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eclipsis
7991文字
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ローロビ
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Spell on you
古いおまじないと×未満な二人。ローがサニー号に同乗してる謎の世界線
1
2
目を光らせた後のロビンは一転して、流れるような行動をテキパキと取ってみせた。
「着いて来て」とローに一言告げると、後ろを振り返ることもなく足早に歩く。向かった先はサニー号の図書室で、中に入ると歩速は緩めずに本棚から古ぼけた一冊を取り出す。続いて何処からかメモ帳を手に取って、長椅子に座った。そしてそこでやっとローの方を見て、座って。という合図でポンと自分のすぐ隣を叩いた。
ローは唯すら呆気に取られてしまった。ロビンがおまじないに夢中になるのはローの予想通りだったが、自分には目もくれずどんどん進んでいった彼女にまた胸がほんの少し疼く。今さら町の男たちなど眼中に無い。他の誰でもない、ローからすり抜けていくロビンに歯痒くなった。
喉元がムズムズするような心地を抑えて、ローはロビンの合図通りに長椅子の隣へ座る。背もたれへ腕を下ろし、膝はわざと触れ合うように近くへ座った。これで大方ローのやるせない溜飲は下がった。
ロビンはそんなローに構うことなく、寧ろ丁度良いテーブルができたと言わんばかりに、お互いの膝の上へ本を置いた。
「何となくピンと来たの。ここから随分離れた島だけど、似た行事をする島があるわ。その島ではアクセサリーではなく、もっと生活に密接したものを贈るみたい。小さな木槌や、編みかごとかね」
ロビンは二人の膝に置かれた本を開くと、目当てのページを目次無しで見つけて長い指で文章を指し示した。そこにはとある島の風習が掠れた印刷で載っていた。
「へぇ
……
何か祭りって感じじゃねぇな」
ローは何だか当てずっぽうな感想を述べた。彼が実際に感心していたのはロビンの知識量の方で、様々な本が並ぶ図書室の中から迷いなく本を選び抜いた事に表情は変えず驚いていた。ロビンはそんな事に全く気づかずローの感想に微笑んだ。
「フフ、そうね。祭りというより時節の挨拶みたいなものかしら。贈る意味付けも生活用品をおすそ分けする感じよね。この島は小さいから人を呼びこむような祭事には発展しなかったのね。土地柄に合わせて行事の規模や意味合いが変わるのは、民間伝承に於いてはよくある事だわ」
ロビンの指先がページを滑り、ある図を指し示す。豆粒みたいな島の図がページの隅に載っていた。そこでローとロビンはどちらともなくお互いに目を合わせた。二人の間に滑らかな空気が渡り、会話を分かち合っている。それを確かめるような視線の絡まりだった。視線は心地良く解かれて、ロビンの口元がまた動き出す。
「それでね、ここからが本題。貴方がやって見せたおまじない。それもこの島に伝わってるの」
ロビンの指が動いて次のページを捲った。そこにはページの下半分に手の図式が描かれていて、ローがやってみせたおまじないの動作にとても似ている図だった。
「意味は祝辞など、ですって」
ロビンは少し飛んだページの箇所を指で差して喋る。ローの目はその示された箇所を見ないで、ロビンの横顔を見た。
――
まじないの起源も探し当てるのか。と、ローは内心で舌を巻いた。先祖代々とおまじないを教わったあの店主ですら知らなかった事を、ロビンは涼しい顔で当ててみせている。その綺麗な顔の上にある、同じく綺麗な形の頭は一体どういう働きをしているのだろう。ローはまた、ロビンから目が離せなくなった。
ローの視線は止むことが無かったが、ロビンはそれ以上に頭を稼働させているらしい。自分へ注がれている熱い関心を一切気にせず、本のページを夢中で捲って探求を続けている。
「うぅん
……
これだけじゃ意味として不充分よね。他の文献も辿ると、この"など"の部分がきっと解ってくる筈なのよ。
……
あぁ、それがこっちにあるんだわ! 前にメモしてたの」
熱が入って口調が独り言染みているロビンはローの事はやはり見ていない。夢中だった本から手を離すと、今度は一緒に持ってきたメモ帳のページを捲っていく。
「フフ、やっぱり書いてあった。おまじないの意味はね、例えば
――
」
探求の楽しさでスラスラと喋っていたロビンが突然声を失った。口が半端に開いたままで手元のメモ帳に釘付けで止まる。彼女の横顔を穴が空きそうな程見ていたローも、この突然の急ブレーキには我に返った。視線がすぐにこの渋滞の元を辿る。ロビンが持っているメモ帳のページを覗こうとした。
「? 何だ
――
」「何でもないわ。とにかく素敵なおまじないね」
ローが何となく言いかけた疑問は、メモ帳が勢い良く閉じられるのと共に切り上げられた。中身は読めなくて代わりにロビンが大雑把な結論を言う。知識を丁寧に紐解いていたさっきまでとは丸っきり違う挙動である。ローはただ目を白黒させた。
「ハァ?? 何でもないはねェだろ。お前絶対何か隠したな、白々しい
……
あ!」
不満気な顔を露わにしてローはロビンへ詰め寄る。しかしロビンは無言のまま軽やかに躱した。
二人の優しく触れ合っていた膝が、ぐっと強く触れた途端、本たちを手に
攫
さら
って颯爽と長椅子から離れていったのだ。
「おい、ニコ屋!」
本を両手で抱きしめて背中を向けるロビンに、ローは堪らず焦った声が出た。ついさっきの穏やかで、ほんの少し甘いような二人の空気がまるで幻覚みたいに思えて頭が混乱する。ロビンは今どんな顔をしている。ローがそう思った時、ロビンがくるりと振り返った。
「
…………
トラ男君。おまじないを教えてもらった時、他にも何か教えてもらったんじゃない?」
小首を傾げて問いかけるロビンの姿は、少し前に見た仕草と一緒だった。青い瞳が好奇心できらめいている。ローはこの瞳を今日一日で何度も思い出す。おまじないを教えてくれた店主。甲板で春風に笑うロビン。全て無邪気で透明で、ローの気持ちが浮き彫りになるようだ。
――
あの時、勘違いだと戸惑った心の他にも、
何か
・・
は、ロビンへの想いは、確かにあった。
「別に何も
――
」
ほんの数秒の回想をした後、ローはいつもの彼らしい冷涼な顔つきで答えた。否定する返事の割に却って硬いその表情は、ロビンにとても分かりやすく何かを伝えていく。
「そ?」
否定も肯定もしない一言がロビンから漏れた。けれどロビンの頬は、無色の空気みたいな一言とは逆に赤く
綻
ほころ
んでいった。擽ったそうに肩を竦めて両手で抱く本を後ろ手に持ち直す。長い指がメモ帳の表紙をモジモジと撫でた。
ロビンの後ろに隠されたそれはローからは見えず知り得ない。けれど『おまじない』を好奇心でつつき応える仕草のようだと、ローは感じ取った。
ロビンの青い瞳に映るローの表情がわずかに解かれていく。ローの頬は、有り有りと色つき始めていた。
――
○△✕島のおまじないの意味
『求愛、求婚。あなたは運命の人』
――
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