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君にしか奏でられない音がある
ロビンちゃんとジンベエ親分メインの短編二つ
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【海と唄】
サニー号において、宴というものは唐突に始まる。
「新しい島にもうすぐ着くから」「大物の魚が釣れたから」「ちょうど波が良い感じだから」
大体いつも船長を筆頭にした年少組たちがそのきっかけを起こす。気分任せな騒ぎは一蹴されることもあるけれど、今夜出されたきっかけには皆あっさりと乗り気になった。
「ジンベエがようやく一味入りを果たしたから」
熱い歓迎ならすでに済ませているのに、やはりルフィを筆頭に騒ぎ出せば宴はあっという間に始まっていった。
皆で甲板に集まり杯を片手に持てば、わいわいと盛り上がっていく。天気は上々で夜空には真ん丸の黄身みたいな月がいる。波は穏やかで優しい。
絶好の宴日和だ!とルフィがウソップと肩を組んではしゃいだ。その様子を眺めるのは胡座をかいて酒を呑むジンベエだった。すると、いきなりルフィが軽やかにジャンプしてジンベエに近づき「もっと呑め呑め!」と背中に抱きつきながら煽った。そして息つく間もなく騒ぎの中心に戻っていく。唐突な船長はジンベエに返事を挟む隙すらくれない。けれどジンベエは浮かれるルフィを笑って見届けると、手に持った杯を一気に傾けた。
宴のきっかけとなったジンベエ自身も、それが意味のない大義名分だと分かっているのだ。しかしジンベエは次々に杯を空にした。乾杯に誘う手を景気よく迎えて、一気に酒を呑む様は酒豪のゾロが口笛を鳴らすほどだった。
皆の頬は酒気や騒ぎで見事に赤くなった。ジンベエもほんのりと赤ら顔になった頃、徐に彼は片膝をつき右手を差し出す姿勢をビシッと決めだした。
「華々しい宴には添える芸が要り用と心得ます。芸といえば、唄一本! 新参の手前が、この場を借りて唄わせていただきやす!」
ジンベエが大きく痺れる声を出して、皆が彼に注目した。粋な立ち振る舞いにほろ酔いの赤い顔が妙な愛嬌を出している。皆は顔を綻ばせた。
「オーッ! いいぞジンベエ!!」
「うぉ~~!! 親分カッコイイーー!!」
歓声が次々に飛んだ。チョッパーなんかはぴょんぴょんと飛び跳ねながらジンベエに手を振っている。
自然と皆の中心になったジンベエは背筋を伸ばし立った。着物の帯をひとつ締める動作をして、両目もひとつ閉じられる。
一呼吸の後に両目はカッと開かれた。パン、と乾いた音が鳴り響く。ジンベエが柏手を打った。
パン、パン、と一定のリズムでジンベエは大きな手を叩く。それを見て皆も一緒に手を叩き始めた。ジンベエの大きな口が愈々と動き出す。
〽︎ィヤーソレ ホーエ ヨイヤノサァ ソレ
ジンベエの唄声は渋い低音だった。酒気で火照った頭が清水に浸るような心地になる。唄っている
囃子詞
はやしことば
が音階にのって良く響く。音に誘われたのか、船の周りの波がにわかに跳ね返るような音を出した。
海側に一番近い位置にいたゾロとフランキーは海を眺めた。今まで大人しかった海面付近に魚の群れがハッキリと見えている。囃子詞は響いている。魚の鱗がキラキラと光り、ゾロとフランキーは眉を上げる仕草をした。
〽︎竜の宮 泡は白珠よ いのちの樹
ヤーソレ ヨイヤナサ
ここは陽のうみ 宝うみ
朗々と一節が始まると、海も一際盛り上がり出した。飛沫が上がって魚が跳ね出して、囃子の代わりをしているようだ。ゾロとフランキー以外の皆も海の方を眺めだした。
「わっ! すごい!」
「ほんと、船の周りにこんな魚の群れが
……
みんな踊ってるわ」
「ヨホホッ、これは見事ですねぇ
……
アッ、そうだ! ちょうど私、ワノ国でピッタリな楽器を仕入れてたんですよ!!」
ブルックはそう言うや否や、ものすごい速さで船室へ走って行った。ピューっと竜巻が起こりそうなその勢いは戻って来るのも速い。甲板へ走って戻ったブルックは三味線を携えていて、唄に即興で伴奏を弾き始めていた。
「 ヤ、ソーレ! 」
ブルックが声と三味線で囃子を入れると、ジンベエの厚みのある唄声に軽やかさが足されて音が広がっていく。ジンベエが嬉しそうに目を見開くと、ブルックが応えるように三味線のバチを鳴らして伴奏が盛り上がる。ジンベエの喉がぐぐっと唸った。
〽︎金の波 飛沫高けりゃ 月も涙する
ヤーソレ ヨイヤナサ
ここは陽のうみ 宝うみ
息の合った二人による唄は、思わず身体を動かしたくなる魅力をも放った。自然と手を叩いたり腕を上げたり、この場にいるもの全てが踊りだしてしまう。それは海さえも踊りだす唄だった。
たくさんのトビウオが跳ねて、イルカが跳ねて、クジラが跳ねて、ついには海王類も現れて、跳ねた。
「スッゲェーー!! 大波だぁ!!」
海の生き物たちが跳ねた振動でサニー号は波に乗り上がった。たっぷりと膨らんだ海面に船体がくるくると踊り回るようにして渡っていく。大波にも関わらず海流はその激しい牙を剥かずに、流れに乗るサニー号へ勢い良く飛沫をかけるだけだった。船首の獅子にも飛沫がかかる。それがひと踊りした後の汗みたいにキラキラと光った。
音楽は止まなかった。皆の手が船の振動で止まりそうになっても、海が代わりに音を出していくのだ。パシャパシャ跳ねる生き物の音、ザァザァ言う波の音が、延々と繋がる。しまいには夜空の月も傾きかけて、夜明けの鳥がニャアと鳴いて唄に加わり始めていった。
宴は果てなく続いていきそうだった。身体が疲れて流れる汗すら楽しげに、皆は踊り唄う。
すると次第に歌詞に新しい一節が生まれていた。誰が唄いだしたかも分からない、あまりに馴染んで唄はひとつになった。
きっと海と宴がある限り、これからもこの唄は紡がれて淡い日の出に映えて響く。
〽︎ヤーソレ ヨイヤナサ
ここが陽の船 宝船
ここが陽の船 夢の船
……
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