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草枕
2025-05-26 10:24:53
2529文字
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syzygy
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syzygy_overweight+002.レザ・タルシオ
レザ・タルシオ(沙月さん:@saduki_sanaduki )について
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+02.レザ・タルシオ
レザという男はシジーの仲間うちで、守銭奴でがめついという立ち位置にある。そうはあっても鼻摘み者にならず、むしろ彼を慕う者があるのは、ひとえに仲間を害して個人の益を得ようとすることがない為だと、シルーは想像している。他者への気配りや心遣いもこなれていて、世話焼きというほど甲斐甲斐しくもない適切な距離感が取れる。彼が部隊に一人居て、困る上官はいないだろう。
軍隊という、『的確に数を暴力に変換する』組織にあって求められる行動と、個人の在り方との折り合いをつけるのが、上手いのだ。
レザが、出身の孤児院に私財を融通していると知った時、シルーはなんとなく、驚かなかった。
シジーには難民救助の任務がある。戦火に炙られた土地を駆けた軍人上がりの隊員も居る。たとえ裕福な家庭環境で幼少期を過ごした隊員であっても、生活苦という貧しさを目の当たりにした者が殆どだ。そんなある種の粒揃いの中にあってもレザは、一番に救助対象の信頼を得る。救助対象が求める物をすぐ言い当てる。シルーには、そう見えていた。その的確な視線が、救助を受けるべき側としての実体験に基づくものだと言われれば、納得に難くない。
私財の融通についても納得できたのは多分、世の中に『そういう』人間がいることを知っていたからかもしれなかった。自分の持っている財を、チャンスを、運命を、将来を、誰かに譲ってしまう人間を。
少し似ていたのだ。かつてシルーに世話を焼いた人たちと、レザが。
「
……
おい。聞いていいか」
人間の脳の容量には限界がある。
過去を忘れないための反復と、『新しく取り込む内容の削減』。シルーは、思い出を守るために人付き合いを避けている。
それでも、聞きたかった。
あの人たちに似ているレザが、なんと答えるのか。自分の死を前に、シルーを安全な場所に押しやった人たちが、何を思っていたのか、考える材料がほしかった。
「──他人のために何かするって、どんな感じ? 心地良いか?
……
怖いか?」
「心地良い
……
とは少し違う。けど、"俺は必要なことをやっている"って気分にはなれる。それが本当に人の役に立ててるかは知らないけど、そう感じることが俺には必要なんだと思ってる」
要は俺のためにやってることだから、他人のために動いてるとは思ったことはない、と続けるレザに、シルーは少し、安心した。安心してしまった。
あの瞬間、シルーが生き延びることは、少しなりとも彼らに満足感を与えたのかもしれないと。
しかし、それは過去の一点に過ぎないのだ。
シルーは生き延びて、今、人生を継続している。
「じゃあ。──じゃあ、お前が誰かにやった金や機会や他のもので、お前の意にそぐわない、お前のためにならないことをやる奴が居たら、どうする?」
聞いて、後悔した。
返答が、あまりに怖かった。
訓練兵の頃に戻ったような心地さえした。
それを食い気味に破ったのは、守銭奴で、がめつい、気遣いが上手い男の声だった。
「いや別に慈善事業じゃねんだよ。誰彼構わず送るわけじゃねえし。俺の金だぞ」
酷く安心した。ルクス施設を巡れば一日一回はどこかで聞けるだろう、タルシオ節とも言える『俺の金』に、緊張を解く力があるとは知らなかった。こわばって俯いた顔を上げると、レザはそれを待っていたようだった。シルーが、質問の答を聞けるように、あるいは聞くのをやめられるように、かもしれなかった。
「後悔する羽目になるような奴には送らん。それでもし後悔する羽目になったとしたら単純に俺の見る目が無かったってだけ」
「誰彼構わずじゃ、ない。
……
そか。そうか」
「まあ身内だったら怒るくらいはするかも」
「怒る、のか。
……
怒るのか!」
心臓が、動き出したような気がした。
レザの一言一言で、身体に血が巡り、熱が走った。
あの人たちがシルーに譲った機会は、シルーの意志で利用していいのだと、自分の内から納得できたのは、きっと初めてだった。
この衛生兵は、生きてる人間まで生き返してしまう、と思って、久しぶりに笑えた。
「お前、やっぱバリバリいいやつ!」
だからどうか、彼には幸いを。
この願いは、光のようにあってほしい。
朝を告げる色、作物が実るしるし、夜を照らす助けのように。この願いがあることが、彼の得にしかなりませんように。
そういう祈りを、かける。
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