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せいたろ(sitr)
2025-06-04 02:54:46
15506文字
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一泊二日
教えてほしい(
https://privatter.me/page/681ea2ee05296
) の数日後。
時折自分だけに見せる伊作の弱さを晴らしたい仙蔵が、元凶へ手を下す提案をする。
伊仙 仙伊 成人向
※私刑を推奨するものではありません
※成人による未成年者への性的接触や拘束、略取を推奨するものではありません
※過去回想:モブ伊
※過去一式捏造です。
転載•改変禁止
調査の忍務について来いと、仙蔵から僕へ誘いがあった。ペアで地域の調査ならいつも文次郎と行くのに、どうして僕に?と尋ねる。
「この地域、お前の出身のあたりじゃあないか?」
畳んだ紙を広げて見せられて、ぎくりと止まってしまう。あまり詳しく話したことはないのに、僕が話す世間話の端々から、六年も一緒にいたせいで出身地が分かってしまったのだ。
困り果てて顔を上げると、仙蔵は真っ直ぐに僕の瞳を見て言った。
「お前が隠し湯で話した事、私は忘れていない。」
幼い僕が過ごした数年は、そのまま置いてきたつもりだった。なのに時々、じくじくと滲み出てくる。それを仙蔵に気付かれてしまって、僕は僕を宥めきれなった。部分的に話してしまった。
しまってあった傷は、同じようなものを仙蔵も持っていた。暴かれた身体。いやらしくてはしたなくて浅ましいことを、懇切丁寧に知らしめられた思い出。
そんな過去も言わなければ無いのと一緒なのに、僕も仙蔵も、お互いにそれがあることを教え合ってしまった。
上手く言葉を捻り出せない僕に、真剣な顔のまま「決まりだ。」と言って、仙蔵は行ってしまった。
その後の実習は、何もかも上手くできて優がついた。棒手裏剣は的の真ん中を当て過ぎて2本目で1本目をひしゃげさせたし、久々の弓騎射も、全部命中した。
全ての的が壊れてしまうくらい、冴えていた。
「今日、凄かったな。」
実習が終わって的を集めてきた留三郎は、ただ感心した様子で僕を見る。話しかけられてやっと心が胸に戻ってきた感じがして、微笑みを向ける。
「調子良かったみたい。ありがとう。」
言えない。
僕が学園で学びのために色事を嗜むことは言えても、
望まない僕を犯した大人がいることを、留三郎には言えない。清らかで真っ直ぐで素直な同室。こんな僕にずうっと優しく接してくれる、僕を甘やかしてくれる人。
きっと気味悪がって、それから怒ってくれる。そいつはどうしたんだ、まだのうのうと坊主なのかと言ってくれる。
それでも、
きれいな留三郎にとって、この話はきっと腫れ物になってしまう。“可哀想“になってしまう。生きるために選んだんだ。もういいんだよ。もう見たくない。丸く収まるんだから、良かったんだ。
僕はこの優しい同室に、いつまでも忘れられない収まりの悪い傷を見せたくない。
苦くて臭くて膿んだまま
仙蔵ひとりとだけ、
その傷を舐めて、舐めさせている。
僕は、“可哀想“じゃない。
・ ・ ・
仙蔵はさっさと許可を取ってきて、連名の外出届を僕に渡してくれた。行くかどうかを選べ、と、言外に伝えてきたのだ。
持ち物を指定する小さな紙辺が添えられている。変装一種一式。庶民のもの。
商人か、女装か
……
、押し入れを見て、商人の服は少し汚れていたのを思い出す。女物の小袖と襦袢、少しの化粧品をまとめておいた。
まだ煮え切らない気持ちのまま、澱むような不安を持ったまま、当日がきて、朝目が覚めて、支度をした。引き戸を開けると、すぐにい部屋の引き戸も開く。くあ、と欠伸をする文次郎が出てきて、仙蔵が後から顔を出す。
「おはよう!伊作を頼む。」
僕について出てきた留三郎が明るく言って、仙蔵が微笑む。
「頼まれてくれたのは伊作の方だよ。では二日ほど借りていく。」
うん、と頷く留三郎に、仙蔵が続ける。
「二日で戻らなければ、小平太と長次も連れて迎えにきてくれ。忍務の詳細は、文机の抽斗に入っている。」
「わかった。明日の深夜に戻らなければ、夜明けには向かう。」
昼食の約束を取り付けるようないつもの声で、文次郎が応える。
僕の不安が、きっと顔に出ている。視界が揺れる。瞳が熱い。きっと何もない。きっと何もないのに、ただ、恐ろしい。
「行ってくるよ。留三郎、文次郎。」
長屋の縁側を降りて、正門に向けて歩いていく。隣に仙蔵が並んで、足並みを早める。
「気をつけろよ!」
