ほしのまなつ
2025-06-21 13:30:37
8140文字
Public :その他
 

ふゆの近道

――X年後。
3世さま眷属、初陣のはなし

――3世さまのお話が、ききたい?

たしかに! この千年王国研究所を知るにあたり、とてもとても欠かせないことだと思います。
それではどうか、わたくしのつたない話に最後までおつきあい下さい……


▽ ▽ ▽


ハル、ナツ、アキ、フユ

わたくしの名まえは『フユ』
日本の四季からとった名を持つわたくしは、かのメフィストフェレス3世さまの眷属『仔ネズミ四兄弟』と呼ばれております。いまわたくしの兄弟がいる3世さまの庭園は、もともとメフィスト老さまがサマリンさまに……と、ご用意されたものでした。
サマリンさまは日本を深く、深く慈しまれてきた魔女です。
当然、メフィスト老さまがご用意された庭園には、その日本とおなじ『四季』が存在します。そう。わたくしの名まえは、ここからきているのです。
兄弟たちの名づけは、すこしだけもめました。
3世さまのお屋敷にいる眷属たちは、3世さまからじぶんで好きな名まえにしていいと言われています。
仔ネズミ四兄弟と呼ばれているからには、みんなおそろいで何かにちなんだモノにしよう、とわたくしたちは考えたのです。

いちばんやさしい季節だから、春のもの。
いちばんまぶしい季節だから、夏がいい。
いちばんおいしい季節だから、秋!
いちばんきれいな季節だから、冬。

わたくしたち兄弟は、それぞれ3世さまとすごす季節がどれだけすてきか! と話し合いを……というか喧嘩をしました。初めての兄弟ゲンカです。このままでは3世さまと約束をしたお茶の時間に間に合いません。
『おやつの時間に、わたくしたちの名まえを教えますね? たのしみにしていてください!』と愚かにもわたくしはその日の朝、約束をしてしまったのです。わたくしたちは誰も譲らず、このままでは遅刻してしまう……と、泣いてしまいそうになった、その時でした。

――あら! どれもステキね。ぜんぶ素敵だから、ぜんぶで良いじゃない?』

じぶんの一番すきな、とっておきをじぶんの名に。
――これから、おはようとおやすみのたびに
とても大切な兄弟のとても大切な季節を口にするのよ?

『それってすごく素敵じゃない?』

サマリンさまです。お土産の花茶を手に、ふらっと来訪したサマリンさまの一声で、わたくしたちの名まえは、ス……っと決定したのです。じぶんの名まえはもちろん、他の兄弟の名まえもわたくしは大好きになりました。

――いけません。
ずいぶん話がそれました。順番にいきましょう!
まず、わたくしたちがこのお屋敷にくる前の話をすこし。

3世さまが一郎さまの復活を待たれて数百年……ではなく、数十年。本来ならば、百年どころか万年単位らしいのですが、不測の事態で心臓を奪われた一郎さまは、なんと数十年で3世さまのもとへ戻られたのです!
さすが、3世さまの『悪魔くん』です。
その数十年のあいだ。3世さまはメフィスト2世さま、エツ子さまのもとを離れ、メフィスト老さまのもとで魔力の出力調整、増幅といったコントロールを、サマリンさまからは呪術をはじめとした魔術の知識や心得を学び直されていました。

メフィスト老さまといったら、わたくしが言うまでもない有名な魔大公……! 当時十歳だったあの真吾さまが渇望された、高位も高位の大悪魔です。
そのメフィスト老さまが見初めた魔女、日本魔法の祖と呼ばれる才女サマリンさま。
人間界で暮らしていた3世さまの帰還におふたりはとても喜ばれ、一方で、その原因にたいへん心を痛め……やさしくも厳しく、最上の悪魔であり最強の魔女の子として、3世さまを再教育されたのです。
3世さまのことを『半悪魔』などと呼ぶ愚かなモノは、いまだにいます。腹立たしいことに。メフィストフェレス家の血と、上質な魔女の血、そしてソロモンの笛によってえらばれた真吾さまの血縁。そこいらの半妖とはちがうのです。
ただしこれは、わたくしやわたくしの兄弟たちが思っていることで、3世さまは『いっしょだよ』と、いつもすこし困った顔で笑うのです。

