tonami
2025-06-04 03:32:19
6260文字
Public
 

ある日曜日の話

いずれ🐯⚔️になってユニットも組む予定の俳優パロ。
2P目は🐯のモブファン視点。




とある日曜日のファンA



 トラファルガー・ローは俳優である。デビューは十年前。まだ高校生だった少年が劇場のスクリーンに、しかも主演で現れた時はあまりの才能に世間を震撼させた。学生ゆえに仕事をセーブしながらもドラマでも主演を張り、映画に出れば大ヒットを飛ばす。表紙モデルを務めた雑誌は即日完売、異例の重版がたびたび決まるほど。名門大学の医学部に首席合格した際にはネットニュースになっていた。大学院を卒業してからは初期研修医として働くためにさすがに休業することになり、ファンは嘆いたものの副業が禁止されているとあっては致し方なかった。それも、ついこの間本人と事務所のSNSで復帰のお知らせが出てからは嬉しい悲鳴に変わった。
 話は突然変わるが、トラファルガー・ローは大の特撮好きだ。その中でも“海の戦士ソラ”の大ファンであるのを公言し、常々機会があれば出演したいとも口にしていた。残念ながら今代のソラはスケジュールが合わず、レギュラーとしての出演は叶わなかった。復帰一作目の撮影とかぶってしまったので仕方がない。その上、三期目のソラはメインを全員新人から抜擢していたのでコンセプトとしても合わず、どちらにせよメインキャラとしての出演は難しかっただろう。──メインキャラとしては。
 その日も、推しの好きなものを自分でも知りたくて毎週欠かさずに視聴しているソラを見ていた。ワノ国編で新しく加わった剣士と、ほぼライバルのようになっているジェルマ66のステルスブラックの戦いもといじゃれあいが冒頭から流れ、オープニングが終わり──絶句した。その週の回は、連日の戦闘でメインキャラの一人が高熱を出してしまい医者を探していた。幸い偶然辿り着いた国の病院で治療を受けられたが、その医者というのがまさかのトラファルガー・ローだった。確かに、医師免許を持っているし最近まで研修医でもあったけれど。本当に医者の役で、しかも事前情報なしに出演するなんて思ってもみなかった。敗因はオープニングクレジットをいつものように流してしまったことだ。
 呆然としている間にも番組はエンディングに突入して、慌てて我に返る。次回予告にもしっかり出てきていた。新メンバーが加入する時恒例のソラの「仲間になれよ!」という言葉で締め括られ、次の番組が始まった。ローの姿を見てから記憶がない。推しの感想を読みながらもう一回見るために録画しておいてよかった。
落ち着くためにSNSを開くと、タイムラインが滝のように流れていく。トレンドにもトラファルガーとキャプテン、ローさん、ガーローなど多種多様な呼び方で入っている。合間に海の戦士ソラのハッシュタグがあったり、リューマとステブラの名前もあった。初登場の回からこの二人の組み合わせは人気だ。
 タイムラインを追える気がしなくて、一気に最新まで駆け上った。すると同担の阿鼻叫喚ポストにまぎれてトラファルガー・ローの名前が現れた。数秒遅れてポストの通知も届く。
『本日放送の海の戦士ソラにDr.ワーテル役で出演しました』
 簡潔にもほどがある出演情報のポストはいつものことだ。基本的にSNSは仕事の情報くらいしか更新されない。ローのプライベートを知るには雑誌のインタビューか、ラジオにゲスト出演する時くらいでしか情報源がなかった。写真なんてもっての外で、時折別のSNSのローのアカウントでマネージャーが上げるオフショットが救いになっている。それくらい、ローは自分から情報を発信しようとしなかった。それなのに今回のポストには、写真が一枚、添付されていた。
『撮影後、リューマ役のゾロ屋と』
 そんな続きとともに、薄っすら笑みを刷いた白衣姿のローと、すっきり晴れ渡った青空のような笑顔の深緑の着流しを着たロロノア・ゾロが映っていた。初登場から新人とは思えない貫禄と殺陣を披露したリューマ役のゾロのことを、ローはいたく気に入ったらしい。
 ローは共演者に演技以外の興味を示さない。ラブシーンがあったり、家族や深い関係の役なら相手のことを調べはするが、あくまで演技のためであってそこに個人の感情はいっさいないと、以前インタビューで言っていた。撮影後もさっさと一人で帰ってしまうと舞台挨拶で共演者からばらされていた。だから、わざわざ撮影後に二人で写真を撮るなんて、ありえないことだった。トレンドにあったリューマの順位が一気に上がり、ロロノアも追加され、一位がキャプテンからゾロ屋に変わった。──そうだ、ゾロ屋。
 ローは自分が親しくしてもいいと思った相手を、なぜか屋号で呼ぶ。さすがにマネージャーや事務所の人間は普通に名前で呼ぶみたいだけれど、たとえば遠い親戚のモンキー・D・ルフィのことは麦わら屋と呼ぶ。つまりローはロロノア・ゾロと親しくしても良いと思ったのだ。初めて自分からオフショットを、しかも二人だけで撮るほどに。
 ポストをリポストいいねして、さらにブクマもした。画像は専用のフォルダに保存しておく。日々の癒やしに眺めるだけなので許してほしい。できれば神棚に飾っておきたかったが、なんとか理性が働いてくれた。代わりに画面越しに拝んでおく。ありがとうロロノア・ゾロ。あなたのおかげで推しが自らオフショットを投稿してくれました。しかも滅多に表情筋が動かない推しの笑顔つき。感謝してもしきれない。毎日拝めるようにロック画面に設定した。
 気持ちを落ち着けて、衝撃でまともに見られなかったソラを今度はちゃんと見ようとテレビのリモコンを手に取る。置いたばかりの端末が軽快な音を立てて通知を知らせた。この音は写真メインのSNS、通称ワンスタの通知だ。投稿通知をつけているのはローのアカウントだけ。素早くアプリを開いて、──思わず悲鳴を上げた。
 説明も何もなくハッシュタグだけいくつかつけられた投稿は、画像が四枚。一枚目が白衣のロー単体。二枚目が衣装姿のローとゾロが会話しているのを遠目から。三枚目は二人で並んで座っておにぎりを食べている。そして四枚目は、撮影中のゾロをスタッフエリアから眩しそうに眺めているローの姿。このアカウントの投稿はいままでマネージャーが行っている。一応、毎回ローに許可を取っているらしいので、要するに、今回の写真も本人許可ずみということで。
 推しの情緒が演技以外に動いたことに再び感謝しつつ、同時にゾロの何がそこまでローを惹きつけているのかわからなくて困惑した。リューマとしては認識しているが、俳優としてのゾロの情報は追っていない。さらっと調べてみてもソラ以外の出演情報はなかった。オフィシャルサイトの動画に数本出ているくらい。直近に知り合ったにしては酷い人見知りのローとは思えない距離だ。もしかして元からの友人なのだろうか。それにしたって、いくらなんでも強火すぎる。
 その戸惑いも、番組放送後恒例のオフィシャルサイトに上がった動画が新キャストインタビューだったのと、公式アカウントの単独オフショットに興奮して同担のフォロワーと数時間に及ぶ通話で吹っ飛んでいったのだけれど。結局、落ち着いてソラを見ることができたのは日が沈んでからだった。