正門まで行くと声がして、振り向くと六年長屋を出たあたりから留三郎が大きく手を振ってくれていた。手を振り返すと、文次郎も出てきて留三郎に並ぶ。二人はそこから、僕たちが出発するのを見守るようだった。
小松田さんが外出届を受理してくれて、出門表に名前を書く。善法寺伊作。立花仙蔵。
「はぁい、一泊二日、がんばってねぇ」
いつもと変わらない小松田さんに和みながら、ぐっと門を開けてそこをくぐる。
門の前には馬借の清八さんが控えていた。少し大型の馬を一頭連れていて、忍務のために手配されたものだった。先に仙蔵が乗り、僕に手を貸してくれる。
後ろに乗って、仙蔵の肩に手を添えた。塗香の清らかな匂いがする。涼やかで甘くない、燻らせた線香や焼香とは少し違う、乳香と白檀を感じる匂い。どこのお寺のものだろう。
どことわからない塗香の匂いに気が緩む。匂いの奥に、仙蔵の匂いがある。体臭というには少し違う、優しい気持ちになるにおい。
「では、返却日に。」
「はい。ここで返却ですね。お気をつけて。」
ゆるやかに速度を上げて、馬が駆け出す。
不安は晴れないままだけれど。
何もない。きっと、ただ忍務をこなして、僕たちは帰ってくる。
そう信じて僕は、馬の揺れを掴んで、少し遠くを眺めた。仙蔵も特に喋り出さなくて、二人きりでじっと沈黙してしまった。こういうのはあまり記憶になかったけど、今日の僕にはこれが、なんだかとても穏やかだった。
途中で小川が見えて、林の中に獣道を見つけて、河川敷に降りた。荷物を下ろして伸びをする。馬が水を飲むのを見守りながら、今日の行動予定を仙蔵が話し出す。
「地域の聞き込みもするが、寺を訪ねて、中を見せてもらうのが一番の目的だ。写経をしてきたので納経させて欲しいと頼んで入る。信心深いと思ってもらい、寺の資料を観覧できないかと頼む。」
塗香はそれで塗ったのか、と納得しながら相槌を打つ。
「お前はそろそろ変装してくれ。」
「仙蔵は?」
「私は羽織を一枚足して、商家の倅ということにする。お前は付き添いの下男か女中と思っていたが、どっちにした?」
む
……
と、少しだけ不満が顔に出たらしい。仙蔵がぱちっと瞬いて僕の顔を観察している。
「
……
そんなに細かく決まってるなら、先に教えてくれたっていいじゃないかぁ
……
」
んふっと仙蔵が笑う。
どうして笑われたのかわからなくて仙蔵をじっと見ると、あははっと声を上げて笑い出した。
「良かった。」
「何が?」
「ここ数日、私も緊張して上手く話しかけられなかったし、お前もしょぼくれていたから。そうやって文句を言ってくれるのが、嬉しくなったんだ。」
仙蔵が、緊張?
僕が、しょぼくれていた?
そう問いたいのに、言葉は出てこなかった。
「誰かもう一人くらい同伴させようかとも思ったんだがな
……
」
少し目を細めた仙蔵と目が合う。
「同じところにいる者でなければ果たせまいと思って、やめてしまった。新たに話すのも嫌だろうしな。」
仙蔵が懐から小さく畳んだ手拭いを出して、僕の目元に押し付ける。
目が熱い。
「大丈夫だ。私たちは、もう大丈夫。」
鼻の奥がつうっとする。
「もう、何でもできる。」
声が出ないまま頷く。
もういいのに。
それでも仙蔵が「殺しに行こう」と言ってくれたことを思い出して、胸がぎゅっとして、やるせなかった。
もういいのに、仙蔵があの時自分のことも話してくれたことが、ただ申し訳なくて、ただ苦しくて、
怖くて、
けれど、嬉しくて、いまも胸が搾られるように熱い。
ぐず、と鼻を啜って、俯いたまま言葉を選ぶ。
「
……
僕は
……
、
……
躊躇う、かも、しれない。」
「いいよ。」
すぐに応えられて、驚いてしまった。
「いいの?」
「ああ。やめたくなったら止めていい。でも、続けたければ替わるよ。」
まるで
……
荷物を持つのを替わるとか、そんな言い方だった。
「終わったら、顔を潰して埋めるのが早いか。」
人が死ぬのを見たことがないわけじゃない。戦場で救護活動をしている分、どちらかと言えば多く見ている気がする。
忍務で人を片付けたことが、無いわけでもない。間接的にとか、襲われて咄嗟にとか、言い訳をつけられるようなものだけどゼロじゃない。
でも、私刑で、明確に殺意を持ったことが、僕にはなかった。そういう選択肢はなかった。あることを、知らなかった。
「
……
五逆じゃない?」
つい神妙な顔になって問う。無間地獄へ向かう5つの罪の一つ、仏教修行者を殺すこと。あの時の坊主はあまり偉い存在ではなかったけれど、あの寺やあの地域では随分大事にされていた。仙蔵は視線を遠くに移す。
「だったら、その坊主は
……
五戒を破っているだろう。不偸盗戒、不邪淫戒、いまも悔い改めず寺で教えを説いているなら、不妄語戒。三つも破ってるじゃないか。」
「
……
それは
……
そうだけど。」
