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タロイモ
2025-05-28 12:48:39
10944文字
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ネコの概念は芽生えて根付く
パーバソワントロライ……になり損ねたもの。
お題の「ケモノ化」「芽生えたもの」をお借りしましたすみません。
趣味しか入れてません。
まだ友人だと思いあってるパー(→←)バソです。くっ付いてないです。自分の中の矢印にも気付いてないアンポンタンな二人です。
1
2
とある午後。
静かな昼下がりのストーム・ボーダー艦内。
『パーシヴァル
——
!!たすけて
——
ッ!!』
全艦放送で響き渡ったよく知る声に、瞬間。
名前を呼ばれた騎士は、弾かれたように駆け出していた。
※
白銀の騎士が、広い戦艦の中を疾駆する五分前。
カルデアの職員およびサーヴァントは、ストーム・ボーダー内の全員に向けた通信により、マスターとその一行がレイシフト先から戻ったことを知った。
マスターのレイシフトからの帰還。それは即ち、二週間前に発生した微小特異点が解消した事も同時に示していた。
管制室でナビゲートをしていたマシュによれば、今回の特異点はやや長期戦であったものの、最終的には危なげなく解決に向かったとの事だった。マスターはもちろん、同行したサーヴァントにも大きな怪我や損害は無かったらしい。
皆が何の瑕疵もなく平和に帰投できる事は珍しいので、その一報によってカルデア内にはほんの僅かに柔らかな空気が流れていた。
……
それ程に、星見台のマスターとその仲間たちが歩む道程は過酷なのである。
そんな長丁場のレイシフトを終えて帰ったマスターらを労おうと、何人かの職員とサーヴァントは管制室に向けて歩を進めていた。
パーシヴァルも御多分に洩れずその内の一人であったのだけれど
……
まさかその途中で、当のマスターに自分の名を呼ばれるとは思わない。
しかもストーム・ボーダーの艦内全体に響き渡るような、大音量で。
魔術的に拡散された声は音割れこそしなかったものの、マスターの口調は切羽詰まったものだった。恐らく焦って通信端末の発信先に全艦放送を選んでしまったのだろうが、少なくともそれは、歴戦のマスターが焦燥に駆られるだけの理由があっての事だろう。
カルデア内部への敵の侵攻は、数は少ないが何度かある。勿論それらは例外なく危険なものばかりで、マスターの身が危うくなった事だってあったと聞く。
コフィンのある霊子演算室の扉を目前にして、パーシヴァルの心臓は嫌な風に早鐘を打っていた。
「マスター!!無事かい?!」
「ッ!パーシヴァル!!」
マスターに負けない程の大音声で叫びながら、円卓第二席の騎士は巨大な鋼鉄の扉をぶち破らんばかりの勢いで演算室に飛び込んだ。
幾つかあるコフィンのうち、最も奥にあるものの真横にマスターの姿を確認して、騎士は僅かに安堵する。
しかし、それも束の間。
「マスター、一体何が
…
あったん
……
」
若き主に状況を問おうとしていた騎士の言葉尻は、小さく弱く萎んでいく。それは、薄青の瞳に常ならば有り得ないものをいくつか見留めたためであった。
まずパーシヴァルの目に入ったのは、篤き信仰によって暴虐の竜を鎮めたという聖女・マルタが、智慧とカリスマ、そして弛まぬ努力によって中つ国を治めてみせた女帝・武則天を、羽交い締めで取り押さえている所だった。
人間はよく分からない状況を目にすると、少し現実逃避じみた方向に思考が向くものだ。流石聖女、悪しき竜だけでなく荒ぶる女帝も鎮められるのか、と明後日な感心がパーシヴァルの脳内を駆け抜けていく。
さて、その荒ぶる女帝、もとい常に上から目線でゆったりと構えている事の多い童女姿の皇帝は、何故だか華奢な手足をばたつかせ、涙目かつ半狂乱で彼女の武器である鞭を振り回していた。
普段は理性的かつ傲岸不遜な彼女にしては些か似つかわしくない行動であるが
