夜明 奈央
2025-06-21 14:18:40
2467文字
Public 久々綾
 

久々綾 健やかな眠りを

部屋を訪ねたらお目当ての相手が眠ってたよ(2本立て)
2025年6月20日初出


久々知の場合

 用事で出掛けた帰り、久々知はお団子屋さんの前を通りがかった。確か喜八郎が以前好きだと言っていたお店だ。そう思っていたら自然に身体が吸い寄せられ、気づいたらお土産を買っていた。喜ぶ姿を想像すると、それだけで幸せな気持ちになる。
 忍術学園に戻ると、早速喜八郎を探す。けれど、なかなか見つからない。どうせどこかで穴を掘っているのだろうと思ったが、学園をぐるりと一周してもその姿はない。どこかへ出掛けているのだろうか。今日中に食べないと傷んでしまうし、それなら勘右衛門とでも食べようか。ほとんど諦めかけて、駄目元で最後に訪れた4年い組の部屋に、喜八郎はいた。
 暑いからか開け放ったままの扉から、文机に突っ伏している姿が見える。顔は見えないが、あの特徴的な緩く畝った髪は喜八郎に間違いない。
「お邪魔します」
 申し訳程度に小さく呟き、部屋の中へと入る。近づいて文机の上を覗き込むと、開きっぱなしの忍たまの友といくつか問題が連ねられた紙があった。宿題をしていたようだ。最後の問いだけいくつもバツが付けてあって、苦戦の跡が見える。ちらっと見た限り、確かにこの中では1番の難問のようだった。悩んでいる間に眠ってしまったのだろう。
 隣に座って、眠る後頭部を眺める。
 起こした方がいいのだろうか。気持ち良さそうに寝ているから、できればこのまま寝かせておいてあげたい。でも提出期限が近いなら困るのは喜八郎だ。ただ、喜八郎はそんなに真面目に提出物に取り組むタイプではなかったはずで、なら気にしなくていいのか?
 久々知が悩んでいる間も、後ろ頭はぴくりとも動かなかった。
 色々考えたが、起こさずにそのまま立ち去ることにする。いくら先輩とはいえ、もう4年生の後輩の面倒をあまり見すぎるのも良くない。宿題くらい自分で管理するべきだ。
 お団子はこのまま置いていくことにする。せっかく喜八郎に食べてほしくて買ってきたのだから、喜八郎の口に入るべきだ。出しっぱなしの筆と墨を拝借して、さらさらとお団子の包みに文字を書き付ける。
 これでお団子を持ってきたのが久々知だとわかるはずだ。

◇ ◇ ◇

 綾部は目を覚まして、すぐに自分がうたた寝してしまっていたことに気がついた。今日中に宿題を終わらせないといけないのに、もう陽が落ち始めている。同室の滝夜叉丸はまだ帰っていないようだ。
 灯りを点すと、寝る前には絶対になかったはずの包みが文机に置かれているのに気がついた。寝ている間に誰か来たようだが、全く気づかなかった。よく見るとメモのようなものが書かれている。
「良かったら滝夜叉丸と食べて」
 その下には苦戦していた問題のヒント。筆跡を見れば誰が書いたかなんて明らかなのに、わざとなのかうっかりなのか、差出人の名前はない。包みを開けると、中にはお団子が入っていた。綾部が以前に好きだと言ったお店のものだ。なんだろう、お人好しにも程があるのでは?
 今度会った時には、お礼も兼ねてデートに誘おう。ご指定の滝夜叉丸はまだ帰ってこないから、それまでにこの宿題を終わらせなければ。期待に応えるべく、きちんと姿勢を正して宿題に向き合った。


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