みんなといっしょ。
かわらないよ、と。

わたくしたちはそんな3世さまのことがだいすきで、
とてもとても大事なのです。

そのように偉大なおふたりのもと、生来の生真面目さと熱心さで極上の悪魔に成長をとげていった3世さまですが、困ったことがありました。
メフィストフェレスさまは古来より『幸運の象徴』とされてきた白悪魔。にんげんにとっても悪魔にとっても畏怖の対象であり、その反面、懐にいれた者をたいへん慈しむ、献身のイキモノなのです。

メフィスト老さまにはサマリンさま。
メフィスト2世さまはエツ子さま。

3世さまが献身を捧げたかった『悪魔くん』は奪われてしまいました。
3世さまのちいさな胸は、ぽっかりと大切なものが欠けたまま。
かけてしまったものがとても大切だったからこそ、ほかのもので簡単にとりつくろうことができないのです。

その反動でしょうか。

3世さまはふらっと人間界を訪れては、半妖をはじめ、ちからの無い『なりそこない』たちに手を差しのべ、ご自分のもとに連れていく。その中でも、もうどこにもいけない者たち――わたくしの兄弟たちのような者を、ご自分の眷属にしてしまったのです。

――そう。わたしくたち兄弟は『四兄弟』などと呼ばれておりますが、血がつながっているわけではありません。たまたま同じ場所で、たまたま同じ種族の悪魔もどきが、幸運にも3世さまに拾われただけなのです。
拾われてきたものたちはみな、最初こそ上級悪魔メフィストフェレス家の秘蔵っ子、3世さまの存在にガチガチにふるえ、おどろくほどやさしい手に戸惑い、はじめてみる暖かな食事をまえに困惑していました。

あたたかい。おいしい。
あまい。やさしい。うれしい。

ぜんぶ、ぜんぶ3世さまによって覚えた感情です。
さいしょはびっくりして、わたくしはそのたび泣きべそをかいてしまっていたのですが、そんなわたくしを見ても3世さまは目許をゆるませるだけ。3世さまから最初にいただいたのは、まるくて、あたたかくて、ふわふわした食べもの。
夢中でそれを口のなかにつめこむわたくしに、3世さまは、おおきな目を細めながら『おいしい、だよ』と教えてくださいました。シロップのたくさんかかったホットケーキは、いまでもわたくしの大好物です!
どうしてこんなにおいしいんだろう? と、不思議になって3世さまに聞いたことがあるのですが、3世さまは、
『あくまくんのせいだよ』と。
当時のわたくしが知る、いちばんやさしい顔でこたえてくださいました。3世さまのホットケーキがおいしいのは、一郎さまのおかげなのです。

わたくしのいちばん古い記憶は、灰色の壁と硬い床。
わたくしはある実験施設で飼われていた、対呪術用の実験体でした。わたくしが番号で呼ばれていた頃の記憶は、むりに思いださなくていいよ、と言われています。
拾われたばかりの頃は、ただの番号だった時の記憶をとぎれとぎれに思いだしては、恐れ多くも3世さまのお膝やベッドを涙と鼻水でぐずぐずに汚してしまったことも。
深い暗闇のなかで、真夜中でも3世さまは嫌な顔ひとつせずボロボロ泣きじゃくるわたくしに手招きをして、そっとベッドにいれてくれるのです。みんな言わないだけで、他の兄弟もそうだと思います。

『姉』と言われた白ネズミは、目がみえません。
『兄』と言われた黒ネズミは、口がきけなせん。
『ちいさな兄』の茶ネズミは、耳が聞こえません。

わたくしと同じように番号で呼ばれ、身体中どこもかしこも切り刻まれ、再生するまで吐しゃ物まみれの床に放られていた、種族が同じだけのイキモノ。

なにも映さない赤い瞳で、白い姉が『もう、どこも痛くないのね』とわたくしを見つめます。
声にならない悲鳴をずっとあげていた黒い兄が、音の出ない唇をゆるめ、傷のないわたくしの手をにぎります。
小さな茶色の兄は、音を拾わぬまるい耳をぴくぴくと動かし、わたくしの話をじっと聞いてくれます。

