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eclipsis
6946文字
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pretty odd thriller tale
スリラーバーク過去話。短編二つ
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【お題ガチャ/一番星のあの子より】
初めて訪れる我が家はペローナにとって只々不思議ばかりだった。
『スリラーバーク』とモリアがその名を告げ、娘を肩に乗せて案内をしてくれた。荘厳な館の中を通り、空中に浮いているような庭へ進んでいくと、ペローナはワクワクしながら辺りを見渡した。立派な木々が生えたこの場所に自分の名が与えられている事、そして渡り廊下でもある事が魔法のようで心が踊る。濃い霧が辺りを包んで行き着く先が見えないのも興味が尽きない。それら全て、小さな娘が計り知れない事をモリアは司っているのだ。そして与え導いてくれている。
ペローナの手が知らずにモリアの襟をきゅうと掴むと、モリアは元から上がっていた口角を更に吊り上げた。
庭を抜けた先、ペローナが不思議な胸騒ぎのままに到着した場所は、更に心を踊らせるものだった。
ハートの柄やストライプの柄で飾られた部屋にはツギハギのぬいぐるみ達が居て、たっぷりした赤いカーテンが垂れるベッドもあった。
「お前の部屋だぞ。お姫さん」
揶揄うような口調でモリアが告げる言葉は、ペローナの耳を擽る。ふらふらと部屋を歩いて大きな熊のぬいぐるみに手を伸ばせば、ぬいぐるみが動いた。
見て触るもの全て、次から次へと驚きと喜びが止まらない。元よりモリアに拾われた日から、退屈だと思う出来事は無かった。娘を簡単に手でつまみ上げ、そのまま手中に収められる彼の巨大さは時に背筋を震わせる事もある。けれど、ペローナにとっては尽く新鮮だった。独り彷徨っていたちっぽけな生き物の人生を塗り替え、与えて満たし、娘の全てになった。
「
……
すごい。これほんとに全部、私の?」
ペローナは丸い瞳を夢見がちに煌めかせて、モリアへの畏敬の念を滲ませる口ぶりで喋った。上擦って独り言のようにも聞こえる娘のその問いかけに、モリアは片眉を上げ含みのある笑みを浮かべた。
「いや、あともう一つある」
そう告げるとモリアは顎をぞんざいに動かし、動くぬいぐるみへ指示を出した。
ツキバキのぬいぐるみがお盆を手に持ち、ペローナの傍にある机へ歩み寄った。お盆の上には奇妙な模様の果実が載っている。
「これ
……
って、悪魔の実
…
?」
「おれみてェな力が欲しいって言ってたろ、ワガママ娘め」
ぬいぐるみが静々と机へ悪魔の実を置き、丁寧にナイフとフォークも揃えて置いた。ペローナの手がまたしてもふらりと動くと、カトラリー達を携える。
「言っとくが味は最悪だからな」
モリアの声が上空から響いた。ほんの少し低く響いたその声色は、娘をやんわり忠告していた。ペローナはチラリと遥か上の男の顔を見て、すぐに目の前の果実へ視線を戻すとナイフで一口に切り分けた。そしてフォークで果実を刺し、事も無げに口へ運んだ。躊躇などある筈も無かった。モリアが与えるものはペローナの全てに価するのだから。
「?!
……
ウッ、ゥグ
…
!」
咀嚼をすると口内にこの世のものとは思えない味が広がり、ペローナは思わず嘔吐きそうになる。フォークを持っていた手を離し、口を押さえ何とか果実を飲み込んだ。
ゴクリと喉から胃へと噛み砕いた果実が落ちる感覚を皮切りに、ペローナの胸は急にドクリと大きく一度高鳴った。腹で溶けゆく果実から何かが、霧のように娘の身体中を立ちこめて隅々まで浸透していく。
悪寒とも興奮ともつかない気配に、ペローナは己の身体を掻き抱いた。まるで自分の中にもう一人の存在が生まれ、幽かな力をざわめかせるかのように歪な鼓動が打ち鳴らされている。
悶えるペローナを前にして、モリアの長い腕が動いた。そっと娘へ手をかけると大きな手のひらで抱え、自らの眼前へ掲げた。
「よくやった、ペローナ。
…
キシシ、大奮発だ。最後に一つ、お前へ贈ってやろう」
モリアに優しく包まれ徐々に己を取り戻し始めたペローナの瞳が、モリアのそれと合わさった。二人の瞳は光を吸収する影色を湛えている。
「
……
誕生日だ。今日をお前の誕生日にしてやる。おれとおんなじ、悪魔に生まれ変わった記念だ」
モリアは密やかに語った。とっておきの魔法を唱えて、妖しげな牙が覗く口が見事な三日月のかたちに変わる。ペローナにその呪文がかかると、身体中を震わせていたざわめきが止み、歪な鼓動は娘の心臓とぴったり合わさり落ち着いていった。
トク、トク、と確かな力をもって音が鳴っている。
モリアだけが、ペローナの心臓を動かしてくれるのだ。
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