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umeyume32
2025-06-08 22:46:25
2186文字
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あなたをおねだり
あまこい5展示(書き下ろし)1
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2
ちゅ、とひどく拙い音がした。
空気がじっとりと濡れていて、息がしづらくて。目の前に在るトーマくんの笑顔は、可愛い子犬を見つめるような優しい微笑みにみえる、のに。抱き寄せるために添えられただけの彼の手のひらが、いつもよりも熱い。
「緊張してる?」
「
……
ん」
こくん、と首を縦に振った。わたしの心臓はトーマくんの手のひらの上だ。彼の指先ひとつで跳ねたり落ち着いたりする。右手の人差し指がわたしの眼鏡の下の眦にそっと触れて、睫毛をくすぐった。あ、という音の形になった口から出たものは、いつもよりもずっと甘ったるい声で泣いてしまいそう。思わずわたしの眼鏡を持ち上げて畳んでいるトーマくんを呼んだ。
「トーマ、くん」
「うん?」
やっぱり止めようか、と口にしようとした瞬間に、ふと変な感じがして動きを止めた。
なんでずっと抱き寄せられたままなんだろう?眼鏡を外すなら、両手を使った方がやりやすいはずなのに。
じ、と瞳を見つめて、その疑問の理由を探す。なんだか少し、焦りのようなものが見えて不安になった。
「ね、なにかあったの
……
?」
「どういう、」
トーマくんが触れてくれたように眦に指先を滑らせてから、睫毛の先にちょん、と触れる。目を瞑ったトーマくんの頬に両手を添えて背伸びをした。ちゅ、と子どもの遊びみたいなかわいい音がする。
「焦ってるみたいにみえた、から。
……
これからすること、気が向かない
……
?」
これからすることはキスの音と違って、子どもの遊びなんかじゃない。
だから、こんなにもわたしの身体は熱く火照ってしようがない。目の前のだいすきなひと。そのきれいな身体すべてに触れたくて、わたしはぐずぐずに熟れた果物みたいになっている。この優しいひとは、食べ頃を過ぎているのに全然食べてくれない。
だから勇気を出してお願いしたんだけど。でも、トーマくんの気が向かないなら、無理はしないでほしい。
「
……
○○
」
「ん、
……
?」
驚いて今度こそ身体がびくんっと跳ねそうになった。さっきよりも強く抱き寄せられてトーマくんの腰が触れたのか、と思った。わたしのお腹にぶつかったものは、想像していた形をしていない。思わず下を向いて確かめた。
「
……
?え
……
?うん?これ、あの
……
?え?な、なんで
……
?」
「
……
○○
は、オレが我慢してない、と思ってるんだよな」
「ぇ、あ、
……
は、はぃ
……
」
ふぅ、とトーマくんは息を大きく長く吐いた。それはため息に似ていたのだけれど。ため息というよりも、むしろ興奮しきった動物の声に近く感じてしまって背筋がぞわ、と粟立った。さっきまでときめきで跳ね回っていた心臓が、縮こまってびくびく震えている。内心で首を振って、その気持ちを振り払う。
気のせいだ。トーマくんに食べられてしまいそうでこわい、なんて。
困ったように眉を下げたトーマくんが、綺麗に爪を切りそろえた指の腹で顔の輪郭をなぞってくれる。そのまま首の皮膚の薄いところをなぞっていく指がひどく擽ったくて身体が震えそうになるけど、同じくらい背筋が変な感じがした。トーマくんの服を掴んだ手のひらに、ぎゅっと力が入る。
トーマくんを見上げてみれば、瞳がやわく弧を描いている。わたしのだいすきなひとの、笑顔。そんなトーマくんよりもずっと、わたしの顔はだらしがなく蕩けた表情になっている気がして恥ずかしい。
恥ずかしいけど、うれしくてたまらない。溶けた思考のまま、トーマくんを見上げた。
「オレは、優しくしたいんだよ」
「ぁ
……
トーマくんは、いつも
……
やさしい、よ
……
?優しすぎる
……
んっ、ぁ
……
くらいだと思うから、もっとわがまま、」
「
○○
。『もっとわがままになっていいよ』だなんて、言わない方がいいって言っただろ?」
「ご、めんな、ふぁ
……
?」
唇のあわいにつぷ、と親指が差し込まれた。謝ってから何も考えずに甘噛みをしてみる。形のいい爪に軽く歯を立てるとぴく、と震えた。
トーマくんのゆびもすき。舌先で指の腹を舐めると、指紋の段差まで感じ取れる気がする。少ししょっぱい味が身体の奥までじんじん響くようで内股になった足の指先に力が入った。もっと舐めたくて両手でトーマくんの手のひらを掴んで、親指の根元まで口に入れる。
「
……
○○
」
わたしの名前を呼んだトーマくんの声がひどく低くて驚いて力が抜けた。口から出ていく指が上顎を掠めた瞬間に、今日一番強いぞくぞくしたなにかが背筋を走って身体が跳ねる。笑顔が消えたトーマくんが、わたしを見下ろして、いて。自分で口に溜まった唾液を飲み込んだ音が、ひどく大きく聞こえた。
「と、とーま、く
……
」
「優しくできるように頑張るから、
○○
も協力してくれるよな」
にこり、と笑った顔から読み取れたものは、やはり焦りにみえる。でも、焦り以上に強くて怒りよりも優しくて。そして、いつもよりもずっとずっと甘く蕩けるように濡れている、ような。
目を開いたままゆっくり近づいてくるトーマくんの顔に浮かぶその感情を、ひとは愛欲と呼ぶのかもしれない。だなんて、とりとめもなく頭に過ぎる。恋しいひとの、焼けつくような想いにゆっくりと身を委ねた。
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