おふゑ
2025-05-19 22:41:11
2119文字
Public ラス6♀
 

【2025/5大阪スパコミ】配布ペーパーイラストとSS

2025年5月18日大阪インテにて開催されたスパコミACオンリー内で配布していたペーパーの中身です。
1p目……イラストx2
2p目……SS「カフェ・トランジスタ」
SSの方は新刊「灰を抱いて飛べ」とリンクした内容のSSです。
ラスティが火エンド後に621♀のハンドラーになって宇宙を旅しています。
その途中でどういうわけかリゾート地で入管に引っかかりカフェデートをする話です。



  カフェ・トランジスタ

『いいか、せん……レイヴン。私たちは連れ子同士の血の繋がってない兄妹という設定なんだ。一旦ACのことは忘れて、頼むから普通に振る舞ってくれ』
 ハンドラー・ラスティはそう言った。
 だが621は、ウォルターとラスティの言う〝普通〟が分からない。なので、まずは端末で「十代 女 普通」と調べる。すると自分とさほど年の変わらない女の子達がどんなカフェでどんなスイーツを食べているのか、などの情報が出てきた。
 なるほど、と621は早速次の寄港地の近くのカフェを調べる。
『トリコロールプリン、映えすぎ~♡ カフェ・トランジスタでバズ爆発中!』
 ふむふむ、と621はブックマークした。これで自分も普通だ。エアどう思う?と聞きそうになったが、もういないことを思い出した。

「なぁ、これどう見てもウリだよな」
「違う! 本当に私の妹なんだ! 父の再婚相手の連れ子だから似てなくて年も離れてるだけで……!」
 港湾の入管の別室ではぁ〜と担当官の長いため息が響く。ラスティと621の二人は児童人身売買を疑われ別室で尋問を受けていたのだった。要は兄妹に見えないから疑われているのである。
「だったらお兄ちゃんさぁ、そんな意味深な眼帯なんか付けなきゃいいんだよ。こっちとしてもそんな怪しい出で立ちの男が未成年連れてたらこうしなきゃいけないわけ」
 はぁ~と入管の職員はタッチペンをこめかみに当てて「めんどくさいなぁ」というオーラを隠しもしない。
 自分が普通じゃないから? 621は目の前でワァワァと申し開きをするラスティに対して済まないという気持ちになった。
 ――兄妹偽装が疑われているなら、自分がすべきは……
 621は傍らのラスティのシャツをつんつんと引っ張る。
「おにいちゃん、カフェ・トランジスタのトリコロールプリンが食べたい」
「え」

 地球の旧オセアニア地域をイメージして開発したというリゾート衛星は、二人には熱すぎる。ラスティは汗だくのシャツをまくり、革靴にするんじゃなかったと独りごちる。621はラスティから買い与えられたセーラー襟のワンピースの白が陽光に当たって眩しいなと思う。黒い髪だと暑くなってしまうからと用意された、つばの大きい帽子が作る日陰が少し心地よい。
 観光客が多いストリートを行き交うのは、手を繋ぐカップルだったり、肩車をする親子だったり、ビーチへと向かう友達グループなど様々だ。
 やっぱり自分達は何にも当てはまらない。結局入管は呆れ半分で解放してくれたが、疑われる程度に自分達はどこか歪んでいるのだ。
 ラスティはACもなくどこへ行こうとするのか621が不思議に思っていると、彼の足はビーチへと向かう。「暑いからきっと泳ぐつもりなんだ」と621が予想していると、彼はビーチサイドのレトロ仕立てなカフェの前で止まった。店の名前を621が読み上げようとする前にラスティが振り返る。
……食べたいんだろう?」
「え」

 店内はビーチから直接来た水着姿の若者で大変賑わっている。ラスティと621は店内の隅の二人用テーブルで、配膳用猫ロボットから、注文した品を受け取る。
「これがプリン? まるで歯磨き粉みたいな色じゃないか」
「わたしたちの歯磨き粉はもっと……変な色」
 ラスティは暑さに耐え兼ねて注文した、パーツ洗浄液色のトロピカルサワー・フロートをグビグビと飲み干す。その向かいの621はトリコロールプリンをちまちまと食べる。本当に食べたかったわけではなく、下調べした時に見つかった記事の内容が記憶に引っかかっただけだ。だから少し申し訳ないなとも思うが、ルビコンでは食べられなかったトロトロの甘味に虜になりかけている自分がいた。
「ラスティ、わたしは生の果物は消化できない。あげる」
 621はプリンの周りに添えられたカットピーチとオレンジとパインを、やたら長いフォークでグサグサグサと串刺しにしてラスティの口に突っ込んだ。彼が「ん゙ー!」と驚きの声をあげると隣の席に座っていた女子グループが笑った。
 普通の十代の女の子はこうやってカフェでプリンを食べたりするらしい。記事の通りになぞったのに、621は何かズレや違和感を感じてしまう。
「ねぇ、これって〝普通〟の人生なの?」
 621はフォークとスプーンをかちゃりとテーブルに置く。傾きかけた恒星の光が全天球型ドームを通して海をキラキラと照らし、やがて二人の手を黄昏色に染めていった。
「そう……だろうか」
 お洒落してカフェで流行りのスイーツを食べる。それは普通の人生なのかもしれない。ウォルターもこういう人生を送れ……と願ったのかもしれない。なのに、どうしようもなく居心地の悪さを感じてしまう自分に胸がもやもやとしていた。
「普通だなんて、誰が知るものか。……少なくとも私なんかと来るべきじゃないのは確かだな」
 知らない恒星と光り始めたネオンサインがもたらすラスティの顔の影も居心地が悪そうだった。
 だから二人は黄昏時の煌びやかなカフェで普通の真似事をするしか無かった。

〈了〉