「極楽浄土なんて行けない。死後のことは、私にはわからん。見ていないしな。」
あっさりと言い放つ仙蔵に言い返す気は起きない。
「でも今、気が済むように生きたい。私はお前を気に入っているから、お前もそうであって欲しい。」
仙蔵が、自分に軸を置いて話してくれる。
「あとは、
……
私の可愛い同級生の身体を食い荒らしたジジイが許せない。それが、私とお前が出会う前の話だったとしても。知ったからには捨て置けない。」
仙蔵は、僕のために、というような言い方はしないで、静かに怒っていた。
「
……
勝手だなあ
……
」
声が震えるのを、止められなかった。
僕はもう一度、仙蔵が持たせてくれた手拭いで目元を押さえる。
そうしなければ、目玉が熱くて熱くて、
融けて無くなってしまいそうだった。
「仙蔵、我儘、聞いてくれる?」
「お前は、お前が思っているより我儘だぞ?」
ふはっと笑ってしまう。手拭いで目元を覆ったまま、そうっと言葉にする。
「嘘でさ、僕に
……
好きって言って。」
少し沈黙が流れて、ふう、と一つ仙蔵が息をする。
「
……
好きだよ。」
僕の顎に、仙蔵の細い指が触れる。つっと前を向かされる。手拭いをそろっと引っ張られて、取られてしまう。僕の頬を仙蔵の両手がそっと支える。
「好き。だから、唇を合わせよう。」
僕の返事を待たずに、唇が触れ合う。
「僕らが、初めて
……
こうしたのはいつだっけ。」
はむ、ちゅっ、と口付けを繰り返す。その合間に問いながら、仙蔵の腰に触れる。
「唇を合わせたのは、一年生だ。私が熱を出して、吐き戻して、熱冷ましをお前が口移ししてくれた。」
あんまり覚えていなくて、すらすら話し出す仙蔵を意外に感じた。
「はっきり覚えてる?」
「汚いと言ったのに、お前は『汚くない!』って怒鳴ってきたからな。変な奴だと思った。」
ふふふ、と笑って、舌を絡め合う。少し顔を傾けて、お互いに口付けへ気が向いてゆく。
「もっと、話そう。」
「ああ。何でも
……
いいよ。お前には、全部いい。全部、好きだから。」
息が乱れる。仙蔵の手が、僕の耳を擽る。首筋を爪の先で、ごく軽く掻く。上衣の上から胸をなぞる。口付けを続ける。
「五年も、ただ口吸いだけしてきたんだ。」
笑い合って、唇を舐め合った。
「うん。私、お前の口を吸うの、最初の頃から好きだった。」
仙蔵の指が、僕の腋をなぞる。
「ほっぺがくっついたらしてたね。一年の時からだ。」
「あの時は、ちょんと触れ合うくらいのやり方だったな。」
濡れた口付けが気持ち良くて、そろそろと触る仙蔵の指がくすぐったくて、じわじわと下肢が熱くなってくる。
「怖い時、お前と唇を触れ合わせると、安らぐんだ。」
仙蔵の両腕が、僕の背にまわる。仙蔵と抱き合って、身体の前側が密着する。僕も仙蔵もゆるく勃起していて、腰の間でこりっと擦れ合う感触がする。
「三年生のときには、僕は本当はこんなだった。」
「なんだ。抱き締めてくれなくなった時期があったが、お前、そうだったのか。」
唇は、ずっと触れ合わせたまま。道から少し離れた河川敷で、林立に僕らの姿は隠れている。
「やらしい目で見たってこと、言い出せなかった。」
「それは
……
私もだ。」
仙蔵の背中をつうっと指でなぞる。ひくんと震える。
「お互い
……
遠慮 して たんだ。」
「だな。だから
……
課題で、という の
……
お前と、することに、なって 嬉しかった
……
」
ふ、はふ、とお互いに息が漏れる。
「
……
うずうずする。」
「ん、
……
私も
……
」
「あれから
……
何回、交わったっけ
……
?」
仙蔵が、噛み付くように口付けを深くする。僕も抱き締める腕に力を込めながら、舌を絡め返す。左右に腰を揺らして、くにくに遊ぶ。幹の太い木に寄って、背を預ける。
「
……
一晩に、何度かするだろう、
……
もうわからん」
「だって、
……
したい、から
……
」
恥ずかしくてモゴモゴしてしまった。抜いたら落ち着くかも、とは思うけれど、繋がりたい。そういう瞳で、僕たちは見つめ合った。
「今日は、油は持っていないのか?」
揶揄うときの声で言われて、ちょっと悔しい。油壺は持ってきていない。
「助平って言われるから持ってない。」
ぷんと言いながら、何か代わりになるものがないかと記憶を辿る。
うーん
…
、と溜める。観念して、思いついたものを一つ提案する。
「
……
軟膏
……
ある、よ
……
菜種油と蜜蝋の
……
」
擦り傷に塗って出血を抑える処方の軟膏はいつも持っている。鎮静してしまうかも、とは思うものの、基材は植物油だから良さそうだ。
「それで、しよう。」
お互いに抱き合う腕を緩めて、懐から二枚貝の薬入れを取り出す。見慣れたそれを見た仙蔵は、成程という顔で、また僕に顔を寄せて、唇を重ねる。
