夜明 奈央
2025-06-21 14:18:40
2467文字
Public 久々綾
 

久々綾 健やかな眠りを

部屋を訪ねたらお目当ての相手が眠ってたよ(2本立て)
2025年6月20日初出

綾部の場合

 食堂で朝ごはんを食べていると、噂話が聞こえてきた。明け方近く、実習に出ていた5年生が帰ってきたらしい。数日振りの帰還だ。そしてありがたいことに、今日は授業が休みである。この機会を逃すわけにはいかない。綾部は朝ごはんを食べ終わると、5年い組の部屋へと直行した。穴掘りの予定は後回しだ。
 トントン、とドアを叩いてお行儀よく待つ。けれどしばらくしても返事はない。不在だろうか。もう1度叩いてみるが、やはり返事はなかった。実習から帰ったばかりだというのに、まさか鍛錬や豆腐作りに励んでいるとでもいうのか。あながち「ない」と言い切ることもできないのが先輩たちの怖いところだ。
 確認のために扉をそーっと開ける。すると、中には2組の布団が敷かれ、部屋の主たちがすやすやと寝息を立てていた。
 なんだ、寝ているだけか。それなら仕方がない。疲れて帰ってきているのだろうし、起こしては申し訳ない。
 退散しようと扉を閉めかけると、何やら声が聞こえてきた。瞼は閉じたままだから、おそらく寝言だろう。ほとんど呻き声ではっきりと聞こえなかったが、「喜八郎」と言ったように聞こえた。夢にまで自分が登場しているのかと思えば、胸がきゅんと締め付けられる。
 ちょっとだけ。せっかくここまで来たのだから、ほんの少し顔を見るだけ。言い訳して、こっそりと部屋に忍び込む。
 気配を消して、久々知先輩の眠るお布団に近寄る。顔が見えるよう、反対側に回り込んで座った。久しぶりに見る顔は、健やかな寝顔だった。繰り返される規則正しい呼吸をじっと観察する。普段のキリッとした雰囲気は鳴りを潜め、あどけなさが漂っている。いつまでも眺めていたいくらいだ。
 しばらくはそのまま眺めていたが、やがて耐えられずにその場にころりと転がった。横になると、先輩の顔が先程よりずっと近くなる。本当は少しだけで終えるつもりだったのに、ちっとも離れられる気がしなかった。起きる前にはここを出た方がいいのだろうけど、まだぐっすりと眠っている。
 もう少し。あとちょっとだけ。
 言い訳している間に、意識がとろりと溶けていった。

◇ ◇ ◇

 目を覚ますと、喜八郎がすぐ隣で穏やかな寝息を立てていた。あれ、なんだっけ。昨日は一緒に寝たんだったか。まだ完全に覚醒していない頭ではいまいち記憶が朧げだ。
 もう昼が近いようだったが、まだ意識はすぐにでも眠りに引きずり込まれそうだ。ギリギリのところで踏みとどまって、目の前の喜八郎に手を伸ばす。背を引き寄せると、身体が布団からはみ出てしまった。床がひんやりと冷たくて気持ちいい。
 それが限界で、すぐにまた落ちていった。

 目を覚ました勘右衛門に揶揄われるのは、もう少し後の話だ。
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