……
そうなっている理由は、直ぐに伺い知れることとなった。
彼女と相対する、マスターの頭の上。
艶やかな髪に覆われた其処には、髪色と同じ、一対の三角形の耳のようなものが並んでいた。
ここに刑部姫や黒髭が居たのであれば、ふわふわとしたその耳を見て、間髪入れず『ネコ耳だー!』と叫んでいただろう。残念ながら今回のレイシフトに同行したメンバーの中に、あの二人はいないが。
しかし、そういうカルチャーに造詣の深いサーヴァントがもう一人、今回の同行者の中にはいたはずである。
最後にして、最大の海賊。
十八世紀初頭のカリブの海を震撼させた掠奪者。
過日にパーシヴァルと友誼を結んだその彼の姿は、何故だか霊子演算室のどこにも見当たらなかった。
代わりに、マスターの真後ろには
——
真っ黒で、立派な体躯のネコ科の獣が鎮座していた。
「にゃぁぁぁあああ!!マスター!!早う其奴を妾の目の届かぬ場所に連れて行かぬかぁぁああ!!」
「大丈夫だから!多分これ仲間だから!一緒に特異点を解決した仲じゃない!」
「ウゥ〜〜〜
……
」
「だとしても今は何処をどう見てもネコ科の見た目をしておるではないかぁ!!何か威嚇しとるし!!あと妾、オヌシのその耳を見るのもイヤじゃ!!近寄るでないわぁぁああ!!」
「落ち着きなさい武則天!あぁもう!マスター、令呪は?!」
「レイシフト先でスッカラカンですー!」
成程、女帝の恐慌状態の理由が何となく察せられた。
生前の逸話も相まってネコ嫌いで有名な彼女である、目の前の自分のマスターに(どういう訳だか)ネコ耳が生えているだけでも許せないのに、その後ろに巨大なネコ科動物がいるとなっては、それはパニックにもなろう。
たとえそれが、特異点を共に解決した、仲間の一人であったとしても。
…
仲間の、一人?
「パーシヴァル!たすけて!これ多分バーソロミューなんだよ!何でか見た目がクロヒョウだけど!あとなんか中身もちょっと動物になってるっぽいけど!ふーやーちゃんに飛びかからない内にどうにかしてー!!」
「ゔるるるるるるぅ
……
」
「っ!!委細承知した!!」
正直に言って、委細は承知していない。
していないし、疑問は尽きることは無いが、パーシヴァルの身体は混乱しつつもとにかく動いていた。
マスターがわざわざ自分を名指しで頼っていて、ネコ嫌いで恐慌状態の女帝がいて、巨大なネコ科動物がいて、それが仲間かも知れないのであれば。
やる事は一つである。
「ごめんよ
…
!」
わぁわぁと荒れる女帝に警戒心を剥き出しにして毛を逆立てている漆黒の獣に、騎士は装備の鎧を消して一息で距離を詰めた。そうして、尻尾を膨らませてやや牙を剥いていた獣の首根っこを掴み上げ、ぐいっと引っ張る。怪我をしない程度にと加減はしたが、獣は驚いたのか「ぎゃうっ!」と吃驚の声を上げてパーシヴァルの方を見た。
ばちりと合った視線。
深い海色の獣の瞳は、見覚えがあり過ぎる色合いをしていた。
「ぁぐるるぅ?」
「ああ、一先ずここを退散しよう!」
獣の発する音に意味はあるのか、こちらの意図が通じているのかも分からないけれど、パーシヴァルは黒い獣にそう声をかけた。
巨大なネコ科肉食獣も、パーシヴァルの巨躯の前では大型犬程度のサイズ感である。騎士は完全に注意がこちらに向いた獣の後ろ首から手を離した。その身体の下、がっしりと筋肉の発達した力強い前足と後ろ足を、抱え込むようにして両腕を差し込む。そのままぐいっと持ち上げると、噛まれるなり引っ掻かれるなり、多少の抵抗は覚悟していたのだが、獣は予想に反して暴れることなく抱き込まれてくれた。重畳である。
パーシヴァルが丸みを帯びた獣の耳に「いい子、」と囁くと、黒い毛に覆われた耳介は返事をするようにぴぴっ、と動いた。愛らしい仕草であるが、愛でるのは後だ。
一刻も早く、自分とこの獣はここを離れねばなるまい。
騎士はそのまま、真っ黒な生命を胸元に抱え込んで駆け出した。その巨躯からは想像出来ないくらいの俊敏さと身のこなしで、何事かと集まってきたサーヴァントや職員たちの間をすり抜けて走り去る。