「お前とするの、好き。」
「
……
もっと、言って
……
」
仙蔵が僕の袴を解きにかかる。お腹に結んだ後ろ紐を緩めて、ほぐす。前紐を緩めて、袴がずり落ちる。
「お前には、能動的になる。したいと思うんだ。」
「必要だからする閨じゃ、ないの?」
ふむ、と少し迷って、仙蔵が答える。
「私は別に、閨を好まない。疲れるし、人によっては痛いし、気を遣う。自慰もほとんどしない。」
僕の褌を解きながら、なんでもないように話す。僕が想像する仙蔵もそうだ。清潔で、綺麗で、一人でするところはあまり想像できない。それなのに、一夜に交代でしてくれる。身体のあちこちを舐めて、触ってくれる。閨の仕草ひとつひとつを大事にしてくれる。
「どうして
……
僕に勃ったの?」
「言っただろう。嬉しかったし、楽しみだった。お前だって、低学年の時から私に欲情してたのではないのか?」
どこのお姫様よりもずっと美しい仙蔵が、跪いて僕の臍に唇をつける。下腹部を手のひらで優しく撫でる。縮れた毛に鼻先をつけて、竿を撫でて、唇をつける。
綺麗な顔で、白い頬で、何にも躊躇わずに僕の陰部に触れる。亀頭を口に含む。
「そう、 だけどぉ
……
」
びく、と腰が震えて、幹に背を預けて、口淫される。春の花びらみたいな仙蔵の舌が、僕を舐め上げて、上反りに整えてゆく。雁首の皮を扱き下ろして、裏筋のツッとしたひだを舐めて、亀頭を咥える。
「ぅ、 ねや、
……
すきじゃないのに、そんなとこ
……
舐めるの
……
?」
「お前と
……
んむ、するのが 好きだから
……
」
揃った長い睫毛を伏せて、優しい声で仙蔵が答える。じゅ、ちゅぷ、と、僕の勃起しきった魔羅を咥えて、息を乱している。
「勝手に生きて、
……
勝手に、楽しく、やって、急に、甘えてきて
……
、泣いて、さわって、いいにおいで、ばかばかしくて、いじらしくて、」
はあ、と、甘く息を吐いて、仙蔵が右手を自分の下腹部に伸ばす。こしょこしょ触るのが見える。
「丁度いいんだ。私には
……
」
気持ち良くて融けそうなさなか、急に悪役みたいな言葉を吐く仙蔵に、んふっと笑ってしまう。
「悪い、おとこの
……
口上だよ、それ
……
」
「私を、きれいだ、美人だ、といって、さして遠慮もしない、いい加減で、あほたれの仔犬みたいなお前が」
ぐじゅ、と喉奥まで深く咥えられて、吸われて、ぷあっと苦しげに口を開いて、細い顎で、しっかりしゃぶって
「んぅ、
……
かわいくて、仕方ないんだ
……
」
吹き曝しの外なのに。
林の、ちょっとした合間なのに。
仙蔵は袴を寛げて、僕の魔羅を咥えながら自分のそこも撫でている。
「仙ぞぉ、
……
入りたい。」
「
……
お前が先か?」
気怠げに立ち上がって、僕と入れ替わる。太い木の幹に左手を付いて、しなやかな腰を僕に向ける。白い尻の合間は色素が薄くて、まだ若い桃みたいだ。二枚貝の薬入れを開く。多めに指で掬って、窄まりに盛るように乗せる。薬入れは懐にしまう。
仙蔵は、そこをきっと意識して緩めている。細い皺がきゅっと縮んで、緩んで、そこに人差し指を潜らせる。空色の上衣に描かれた波模様が揺れる。
なめらかな肌に、さわっと鳥肌が立つ。仙蔵の中に指を入れて軟膏を塗り込む。てらっと、木洩れ陽にきらめく。
二度、三度、往復する。浅いところには油感が行き渡って、窄まりのふちを半周なぞる。体温でじゅわっと緩んだ軟膏。指を抜く。そこに、僕の魔羅を押し付ける。
ぬーっと腰を進める。んぅ、う、と、仙蔵の喉が鳴って、膝が震えるのが伝わってくる。
綺麗な仙蔵。
知的な仙蔵。
い組の仙蔵。
後輩みんなが憧れる美しいこの人が、木陰で盛りのついた猫みたいに、僕へ尻を振る。僕の亀頭を誘って収縮する。僕が飲み込まれてゆく。
「いさ
……
」
せつなげに息を吐いて、僕を呼ぶ。
浅いところを抽送すると、それに合わせるような呼吸が聞こえた。
「きょ、 ぉ、は、中
……
だめ
……
」
浅い抜き挿しに阻まれながら、絶え絶えの声で言う。
「まだ、馬
……
乗るから
……
?」
こくこく頷いて、頭がかくんと垂れる。引くさざなみのように、仙蔵の髪が左肩へ流れ落ちてゆく。
「ぅ、 う、おく、きて、いさぁ」
果てる時の胎がきゅうきゅう絡みついてくる。仙蔵の膝は仔鹿のように震えている。性感に震える仙蔵は、とびきり妖艶なのに幼くて、ゆっくり、そうっと、奥へ押し込む。後ろから抱き締める。仙蔵の上体を抱き起こして、僕の亀頭がぐうっと仙蔵の胎の前側を圧迫する。
ひとつ高く鳴いて、ぴゅっと幹に子種が引っかかる。僕の両腕に抱かれた仙蔵は、びくん、ひくっ、と震えて、両手を僕の腕に重ねた。
「は
……
、ぅ、く
……
」
