呪里
2025-04-11 19:15:37
2644文字
Public Code_Abyss 本編
 

episode:2 第二幕 〈喧嘩〉


 一ヶ月程経った頃。

 ゼロはその日のうちに終わらせなければならない仕事を済ませ、自室で休んでいた。

 柩からの話によると、兎々を含め今回仮所属した者達は訓練しがいがある者が多いそうだ。

 Abyssには多種多様な種族が集まる。

 その中でも、力をつけたい者・誰かを後ろから支えたい者・自身の可能性を広げたい者など、所属理由は人それぞれだ。

 ゼロは必ず所属した者との面接を行い、最初は舎弟頭の柩の下に就かせる。

 そこで新人教育・研修を行った後に、それぞれの動機に沿った幹部の下に配属させるといった流れだ。

 (そうだ新人ちゃん達の配属先、最終チェックしなきゃ)

 ゼロはスっと椅子から立ち上がり、少しばかり歩速をあげて部屋を出た。






――――――――――――――――――――
 長い廊下を歩いていると、少し離れた所に探していた人物を見つけた。

 「おーい。朧ー」

 ゼロが声をかけると、朧はこちらに顔を向けて薄ら微笑んだ。

 「はい、ボス。お呼びですか?」

 「ちょっとね。新人ちゃん達の履歴書をもっかい見たくて。朧さえ良ければ今から部屋に行ってもいい?」

 「もちろんです。今回入った者達の書類はすぐ出せるようにしてありますので」

 「ありがとぉ。それじゃあ………












 『ボ、ボス!朧様!』

 ゼロの声を遮るように、遠くで誰かが叫んだ。

 二人が声のした方向に目をやると、一人の角の生えた青年が走ってくるのが見えた。

 「何事だ。そんな大声だして」

 「ああの

 青年はぜぇぜぇと息を切らしている。

 「ゆっくり息を整えていいからね。大丈夫?」

 「はい………。俺は大丈夫です」

 大きく息を吸って青年は呼吸を整える。

 「それで、そんなに慌ててどうしたの?」

 ゼロは青年の顔を覗き込む。

 青年は焦っているからか、少しばかり汗をかいている。

 「あの、第二訓練所でドーラとラディーが喧嘩をしていまして。言い争いから武力での争いに発展してしまって、怪我人も出てしまっているんです」

 「………怪我をした子がいるの?」

 ゼロの眉がほんの少し動いた。

 「はい、既に何名かは救護室で治療を受けているそうです」

 青年は申し訳なさそうな表情でゼロと朧を見た。

 「俺達じゃ手に負えなくて。お二方、大変申し訳ないのですが、どうかお力をお借しください!」

 朧は、二人のやり取りを黙って聞いていた。

 話にでていた〈ドーラ〉と〈ラディー〉は、今回仮所属した者達だ。

 〈ラディー〉とは〈兎々〉のこと。

 個人情報を極力世間に晒したくないので、Abyssに所属する幹部職以下の者は皆、ゼロから直接コードネームを授かる。

 朧は記憶を巡らせ、今回の騒動の原因を探った。

 (お互いに攻撃的な性格じゃなかった。初めて顔を合わせた時も何の問題も無かった。じゃあ………




 考えなくない要因を思いついてしまった。

 
 だが、それはあってはならない。

 それはAbyssの〈掟〉であり、ボスであるゼロが最も嫌うことなのだから。

 「ボス……………

 声をかけようとした次の瞬間、朧は怯んだ。


 ゼロの機嫌がものすごく悪くなっている。

 普段と変わらない無表情に見えるが、常に傍に仕えている朧だからこそ察することができたのだろう。

 「朧」

 ゼロに呼ばれ、朧はハッとなった。

 「はい、ボス」

 「今すぐ柩を連れて第二訓練所に来て。私は先に行って馬鹿共にむち打っておくから」

 「………承知しました。すぐに連れて参ります」

 「うん、お願いね」

 朧にそう言うと、ゼロは青年と共に駆け足で訓練所に向かって行った。

 (さてと。俺も急ぐか。さっさとしないとあいつまで叱られそうだしな)

 腕を上にしてうんと背伸びをして、朧は柩を呼ぶためにスマホを取り出す。

 これ以上あの二人以外の怪我人がでないようにと思いながら、電話をかけた。