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enuk3815
2025-06-24 19:29:01
4668文字
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迷子になって
迷子(別に迷子ではない)(子供でもない)
なんとなーく書きたくなって深夜に書き上げたやつです。
気付いたら3000字とかになるのはなんなんでしょうね。大学の400字のレポートは四苦八苦しながら書いているのに。
一瞬だけ鳴った携帯に、気づけたのはほぼ奇跡みたいなものだった。
眠い目を擦って不在着信の発信元を確認し、何とも言えない嫌な予感がして、見慣れた番号に掛け直す。
「
……
もしもーし、どーした」
「
…………
、」
「あ? なんて?」
「
……
き、て」
"来て"だと理解した瞬間、まだ夢見心地だった意識が一気に覚醒する。
「はぁ?
……
お前今どこいんの、家か?」
「駅」
「駅ぃ? 最寄りの?」
「
……
や、多分、違う」
「じゃあどこだよ」
「
……
」
「
……
駅名書いてあんだろ、どっかに」
「
……
読めねえ」
「はぁ
……
?」
近くに標示がないのか、文字を確認する余裕がないのか分からない。けど多分後者な気がする。通話をスピーカーモードに切り替えてコートを羽織る。思いっきり部屋着だけど、まあ上着で誤魔化せばいいだろう。最寄りじゃないなら車出すしかないし。
「まあいいや、近くに何かない? 来た覚えもない?」
「
……
前、映画見に来たとこな気がする」
「あー、ポップコーンぶちまけかけた時の話?」
「
……
」
最寄り駅の一つ手前、それなりに大きな駅の名前を挙げる。
「合ってる?」
「
……
多分」
「なんだよそれ、駅員さん聞けばいいじゃん」
「どこにいんの」
「いないか?」
「
……
いないと思う」
「あー、夜中だからな
……
改札口の辺りとかは? ちょっと探せば見つかると思うけど」
「無理」
「人見知り発揮ですかあ」
「
……
無理、動けない」
案外素直に発されるSOSに、思ったよりヤバそうだなあと苦笑した。
「駅のどこにいんの、改札出た?」
「出てない。ホーム」
「ホームのどこ? 座ってる?」
「椅子、座ってる
……
」
「どっち側? 上り? 下り?」
「
……
分かんねえ」
「降りる前どっち乗ってたんだ」
「
……
家に、行くやつ」
「おー、下りだな、それ。了解。もう向かってる。車で」
「
……
」
「電話こんまま繋いどく、まだそこで待っとけ、近く着いたら言うから」
「
……
うん」
ひとまず通じたようでほっとする。時々、本当に時々だけど、電池が切れたように意思疎通が図れなくなることがある。言葉の処理が甘くなるというか、微妙に会話が噛み合わなかったり、何も応えてくれなくなったり。元々喋るのは下手だし仕方ないんだけれども、どこにいるかも確定はできない状態でそうなられると流石に困る。
「
……
もうとっくに終電行ってんだろ、今まで何してたんだよ」
「
……
」
「あーあ、なるほど、俺に言えないようなことねぇ、何なんだろうなぁー」
「なわけねぇだろ
……
」
「案外元気じゃねえか、質問答えろ。理由とか聞かないでおいてやるから。何してた」
「
……
寝、てた」
「駅で?」
「
……
」
「電車で寝落ちしたとか?」
「
……
理由聞かないって言った
……
」
「いやこれは理由じゃない、経緯」
「るせぇよ
……
」
「
……
理由聞かないっつったからこれは俺の独り言だけどさ、なんでそこで降りた、あと一駅で最寄りじゃん」
「
……
」
「責めてるわけじゃなくて。あと一駅ですら乗り切りたくなかった事情でもあんのかなーとね、じゃなかったら寝落ちて折り返してて焦って降りたとか」
「
……
」
「聞こえてんなら返事しろよ」
「
……
ひとりごと、て言っただろ、ライが」
「そうだっけなあ」
「
……
」