ふー、ふー、と肩が上下するのを見て、胸がぎゅっとする。僕の右手を、仙蔵が導く。胸骨あたりにあった手が、ゆっくり下に降ろされる。薄い腹。臍。なだらかな下腹の一点で、仙蔵が僕の手をぐっと押さえる。
「ここ
……
」
吐息混じりで、うっとりと話す。
「ここに、きてる
……
お前の、ぷくぷくの
……
亀頭ぉ
……
」
ぶわっと赤面してしまう。得意げに笑って、仙蔵が身じろぎする。脚を閉じて直立しているから、いつもよりも括約筋がみっちりと深く締まっている。
「あんまり、締めちゃ
……
」
ゆるゆる前後に仙蔵が腰を揺らす。
「だめ、中ぁ
……
、我慢だぞ
……
?」
馬に乗るから、それは本当だから、この後にも忍務は続くから、それなのに、うっとりと得意げに微笑んで仙蔵が動く。
ん、んぅ、と融けた声を聞かせてくる。前が気持ち良くて果ててしまいそうで、ぐちぐちと我慢汁が流れ出ている気配に震えて、どんどん滑らかになる仙蔵の腹が温かくて、熱くて、狭くて、会陰がびぴっと震える。迫り上がる。骨盤の底がじんじんする。
「せん、あ、だめっ だめ ぅ」
ぴたっと動きを止められて、はっ、はっ、と息をする。
「も、
……
抜くよぉ、出ちゃう
……
」
「だめ
……
」
僕の右手を、もう少し下へ仙蔵が誘う。つんと上反りの魔羅に指が届く。仙蔵の、毛が薄くていつも丸見えの、ちょっと細身で、硬くて、おなかにつくくらい反りの綺麗な魔羅が、ぴんと勃っている。
「もっと、硬くして
……
お前に挿入れるように
……
」
指で辿る。これが僕に挿入るところを想像して、雁首をなぞる。我慢汁が鈴口から垂れて、裏筋につうっと滴っている。
言葉が出なくて、恥ずかしくて、嬉しくて、仙蔵の肩に顔を埋める。仙蔵が腰を揺らす。
「んぅ、う
……
」
仙蔵の魔羅を指で扱く。汁を手に取られないように、人差し指と親指だけで上下に扱く。ぬるぬると行き渡る先走りが、僕の胎をなめらかに擦る妄想に繋がる。かたくて、反って、僕の好きなところを点で擦ってくれる、欲しいところに届く、僕の好きなかたち。
「そろ、お前の番だ 」
吐息が、こそばゆい。囁き声で耳が熱い。
したい。
これが欲しい。
「僕の、
……
ばん
……
」
ぬろっと引き抜く。はぁっと耐えかねた息を吐いて、かくんと仙蔵の身体が前に折れる。木の幹に手をついて、乱れた息を整えている。
みちみちと腫れて、もう達したくてたまらない熟れた僕の魔羅が、柔らかい糸で吊ったみたいに重く揺れる。
ふー
……
っと長く息を吐いて、仙蔵が僕に振り向く。くっと笑って、衿を掴んで、僕に口付ける。
「
……
そんなに腫らして、すぐ出してはいけないぞ。」
ぐっと掴まれた衿で誘導されて、僕の背後の木に半身を押し付けられる。左腕で支えるように寄りかかって、体勢を保つ。
身体の右側面から、仙蔵が距離を詰めてくる。
もう、想像している。覚束ない手元で薬入れを出す。
「自分で、塗れるか?」
うん、と頷く。指にぬとっと掬う。自分で後手に、窄まりへ軟膏を塗り付ける。
ほしい。
欲しい。
挿れてほしい。
はふ、はふ、と勝手に息が乱れて、気が急いてしまう。仙蔵の中を擦った感触と、僕が過去にしてもらった交合の感触が繋がった気がして、生々しく身体が疼く。
袴から右足を抜いて、右膝裏を抱える。
「中、弄らないのか?」
「もぉ
……
欲しい、待てない
……
」
ぴと、 と、亀頭を押し付けてくれる。
ぐっとめり込む。仙蔵の綺麗な魔羅が、甘い色の亀頭が、僕に埋まる。そこを見たくて身を捩る。ぞくぞくして、口呼吸になってしまう。会陰がくすぐったい。性感なのか、むず痒いのか、わからない。
「
……
ん 、奥、ちょうだぃ
……
」
僕がねだるまま、ぬーっと収めてくれる。ぞぞっと背が震える。もう熱い。もう、出したい。会陰が、直腸が、ひくひく引き締まる都度、膨れ切った僕の魔羅が揺れる。僕が抱えた右脚へ、仙蔵も膝裏に腕を通して支えてくれる。
仙蔵が、ふー
……
っと、深く息を吐く。
「
……
いさ、もっと
……
緩めろ、締めるな
……
」
ふるっと震える。
「
……
締 めて、ないぃ
……
」
くんと突かれて、
「あ ぐ」
「まだ」
仙蔵が腰を引く。
「あっあっや やだ 抜いちゃ」
顔を寄せて、艶っぽく笑う。
「まだ、果ててはいけないぞ。まだ溜めておけ。」
きもちいい。
きもちいい。
ここに入ってもらったのが
嬉しくてたまらない。
ねぇ
すき、
まぐわうの、すき。
なめるの、すき。
くちをすうの、すき。
しかられるのも、
なだめられるのも、
なかにだすのも、
なかにだしてもらうのも、
すき。
ぼくはこういう事をするの、
ずっと汚くて怖くてしょうもないと思ってたよ。
生きるのに必要だから、しなきゃいけないと思ってた。
本当に「欲しい」って思う事だなんて
