きなこ
2025-06-13 08:44:21
8358文字
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【クジブケ】クジブケだけが前世の記憶を持っている転生学パロ

高校生のクジンシーとロックブーケな学パロ。
二人は前世の記憶持ちで、他の七英雄のお兄さん達は記憶なし。
クジンシー→一年生。高校に入ってから七英雄達と出会った
ロックブーケ→一年生。生まれた時からノエルと一緒。物心ついた時には前世の記憶があったので、大人びた子供だった
他の七英雄→二年生。一部生徒会役員やってる。顔面偏差値高い集団。大人びているけど、普通の高校生。

前回書いた話がロックブーケ失恋話だったので、彼女を幸せにしたいっと思ったのに、設定的に全然幸せじゃない感じに……

〜告白編〜


 夏が近づいてきた。

 空はどこまでも高く、青く、澄んでいる。白い雲は刷毛で掃いたように薄く広がり、陽の光を受けてその縁をきらきらと輝かせていた。
 校舎の屋上には、陽の光を遮る物は何もなかった。しかし地上に降り注ぐ日差しはまだどこか柔らかく、肌に心地が良かった。
 微かに湿度を含む風が髪を揺らす。 
 ロックブーケは眉間に皺を寄せ、鬱陶しそうにその水色の緩やかに波打つ髪を後ろへ払った。
「みんな、腑抜けた顔してんなー」
 笑い混じりの声で、隣でフェンスにもたれかかるクジンシーが呟く。
 多分、ロックブーケに同意を求めているわけではないのだろう。横目で彼の軽薄な笑みを見やり、すぐに視線を眼下へと戻した。
 校庭では体操着姿の生徒達が動き回っていた。
 体育祭の準備をする者、追い込みの練習をする者、部活動に励む者、そのまま下校する者――
 トラックの中央には、豊かな長い黒髪を一つに束ねた長身の男が立っていた。遠目にも凛々しい顔立ちで、通りすがる女生徒達の視線を釘付けにするほどの存在感がある。
 かつて、七英雄のリーダーだったワグナスである。
 その周りにはノエル、スービエ、ダンターグ、ボクオーンと、見慣れた者達の姿もあった。
 顔面偏差値が高いその集団の、ほとんどは生徒会役員である。皆に指示を出し、会場作りをしているようだ。

 七英雄と呼ばれた、彼らとクジンシー、そしてロックブーケは揃って、争いのないこの世界に転生をした。
 だが、ワグナス達五人に、七英雄だった頃の――前世の記憶はない。
 ごくごく普通の高校生と同じように笑い合う五人。
 民のために命を賭して戦い、裏切られ、追放され、復讐を誓った。魔物を吸収して精神への侵食を受け、ひとり、またひとりと人格に影響を及ぼし、自我を失った者もいた。ろくな記憶ではない。だからそれを失ったことはとても幸福なことだ。
 しかし、なんの因果か分からないが、ロックブーケには前世の記憶が残っていた。――この高校で再開したばかりの、クジンシーにも。