一瞬で遠のいた白い背中と、きゃあ、うわっ、という悲鳴が聞こえる人だかりを見遣りながら、カルデアのマスターは一つ長い溜息を吐いた。
「
…
一体、何が起きたって言うんだよぅ
……
」
レイシフトから帰還し、コフィンから出た直後に自分たち
…
と言うよりも、サーヴァントのバーソロミュー・ロバーツと、マスターの藤丸立花を襲ったこの珍事は、全くもって原因不明なのであった。
※
『とりあえず今の状況を調べたよ!たぶん敵のデバフの類いだと思うけれど、また随分と遅効性の呪いだねぇ
…
特異点の解体も終わった今更発現するなんて
…
』
「そうか
…
やはり、何か悪影響が?」
『そこは大丈夫。霊基グラフには変化なし、霊核だって全くの無傷。肉体にだけ作用するタイプの呪術みたいだ』
「解呪は出来るのかい?」
『キャスター達に意見を求めたけど、下手に弄くり回すよりも自然に効果が切れるまで待つのが一番安全、だってさ』
「ダ・ヴィンチ、それは
…
具体的には、」
『あと数時間、ってところかな。詳しくはマスターくんの解析次第。
…
パーシヴァル卿。申し訳ないけれど、その呪いの効果が切れるまで、「彼」のお世話を頼めるかい?』
「
…
承知した。私に出来ることであれば」
『助かるよ〜。じゃ、私はマスターくんのネコ耳の解析があるから!よろしくね〜!』
部屋に備え付けの通信端末の通話機能を切って、白亜の騎士はその大きな身体を屈めながら、小さく嘆息した。
ここは霊子演算室からほど近い居住スペースの一角、カルデアにおけるパーシヴァルの自室である。
最低限しか物を置いていない殺風景な部屋で、騎士は最も大きな構造物であるベッドに腰掛けていた。
常ならばパーシヴァル一人が寝るスペースに、今は別のものがもう一つ
…
いや、もう『一匹』、或いはもう『一人』乗っている。
靱やかな手足と、艶やかな黒い毛皮を持つネコ科の大きな獣。
ヨーロッパで生まれ育ったパーシヴァルには馴染みのないこの獣は、アジア圏やアフリカ大陸に生息する肉食獣で、マスターの国ではクロヒョウと呼ばれる生き物だ。
どこをどう見ても大型の獣であるが、その首にはパーシヴァルもよく見た事のある黄金のロザリオが下がっていた
——
俄には信じられないが、この立派な獣はサーヴァントで、パーシヴァルの友人でもある最後の大海賊、バーソロミュー・ロバーツその人であるらしい。
今回の特異点で敵対した魔術師による、遅効性の呪術。かなり秘匿性の高い術式だったのか、それとも『弱すぎて』索敵にかからなかったのか。
一体いつのタイミングかはもう分からないが、バーソロミューもマスターも、全く同じ呪いを受けていたようだった。
ただ、礼装で呪いの大部分を弾けたマスターに対し、対魔力の低いバーソロミューには顕著に呪いの効果が現れていた。
即ち、『肉体をネコ科動物に変える呪い』。
キャスター達により緊急解析チームが組まれ、マスターは絶賛かけられた魔術の解析を受けている。それによって今まで分かったことと言えば、この呪術は対象の肉体を変異させてしまうものであるが、それだけと言えばそれだけで、特に他の害は無いという事だった(尤も、今回のレイシフトの同行者内訳を考えれば、その効果は覿面であるが。術式の発動が特異点解決後で良かったと思わねばなるまい)。
その魔術式自体も効力は限定的で、あと数時間で勝手に解けるだろうと言うのがキャスター陣の見解であった。
これを受けて、カルデア所長のゴルドルフ・ムジーク氏が下した決断は「マスターは自室で、ケモノ化したバーソロミューはそのままパーシヴァル卿の部屋で待機せよ」というものだった。
現状は大人しいとはいえ、今のバーソロミューの肉体および習性などは、まるっきり肉食獣のソレになってしまっている。確かに、下手に外に出すよりは、パーシヴァルの部屋に留め置いた方が良いだろう。
カルデアのスタッフには魔術師ではない普通の人間だって何人かいるし、万が一のことがあってはならない。