知らなかった。
「好き、伊作。ちゃんと嘘だ。
だから安心しろ。
でも、たくさん言う。」
どうして
……
、仙蔵には、僕がして欲しいことがわかるんだろう。仙蔵は僕を幹に押し付けて、深く腰をゆすり始めた。
「好き、好きだ、お前と、したいんだ、私は
……
」
揺さぶられるまま、あ音で喘いだ。人通りが無いから、道から離れた林だから、外でもなんでもいい。甘えた声色で、あとほんのひと匙でも仙蔵に可愛いと思われたくて、きゅうっと唇を引き結ぶ。
「お前に、組み敷かれるのも、
……
お前を泣かすのも、好き、好きだ、全部、全部
……
いい、お前が、何を言うのも
……
っ」
こわい。うれしい。きもちいい。
「全部、わかりたい、きっとわかる、私たちは、同じところにいる」
「せ 」
「いさ、 好き、知りたい、お前を、」
「仙ぞ 」
強く揺さぶられる合間に届く仙蔵の言葉が心臓を掻く。握る。
「ぼくを、要らなく、ないの
……
?」
仙蔵の顔が歪んだ。
くしゃっとして、その一拍のあと、獣みたいに僕を強く突いた。
「あ ぐっ 」
乱暴に上衣を引っ掴まれて身体が引き寄せられる。根元まで強く打ち付けるような交合で、僕はもう耐えられなくて射精して、それでも仙蔵が僕を抱いてくれるのはやまなかった。
乱暴にされても無性に嬉しくて、怒った顔に胸がばくばくした。ひっ、はひ、と引き攣れた呼吸しかできなくて、ぴるぴる汁が飛ぶのが見えて、内腿が震える。
僕の内側を、仙蔵の魔羅が擦っている感触が、突いて、引いて、突いて、引いて、硬く膨れて筋張った肉質のそれに擦られて、擦られて、ぼくの指も、手持ちの張型も届かないそこを繰り返し擦って
「だっ、 らめ いや もうだ めぇ」
「要らない わけ、 あるか、馬鹿っ 」
深く、何度も何度も突いて、揺さぶって、力の入らない僕の手を絡め取って、両足が浮きそうなくらいまぐわってくれた。何度も突かれて、かき混ぜられて、僕は絶頂した。高い声をあげてしまって、
「っ なか なかぁ、ちょうだい」
疼いて、疼いて、何度も迫り上がる射精感に追いつけない。
「やらない、お前にはっ
……
」
叱られて、またぞぞっと背がわなないて、横隔膜が、身体の内側が、胎が、甘く痺れる。
一頻りそういう交合が続いて、仙蔵の腰がぶるっ、ぶるっと震えて、んんっと喉を鳴らして、やっと交合が止まる。僕から抜いた途端に仙蔵はもう一度達して、二人でその場に崩れるようにへたり込んだ。
「
……
怒った
……
仙ぞぉ
……
」
「当たり前だ、阿呆」
ふー
……
と、息を吐く。整える。顔を上げると、僕のその様子を仙蔵が観察していた。
「お前が要らないと思ってても、私には要る。」
「
……
善法寺伊作を?」
肌に散った汁を手拭いで拭いながら、仙蔵は頷く。
「私の可愛い伊作を、安く言うな。」
「
……
変だよ。本人なのに。」
フン、とそっぽを向いて、仙蔵は拗ねた顔をしている。
「仙蔵。」
まだそっぽだ。
「仙蔵、好き。大好き。」
ちらっとこっちを目線で見る。
「私に言わすならお前も言え。」
立ち上がった仙蔵が褌を締め直す。着衣を整える。
心配な気持ちはどこかに行って、なんだか嬉しくなる。仙蔵はもう怒っても、拗ねてもいない。脱げかけの服を脱いだ。風呂敷包みを手繰り寄せて、持ってきた女装に着替え始めた。
・ ・ ・
着替えを済ませて、薄化粧をする。仙蔵に手直しをしてもらって、変装が完成した。
「手拭いを被っておいてくれ。」
言われるまま、柄入りの手拭いでふわりと髪を覆う。いたいけな女を装うなら、目元がわからないくらいでいいかもしれない。
荷物を整理して馬に二人で乗り直し、また移動を再開する。山道、林、といった風景に畑が見え始め、人家や小屋が視認できるようになった。
仙蔵の指摘通り、ここは、八歳の頃に住まわせてもらった寺がある町だ。もっと北へ行けば、大きい寺がある。
記憶より
……
人が少ない気がした。畑も、荒れてしまったものがある。合戦に巻き込まれたか、タチの悪い山賊が近くに住み着いたか。馬から眺めるだけで、空き家になってしまった様子の家屋も複数確認できた。
「僕が知っている感じじゃない。随分寂れてる。」
「私が聞かされていた話も、もっと賑やかな様子だったな。悪いことに巻き込まれたのだろうか。」
少し遠く、畑をいじる人影が見えて、進行方向を寄せてみる。働き盛りと言えそうな男が一人、妻らしい女性が一人。
「もし!お話お伺いできますか。寺があると聞いたのですが。」
仙蔵が声を張って、二人がこちらに意識を向けてくれる。そのまま馬を歩かせて近くまで向かう。
顔が見える距離になって、心臓がぐっと冷える。
似ている。
男の顔があまりにも、あの坊主に似ている。親戚だろうか?