沈黙が流れる。ほんとは常に生存確認と反応確認していきたいところだけど、迎えに行く俺が事故起こしました、なんて笑えないから、急いで、でも慎重にハンドルを回す。信号に引っかかったら都度報告して反応を待つ。
電話の相手がいるであろう駅に着いたのは、着信から大体二十分ほど後だった。寝起きにしては上出来だろう。あいつからしたら永遠にも思える二十分だっただろうけど。
「
……
おーい、着いたぞ、コンビニの駐車場停めた。起きてる? っつか生きてる?」
「
……
ん」
電話の向こうで頷いた気配がした。よかった、生きてる。生きてるし起きてる。
「動けそうなら改札来て。無理なら行く」
「
……
」
「無理そ?」
「
…………
ごめん」
「あーはいはい、仕方ねぇなぁ行ってやるよ」
「
……
」
軽口を叩きながら見送り用の切符を買って改札を通る。別に誰も見送らないのでなんか不正っぽいが、引き取り用の切符なんてないので仕方ない。
階段の先、下りホームのベンチに、見覚えのある人影があった。ナイス推理、俺。推理というほどのこともやってないけどな。
近づいてもこちらの気配に気づく様子はなく、ただ静かに蹲って、両手で顔を覆って。膝の上には今俺の手の中の携帯と繋がっている、便利な文明の産物。
明らかに強張っている肩に手をかけて数回、できるだけ軽く優しく叩く。
「
……
どーも警察でーす、お兄さーん、こんな時間にこんなとこで何やってんですか」
「
……
」
「うーわ酷ぇ顔、そりゃ動けねえよな」
「
……
」
色のない唇が何か言いたげに空気を吸って、でもそこから言葉が溢れることはなかった。全体的には真っ白なのに目元には暗く影が落ちて、頬の表面は不自然に赤い。ゆっくりと瞬きをするたびに視線が揺らぐ。自分を落ち着かせるように細く長く息を吐いては震えている。いやもう説明してたらキリがない、とにかく酷い顔だった。その一言に尽きる。
「
……
いつからだ」
「
……
なにが」
「ああなるほど、段階的に自覚はあったやつかぁ、ヤバいって判断すんのちょっと遅かったな。いっそ家まで気づかなきゃよかったのに」
「
……
るせぇなほんっとに
……
」
「何時の電車乗ってたんだ」
「
……
九時、とか、ぐらいの」
「そっからずっとここいたのかよ、何時間寝てんだよもう、絶対冷えてんだろ」
「
……
」
「寒いか?」
「
……
若干」
「だろうな、真っ青だもん。写真撮ってい?」
「嫌に決まってんだろ
……
」
「冗談。外傷由来だと困んだけど、いやそれ以外でも困るけど、どっか怪我してる?」
「
……
してない」
「
……
天気そんな悪くねぇよな今日明日」
「
……
知らね」
「メンタルと、体と、よりヤバいのどっち」
「
……
」
「その感じはメンタル由来っぽいな」
「
……
どっちも」
「ああまぁ、だろうね、とりあえず車乗れ」
「
……
」
手を引けば案外普通に立ち上がった、と思ったのは一瞬ですぐに重心を見失った体がまたベンチに沈もうとする。そこを無理やり支えてどうにか階段を下り、改札を出る。どうせすぐに回復するようなもんじゃない。さっさと無理させてさっさと休ませるのが一番だ。
保護完了ー、と冗談混じりに呟いて、保護対象を助手席に乗せて、シートを少し倒す。
「こんまま俺の家でいいよな」
「
……
悪い」
「それ俺の家を否定してる? それとも見当違いな謝罪?」
「
……
どっちでもねえよ
……
」
ああよかった、まだ言葉は届いてる。反応自体の温度とかはもうどうでもいい。突っ込める気力があって何よりだ、うん。
「うち今何もねぇから買い物してくけど。紅茶とココアとスポドリ、どれがいい」
「
……
コーヒー」
「調子悪い時に飲むもんじゃなくないか」
「えー
……
じゃあ要らねえ
……
」
「だーめ、水分は取れ」
「
……
なんも、飲みたくない」
まあ、気持ちは、というか言いたいことは分かる。多分今は体が何も受け付けないんだろう。水ですら飲み込めないくらいに。それはそれとして言い方がな、甘えてんな。
「水分取れないなら病院行くしかないけど」
「
……
それも嫌だ」
「
……