全身にびっしょりと汗をかいて、ぼろぼろあふれる涙が止まらない夜――泣きたくなどないのに、とめどなく零れる嗚咽に叫びだしてしまいたくなる暗闇のなかで、どうしてソレがわかるのか? 3世さまのちいさな手は、いつもわたくしを、このしあわせな現実に連れもどしてくれるのです。

恐怖はいつまでたっても、わたくしを衝動的に襲います。
実験体としていちばん年月が短かったわたくしですら、そうなのです。
――姉は、兄たちはどうなのだろう?)
落ちつかない気持ちになりました。理由はわかりません。
ただただ、胸が苦しかった。
でも3世さまが、あのやさしい手が、わたくしたちにはある。
それだけは、ゆるがない。
それだけは、信じることができた。
姉もそうなのだろうか。
兄たちも、おなじなのだろうか?
そう思ったら、ふっとあたたかな安堵が、心臓をとくんっと鳴らしました。

ああ、よかった。
ああ、みんなもう泣いていいのだ。

かなしんでいい。くるしんでいい。
だってこれからわたくしは――わたくしたちは、
絶対にしあわせになるのだから。

胸をぎゅっと締めつける感情。
ぜんぶ、ぜんぶ3世さまが教えてくれた。

わたくしたちはそうやって、
3世さまのもとで本当の兄弟になっていったのです。


▽ ▽ ▽


ここからは、わたくしの初陣のはなしをすこし。
――まえにお話しをした通り、わたくしの兄弟たちには欠けた部分があります。

真っ赤なルビーみたいにきらきらした瞳を持つ姉、
ハルは目がみえません。

いつも唇を三日月みたいにゆるめている穏やかな兄、
ナツは声がでません。

自慢のまあるい耳をぴんっと立てているちいさな兄、
アキは音が聞こえません。

みんなよりもずっと身体が大きいクセに、感覚が鈍いわたくしがフユ。さむいとかあついとか、わたくしにはそういうのが分からないのです。うえの三人は、それぞれの出来ないことを補って、3世さまのお屋敷のお手伝いをしています。
わたくしに日本語を教えてくれたのはハル姉ですし、書くことを教えてくれたのはナツ兄。人型のからだの使い方を教えてくれたのはアキ兄。わたくしだけが役立たずだと思ったら、わたくしにはなんと、名前の通り氷系の魔力が発現したのです。
通常の熱さ、寒さへの耐性もですが、もともとあった微量の魔力がお屋敷や、いっしょに暮らす3世さまによって変容したのではないか? とのちに一郎さまが推測しています。
わたくしにも、3世さまのお役に立つことがあった!
氷の障壁と絶対零度。このふたつだけは3世さまにも劣りません。3世さまと一郎さまがおっしゃっていたので、ほんとうの本当にわたくしの実力なのです。

そんなわけで、他の兄弟はそのまま3世さまの屋敷の管理を、わたくしは千年王国研究所のお手伝いをすることになりました。
はじめてお仕事の帯同がゆるされた日のことを、わたくしは生涯忘れないでしょう。
――あとは実践だな。経験に勝るものはない』
ずいぶんと人間界にも慣れ、一郎さまにもそう言われていた頃です。『忌地』と呼ばれる場所の浄化作業、および活性化してしまった妖魔の撃退。その二つが千年王国研究所に舞いこんだ依頼でした。

以前、一郎さまが結界を張ったことがある沼地で、どうやら関連のある社の祠を子どもが壊してしまったらしい、と。
まえにも同じようなことがあったらしく、一報を受けた一郎さまがものすごく不機嫌になったのを、3世さまがたしなめていらっしゃいました。

浄化には一郎さま。
妖魔の撃退は3世さま。

わたくしは、てっきり3世さまといっしょに闘うのだと思っていたのですが『――フユ、悪魔くんをたのむよ』と3世さまは暗闇の中を駆けだしてしまい……なんと一度もふたりっきりになったことなどない一郎さまと、浄化作業にあたることになってしまったのです。