そも見覚えがある。坊主に息子?この寺の教えでは妻帯を許さないはずだから、血縁者?近ければ似るのもわかるので、考えるのはそこで止めた。
なんとなく顔を見られたくなくて俯く。
「寺はあるが、ほとんど稼働していないよ。決まった住職もいないし、隣の村と折り合いが悪くてね。」
「そんな
……
。写経をしまして、お納めしたいのです。詳しい方にお繋ぎいただけませんか。」
なるべく興味を持たれないように、おとなしく仙蔵の背中に寄り添う。
「
……
親族が見ている寺なので、では俺が案内しよう。」
親族。
「ありがとうございます。」
「あんた、どこから来た。」
「もう少し南の、████町です。商売をしてまして
……
」
良い寺に納経したい、女中を連れて農家へ買い付けの話を仕掛けたくて遠出している、そんな話を仙蔵はスラスラとして、男に案内されるまま北へ向かう。塀で囲まれた、広い寺がもう見える。門が相変わらず大きい。
到着して、馬から降りた。僕に手綱を預けて、仙蔵は男と会話を続けている。さりげない話し方、時折混ぜるお世辞に関心しつつ、僕の立場は今は女中なので、静かに後ろを歩く。
門をくぐり、境内に入り、馬を繋ぎ場に停めて
……
だんだん具合が悪くなってくる。建物は古びて薄汚れているが、位置や施設は変わっていない。点々と記憶が蘇る。
儀式めいた交合が痛かった。稚児観音の話をいたく気に入っていた坊主だった。
ただ、
……
顔の広い坊主だった。ともかく根回しがうまくて、力のある人物との繋がりがなぜかある人だった。口利きでなんでも丸めた。僕を傍らに置いて、尽くしてくれる優秀な稚児だと紹介していた。
弟子が何人もいて、その弟子も、そのうち僕で晴らすようになった。たくさん、晴らした。もっと酷い目に遭った稚児もいた。弱って死んでしまう子もいた中で、僕は丈夫だったようで、痛いけど終わるのを待つことができた。
僕は、
ここから、どうやって出てきたんだっけ
……
「まだ、どこもかしこも綺麗ですね。住職はどうされたのです?」
仙蔵の質問にハッとして、聞き耳を立てる。
「井戸に毒を入れられたようで、急にみんな具合を悪くして死んでしまったんだよ。七年ほど前かな。」
仙蔵は、へえ、と興味深げに聞いている。
毒。
七年前。
「朝餉の粥を揃って食う習慣があって、そこでみんなひっくりがえっていた。一人分、手付かずの椀があってね。弟子のどれかがやったんだろうと話したが、その頃弟子は数も出入りも多くて、調べようがなかった。」
「ここの維持は、ではあなたの親戚が?」
「いや、俺だよ。他言無用にしてほしいが、住職だった爺さんは俺の親父でな。それで定期的に手入れはしている。墓が裏にあるからなあ。」
境内を歩く足が止まる。
「法要全般を任されていたし、惣単位での交渉も強かったから、親父が死んでこの町は落ちぶれてしまった。俺も七年前は寺に通っていたが、食堂に揃った親父と弟子たちの遺体を見て恐ろしくなって、寺の復興は考えないことにしたんだ。」
仙蔵がおしゃべりを誘って会話する。
「当時は、祟りなんて言われたんじゃあないですか?」
「大変だったよ。可愛がっていた何人かの稚児も消えてしまって、俺も時々混ぜてもらっていたのになあ。酒・金・稚児趣味と三拍子揃っているのは町の大人には折り込み済みだったから、しょうがないと言われた。」
耳鳴りがする。
「折角金回りのいい状態だったのになあ。交渉に稚児も使ったようだったが、下手に女を使うよりよっぽどうまく回ったようだ。どの宗派でも使えるものな。」
地面がなくなったみたいにふわふわする。
本堂に入る仙蔵と男の後ろへ、なんとか歩いてゆく。甘ったるい香が記憶を引き出す。鼻裏に染み付くような、濃い、甘い、線香と塗香。絶えず燻らせて、毎日の清めに使った、丁子と桂皮の強い匂い。
「交渉に稚児ですか。良い寺の稚児なんて、ただいい服を着せて世話を焼かせるくらいのものでは
……
」
「本当は女が良かったんだろう、お盛んな生臭ジジイだよ。しかし見目のいいのがいたんだ。お前の連れの女中のような、栗毛で
……
」
俯く。手拭いを被っておいてよかった。
「うちでは稚児はナントカ丸と名付けたが、あれだけはイサクと呼んでな。南蛮の神話で、供物にされる息子の名だと。イサクの方も他の稚児を庇うように振舞うから、大層気に入っていたよ。具合も良かった。」
本堂の床は埃っぽくて、しばらく人の出入りがまばらなのが見てとれた。
仙蔵が恭しく写経を渡して、あの住職の息子は、あの住職にそっくりな顔と仕草で一礼して写経を受け取った。
僕が何度許しを請いても何もしてくれなかった立派な仏像にそれを供えて、それらしい顔をして戻ってくる。
「出入りしていた方達のことを覚えていますか?商売敵だといけない。」
仙蔵の声は冷えている。
「ああ
……
、それなら記録があるはずだ。」
仙蔵が、僕に目配せをする。きっと、殆ど正解の想像をしている。寺務所へ向かう後ろをついてゆく。