んな我儘言えるぐらい元気ならこんまま置いて帰ろっかなぁ、人の厚意拒否しまくって楽しい?」
「
……
すいませんでした」
「ありがとうございました、は?」
「
……
ありがとうございましたー
……
」
「棒読みが過ぎる」
相変わらず血色のない唇から、はぁ、と、苦笑にもため息にもなりきれなかった空気が溢れたのがわかった。細められた目がまた不安定に揺らぐ。
「
…………
でも、悪いとは、思ってる」
「
……
」
「
……
ありがとうとも、思ってる」
「
……
そんくらい分かってる、何年組んでると思ってんだ」
「まだ数年じゃね」
「あー、じゃあそれだけ濃い日々だったてことで」
「んだよそれ
……
」
「誰かさんが無理しまくるせいだと思うんスけどね」
「
……
怒ってる?」
「
……
お前その質問好きだよな、俺そんなに沸点低い?」
「
……
いや、そうじゃない、けど」
「いーよ。分かってるよ」
「
……
」
「とりあえずスポドリ買ってくるからお前はそこで黙って寝てろ。家着いたらまた起こす」
言うだけ言って返事を待たずにドアを閉めた。
分かってるよ。お前からしたら怒られないってことが、そんな当たり前のことすら、不安材料なんだよな。怒られて突き放されてそのくせ干渉されて疲弊してるはずなのに、それだけ傷ついてきたはずなのに、怒ってるかどうかの判断は得意じゃない。頭で考えるより先に心が傷ついて、体が反応して、動けなくなってから「ああ怒られたんだ」とやっと認識するような、そういう歪みのある人間なんだよな。なんて言ったら失礼だと怒られそうだから言わないが。
そんなことをつらつらと考えながらカゴに適当に商品を入れる。冷却シートと、気休め程度の解熱剤と、飲み物、軽食。考えるのが面倒だったので支払いは札にした、俺より機械の計算の方が早いだろ、多分。
車に戻ると助手席の保護対象はもう眠っているようだった。無理もない、今は思いっきり深夜だし、何日もろくに眠れてなさそうな顔をしていた。あーあ、俺も寝たい。眠い。けどこいつをほっとけない、正義感の方がギリ勝った。エンジンをかける、アクセルを踏む、ハンドルを回す。
平日の真夜中、渋滞要素などない道路を抜ける。駐車場に車を停めて、隣で爆睡してる奴に声をかける。さすがに車内じゃ休まらないだろう、体が。
「フィン」
「
……
」
「おーい、着いたぞ、一回起きろ」
「
……
」
「お前が起きないと俺が寝れないんだけどー」
「
……
声デカい」
「すいませんねぇ、起きてもらわないと困んだわ」
「
……
ん
……
」
「ちょっ目ぇ閉じんな、寝なおそうとすんなって。起きろっつってんの。部屋まで耐えてくれ、そしたらあと寝ていいから」
理解できているのかいないのか分からないふにゃふにゃな目つきだけどどうやら圧は通じたらしい、普段の機敏さからは想像もつかないような緩慢な動作でドアを押し開けて立ち上がろうとする。
「いやシートベルト外せって」
「
……
あぁ
……
そっか」
「重症だなぁ
……
」
「
……
あ、れ、カバン」
「
……
カバン? 失くした?」
「
…………
どう、したっけ」
「向こう出たときは確実に持ってた?」
「
……
覚えてない」
「IDは」
「持ってる、ポケット」
「他に大事なもんなんか入ってる?」
「
……
いや、財布持ってるし、
……
携帯もあるから、別になんも、ないかも」
「あー、携帯持ってるってなると位置特定できねんだよな
……
まあいいや朝なったら駅電話してやるから。今日はなんも考えるな。財布持ってんなら平気平気、生きてける」
「雑だな」
「ごめんて」
自分でも妙な宥め方だなぁとは思うがこれしか思いつかないのだから仕方ない。そして文字通り身一つで生き抜いてきた期間がそこそこ長いこいつのことだから、財布と携帯がある時点で恐らくイージーモードだろう。昔とは違って味方もいることだし、明確な悪意を向ける人はいない、きっと。恐らく。
この後ちゃんと家で面倒見ます。気が向いたら書く。
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