「ワグナスが笑ってる。うわっ、ボクオーンまで大口開けて爆笑してるじゃん」
「そりゃ笑いますわよ。今は平和な世界の高校生ですもの」
 いちいち驚くクジンシーに苦笑を送る。
 クジンシーは口をへの字に曲げて、顔をしかめた。
「ワグナスなんていっつも顰めっ面だったし、ボクオーンの笑みっていったらいつも嫌味ったらしかったし。ノエルなんて最後の方は、全く表情が動かなかった」
「逆ならともかく、良いことではありませんか」
 ワグナスの端正な顔がふわりと緩む。甘く微笑むその表情は無邪気さを含んでいた。辛そうなくらいに、いつも険しい顔をしていたワグナスも、背負うものがなければあんなにも幸せそうに笑うことができるのだ。
 辛い運命からの解放を、心の中で祝福する。
 その一方で、ロックブーケの胸は引き裂かれそうなくらいに軋んだ。
 フェンスの緑色と空の青色が滲んで、混ざり合う。
 ロックブーケは唇を噛んで、校庭に背を向けて、その場に膝を抱えて顔を埋めた。
 クジンシーはそんなロックブーケを見下ろして、眉を寄せる。
「まだワグナスのこと、好きなんだ」
「それはもちろんですが……今は恋人になりたいとかはありませんわよ。大人びているといっても、何千年も生きた記憶がある私からすると、子供にしか見えませんもの」
 クジンシーは吹き出して、ロックブーケの隣に並んで座った。
 肩がつきそうなほどの距離。
 昔だったら近寄らないでと怒鳴りつけていたことだろう。だけど今は、嫌われ者と言って見下していた彼でも、そばにいてくれることが心強い。
「あー、分かる。小学生の頃なんて、なんでこんなバカな奴らと一緒に行動しなきゃダメなんだろうって思った」
「ふふ。お兄様もとても可愛らしくて。私が世話を焼いていましたわよ」
「あはは、ウケる」
 クジンシーの笑い声が屋上に響き、高い空に吸い込まれていく。
 そういえば彼は賑やかな男だった。悲鳴をあげたり、見当違いなことを言ったりで、圧倒的に腹を立てることが多かったが、今はその賑やかさに救われる。
 ふと、笑い声がやむ。
 校庭で練習をする生徒達の掛け声が、屋上まで聞こえてきた。
 生ぬるい風が、甘い香りを運んでくる。家庭科室で調理部が何かを作っているのだろうか。
 空腹を覚えて、ロックブーケは顔を上げた。いつまでもこうしていても仕方がない。クジンシーの奢りでクレープでも食べて帰ろう。
 ふと横を向くと、クジンシーは珍しく真剣な眼差しをこちらに向けていた。
 目が合う。
 すると彼は大袈裟に肩を揺らして、慌てて視線をそらせた。そして落ち着きなく手を振って、目を泳がせる。
「なによ」
 眉を寄せて睨みつけた。
 そわそわと落ち着きなく体のあちこちを動かしていたクジンシーは、上目遣いにこちらを見やり、手を伸ばしてきた。ロックブーケの手に手が重ねられる。
 ぱちりと瞬きをして。ロックブーケは首を傾げた。
 クジンシーのてのひらはしっとりと汗ばんでいて、生温かい。
「ワグナス達が子供っぽいって言うならさ、同じ数千年の時を生きてきた記憶がある、俺なんかどう?」
「どうって、何の話ですか?」
 クジンシーは不貞腐れたように唇を尖らせた。
 子供っぽい仕草の中で、その紫色の瞳にはいつもの軽薄さとは違う色が宿っている。
「いじわるするなよ。俺がロックブーケのこと好きだって、知ってるくせに」
……初めて聞きましたわよ」
 クジンシーは目と口を大きく見開いた。
 全く気付いていなかったといえば嘘になるが、ロックブーケの関心はもっぱらワグナスとノエルに向いていたので、それ以外の人間からの好意などどうでも良かった。
 ロックブーケはため息をつきながら、握られている手を引こうとした。しかしクジンシーの逆の手も伸びてきて、両手でしっかりと握りしめられる。
「俺、昔からロックブーケのことが好きだったんだよ……
 どきりと鼓動が高鳴った。
 今までやかましく響いていた練習の掛け声も、遠のいていく。
 クジンシーは上目遣いでロックブーケを見つめ、唇を尖らせたままで口ごもりながら告げてくる。
「ロックブーケ、みんなに記憶がなくて辛そうじゃん。記憶があるのは俺とロックブーケだけだしさ。……俺だったら、少しはその気持ちに共感してやれるし、一緒に背負ってやれるし。……な、結構ありだと思わないか?」
 告白をしていると言うのに自信なさげな頼りない顔をしているし、せっかく良いことを言っているのにところどころ掠れているから、もっと明瞭に声を出してほしい。
 告白の言葉だって、もっと洗練して然るべきだ。
 ロックブーケが憧れるワグナスならこんなことはない。もっとスマートにカッコよく、心を震わせるような言葉をくれるだろう。それを受け取ったロックブーケの胸は、きっと爆発しそうになるに決まっている。
「六十点よ」
 告げた声は震えていた。
 クジンシーは苦虫を噛み潰したような顔をして、ガックリと肩を落とした。
 ロックブーケの手を開放する。
 本当に情けない男だ。
 クジンシーは、はぁーと大袈裟にため息をついている。
 ――相手の前で落胆をするな!
 そんな奴が相手なのに、彼の言葉が胸に落ちた。凪いだ水面に石が投げ込まれたかのように、心の奥底に波紋が広がっていく。クジンシーのしょんぼりした顔が陽光に当てられてゆらゆらと歪んで、涙のせいか煌めいて見えて。瞼に熱が灯る。
「どうしてそこで諦めるのよっ。そこはもっと押すところじゃありませんのっ」
 顔を上げたクジンシーは面倒臭そうな表情をしていた。今すべきはその顔じゃないだろう! と心の中でツッコミを入れた。面倒なことを言っていることはわかっている。だけど、好きだと言っている女の前では、もう少し格好をつけて欲しい。
 ポリポリと音を立てて頭をかき、クジンシーは背筋を伸ばしてロックブーケに向き合った。
 クジンシーを見上げると、彼は紫色の瞳に緊張を滲ませていた。
「す、す、好きです。つ、付き合ってくださいっ」
「どもった! やり直し」
「好きだっ!」
 ヤケクソ気味に叫ばれたその言葉が一番胸に刺さった。
 緩む口元が弧を描く。
 ポロポロと涙が溢れていった。純粋なほどに透き通る丸い粒が、あたりの景色を映しながら落ちて、弾けた。
「なんで泣くんだよっ」
 真っ青になりながら狼狽えるクジンシーに、ロックブーケは叫んだ。
「今まで一人で抱えていて辛かったからっ……だから、嬉しいっ。ありがとうございますっ!」
 ひっくとしゃくりが上がる。
 ずっと一人で抱えていたものが溢れていく。
 クジンシーは手を忙しなく動かして慌てふためいていた。だが、覚悟を決めたように拳を握った。
「抱きしめるからなっ」
 それは伺いの言葉ではなく、宣言だった。
 ロックブーケは口を開いたが、嗚咽が漏れるばかりで言葉にならなかった。肯定か否定か。どちらを告げようとしていたのか、自分でもわからない。
 ただ、クジンシーの腕は意外と逞しくて。その腕の中はとても温かくて、心地よくて――
 ロックブーケはすがるように、彼の背中に手を回した。