いいように使われた稚児だった。死んでしまう者もいる中、生き残った稚児で結託した。毒草を使って住職たちを殺した。金を持ち出して、稚児を埋めている墓地に六文ずつ小銭を供えに行った。残った金は生き残りの他の稚児と分け合って、ちりぢりになった。
思い出せなくなっていた。生きるのに手一杯だった。
なんとか着いていくと、寺務所も埃っぽかったが、書棚は殆ど変わらず残っていた。法要のときの記名帳もそのまま残っている。仙蔵はいくつかの台帳を見せてもらって、深々とお礼をした。だんだんと陽が落ちてきて、そろそろお暇という話の流れになった。
寺務所を出る。足元がふらついて、仙蔵が僕のそばへ来る。腰を抱いて、支えてくれる。
一回、出たい。この寺から出て、落ち着きたい。手が震える。小さく矢羽で伝えると、仙蔵は頷いてくれた。
「イサク!」
呼ばれて、思わず振り向いた。
間違えた。
「
……
やっぱりそうか、その顔。お前、女中ごっこか。その若旦那に取り入ったのか。」
声が出ない。
男が、あの住職の顔で、刀を抜いて立っている。
「お前が変な気を起こさなければ、この町はまだ元気だった。お前が従順なままだったら、貧しくならなかった。お前が言うことを聞いていれば、親父は尊敬され続けていた。」
殺意だ。
この男はこの男で、僕が父を奪ったことを恨んでいる。
僕が先導した。
僕が毒草を集めた。
僕が殺した。
僕が、この町を貧しくした。
「人違いでしょう。私の女中だ。」
「いいや、男だ。首を見ればわかる。唇の形がそのままだ。髪の色が同じだ。七年でそう育つか。大層良い具合だろう、その穴は。」
穴。
「ください、ちょうだいと言うように仕込んだ。よく躾けておいた、堪え性なくねだるだろう、そいつ自身も魔羅が大好きないやらしいガキなんだよ。」
心臓が痛い。
「はしたない、浅ましい、どの魔羅も美味そうにしゃぶる口だ。指で開いてねだる穴だ。そうしなければもう生きられまい!」
「やめろ!!!」
仙蔵が絶叫した。
のろっと歩き出した男を見ても、足がすくんで歩けない。僕と男の間はまだ距離があって、仙蔵が懐に手を入れて間に割り入る。
男がふらふらと歩いて近付いてきて、
その速度が早まって、距離が近くなって、
不意に、後方、本堂の縁の下から小さな影が駆け出てきた。男の脇腹を長物で勢いよく突き、男はギャッと悲鳴を上げる。
紫色の影。
海の波間のような髪。
踏鋤を大きく振り抜く刹那。
「殺すな!喜八郎!」
ゴ、と、濡れた草地に重い石を落としたような音がした。じゃりんと甲高く刀が落ちて、男は腕をだらんと垂らしている。見逃さず爆ぜるように駆け抜けて、喜八郎は地に落ちた刀を奪う。
「何が変な気だ。稚児だろうとヒトだ。町の営みに子供を組み込んで食い物にする僧侶があるか。お前も、お前の親父も獣以下だ。極楽浄土になどおよそいかれん!」
声を張る仙蔵に気圧されて、男は黙ったまま、その場に蹲る。ずしゃ、と物音がして、振り向くと男の妻が門の近くにへたり込んでいた。
「こいつも、この親父も、仏の道を解きながら幼な子を犯した変態だぞ。早く悔い改めなければ、お前も死後裁きにあう。」
冷えた声で言い放つ仙蔵を横目に、喜八郎は目についた井戸へ刀を放り込む。ぼちゃ、と水の音がした。
行け、と仙蔵が矢羽をして、一つ頷いた喜八郎は音なく駆けて行った。ぐっと僕の腰を抱いて仙蔵も駆け出す。馬を繋いだところへ何とか向かって、僕は横乗りで前に、僕を支えるように仙蔵が後ろに騎乗する。手綱を引いて、馬が駆け出す。境内を、門を駆け抜けて、薄暗がりの街を走る。
仙蔵の肩に横顔をつけて、腰に腕を回した。
乳香、白檀、
仙蔵の、少し汗ばんだときの匂い。
陽が沈み切る前、昏れなずむ金色と藍色の間に、河川敷への道のりを戻る。
「馬に草を食わせて、水もやらなければ
……
」
「うん
……
」
ぼうっとして、とにかく疲れ果てた。
「忍務は、大丈夫だ。必要なものは読めたし、必要なら別日に取りに行く。」
頷く。
「あれも、殺すか?」
首を横に振る。
「
……
いらない。」
少し遠くに細く煙が立っている。河川敷のあたりで、狼煙の途切れ方をしている。
「
……
喜八郎だ。」
仙蔵は狼煙の方角へ馬を歩かせる。
薄暗い道を、林を、狼煙を頼りに進んでいく。
合流したら、二人だけの話はできない。両腕で仙蔵の背中に腕を回す。
馬が緩やかに停まる。仙蔵の首筋におでこを擦り寄せた。
仙蔵も両腕で僕を抱き締めてくれて、お互いの鼓動が感じられるくらいぴったりと抱き合った。
「もう、たぶん、大丈夫。」
内緒話みたいに、僕は仙蔵の耳元にそっと言う。
「良かった。」
仙蔵も、内緒話みたいに話す。
「殺したくなったら、別日に行くね。」
ふ、と笑って、僕らは間近な距離で瞳を見あった。
「その時は呼んでくれるか?五逆だが。」
「いいよ。」
笑い合って、腕を緩めた。
仙蔵が馬をまた歩かせて、僕らは河川敷へ向かった。
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