わざとらしいことこの上ないが、ルキノからしてみれば同室の彼からの呆れよりも彼の手元に何があるのかが気になってしまった。
魔トカゲの研究室は部屋から続く奥側の部屋にある。わざわざこんな置かれている家具が人間専用の大きさをした場所へと腰を下ろす必要などないというのに、そこを選んだ理由が知りたかった。
「
……
手紙じゃないか」
だからこそ、何があるのかと興味本位で覗いた手元に、広げられた便箋が握られていた事になんだかルキノは驚いてしまった。
それは決して彼やルキノの研究に役立つようなものではない。それをこんな夜更けに、一人で眺めている魔トカゲの姿が酷く物珍しくて、思わず便箋と彼の顔を交互に見比べてしまう。
「失礼だぞ、君。」
「いやァ
…
似合わないなぁと思ってな。」
「私に宛てられたものだろうに。」
そう言われて今度は便箋の内容を注視する。
確かに言われてみればそうなのかもしれないなと思う、くらいだった。「
…
あァ」という芳しくない返事しか返せなかったのは、その手元の便箋の文字が掠れて殆ど読めなくなってしまっていたからだ。
そんなに貰ってから時間の経っているものなのか?と疑問に思いながらサイドテーブルに無造作に置かれている封筒へと手を伸ばす。色味が同じなのでこれに入っていたのだろうというのは簡単に想像できた。
宛名に掠れた文字で己の名前が書かれていることを確認して、クルリと裏返して差出人の欄を見る。
母の名前だった。
記憶にあるかと問われれば答えはノーであり、ルキノは頭をひっくり返しても母からこんな手紙を貰った記憶もなければ、自分から返事や手紙を書いた事実もないだろうと確信が持てた。
それ程までに希薄な家族関係だった。
「
…
私も数日前に見付けた。ここに来る時に幾つか本を持参してきただろう?」
「あ、あァ
…
そうだな。本
…
ああ、確かに持ってきていた。辞書と、専門書と、小説
…
?」
前者ふたつは最近使った記憶があるが、まだ読んでいないからと実家から持ってきた小説は未だに手付かずで鞄の中に放置していたような気がする。
何より、そんなもの読んでいる時間すらないだろうにあの時の自分は何を考えていたのだろうか。体の変異が始まってからしばらくは気が動転していて、自分の行動も説明ができないものばかりだった。
「その小説に挟まっていた。宛先は書かれているが消印もないのだから、出されてすらいない手紙だな。」
「
……
それは、読めるのか?」
「いいや。掠れていてもう読めないな。だが
…
ほら、ここの文字は読める。」
そう言って魔トカゲが指差した箇所には、確かに己の名前が書かれていた。
その前後も、息災にしているか、心配だからたまには帰ってきて欲しい、そんなことが書かれているのだろうと辛うじて判別できる。
なんとも言えない気持ちで手紙から目を逸らすと、こちらを見ていたらしい魔トカゲの橙色の瞳と目が合った。
「
…
なんだ。」
「帰るか?」
「
……
この姿で?」
両手を広げて見せる。緑の鱗はルキノの体を蝕み続けていて、きっとこの不可思議な館を出ればたちまち数日のうちに自分は目の前の蜥蜴と同じ姿へと変貌するであろうと理解していた。
その状態で、己を知っている者に会いたいとは思わなかった。
「案外母は受け入れてくれるかもしれないぞ?」
「
…
いや、ないな。一年のほとんどを家の外で過ごしている人だ、変わってしまったら気付かれない。」
父も怪しい。母が分からないのはもうほぼ確定として、父もあまりルキノのことを見ているような人ではなかった。
厳格で、理知的な人ではあったが、親として無条件に信用できる人ではない。それだけの関係が幼少期ルキノと父の間で結ばれることはなかった。
「随分と疑り深くなってしまって、なァ?」
「
…
無鉄砲なままよりはマシだろう。それに
……
」
言いかけた言葉をすんでのところで飲み込む。
…
今自分は何を言おうとしていた?
「それに?」
「
…
い、いや
…
なんでもない。」
口走ってはいけないことを言おうとしていた。
「君がいればそれで良い」なんて、姿形は違えど同じ己である存在に一体自分は何を考えていたのだ。
それがまた無自覚だからタチが悪い。まるで自分が本気で心の底からそう思っているように感じてしまう。
まずいな、と思い魔トカゲの傍を離れベッドへと戻ろうと踵を返したところで、背に声をかけれた。
「言ってやろうか?」
「
…
は?」
「君は随分と臆病だからな、私から言ってやろう。」
本能が警鐘を鳴らす。心臓が早鐘を打ち視界が狭まっていく。恐る恐る振り返るといつの間に立ち上がったのか、サイドテーブルの上に古ぼけた便箋は置かれていて魔トカゲは愉快そうにこちらを向いて微笑んでいた。
この先に続く言葉を聞いてしまったらダメだ、逃げられなくなってしまう、と直感的に理解して何か言わなくてはと開いた口に、魔トカゲの指が当てられヒュッ
…
と喉が鳴るだけに留まってしまう。
そのまま、大きな両の手が頬を、顔を包むように触れてきた。
「
…
私は、君が私を認識してくれればそれだけで良い。他に誰の言葉も必要としない。」
思考が止まる。彼が何を口走っているのか頭が理解を拒んで、意味のない音だけが口から漏れ出ていく。
じっとことらを見つめる彼の瞳に耐え切れなくて視線を彷徨わせていると、長い舌が伸びてきて唇を舐める。
「
…
なっ!」
「あまり反応が良いと食ってしまうぞ。」
「
…
っ、あ、あまり人を揶揄うな
…
!」
あらん限りの力で拘束を振りほどくと、そのままベッドへと駆け戻り頭から毛布を被って篭城する。
頭上から「そこで外に出ないのは愚策だと思うが?」というなんとも冷静なツッコミが入ったが構うものか。さっさと研究室に引っ込めケダモノ。
そうやって脳内で散々罵倒していると、毛布の外の気配は段々と遠ざかっていった。
「あの手紙はどうする?取っておくか?」
「
……
どうでも、いい。だが
…
読める訳でもない紙を手元に置いておく意味は見い出せない。」
「では捨てておこう。どうせもう会うこともない人のものだ。」
母に申し訳ないという気持ちが湧かない訳ではないが、彼の言う通り今後会うことは無いだろう。互いに思い出さないようにするのが最適解だと思う。
「ところで、君はどう思っているんだね?」
「
…
何を」
「私の事を。
…
君の孤独を癒すには私は力不足かな?」
「
……
充分すぎる程だとも。」
仕方なしに返事をしてやると満足気な声が聞こえてきて、次いで背を優しく撫でられる。
分かっていて聞いてくるのだからタチが悪いと思う。互いの考えている事など手に取るように分かるだろう。
「何、声に出して言うことが大切なのさ。我々は我々だけで良い、満足している。そう確認できたのだから良しとしよう。」
「途中のスキンシップに必要性は感じなかったが?」
「アニマルセラピーだとでも思っておけ。」
あんな、逃がす気など微塵もないと言わんばかりの瞳で、雰囲気で、なんなら腰に尾まで回してきておいてよく言う。
「あんな欲の塊みたいなセラピーがあってたまるか。」
返事の代わりに尻尾が大きく揺れたのが気配で分かる。それに小さく舌打ちをして、酷い目にあったとばかりに目を閉じ微睡みの中へと再び沈んでいった。
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