正直、わたくしにとっての一郎さまは『3世さまの悪魔くん』で『大切にしないといけないひと』で『千年王国研究所の上司』です。そのうえ3世さまから頼まれてしまった! わたくしの責任は重大です。

底の見えない、どろっとした沼地。
フユは……わたくしはもう暗闇を怖がるちいさな悪魔ではありません。
人間界に来ることを許された、3世さまの眷属なのです――

「オン、バサラ、ユタ……

一郎さまの冷ややかなひとみに、薄くひかりが宿る。
一郎さまが結界をはるべく口にしたのは、この地域の真言。
尋常ではない気配に、息がつまる。
真言を扱えるのは、専門の術者でも一握りのはず。

これが一万年にひとりのメシア。
これが、3世さまの悪魔くん。

その一郎さまを、お守りすること……それがフユのいまの使命。

「マユキラテイ、ソワカ」

バチン――――

青白い火花が沼のうえを走る。空気が重い。
聞き慣れぬ真言に意識をもっていかれそうになるが、ぐっと歯を食いしばって耐える。
目に見えぬ壁が、沼全体をみるみると覆っていく。未熟なフユにもその気配がわかった。
あとすこし。あとすこしで、

「いちろ、さま――!」

ボコ……ボコボコボコ――
ゴポぉ!!!!!!

叫び声が空気をゆらす。場が乱れた。目のまえの水面が、ぼこりと盛り上がる。
沼地全体が、ごうんっと渦巻いていた。水をおおく含んだ、ナニか。巨大なうでが、無防備な一郎さまへとのびていく。

――だめ、だ)

だめだ。間にあわない。
フユの詠唱ではおそい。凍らせる範囲もケタちがいだ。

(ちがう……っ、まにあわなくては、)

間に合わせなくては。
なんとしても、なんとしても失ってはならない。

「っおまえ!」

無我夢中で、一郎さまとドス黒い腕のあいだに飛び込む。
跳ねあがった泥が、腹の下を掠めた。
よける間もない。
ジュウ……っと肉の焼けるいやな音が、じぶんからする。
いっしゅん姉と兄たちの顔がうかんだ。3世さまのお顔も。
ぎゅっと目をつむる。上出来だとおもった。
瞼の裏が真っ赤に染まる。ほんとうならフユはあの崩壊する研究所のなかで、なくなる命だった。

うつくしい名まえをもらった。
おいしいも、うれしいも、あたたかいも。
しあわせもしった。
怖いものなど、もうフユにはない。

…………!」

このひとを。
大事なひとの、たいせつなものを
失うことにくらべたらなにも――

「い、ちろ……さま?」
「クソ――ッ」

はじめて聞くこえだ。
一郎さまの狼狽している声など、フユは聞いたことがない。
出血している腹に激痛が走る。
あっ! とおもった時には、半袖からのびる剥きだしの腕に、フユのからだは引っぱられていた。
襲いくる黒い手が、ぶわっと体積を増し――前にでた一郎さまの頭を握りつぶしにかかる。

(だめ、だ)

だめです。だめだ。だめ――
なにを、なにをやっているのだろう、このひとは。

――……!!!!」
叫びたいのに声にならない。だめだ。だめなのに。
(どうして……っどうして――
泣き叫びそうになった瞬間、その音が耳をかすめた。

ズシャ……
ズシャ――!!

