朝をのむ〈おにふた展示〉

お題「夜明け」
f/go二次小説、現パロロビシャル、ちいさいシャルルと大きいロビンの朝の話。大きいロビシャルとちいさいロビシャルが一緒に暮らしてるふんわり設定。


 ちいさなシャルル=アンリの眼が覚めたとき、まだ夜でした。
 アンリはむっくりと起き上がると、肌をなぞる寒さにぶるりと震えました。電気代節約志向の大人たちは、冬には暖房にタイマーを設置しています。みんなが寝ている時間は暖房がついていないのが常でした。
 トイレに行きたくて、でも暗い廊下は怖くて、隣のもっこりした膨らみをそっと揺すってみました。ちいさいロビンよりも長い前髪がはらりと落ち、きゅっとむずがゆそうに額にしわが寄って、瞼が数回ゆっくりと動きます。
……んぁ? アンリ?」
「おトイレ」
「あぁ、行きてぇの……よっと」
 アンリは肘をついて身を起こしたロビンのそばに這いずってベッドから降りました。ひたりと触れたフローリングの冷たさに肩を跳ねさせつつ、わんこのかおのスリッパをつっかけて、ロビンと手を繋いでそっと寝室から抜け出します。かちゃんとちいさく音を立てて扉を閉めてから、パッと廊下のオレンジ色の明かりがつきました。ロビンがつけてくれたのでした。アンリは急な眩しさに眼をこすってみました。
 トイレはすぐそこ、斜め向かいです。ロビンに廊下で待っているように念押しして、アンリはひとりで明かりをつけてトイレを済ませました。ロビンは眠そうにあくびして壁にもたれて待ってくれました。
「おわった」
「ん。おてては? ちゃんと拭けって……
 まだ覚醒していないようにぼそぼそと喋るロビンにびしゃびしゃの手をタオルでぬぐわれながら、アンリはリビングを見やりました。夜のリビングは黒い洞穴のようなのです。しかし今は、青く水に沈んでいるような色でした。
「パパ、夜なのにあおいろ」
「あ? ……もうすぐ夜明けなんだよ」
「よあけ」
「もうすぐ朝ってこと。外見るか」
「みる」
 ロビンとふたたび手を繋いで、リビングに向かいます。夜であるはずなのに、青っぽい仄暗い光に満ちて、テレビに映っていた宇宙の光景にも似ていました。
 ロビンは廊下の明かりを落として、リビングは暗いまま、いちばん大きなカーテンをさっと開きました。
「いい時間だな。ちょっと寒いぞ」
 窓の鍵を開けて、ロビンが窓を開け放ちます。冷たい空気が身体を吹き抜けてアンリが瞬きしている間に、おくるみのタオルをかぶせられて、暖かくて力強い腕がアンリのわきの下に差し込まれ、よっこらせっと抱き上げられました。アンリは裸足を振ってぺしっとスリッパを落として、足をロビンに巻きつけました。
「わあ」
 ベランダに出ると、ロビンよりも目線が高いので、庭のりんごやチェリーの樹に遮られていた外の様子がよく見えるようになりました。空は絵の具でひとぬりしたような透き通った青でしたが、境界線はすでに白み始めていました。アンリより右側にふわふわの雲がひとすじだけちぎられています。夜になると浮かぶ星は、今やひとつしかないように見えました。空気がなんだかぼんやりしていて、光の粉が散っているようでした。
 アンリは口をできるだけ大きく開けてみて、はむっと呑みこんでみました。空がミルク色だからでしょうか、朝ごはんのときに飲む牛乳のような味がした気がしました。もぐもぐと口の中で転がしているとロビンが怪訝そうに眉を寄せます。
「なにしてんの?」
「よあけを食べてるの。おいしいよ」
……なるほど?」
 ロビンがわかっていない風だったので、アンリは両手で光の粒を集めてロビンの口に突き出してみます。ロビンが仕方なしという顔で口を開けてくれました。
「おいしい?」
「ん……うまい」
「よかった!」
 無事味わってもらえたようなので、アンリはくふくふと頬を膨らませて笑いました。
 そうこうしているうちにも空はどんどん白く塗りつぶされていって、夜のものだった濃い青は朝の清々しい水色の空へと変わっていきます。端の方は赤や黄色の光にも見えて、やがて大きな太陽がおはようと顔を出しました。
「あさだねぇ」
「朝になったな」
 朝の光が庭に差し込み、庭の樹や草花がより輝いて暖かなお日さまの匂いに包まれています。思い切り吸い込もうとして、アンリはくちゅんとくしゃみをして鼻をすすりました。それを見たロビンは、そろそろ戻るか、とリビングに入り、元のように後ろ手に窓を閉めてきっちり鍵をかけました。
 リビングもすっかり朝の空気にあふれています。そろそろみんなが起きる時間だ、と思いながらも、瞼がやたら重く感じて、アンリはあくびをひとつこぼしました。
「眠いか」
「うん、でもおきるじかん……
「無理すんなって。今日はみんな休みだろ。もうちょい寝て、朝と昼兼用でごはんにしような」
「パンケーキがいい。いちごのジャムのっけたやつ」
「わかった」
「ロビンは、チョコレートソースだよ」
「わかってる。シャルルのお父さんは、バターとベーコンな」
「ぼくもベーコンたべたい」
「あぁ、みんなのぶんな」
 ロビンが歩くたびにゆらゆらゆれて、ベッドについたときにはアンリの両眼はほとんど落ちかけていました。ほんのりぬるくなった布団を肩までかけられて、隣のちいさいロビンを抱きかかえるようにしがみついて、ようやく落ち着いて吐息をしました。
「おやすみ、アンリ」
 頬にキスを贈られて、アンリはお日さまの夢に包まれていきました。