所長の判断は、概ね正しいものだった。
(それにしても
…
どうしたものかな。)
先程までは部屋の中を探るようにうろうろと歩き回っていた『彼』は、今やベッドに寝そべりながらパーシヴァルの大腿に頭を預けていた。
時折毛繕いをしたり、ごろりと寝転がる向きを変えたり。身体が大きい事を除けば、まるで大きなネコのようだった。
とはいえパーシヴァルはネコという動物と触れ合った事が殆ど無いから、書物に書かれていたものや、カルデアのライブラリで見た動画でしか知識を持ち得ないのだけれど。
アーサー王の怪猫退治はあまりにも有名であるが、あんな化け物とこの美しい獣を一緒にしては失礼というものだろう。
よく見ると花を散らしたような模様が薄らと透けて見える『彼』の背は、呼吸に合わせてゆっくりと上下していた。
ネコとは、このように落ち着いた生き物なのだろうか。厳密には『彼』はネコではなくヒョウなのだけれど。
それとも、元のバーソロミューの性格が影響していたりもするのだろうか。
パーシヴァルには判断がつかなかったけれど、『彼』がゆったりと寛ぐ様は、何とも優雅で様になっていた。
ここに連れてきてからも、暴れられたりしなくて良かった、と思う。
不満があれば暴れるし、不安であれば怯えるのが獣というものだ。怯えた獣は自分を守ろうとして、攻撃性が増してしまう。パーシヴァルが傷を負う分には良いのだが、バーソロミューが人の姿に戻った時、獣の姿の自分が友人を傷付けたと分かれば、きっと悔やんで苦しむだろう。
それは避けねばならないと騎士は思った。大切な友人に、そのような傷付き方はして欲しくなかった。
(お腹は空いていないかな
…
サーヴァントとしてパスは繋がったままだから、食事や補給の必要はないと言われているけれど
…
)
大腿の上に乗った大きな頭を、パーシヴァルはそっと撫でる。指先が頭に触れた瞬間こそびくりと身構えたものの、クロヒョウの『彼』
…
もといバーソロミューは、撫で続けていると段々と身体の力を抜いてリラックスしていった。
手足を投げ出して体重を預けてくるのは、信頼の証だろうか。まるでバイクのアイドリングのような重低音と振動が、パーシヴァルの耳朶に届いた。
…
これはもしや、ネコ科動物特有の喉を鳴らす、という行動だろうか。
心地よい時に出す音だと、何かの書物で見た気がする。確か、ライオンのような大きなネコ科動物であっても、気持ち良い時や甘えたい時は、小さな子猫と同じように喉を鳴らすのだったか。
「
…
気持ちいいのかな?」
「ぐるるるるる
…
ぐるる
…
ぐるるるる」
本に書いてあった知識を頼りに、耳の後ろや、顎の下あたりも指先でくしくしと掻いてやる。
ころり、ころり。
心地よいのか、バーソロミューはパーシヴァルの足に頭を預けたまま、時たま腹を見せて転がりつつも、ぐるぐると喉を鳴らし続けた。長い尻尾が、ぱたり、ぱたりと揺れている。
……
あぁ、これは、いけない。
今はこんな姿形をしていて。
そして中身はすっかりケモノになってしまっているが。
本来の彼は、サーヴァントで、誇り高く、智慧深く、抜け目なき大海賊なのである。
そして、自分にとってかけがえのない仲間であり、友人であるという事も分かっている。
分かっては、いるのだけれど。
どうしても思ってしまう。
可愛らしい、と。
パーシヴァルは緩みきっている自分の頬を空いた手でぺちぺちと軽く叩き、唇をきゅっと噛み締めた。出来るだけ表情が緩まないように、眉間にぐっと力を入れる。
そうでもしなければ、だらしなくにやけてしまっている自覚がしっかりあった。
「ぐるるる
…
ぐる
…
ゔるるっ、」
「わっ、」
パーシヴァルのそんな行動を他所に、大きな獣は不意に転がしていた身体を柳の枝のようにしならせ、軽やかに身を起こした。
かと思えば、正面から向かい合うようにして伸び上がり、騎士の広い肩に両前足をかけてくる。
ずしりとした生き物の重みが、パーシヴァルの太腿の上にのしかかった。