黒い塊が、ビチャビチャと瘴気を撒き散らしながら切り刻まれていく。
蜘蛛の糸のように、白いひかりが『ソレ』を分断していた。一郎さまが張った結界が、発動したのだ。
「あ……っ」
ごろん、っと。
一郎さまとわたくしの足もとに転がったのは、音もなく凍ったもう一本の腕だった。
凍らせたのは、一郎さまでも、もちろんわたくしでもありません。



「あくまくん」



こつん、っと。
凍ったまっしろな地面に、尖ったつま先が舞いおりる。
3世さまです。3世さまは、右手ににぎった杖をかるく振りながら、視線だけで沼地の奥の森を差しました。シンっと静まり返る森からは、なんの気配もしません。
「こっちはおわったよ」
「そうか。こっちも問題なく終わったところだ。はやくコレの手当てをしてやってくれ」
――問題なく?」
3世さまのまるい目が、みるみると尖る。それでもちいさく首をふると、3世さまはぎゅっと唇を噛み、へたりこむわたくしに駆け寄ってくださったのです。
……応急処置しかできなくてごめんね、フユ。帰ったらすぐ治してあげるから」
「だいじょうぶです。フユはだいじょうぶです、3せいさま」
裂けた傷口が、やわらかくてあたたかいモノに包まれる。
痛みはもうない。3世さまの魔力が注ぎ込まれているのだ。
申し訳なくて、情けなくて、眩暈がした。

――で、悪魔くん。おれが何に怒ってるか、わかる?」
……ひとつは分かる」

正直な一郎さまは、ぷいっと顔をそらしながらも3世さまの問いに答えていく。
さっきまで、あの難解な真言を扱っていた人物だとは、とても思えない。

「ぼくが、前に出たことだろ」
――そうだね。ほんとその通り。いい? 悪魔くん。じぶんの目のまえで守るべき主が傷つけられ……まして殺められるなんて、おれたち悪魔にとったらもっとも耐え難く、もっとも恥ずべきことだ」

3世さまの静かな声に、落ち着かない気持ちになる。
3世さまは『おれたち悪魔』といった。
フユのことも、含めてくださっているのだ。
十数年3世さまを待たせ続けた、心当たりがありすぎる一郎さまは、さすがに押し黙っている。

……おまえは、フユと言ったな?」
「?? はい。フユでございます」
ふっと、長い腕をくんだ思案顔の一郎さまが、わたくしの名を呼ぶ。そうして『おまえは、誰の悪魔だ?』と聞いてくるのです。
「3世さまです。フユは、メフィストフェレス3世さまの眷属でございます」
「聞いたか? メフィスト」
ふてたような顔をしていた一郎さまでしたが、うずくまるわたくしの腹に手を当てている3世さまの顔をじっと覗きこみ、もう一度その名を口にするのです。

「メフィスト、こいつは君が拾った。君が眷属にした悪魔だ。他の眷属と同様に、もはや君の子どもみたいなものだろう? 君の作るホットケーキを食べ、ぼくの帰りをともに待ち続けた。――つまりぼくにとったら、ぼくの家族みたいなものだ。血のつながりがなくとも家族になれることを、ぼくは父親ときみで知った。……いいか? メフィスト。自分の目の前で守るべき家族が傷つけられ……まして殺められるなんて、僕にとったらもっとも耐え難く、もっとも恥ずべきことだ」

なんという、得意げなお顔なのでしょう。
さっきまで目を尖らせていた3世さまは、おくちをぽかんと開けて、じぶんの悪魔くんをただただ見上げています。

メフィストのこども。
ぼくのかぞく。

(フユが?)
(フユも、いちろうさまたちの、かぞく?)

とても、とても混乱していました。
もちろん反論などありません。フユは、フユだって血のつながりがなくとも家族になれることを、3世さまに教えていただきました。フユにとってだいじな兄弟を作ってくださったのは、3世さまなのです。

「そういうことだ。……ぼくは、報告をすませてくるぞ」

依頼人のいる社へと、動ける一郎さまが下がっていきます。
その姿がみえなくなったところで、3世さまの口がようやくひらきました。

――フユ、きいた?」
「ええ、ええ」

フユは聞きました。
聞きましたとも!

なんども、なんども頷くわたくしに、3世さまがゆっくりと言葉をかさねます。
ほこらしく、得意げな。
そこには無邪気な子どものようにゆるんだ笑みが、ありました。

「あれが、おれの悪魔くんだ」





(フユが、一郎さまのことも大好きになった日のはなし)





※その他、フユが出てくる千年王国研究所の話:
「だれが、その鐘をならすのか?」https://privatter.me/page/6844b127053e0