動物らしい高い体温が、柔らかくふかふかとした肉球の感触が、服越しにじわりと伝わってきて。
それらの感覚は、何だかとてつもなく幸せな感情を与えてくれた。
また情けなくふにゃふにゃになった表情筋をどうにかしようと、騎士は軽く頭を振る。すると、目の前の獣は話しかけるようにぎゃう、と一つ鳴いた。言葉になっていないのに、名前を呼ばれているような気がするのは何故だろう。
思わず俯きがちだった顔を上げると、春の海を閉じ込めた美しい瞳が、じいっと騎士を射竦めていた。
どきり。
不意にエーテルの心臓が野うさぎのように跳ねて、パーシヴァルは動揺した。
…
こんなにも美しい目をしていたのか、貴方は。
ようよう考えてみれば、普段のバーソロミューとは、こうやって真っ直ぐに目を合わせること自体が少なかった。と言うのも、バーソロミューがパーシヴァルと話す時、彼は目を見て話すくせに、どこか遠くを見るような、眩しいものを見るような風に目を細めている事が多いのだ。
だから、パーシヴァルはこんなにも(獣の姿であるとはいえ)バーソロミューの目をまじまじと見つめること自体が初めてであった。
見目は獣に置き変わってしまっているのに、その瞳に湛えられた理知的な色や、凛とした佇まいは人の時のソレと変わらないのが、何とも不思議だった。
獣となっても美しい風貌の紳士に、騎士はしばらく見惚れていた。
「ぐるるるる
…
」
「バーソロミュ
…
わぶっ!」
「るるぅわん!」
しかし、ぼぅっとしているパーシヴァルの顎に、ごすり。
ボクシングであればアッパーカットと呼ばれるいい角度で、目の前に星が散る程度の衝撃が走った。
ぼんやりするな、目を覚ませとでも言わんばかりに、黒い獣が下から掬いあげるような頭突きをお見舞いしてくれたのだ。
軽い脳震盪でくらくらする頭を抱えるパーシヴァルには全くお構い無しで、バーソロミューは続けて肩口や首の付け根に何度もぐりぐりと頭を擦り付けてきた。オマケにふかふかとした両前足で、パーシヴァルの立派な胸板をぐにぐにと踏んでくる。中々アグレッシブな動物らしい行動だ。
常人であれば痛みも(何なら流血も)伴いそうなものであったけれど、丈夫なパーシヴァルにとって、それらはちょっと強めのスキンシップ程度に感じられていた。
(えぇと
…
これは
…
どんな反応だ?)
読書家の騎士は、バーソロミューの謎の行動に慌てて記憶の図書館の書物を引っ張り出して調べた。ネコについてとラベルが貼られた記憶のページを繰っていく。
それによれば、相手がネコと同じような動物と仮定して良いのなら、これは子猫が母猫に甘える時の仕草であるようだった。
つまり、どうやら『彼』は、パーシヴァルに甘えてきてくれているらしい。
(そうか
…
甘えて、くれているのか
…
)
まずい、にやけてしまう。
あのバーソロミューが。
他者の前では、紳士の仮面を決して脱がない彼が。
穏和で大人の態度を崩さない、あの彼が。
私に、甘えてくるなんて。
それは、何て
——
。
何だか心がむず痒くなって、その正体が分からないままパーシヴァルはかっしりした獣の身体を両手で抱き締めた。
程よい筋肉の弾力と、黒い毛の柔らかい感触が指先に返ってくる。相変わらずぐるぐると喉を鳴らして身体を預けてくるバーソロミューの身体は、温くて、心地よくて。
パーシヴァルはうとり、と意識が遠のいていくのを感じた。微睡みが、ゆっくりと口を開けて騎士を出迎える。
(あと数時間で戻るのなら
……
このまま
……
)
解けていきそうな意識の中で、不埒な考えが浮かんでくる。
疚しいことはひとつもしていないけれど、人の姿の彼にはこんなこと絶対に出来ないな、とは頭の片隅で思った。
温かさと、不思議と落ち着く規則的な低音と、生命を感じる適度な重みと。
それらをいっぺんに感じながら、騎士は気付かぬ内に、ふぅっと意識を手放していた。
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